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グリーンベッドジャンパーズ  作者: 裏側の飛鳥
第二章 世界の根っこで
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9話 反省会-1-

一度地上に撤退することになりました。

 地上に出るまでの間、特に話題に上がったのはコノコについてだった。謎めいた存在についてもそうだが、そんなことよりもむしろみんなが気にしていたのは「今何してるんだろう」という素朴なことだった。朝ご飯食べたかなとか、他の子供達と仲良くしてるかなとか、母さんのいうこと聞いてくれてるかなとか、寂しくて泣いてないかな、とか。俺もこっそり出てきた手前、なんだか悪い気がしてきて家に戻るのが気まずい。そういうと、一度ローゼンクォーツに立ち寄って手土産を持っていくといい、とブランジェさんに薦められ、それならばとジョカさんが「とっておきがあるから持っていくがよい」と楽しそうに言うのであった。みんな会いたいらしく、反省会も兼ねてうちに食材を持ち込んで夕食会を開こう、という流れになった。

 そして、日も暮れ始めた頃、俺の家にたどり着いた。


「ただいまー」

 ドアを引き開けると、ちょうど夕食の準備にかかるところだったのか、ニッキーとリビィ、そして母さんが揃って台所に集まっていた。

「あら、おかえりなさい」

「おかえりなさーい」

「にいちゃんおかえりー」

 三様に返事が返ってくる。

「あ、母さん、夕食のことなんだけどぉぉぉっ!?」

 いいかけたタイミングで後ろから三人が俺を押してぞろぞろと入ってきた。

「こんばんは〜」

 まずはシルヴィア。肩から紐で口を縛った麻袋を下げて入ってきた。母さんと視線があったのか、あははと会釈する。

「お初にお目にかかる、フレッド殿のご家族方。ブランジェと申す。夕食の慌ただしい時間に失礼するぞ」

 続いてブランジェさんがほのかな笑みを浮かべながら、紐で括った酒瓶二本を肩まで上げて挨拶をしてみせた。

「ほれ、はよう退かぬか。わらわが中に入れぬではないか」

 なるほど、俺の言葉を遮って中に入ってきたのはジョカさんのせいだったか。ぐいぐいと押してくるのでブランジェさんが苦笑を浮かべながら避けると、両肩から背中に袋を下げたジョカさんがすぽんと飛び出してくる。

「わ、わ、っと!急に退くでない!」

 コノコとさして変わらない身長のため最年長(?)といえどとても可愛らしく見えてくる。

「こほん、挨拶が遅れたの。せっかく夕食の準備をしてるところじゃったが、喜べ、今宵はわらわたちがこさえた食材で大いに宴を催すゆえ、存分に堪能するがよい」

 いつものように腰に手を当てて胸を張る。挨拶ではないような気がする。

「あらあら、可愛い〜!」

 母さんが思わず自分の頬に両手を当ててもらした。

「か、可愛いとはなんじゃ!」

 むっとするジョカさんを尻目に俺はいいかけた言葉を言い直す。

「あーとりあえず母さん、突然だけど宴会することになったんで、今日は食事をみんなで作るからゆっくりしてて」

 頭をぽりぽりとかきながら左手に下げた麻袋をひょいと持ち上げてみせる。

「あらフレッド、私に料理を休めだなんて寂しいこと言わないで頂戴。こんな楽しそうなこと、混ぜてもらわないわけにはいかないわぁ!」

 両手を合わせて頬にあてにっこりと微笑む。

「むむ、であるならば是非母上殿の手際を拝見したい。我々は家庭料理というものから離れて久しいからな」

 ブランジェさんがそう言いながらシルヴィアを肘で小突いていた。

「あ、あはは、それじゃお言葉に甘えて一緒に作ってもらえますか?」

 苦笑しながら髪をかきあげる。

「もちろん!食材は何を持ってきたのかしら〜?」

 キョトンとする兄弟たちを横目に、母さんは女子三人をキッチンに招き入れ早速準備に入ったのだった。


 まるで戦闘中のように慌ただしくなるキッチンに、俺が入り込めるスペースはなかった。というよりもキッチンが狭くて四人も並んだら身動きが取れなくなるので入れない。仕方なくテーブルを移動したり皿を準備したりとその他の雑務に専念することにしていた。

「母さん、コノコは?」

「フレッドのベッドで寝てるわよー」

 すぐに返事が返ってくる。

「きょうはいっしょにいっぱい遊んだんだよ!」

 リビィが嬉しそうに話す。

「朝はにいちゃん探してあっちこっち泣いて回ってたけど、お昼ご飯食べてからは牧場の手伝いとかしてくれてたよ」

 ニッキーもコノコの相手をしてくれてたようだ。

「そっかー、じゃあ疲れて寝ちゃったんだな」

 あとで起きてきたら遊んであげよう。そう思ってこっそり自分の部屋を覗いてみると、暗い部屋の中、俺のベッドで枕を抱き抱えて眠るコノコの姿が見えた。外がこれだけ騒がしくても全く起きる気配がない。

