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グリーンベッドジャンパーズ  作者: 裏側の飛鳥
第二章 世界の根っこで
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2話 掃討作戦-1-

少しずれてるローゼンクォーツの冒険者たち。

「あれで保護装具(ハーネス)使ってないんだろ…どうなってんだ…?」

 青い通路を舞う白い影が青犬の尾をまたたく間に切り落としていく。物理法則すら無視しているかのように縦横無尽に床を蹴り壁を蹴り天井を蹴り華麗なステップで通路を踊り狂う様はまるで白刃の旋風である。

 先日軽い気持ちで稽古を頼んだが、その後改めて組手をした時は保護装具(ハーネス)をつけてもまったく刃が立たなかった。それどころか、保護装具(ハーネス)をつけた二人がかりでもガードさえさせることができなかったのだ。半分強制的に付き合わされたシルヴィアからその後散々恨み言を聞かされたのである。

「みな、先に進むがよろしいぞ。あらかたの青犬は退治した」

 そう言って、双剣を鞘に収める。

「おいウッド、今のは見えたか…?」

「いや、全くだ…」

「くそ、色だけでも知りたいぜ…」

 後ろから来ているスコットとウッドがこそこそとよくわからない会話を交わしている。

「ふむ、布切れの色など知ってどうするつもりじゃ。白じゃ白。あのものは白しか穿かん」

 後ろからついて来たジョカさんがぶっきらぼうに言う。スコットとウッドが感嘆の声をあげた。

「あ、あのジョカ殿、殿方というのは見えそうで見えないのを好むと聞くぞ。直接色だけを伝えても興が削がれると思うのだが」

 短いスカートの先を下に引っ張りながら、ブランジェさんが恥ずかしそうに言う。

「はぁ…」

 両手で顔を覆うシルヴィア。俺もなんだか恥ずかしくて気まずくなった。

 掃討作戦。

 マルゼ遺跡から帰還したあの日からおよそ一週間、準備が整ったため、グッドラックとローゼンクォーツの両ギルドから冒険者を集め共同作戦が開始された。今回の目標は魔物の掃討とこの層の完全マッピングであり、安全宣言が出たのち後日測量作戦となる。

 二班に分かれたうち、もう一班が以前にマッピングしている区画の再掃討と周辺の安全確認、もう一班の自分たちがいる班が未開区画の掃討を受け持っている。今回はコノコに気付かれないように家を出てきた。

「フレッド殿は見えるほうがお好きか?」

「変な話題に巻きこまないであげて!」

 掃討作戦で人が多いとはいえ、未開区画でこんな暢気な会話ができるのはベテランだからだろうか。

「この調子でいくとおおよそあと30分で一周するはずじゃの。細かい構造はずれるかもしれぬが、ほぼわらわの予想通りの構造になるはずじゃ」

 マッピングの紙に加筆しながら、ジョカさんが大体の予想を打ち出した。

「ジョカ姉、何の魔法陣かわかった?」

 シルヴィアの問いに、紙を下げて応える。今日は先端のとがったつばの広い帽子をかぶっていた。

「おそらくじゃが、中心に向かって魔力が集まるような仕組みになっておるゆえ、複数階層の魔法陣じゃろうな。外周の魔法陣から中周の魔法陣に連携させ、最終的に中央の魔法陣、もしくは魔法装置に接続させて効果を得るものじゃの」

 最前線に行くような冒険者が二人もいる時点で、その他大勢となった俺たちはほぼ荷物持ち兼雑用係だった。重いものもあるため女性陣に持たせるのも男として名が廃る、ということで荷物持ちを買って出た俺たちだったが、結果的にすさまじい練度の差を見せつけられる形となってしまった。

「ふむ?フレッド、あのものと今の自分を比べてはならんぞ。あれは保護装具(ハーネス)こそつけてはおらんが、自身で自分用の強化魔法を編み出して使っておるのだ。それに鍛錬した武術をのっけて戦闘に活用しておる。天才肌じゃが同時に努力も相応にしておるのだ。お主も自分に合った鍛錬を積めばいずれ追いつけるじゃろうて」

 ジョカさんに励まされる。これまで剣の鍛錬は欠かさなかったつもりだが、この間の稽古で独学では限界があったことを痛感している。

「強化魔法って自分でできるものなんですか?」

 歩きながら、再び遭遇した青犬の集団に嬉々として飛び込んでいくブランジェさんを見つめる。

「知識がないと基本的には無理じゃろうな。お主の場合は魔力の器が大きい方ではないからの、まずは魔力の循環法から学んで効率よく継続的に強化魔法が使用できる状態を作る方が先決じゃ」

