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グリーンベッドジャンパーズ  作者: 裏側の飛鳥
第二章 世界の根っこで
16/43

1話 大樹の木漏れ日の中で

これより第二章の始まりとなります。

挿絵(By みてみん)

「全っ然終わんねぇ…」

「ねぇー♪」

 グッドラックのテーブルに突っ伏しながら、目の前に山と積まれた羊皮紙の束を恨めしそうに睨みつける。左斜め前の席で真似をしてテーブルに突っ伏して俺の顔を覗く楽しそうなコノコがいる。売らずに残していたリビエラの古着を着ている。

「もう、私の半分も進んでないじゃない」

 そう言いながらさらさらと書類に書き込んでは次の一枚を取ってまた書き始める。

「これが終わらないと報奨金もらえないんだから頑張りましょ」

 テーブルから身体を引きはがし、おやっさんの淹れてくれた紅茶をひと口飲んで、また作業に戻った。

「おかし、おいしー♪」

 コノコも身体を起こし、置いてあるお菓子を食べ始めた。おととい、昨日と俺の家で弟たちと触れ合っているだけで、あっという間にいくつか言葉を覚えて使い始めた。そのままほっとけば勝手にいろいろ覚えてくれるのかと思ったのだが、どこに行こうとしても絶対についてくるので今日はグッドラックで一緒に書類作業だ。といっても、昨日の残りのお菓子を足をぶらぶらさせながらただひたすら頬張るだけだが。

 今、俺たちがやっているのは遺跡探索報告書の作成。マッピングの清書と遺跡内部構造で気付いたことや遺跡内で回収したものの申告などが主なものである。なおここで申告さえしていれば、持ち帰れないほどの大きさのものを発見した場合でも所有権が認められるらしい。その場合は詳細な特徴を書き出す必要があるため、見落としがなかったか必死に記憶を叩き起こしている。

「銀色の卵の殻とかも申告したほうがいいのか?」

「さっき書いといたわ。ある程度回収物の申告書は終わったと思うから、あなたはマッピングの清書をしてもらえるかしら。他の細かいのは私がやるわ」

「了解」

 手に持っていた紙をシルヴィアに手渡し、一回り大きい羊皮紙を取り出しテーブルに広げ、四隅に石を置いて固定する。

「さて…」

 鞄から簡易マッピングに使った紙を並べて、一枚に収まるよう大きさの調整を考える。このマッピングの清書が、次に行われる掃討作戦で参加者に配布されるマップの原本になるのだ。

「やっべ、手が震えるぜ…」

 下手なことをすると作戦に支障をきたす。測量ではないため余りにもひどい内容でない限りは問題ないらしいのだが、実のところグッドラックでもマッピングの清書をやったことがある冒険者はほとんどいない。最前線や新たに横道などを発見した者でもなければそうそう取りかかることのない作業だからだ。

「少しは進んだか?」

 おやっさんが紅茶のポットを持ってきた。

「マッピングの清書か。まず薄く紙の中心を通るように十字を描くと描きやすいぞ」

 すっすっと人差し指で羊皮紙の上に十字を切った。

「おやっさん描いたことあるのか」

「まぁな。まだギルドが普及していない頃だが、あの頃はちょいと潜ったらすぐ別の横穴が出てくる時期だったからな」

 空いたカップに紅茶を注いでくれる。

「ありがとうございます、マスターさん」

 シルヴィアが会釈した。おやっさんもそれに小さく手を上げて応える。コノコはまだ慣れてないらしく少し避けている。

「しかしまぁ、昨日は大騒ぎだったな。まさかお前が早速遺跡を切り開いてくるとは誰も思っちゃいなかったよ」

 昨日。ローゼンクォーツにシルヴィアの荷物を持っていった時のことだが、その際にギルドのマスターから書面を預かっていた。それをおやっさんに見せたところ、その夜は急遽、出払ってる冒険者以外を集めての盛大な大宴会となった。シルヴィアを含めたローゼンクォーツの女性冒険者も数人来ていた。

「昨日はお招きいただいてありがとうございました」

「何を言う、礼を云うのはこっちさ。お前さんたちの功績のお祝いだ。俺たちがそれに乗っかっただけさ。久しぶりに楽しませてもらったよ」

 コノコは大人たちに囲まれて怖がってしまい終始隅っこで固まっていたため、ほとんど俺はそれにつきっきりだったことを思い出す。

「うちの冒険者も誘っていただいて」

 そういうシルヴィアに笑って答える。

「はっはっは、噂に違わぬ美しいお嬢さん方だった。うちのポンコツどもも随分喜んでいたよ。来てくれて感謝こそすれ、迷惑だなどとは思わんさ。よく来てくれた」

 昨日数人だけ挨拶を交わした。ちらっと見たことがあるガチャコさんと、シルヴィアの武術の師匠のブランジェさん、ギルドマスターのクレアさんだ。他にも数人来ており、噂になるのも納得の美人揃いである。

