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グリーンベッドジャンパーズ  作者: 裏側の飛鳥
第一章 緑の大地へ
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6話 地上準備-1-

試験が終わりました。


―――ギルド『グッドラック』―――


「ん?おう、フレ坊、試験に随分てこずったらしいじゃねえか!」

 ギルドのテーブルでおやっさんを待っていると、よく知った冒険者の二人組が入ってきた。茶の長髪で濃いひげのがスコット、長身の坊主がウッドだ。

「なんだよー、おやっさんに聞いたの?口が軽いなぁ」

「はっは、まぁそう言ってやるな。『坊が帰ってこねぇ!』って捜索隊組むとこだったんだからよ」

「まったくお騒がせだぜ?低ラン試験で帰ってこねぇとか5年ぶりぐらいだしよ。まぁ、そんときはそいつが中で迷子になってたんだが」

 そんなことを挨拶ついでに交わしながら同じテーブルにそろって座った。

「怪我までしたそうじゃねえか。診療所は行ったのか?」

 スコットが眉を動かしながら聞いてきた。

「さっき行ってきたよ。応急処置がざっくりとはいえ対応が早かったから後遺症はないって言ってた。そんなことより形成補修の魔法がめちゃくちゃ痛かった」

 そう言いながら、なんともなくなっている左腕を振って見せ、右手で左の肋骨をぽんぽん叩いた。

「はっは、地上で落ち着いてるときの治療魔法ほど痛いもんはないからな。怪我して直後だと怪我が痛いのか治療魔法が痛いのか区別つかんからまだましなんだが。それにしても何で怪我したんだ?階段で転んだのか?」

 階段で転ぶ。意外だが、実は遺跡探索での一番の負傷理由がこれらしい。というのも、足元に何もない状態の方が珍しい遺跡内部で、基本的にたいまつ以外の明かりが乏しく、まして装備品の重量を背負ったまま階段で魔物の骨でも踏んで転びようなら結構な大事故になる。そのため、階段で転んだのか、というのは馬鹿にされてるのではなく、結構本気で心配されているのである。