「なるほど」

 それからしばらく、歩きながらジョカさんによる魔法講座が続いた。魔力さえ確保できれば魔道具を使用すればいいというざっくりとした内容だったが、呼吸法や姿勢制御法、瞑想法などさまざまな方法で魔力を周囲から回収できるというのを教えてくれた。

「ところでお主、よくぞあのシルヴィを口説き落としたものじゃの。あれはなかなか振り向かぬ女じゃぞ」

 突然小声になりこそこそと耳打ちしてくる。

「あ、いや、別に口説いたわけじゃ…」

「ほう?男と二人きりで遺跡探索などまずもってやらんような娘じゃがの。もし口説いたのなら決め手を教授願おうかと思うたのじゃが」

 そうこうしていると、分岐ではなく曲がり角にたどり着いた。

「ふむ、ここで一周じゃな。この壁の向こうはおそらく最初に入った通路のはずじゃぞ」

 紙にはちょうど角ばった円が一周したところまで描かれている。

「では、皆も疲れたであろうからここで休憩を取ることとしよう。重い荷物を持っていただき感謝するぞ」

 潜入から3時間ほど経ったが、汗一つかかず息も乱れないブランジェさん。彼女なら、あの時の青犬の群れも難なく切り抜けてみせたのだろうか。

 荷物を床に置き、それぞれ水を飲んだり移動食を食べたりし始める。

「シルヴィ、保護装具(ハーネス)が壊れるほどの技を使ったようじゃの。ガチャコからわらわに修復依頼がきておったわ」

 水を口に含んだまま頷くシルヴィア。慌てて飲み込んだ。

「使わないと切り抜けられなくて…」

 ふむ、と目を閉じる。

「別に責めておるわけではないから安心するのじゃ。むしろ、わらわの作った魔道具が見るも無残な姿になるほど壊れる技が使えたことに成長を感じたのじゃぞ。矛先に刻んだあの魔法を使ったのかの」

 責めてはいないといいつつも少しとげのある言い方をして、シルヴィアの槍の矛先を見る。

「ええ、練習した時も保護装具(ハーネス)が数か所綻んでしまった技だったから使わないつもりだったのだけど。あの時は、一回で魔石を一つ使い切る出力で使ったの」

 つまり、あのときシルヴィアは簡易爆破魔法と保護装具(ハーネス)、魔法槍術で計4つの魔石を一気に使いきったのだ。たしかに力技だ。

「ほほう、たしかに出力を無制限にはしたがそれを使いこなすとはの。魔石ひとつを使い切る技とは大したものじゃ。どんな技なのじゃ?」

「シルヴィの技か。そういえば庭で練習しているのを幾度か拝見したが、私も実際の内容が気になるぞ」

 ブランジェさんも話に入ってきた。

「えーっと…ジョカ姉の刻んだ竜巻の魔法で槍の先端の空気を高圧回転させて、それを槍で突き破って空気のバランスを崩して…えーっとそれで前方に竜巻を起こして…それでその圧で竜巻の中を突進するというか吸い上げられる感じで引っ張られるというか、そんな感じの技よ」

 その説明で俺はあまりピンとこなかったが、二人はなるほどと唸っていた。

「うまいこと形にできておるのう。極めれば攻防一体の強力な技になるはずじゃ」

「今度私も交えて技の調整をしてみないか?実際に見てみればもっとシルヴィの使いやすい技になるよう修正点が見つかるかもしれないぞ」

 ほとんど同い年のシルヴィアがこんなに強かったのは、この二人のおかげだったのだろう。ギルドの先輩後輩というよりは姉妹のように触れ合う三人を少しうらやましく思った。

「そうだ、フレッド殿は今度から私がみっちり稽古をつけてあげるとしよう。この間の組手でなかなか筋があるように見えたからな、きっとすぐに成長するだろう。いつでもローゼンクォーツに来てくれたまえ」

「うへぇ…」

 申し出はありがたいが、こないだのコテンパンにされた記憶が脳裏に焼き付いてしまい返事を濁らせるしかなかったのであった。


 おおよそ遺跡の全容が明らかになってきた。気がつけば中心の青犬が大量にいる区画まで来ており、マップの位置からして俺たちが使わなかった通路側に出たようだ。脱出時の状態から青犬は動いていないようで、コノコが焼き払った通路付近がぽっかり空いたまま、その周辺に青犬が固まっていた。

「ほう、お主らこの数の青犬を突破して帰還したのじゃな。わらわたちならともかく、よく生きて戻ってこれたものじゃの」

「すげぇなフレ坊、正直俺たちならこれを見たら引き返して増援を頼むぜ」

「ったく、いつの間にこんなにでかくなってやがったんだ」

 ぽんぽん、とスコットとウッドが嬉しそうに肩と背中を軽く叩いた。

 スコットとウッドが怖がるかもしれないので、コノコがほとんど燃やしたとは正直言えない。

「どれ、陰気くさい通路に少し鬱憤がたまってきておったし、ここらでわらわが憂さ晴らしをして進ぜよう。皆の衆、下がっておるがよい」

 とてとてとて、と通路に出ていくジョカさん。その手には取っ手付きの分厚い本をぶら下げている。

「殿方、なかなか見れるものではない。しばしご堪能あれ」

 嬉しそうにブランジェさんが告げた。

 距離を置いて青犬の群れの正面に立ち、肩幅ほどに足を開いて本を胸の前に捧げ持つ。

「『――トリオール・クランバ・アルエンテ・オリオ

  ――シルヴェント・フラム・マリウス・オリオ

  ――タリオンテ

  ――ソリューズ・フォン・アルバシアンカ

  ――クラム・クラム・クラム・エングリオ・バンサーガ』」

 歌うように詠唱を始めると同時、ジョカさんの足元に大きな二重の青い光の円ができ、本がパラパラとめくれ、特定のページを超えるたびに本から魔法陣へと光が飛び出して紋様を描いていく。あっというまに緻密で巨大な魔法陣が床に完成した。

 異変に気付いた青犬たちがジョカさんに向かってぞろぞろと寄ってくる。が、距離を詰めるよりも早く、最後の詠唱が終わった。

「『――サリア』」

 その言葉を発すると同時、ジョカさんの魔法陣の周囲から竜巻が起こり、その竜巻に今度は炎が巻きついていった。炎の渦はみるみる大きくなり、うっすらと見えていた魔法陣の光も見えなくなる。真っ赤に染まる轟音と爆風が通路を嵐に巻きこんでいく。

「スコット…な、なんだありゃあ!」

「ああ、すっげぇなウッド…!『千色のジョカ』ってのは本当だったんだな!」

 二人が感動の声をあげる中、俺は声も出ないほど見入っていた。

 やがてこちらまで熱波が押し寄せてきたため、通路に避難する。しばらくの間吹き荒ぶ嵐をやり過ごしていると、ぱたりと音が止んだ。

「おや、もう終わったようだ」

 そう言って通路に顔だけ出して覗くブランジェさん。

「いつもやりすぎるのがジョカ殿の悪い癖なのだが、見世物になるならばそれに興じるのも悪くないであろう?」

 いたずらな笑顔を見せるブランジェさんとともに、通路に出ていく。閉じた本を片手に、もう片方の手を腰に当て鼻息を吐くジョカさんがいた。通路は熱気に包まれており、じわりと汗がにじんだ。

「さすがジョカ姉ね…一人でこれだけの魔法を使えるんだもの」

 先ほど見えていた青犬の群れは一匹たりとも残っておらず、通路の壁は焦げ容赦のない無慈悲な火炎が暴れまわったのを物語っていた。

「割と消化不良じゃがの。途中で向こうまで炎が到達してしまったがゆえ止めたのじゃ」

 本を開いたり閉じたりして顔に風を送るジョカさん。前髪がふわふわと揺れる。少し不機嫌そうだ。

「それでフレッド。この先がお主らの到達した最終地点かの」

 振り向きながら俺を呼んだ。

「はい、そこの光の漏れてるところから上がったところに祭壇の部屋があります」

 俺の説明を聞くと、腰のベルトの背中側に本をひっかけ帽子の位置を調整して歩き出した。

「ではゆこうぞ。ほれ、何をしておる、先頭を歩かんか。お主のみつけた場所じゃろう」

 前を歩くように急かされ慌てて小走りでジョカさんの前に出る。

「シルヴィ、お主もじゃ!」

「別にいいのに…」

 そうやって二人並んで前を歩かされた。

「ジョカ殿、あまりお節介を焼き過ぎるのもどうかと思うぞ」

 ブランジェさんの声に、楽しそうに笑って返事をするジョカさんの声が聞こえてきた。

 そして、数日ぶりにコノコと出会った祭壇へと向かったのであった。

最前線組の無双タイムでした。


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