「ああ、それで思い出したんだが、フレッド。昨日クレアさんから手土産をもらってな。お返しに紅茶葉を贈ろうと思うんだが、作業がひと段落したらあとで持って行ってくれ。どうせ作業は今日じゃ終わらんだろう?」

 くいっと首でギルドの奥を示すおやっさん。

「あの、もしかしてなんですけど」

 シルヴィアが思いついたように切り出す。おやっさんと二人でシルヴィアの顔を見る。

「今いただいてるこの紅茶って、ものすごく高級品じゃないですか…?」

 間違ってたら申し訳ない、といった表情のその言葉におやっさんが驚いた顔をして、眉をひょいと上げてみせた。

「お嬢さん、明日はまたとっておきのを淹れてあげよう」

 にっとおやっさんは笑い、ギルドの奥へと引っ込んでいった。


――― ローゼンクォーツ ―――


 ここに来るのはなんだかんだで三度目だ。深い木々に囲まれた道を行くとぽっかりと開けたところにつき、そこに木と石が組み合わされた三階建ての大きな建物がある。建物の中は完全に男子禁制で、役人はおろか領主や国王すら絶対に入れないと決めているらしい。しかし客人に応対しなければならばい場合もあるので、その際は離れの小さい小屋を使う。前回、前々回と二回ともそこに通されていた。

「今日は天気がいいから外のテーブルでもいいわね」

 小屋の隣に置かれたベンチとテーブルで待つことにして、シルヴィアが中にクレアさんを呼びに行った。

「コノコ、あれはなんだ?」

 枝でちょろちょろと跳ねている小鳥を指さす。

「とりさん!」

 おお、即答した。

「正解だぞ、えらいな」

 頭をなでてあげる。

「えらーい!」

 嬉しそうに腰に抱きついてくるコノコ。リビエラの真似かな。

 たった二日だが、目覚ましい勢いで言葉を吸収している。「あれ」と「なんだ」も理解し、その上で「とりさん」と答えたのだ。意思疎通ができるようになればさらに覚える速度も上がるだろう。

(なんだか懐かしいな)

 弟たちに言葉を教えていた頃を思い出した。といっても、今思えば弟たちには教えるというより、「こうすると伝わる」というのを逆に教えてもらっていたような気もする。

 大樹の葉の隙間を縫って森に降り注ぐ太陽の光。コノコの手を引いてテーブルまで歩き、おやっさんから預かった小袋を置いてベンチに腰掛けた。横に並んでコノコも座る。

「これはなんだ?」

「てーぶる!」

「そう、よく覚えたな~」

 そんなやりとりをしていると、建物からシルヴィアが帰って来た。

「しるびあー!」

「ただいま」

 コノコが挙げた手に指をからませて上下に振ってあげるシルヴィア。

「お待たせ、フレッド。今来るわ。というか…」

 ちら、と後方に目をやる。

「…みんな来るわ」

 そういうと、ひょい、と入口から顔が覗く。慌てて立ち上がると、コノコも真似して立ち上がったが、まだ見慣れない人物たちだからか俺の後ろに隠れた。

「おお、フレッド殿!昨日(さくじつ)は宴の席にお招きいただき大変光栄であった!」

 最初に出てきたのはブランジェさん。金髪のボブで、昨日は白いドレスを着てきたのだが、普段から白が好きなのか、プリーツの入った白の短いスカートに少し大袈裟な幅の黒いベルト、その上からラッパ型の七分袖の白いシャツを着ている。すらっとした背丈で、子供っぽい服装なのにとてもしっくりきている。

「あ、フレッドさま~?」

 続けて出てきたのは、ウェーブがかった緑の髪を背中まで伸ばしたガリアンヌさんだ。深い紺色のワンピースにチェックのカーディガンを羽織っている。大きなまるい眼鏡が印象深い。

「フレッド君!昨日は楽しかったわ!わざわざ来てもらっちゃって悪いわね!」

 最後に出てきたのは一番気さくなクレアさんだ。昨日は落ち着いた格好だったが、今日は茶のポニーテールに露出の大きい革の上下だ。インナーは着ているが、ほとんど胸と腰回りしか隠れていない。

「こんにちは、みなさん。昨日はうちのおっさんたちが迷惑かけてませんでしたか?」

 ぞろぞろと三人がこちらに向かって歩いてくる。

「みなとても紳士であったぞ。あのような方々が揃っておられるのだ、グッドラックはとても居心地の良いギルドなのだろうな」

 ブランジェさんがそういうと、他の二人もうんうんと頷く。

「私たちはこういうギルドだから、あまり他のギルドに触れることなんてないんだよね。最前線にいって合同パーティでも組まない限りは。あ、座って座って。あ、コノコちゃーん、そこにいたのー?」

「むー」

 クレアさんがそういうと、全員でテーブルの周りに腰かけた。コノコは座りながらも俺の服にしがみついている。

「あんな手土産でお返しもらうなんてちょっと気が引けるけど、もらわないのも気まずいから遠慮なくもらっちゃうわよーってことで何持ってきたの?ね?ね?」

 うきうきとした表情でクレアさんが聞いてくる。

「ちょっとクレア(ねえ)、恥ずかしいわよ」

 シルヴィアが呆れた口調でたしなめる。

「えー、別にいいじゃないのー」

「もう、まったく…」

 軽く頭を抱えるシルヴィア。

「仲がいいんですね」

 そういうと、緩く腕を組んでブランジェさんが笑った。

「ふふ、まったくだ。年の離れた姉妹みたいだろう?我らのギルドはいつも大体こんな感じなのだ」

 そういいながら、全員の視線がテーブルの上の小袋に集まる。

「おやっさんがこれを、って」

 袋を開けて中から仰々しく飾り紐で縛られた手のひら大の木箱を取り出す。

「紅茶葉だそうです」

 そう言ってクレアさんに渡すと、紐を解いて香りを嗅いだ。

「あ、すごいいい香り…ガチャコ、これわかる?」

「はい~?」

 ブランジェさんをはさんだ向こうにいるガリアンヌさんに木箱を渡す。

「すんすん…はっ!?」

 香りを嗅いだかと思うと、途端に先ほどまでの緩い表情が一変して真剣な顔になり、眼鏡の鼻あてのところを人差し指でくいっとあげた。

「これは大陸西部、アルカンシア領で区画遮断して限定栽培されているアルマ種の早摘み茶を高原乾燥させ熟成させた幻の紅茶の『ノークライ』!…それをこんなに!?」

 人が変わったように早口でそうまくし立てたガリアンヌさん。

「さすがガチャコ姉ね…私じゃ高級茶葉としかわからなかったわ」

「よい茶葉とわかるだけでも十分だぞ、シルヴィ」

 そう笑うブランジェさんとシルヴィアのやりとりが気に食わなかったのか、ガリアンヌさんが強く言い放つ。

「みなさん!これはこの木箱の分だけで金貨10枚はくだらない超貴重品ですわ!」

「えっ…」

「は?」

 思わず変な声が出てしまった。コノコを除くその場の全員が固まる。

 趣味みたいなものとは言っていたが、おやっさんは副業で紅茶業者でもやっているだろうか。

「え、うっそ…あんな肉の塊でこんな高級品、さすがに受け取れないわよ…?」

 クレアさんもうろたえている。

「一応、もらいものだからおすそ分けって言ってましたけど…」

 フォローしておく。

「こんな高級茶葉をもらいものですって…是非お近づきになりたいですわ…!」

 ガリアンヌさんが興奮している。

「庶民は一生に一度、一杯飲めれば幸運とも言われているものですわ…封を切ってしまった以上あまり日持ちがしませんし、もったいないことになる前に近いうちに紅茶会をいたしましょう」

 シルヴィアが耳打ちしてくる。

「(こういうのに詳しいのはいいんだけど、一度熱が出るとしばらく止まらないのよ)」

「(なるほど)」

 それからしばらくガリアンヌさんの紅茶講座がしばらく続き、逃げるようにクレアさんがお茶を淹れにギルドの中に消えていった。


「なんじゃ、騒々しい」

 クレアさんと一緒にカップを持ってきたのは、先端がらせん状に巻かれた長い金髪の背の低い、人形のような服を着た女の子だった。半目で無表情だ。

「ジョカ姉!帰ってたの!?」

「お~シルヴィ。久しいのう。元気じゃったかの」

 カップをテーブルにおろして小さく手を挙げた。

(まさか、あの『千色のジョカ』…?すごく小さい…)

 想像していたすごい魔法使いの姿とは程遠い姿に面食らう。

「今朝シルヴィが出て行ったあとすぐに帰って来たんだよ」

 クレアさんがカップをテーブルに配り、ポットから紅茶を淹れてくれる。

「うむ。深夜便を使って帰って来たから今の今まで寝ていたのじゃぞ」

 腰に手を当て、さも起こされて不機嫌というような表情をする。

「ぬ、そこの少年は初めてじゃの。わらわはメージョス・フラッカーである。特別にジョカと呼ぶがよいぞ。お主の名はなんというのじゃ」

 俺に気付いたジョカさんが自己紹介しつつ催促してきた。

「初めまして、フレッド・グレンゼルっていいます。グッドラックで冒険者やってます」

 立ち上がって小さく頭を下げた。

「ほう、寝る前にクレアたちから聞いていたのはお主のことじゃったか。シルヴィとともに遺跡を切り開いたそうじゃの」

 ずいずいとガリアンヌさんを押してベンチに座る。苦笑いをしながらブランジェさんとクレアさんが横にずれた。

「む、そこの子は…おや、その子は人間ではないな」

「うー?」

 見つめられたコノコがびくりとして俺の腕にしがみついた。ジョカさんの言葉にローゼンクォーツの全員が不思議そうな顔をする。

「ふむ、怖がられてしまったかの。わらわの眼で見ればそこの子は人間とは違う魔力の器の形をしておる。まