3話 掃討作戦-2-
コノコのいた部屋にたどり着きました。
祭壇へ続く階段を上っていくと、柔らかい光がだんだんと色濃くなっていく。壁に這う草花の占める割合も増え、鮮やかな緑色へと変化していく。
「ほう。ほうほう。ほーう、なるほどのう」
後ろから楽しそうなジョカさんの声が聞こえてくる。
「ジョカ姉、何かわかったの?」
顔だけ振り向いてシルヴィアが聞いた。
「ふむ、判断はまだ少し待つのじゃ。わらわの予想が正しければもうすぐわかるからの」
そう言って保留とした。
先頭に俺とシルヴィア、次にジョカさん、その後ろにスコットとウッド、一番後ろにブランジェさんの順で階段を上っている。ブランジェさん曰く、「じっと見られるのはあまり面白くない」とのこと。
程なくして祭壇にたどり着く。先日の名残が幾分か見られるが、草花はむしろ以前より元気になっているように見えた。
「やはりアレじゃな。思うた通りじゃが、なんとも丁寧に作ってあるものじゃのう」
ジョカさんが光源を指さす。スコットとウッドは物珍しそうに部屋の壁を撫でて回っていた。
「あれというと、あの照明のようなものか?」
ブランジェさんが問う。ピンとこない俺たち三人に向き直り、ジョカさんが腰に手を当ててふんすと鼻息を漏らした。
「うむ、素人にはこれだけの巨大な魔法陣をもってしてただの光を発しておるだけなのかと 疑問に思うじゃろうが、これこそがこの遺跡の最大の機能なのじゃ」
そうして、ポンポンと祭壇の支柱を叩く。
「これはおそらく孵化装置じゃ。この地下において、地下に滞留する魔力を吸い上げ恒常的に自然光を再現し、この空間を最適な自然環境に維持し続けることで、ここにあったはずのものを効率的に成長させ、孵化を促進することが最大の目的だったはずじゃの」
ふむふむと納得するシルヴィアとブランジェさんの横でちんぷんかんぷんな顔をしてしまう。
ジョカさんがそこまで言って、ちょいちょいと手招きし、俺たち三人を集めて小声で話し始めた。
「お主たち、コノコはここから連れてきたと言うておったな?」
俺とシルヴィアが小さく頷くと、ジョカさんの表情が少し険しくなる。
「であれば今後、コノコの成長には注意しておいたほうが良いじゃろうな。この間は存分に愛でるが良いと言うたが、少しばかり見立てが変わったのじゃ」
目配せして口元に人差し指を立てる。
「これだけの巨大な魔法装置を組んでまで育てておったものじゃ。わらわの考え得る限りかなり特別な魔物、よほど古代の者たちが大切に崇めておったものか、あるいは古代の決戦兵器や切り札に近しい存在であろう。今はまだ生まれたてでその力は未知のものじゃが、成長するにつれだんだんと手がつけられなくなるかもしれぬ。情も移っておるじゃろうから余り脅かしたくはないがの、くれぐれも気をつけておくことじゃ」
そう言われながら、コノコの無邪気にすり寄ってくる笑顔を思い浮かべた。確かにジョカさんに負けず劣らずの大魔法を二度も放った経緯がある。ただの子供と思ってはいけないのは重々承知しているが…そんなことを考えていたら、ふと今度は泣き顔のコノコが頭をよぎる。
「──あー、今頃お留守番させて怒ってそうだなぁ」
「なんじゃ、人が忠告しておるときに。この親バカが」
呆れたように笑うジョカさんの言葉に、四人で穏やかに笑ったのだった。
「そういえばもう一班の方々と合流しないな」
最終マッピングの詰めの作業にあたっていると、向こうで昼食の準備をしているブランジェさんが思いついたように呟いた。
「そういやおかしいな。あいつらは再掃討でマッピングされた外には行かねえはずだからここまで最短で来るはずだぜ」
肉を刺した串を床の隙間に差し込みながら、スコットも呟く。
「もしかすっと、早く着きすぎてあの青犬の群れに諦めて戻ったかもしれないな。情けないが最前線のお二人ほどうちの冒険者は強くないもんで」
ウッドが頭をかいた。
腕自慢、というほどでもないが、もう一班はグッドラックでもそこそこ実力のある冒険者6名で編成している。俺たちの発見から派生した公式依頼と聞き、喜んで参加してくれたベテランばかりだ。作戦前のミーティングでは遺跡内の基本構造や棲息魔物について説明を終わらせてあるため、基本的に危険は回避できるはず。いわゆるトラップ等も現状見つかっていないのでそう言った線でも何かあったとは考えにくい。
「帰ってくれていればそれはそれで問題ないのだが、万が一危機に瀕していれば放っておくわけにもいくまい。私が見てくるとしよう」
そう言って立ち上がろうとする。