 言うべきだろうか。試験場にウェアラットがいたというのは結構な騒ぎになる。

「苔で靴が滑っちゃってさ…しばらく気絶してたんだ」

 はっはっは、とギルドのロビーに笑い声が響いた。

「なんだなんだ、楽しそうに」

 そこに、おやっさんがカウンターの奥から出てきた。その手には、陶器のカップとポットの乗ったトレイを持っている。

「おお、マスター。実績書もってきたぜ」

 スコットが鞄から数枚の紙を出してひらひらと見せる。

「おう、おつかれさん。まぁちょっと待て、茶ぐらい出させろ」

 慣れた手つきでカップを並べていく。なぜか全員分のカップが用意されていた。そのままお茶が注がれる。

「うーっす、マスターがお茶淹れてくれるギルドなんざ他には多分ねぇよな」

 ウッドがカップを軽く持ち上げておやっさんに笑いかけた。

「こいつはまぁ俺の趣味みたいなもんさ」

 ふっと笑いながら、脇にトレイをはさんで、ポケットから何かを出してテーブルに置いた。

「フレッド、お前の分だ。中の数字の1ってのがランクで、査定で認められれば数字が増えるぞ」

 置かれたのは銅細工のバッジ。国の象徴である大樹が掘られており、真ん中の長方形のスペースに001と数字が入れられている。

「やっとこっち側にきたな、フレ坊」

 スコットが肩をたたく。

「歓迎するぜ」

 ウッドも同様に逆の肩をたたいた。スコットに比べ大分強めで痛かった。

「今日からお前も『グリーンベッドジャンパーズ』だ」

 おやっさんが大きくため息を吐いた。

 バッジを手に取る。それは重さ以上に、ずしりとした感触だった。

「頑張るよ、俺」

 その場の全員が小さく頷いた。

「それで、坊、いつから本格的に潜るんだ?まさか一人で潜るわけじゃあるまい」

 ウッドが茶を一口すすってから聞いてきた。

「早速明日から行くよ。一応二人かな、試験で会った人と約束したんだ」

 別に隠すことでもない。

「ほう、うちのギルドからは試験協力に出してないから別のギルドの冒険者か」

 おやっさんはトレイをカウンターの上に置き、腕を組んだ。

「なりたて早々何かしら縁があるってのは楽しそうじゃねぇか。俺もこいつと長い腐れ縁だが、最初はそんな感じだったぜ」

 スコットも腕を組んでふんぞり返りながら笑った。

「それで、どこのギルドの冒険者なんだ?」

 ウッドが聞いた。

「えっと、確か『ローゼンクォーツ』だったかな」

 一瞬の間。

 スコットとウッドの口とおやっさんの目がゆっくりと大きく開いていく。

「――…ろおぜんんん…―――」

「――…くおおおおつ…―――」

「――…だと…!?」

 三人が目を見合わせる。

「え、何どうしたのおやっさんまで」

 思わずきょとんとしてしまう。

「フレ坊…お前、すげぇな…ただのガキンチョだと思ってたが、ずいぶんと過小評価しすぎちまってたみてぇだぜ」

 スコットが少し涙目になっている。

「いいなぁ、いいなぁ、いいなぁ…」

 ウッドが天井を仰いでいた。

「フレッド」

 おやっさんが頭をわしわしと撫でた。

「うお、な、なに」

「お前も話にはよく聞いてるだろうが、おそらく女だけのギルドってぐらいしか知らんだろう。ローゼンクォーツってのは男子禁制で基本的にギルド内のパーティしか組まないとこだ。いろいろと伝統ってもんがあるらしい。まぁ、その辺はなんとなく想像できるだろうが、あのギルドはそもそもかなりの手練れが多く最前線の調査にも数人噛んでる上級ギルドでもある。そういった面で憧れてる冒険者も多いんだが、それ以上にだな――」

 おやっさんがウッドの方を顎でしゃくった。

「あそこはなぁ、びっくりするぐらいの美女だらけなんだぁ…」

 半分意識が飛びかかってるようなウッドがカップから出る湯気のような声で言う。

「仕事以外じゃ話もしてくれねえような高嶺の花集団だぞ。そんなとこのお嬢さんとパーティ組めるなんざトップギルドでもほとんどない話だぜ」

 スコットが肩をすくめながら続ける。

「ま、せっかくのお近づきになるチャンスだ。グッドラックとの友好関係も組めるかもしれねぇ大事な相手だから下手に手出すんじゃねえぞ」

 人差し指を立てて念を押した。

「いいなぁ、二人っきりかぁ…」

 ウッドが戻ってこない。

「冒険者同士の関係に口をはさむもんじゃあないが、相手のギルドがすごいことぐらいは知っておいたほうがいいだろう」

 確かに、シルヴィアの持っていたハンドブックから放たれた魔法の数々は、ほとんど料理に使っていたとはいえ見たこともない高レベルで精錬されたものばかりだった。新人に代々引き継ぐのが伝統だとも言っていたか。そういった土台ができているギルドなのだからレベルが高いのも頷ける。

「わかった」

 時計を見る。

「これからちょっとその人と出かける用事があるんだ。話の途中でなんだけど行って来る」

「おー、遺跡探索以外でも会うってことは昨日の一件で相当仲良くなったんだな?遅かったのはそのせいじゃねえだろうな」

 スコットが茶化した。

「明日の打ち合わせもかねて、遺跡情報統括院に行って来るんだよ。バッジがないと入れないからどうしても早く欲しかったんだ」

 普通に返すと、スコットが舌を出す。

「なんでぇそういうことか。あそこには面白いもんがたくさんあるぜ。ほれ、貸しといてやるから小遣いもってけ。人でごった返してっから屋台だらけだ」

 かばんから雑に銅貨と銀貨を握って渡してくる。

「ちょ、こんなにいらないよ!」

「はっはっは、ばーか貸すんだよ、フレ坊。若いうちは借金してでもいろんなことを学ぶもんだ」

 楽しそうにスコットが笑う。

「確か今の嫁さんとの最初のデートで金がなくて1週間口をきいてくれなかったんだったか?スコット」

 おやっさんが割って入った。

「あれはあれで今となっちゃいい思い出さ。ただまぁ、たかが流行りのジュース一杯おごってやれねぇで恥ずかしかったのは事実だがな」

 手の甲で鼻先をこすりながら照れた表情をみせた。

「女ってのはちょいと間違えただけですーぐすねるからよ。ま、楽しんで行って来い」

 ぽん、と肩を叩かれた。


遺跡に潜る前に冒険者として下調べ開始です。

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