「コノコちゃん起きないねー」

 真似をするように隣で一緒に覗き込むリビィ。

「まだ慣れてないだろうから、ゆっくり寝かせてあげよう」

「はーい」

 頭をなでて、その場を後にした。


 キッチンでは女性四人が手を動かしながら早口で連携を取っている。

「母上殿、常燃環(コンロ)は二口のみであるか?」

 文字通り目にもとまらぬ動きで包丁を動かし、次々と食材を切り分けて行くブランジェさん。

「そうなのよねぇ、今夜の料理だと四つくらいないと遅くなっちゃうわね」

 対称的にゆっくりと、だが無駄のない動きで什器を扱う母さん。

「ふむ、であればジョカ殿、裏手に簡易の魔方陣を頼めるか」

「待って待って!ジョカ姉の魔方陣じゃ鍋が溶けてなくなっちゃう!料理用の簡易なら私も描けるわ!」

 ブランジェさんの指示にシルヴィアが割って入った。

「なんじゃシルヴィ、人を加減知らずみたいに言いおって。三千度ぐらいの火に調整すればよいのじゃろう!」

「あーすまないシルヴィ、危うく鍋どころかこの家が吹き飛ぶところであった。フレッド殿、シルヴィを裏手の火を使っていい場所に案内してもらえるか」

「了解でーす」

「なんじゃブランジェまで!」

 普段はリビィがお手伝いの時に使う踏み台の上で、不機嫌そうにジョカさんがわめいた。

「シルヴィア、こっち」

「あ、ちょっと待ってて、鞄に水溶魔晶(マジックインク)があるから持って行くわ」

 裏口の方で手招きすると、バタバタと布で手を拭き、小走りに椅子に置いた鞄を拾った。

「こっち?」

「こっち」

 進行方向を人差し指で確認するシルヴィアに頷いて応え、少し軋む裏口のドアを開けると、どこまでも広がる星明かりの草原が現れる。

「外で火を使うことはあんまりないけど、ここならいいんじゃないか」

 家の壁から三歩ほど離れた場所に盛ってある膝の高さぐらいの砂の山を、薪を使って平らに(なら)した。

「じゃあ、ここで。煉瓦とかあるかしら」

 鞄から手のひら大の細長い棒を取り出し、砂の上に魔法陣を描いていく。

「こんなのならあるよ。いくついる?」

 鍋を乗せるためのものだろう、とすぐにピンときて薪の横に積んである頭大の石の山を指さした。

「砂で高さは調整できるから四つあればいいと思うわ」

「了解」

 ちらっと石の山を見て、またすぐ魔法陣の続きを描いていく。

 ちょうどいい大きさの石を見つくろってひょいひょいと持ち上げる。

「(…ああ、そうか、保護装具(ハーネス)つけたままだった)」

 まるで乾いた木片のように石を拾っていたことに気付く。普通に持てば一つ持つだけで腰を気にしなければならない重量だ。戦闘以外でもかなり便利な魔道具である。ジョカさんがその気になるかは分からないが、大量に生産して世に出せばかなりの文化発展が見込めるのではないだろうか。

「なぁシルヴィア、身体強化の魔法って結構普及してたりするのか?」

「あんな危ない魔法普及するわけないでしょう」

 振り返りもせず即答された。

「え、そうなの?」

 一つ目の魔法陣が描けて区切りが良かったのか、こちらに顔だけ向ける。

「あったりまえじゃない。一歩間違えたら筋肉が張り裂けたり、想定以上の負荷がかかり過ぎて関節が外れたりするのよ?自分の身体を実験台にして腕なくなった魔法使いとかいっぱいいるんだから」

 強い口調でそういうと、顔を再び砂に向けて二つ目の魔法陣に取りかかりつつ、話を続けた。

保護装具(ハーネス)はね、ジョカ姉の渾身の魔道具なのよ。今使ってるのは試作に試作を重ねた上の試作品らしいわ。ほとんど完成してるとは言ってたけど、身体にやたらと負担のかかる技や作業をすると接続部分が壊れちゃうから次のを作りたい、とも言ってたわね」

 すいすいと砂の上に魔法陣を描いていく。

 シルヴィアの話す内容に背筋をぞわりとさせながら、一つ目の魔法陣をはさむように縦長の石を置いた。

「ブランジェさんは独自に強化魔法を編み出したってジョカさんが言ってたけど」

 俺の言葉にシルヴィアが頷く。

「ラジ姉は私が小さい頃からみてるけど、すごい努力家なのよ。ジョカ姉がふらっとローゼンに加入した時も対抗心で燃えまくってさらに鍛錬しつづけててね。まぁ、ジョカ姉見ればわかるとおもうけど、なんていうか、あそこまで天才なうえに研鑽も辞さない魔法使いに、鍛錬続けてるだけの女子が追いつけるわけなかったのよ」

 昔話をするようにシルヴィアが語りだした。

「もちろん、体力や武術では負けなかった。でも、そのときジョカ姉が研究中だった、今でいう保護装具(ハーネス)の実用段階の試作品ができて、いよいよ肉体的な機動力や腕力でも後れを取り始めたの。んで、ジョカ姉が『お主も使うてみるかの?』なーんてラジ姉に言ったせいで、怒り狂っちゃったのよねー」

 ジョカさんの声真似をしながら苦笑いを浮かべるシルヴィア。

「ブランジェさんが怒ってる顔は想像できないな…」

 俺も同様に苦笑いを浮かべた。

 二つ目の魔法陣も描き終わったのか、立ちあがり描いた魔方陣から一歩下がって俺に石を置くよう促す。

「もう、今じゃ想像できないぐらい荒れたのよ。クレア姉さんが見るに見かねてラジ姉と殴り合いの喧嘩するぐらいにね」

 正直、あの丁寧で穏やかな茶目っ気のある口調からでは、その状況がさっぱり想像できなかった。

 ぽん、ぽんと石を置く。すると、シルヴィアが鞄から液体の入った瓶を取り出した。

「で、数日経って、突然書き置き残して一週間ほどいなくなっちゃったの。それで、帰ってきたら、髪をバッサリ切ってて…って、知らないか、ラジ姉は今の私よりちょっと長いぐらいの髪だったの。で、そのままジョカ姉に模擬戦を申し込んで、見事、引き分けまでもっていったのよ」

 瓶の蓋をあけると、先ほどの木の棒に口を当てて傾け、中の液体を棒を伝わらせて魔法陣の線の上に流し込んでいく。

「結局どこに行ってたかは教えてくれなかったけど、その時にはもう身体強化の魔法を会得していたみたい。修業しに行ったのかしらね」

 魔方陣に液体が満たされる。

「ねぇ、フレッド。多分なんだけど…」

 シルヴィアが寂しそうな笑みを浮かべて、何かを言いかける。

「あ、やっぱりなし。私から言うことじゃないわ」

 あわてて片手を振ってごまかす。

『おにいちゃーん。おなべそっちに持って行っていーい?』

 ちょうどそんなタイミングで裏口の方からリビィの声がした。

「いいよーおいで、持ってこられる?」

「だいじょーぶ!」

 よたよたとしながら両手で陶器の鍋をもって俺たちのいるところまで歩いてくる。

「下が石だから割れないようにゆっくり下ろすんだぞ。いつもの常燃環(コンロ)じゃないからな」

「はーい」

 といいつつもゴトッと音を立てて下ろしたため、ひびが入らなかったかと冷や汗をかいた。

「ニキにー!持ってきていいよー!」

『わかったー』

 リビィが家の方に向かってそういうと、ニッキーから返事が来る。すぐに裏口の扉が開き、なかから切り分けた野菜などが入った籠と水の入った桶をもったニッキーが出てくる。

「何の料理するか聞いたか?」

「よくわかんないけど、鍋にお湯わかしておいてくれって白いねーちゃんに言われたよ」

 ニッキーがそう言いながら、桶から鍋に水を注いでいく。

「火はもうつけていいのかしら」

「いいと思う」

 シルヴィアにそう答えると、木の棒を魔法陣の外周の一ヵ所にあてて魔力をこめた。すると、流し込んだ液体に紫の光が走り、続けて青い光に変わると、中心に向かって渦を描くようにいくつもの小さな炎が灯された。

「姉ちゃんすっげぇ!」

「すごーい!きれーい!」

 子供らしい感想を言ってくれる兄弟たち。

「遺跡で使ってたやつとは違うのか?」

「あれは魔石を使うでしょ?これは魔石よりもさらに使い捨ての水溶魔晶(マジックインク)を使ってるんだけど、こっちのほうが安く済むの。でも、その分かさばるし重いしで遺跡探索に使うのには向いてないのよね」

「…なるほど」

 よくわかってないが、わかったふりをして頷く。

『フレッドー!串にお肉刺したからそっちで焼いてちょうだーい!』

 家の中から母さんの声がした。

「わかったー!」

 返事をして、立ち上がる。

「ほら、お肉だってさ。みんなで取りに行こう」

『はーい』

 兄弟たちをつれていったん家に戻った。

ご飯の準備です。


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