「いや、ここは俺たち男衆で見てくるぜ。お嬢さんたちは昼飯の準備でもしてのんびりしててくれや。おい、フレ坊、道案内頼むぜ」
スコットそれを制して立ち上がり、ウッドもそれにならって立ち上がる。
「そうか?では、昼食の支度は任されよう。美味な馳走を楽しみにしておられるがよい」
そう言って座り直した。
「ふむ。ならばわらわが残りを描いておいて進ぜようぞ。散歩ついでに行ってくるが良いのじゃ」
話を聞いていたジョカさんも俺にそう言う。
「じゃあ、ちょっと行ってきます」
「気をつけてね」
立ち上がると、隣に座っていたシルヴィアが小さく手を振った。それを見てジョカさんが一瞬にやっと笑う。
「うっし、飯前の軽い運動といくか!」
意気揚々と歩き出すスコットを先頭に、俺たちは階段を下っていった。
「いないなぁ」
俺の声が壁に吸い込まれていく。マッピングのルート通りに進むこと40分ほど、入口の石壁までたどり着いてしまった。
「本当に帰ったのかな」
中継拠点があるというのは随分気が楽なもので、飲用水以外の消耗品は置いてきている。腰のショートソード以外はほとんど手ぶらだ。
「別れた場所からここまで何かやりあった形跡もねぇな。まぁ、あの数見りゃ引き返すのが当たり前だろうよ」
スコットも大鎚の先を床に下ろした。長尺のものは基本的に組み立て式を持ち込むのがほとんどなのだが、スコットは一体型の頑丈なものを持ち込んでいる。
「んじゃ、飯もできてるだろうし戻るとするか」
ふー、と大きくため息をついて再び肩に大鎚を担いだ。
「なぁフレ坊、近道はないのか?」
俺より頭二つ背の高いウッド。こちらは組み立て式の2段階の大きさに調整できる弓を持っている。
「中周はマッピング終わってないけど、多分こっちにいけば近いんじゃないかなって道ならあるよ。戻るついでに行ってみるかな」
最短のルートでいけば20分とかからないだろう、前回の脱出時のルートと比べると5本ほど分岐が手前になる。小部屋が多いから間違えそうだが、間違えてもそうそう深入りはしなかったはずだ。
三人でぞろぞろとまだ未開の区画へ入っていく。青犬がいる危険があるため、一応戦闘経験のある俺が先頭だ。
「フレ坊、そういや武器はそれでいくつもりなのか?」
スコットが俺の腰に下げているショートソードを指差して不思議そうにいう。
「この間槍を使ったけど、めちゃくちゃ難しかったんだ。適当に振り回すだけでも結構苦労してさ」
独学で練習してはいるが、剣技もきちんと勉強する必要があると思う。正直、『ある程度』できているだけではこの先不安になることを思い知った。運良く二度も命拾いをしたが、今のままでは誰かを守るどころか自分すら守ることができないだろう。
「まぁまだ若いからな、フレ坊は。何が向いてるかなんてまだわからんだろうから、手当たり次第触ってみるべき時期さ。弓も面白いぞ?」
ウッドが背中に背負った弓をコンコンと叩く。
「今時は武術に何かしら魔法組み込むのが当たり前だからな。仕組みは俺もよくわかってねぇが、このハンマーも鍛冶屋に色々彫ってもらったしよ」
そう言ってスコットも大鎚の先を見やる。
「初期と比べて随分変わったよなぁ。ウェアラット一匹倒すにも随分手こずってたのに、今じゃ見つけたら食肉一直線だからな」
はっはっは、とスコットとウッドが笑う。
そんな会話をして歩いていると…
「───ん?何か聞こえる」
俺の耳にかすかに金属音が聞こえてきた。急に足を止めた俺の背中にスコットがぶつかる。
「あてて、どうしたフレ坊」
通路の先に耳をすます。人の声のようなものも聞こえる。
「間違いない、人の声と金属音だ!誰か戦ってる!」
俺の言葉にスコットとウッドが目を丸くする。
「どっちだ!?あいつらか!?」
掃討作戦に参加しているのは二班だけのはずだ。
「とにかく行ってみよう、こっちだ!」
二人に合図して音の方へ駆けていく。だんだんと近づく音と声に、それらが戦闘のものだと確信していく。
そして分岐に差し掛かり、顔を半分出して先を見る。
「───なんだあれ!?」
そこには、グッドラックの腕章をつけた冒険者たちが魔物と戦闘を繰り広げていた。
青犬数匹とその中心に、あまりに巨大な───
「6…いや7本か?」
ほかの10倍はある大きさの、青い炎の尾を複数本もつ青犬がいた。
やっぱり何かに巻き込まれてました。
3週間ほどPCが使えないのでiPadで書いてます。打つのに時間かかるので投稿間隔がいつもより空きます。
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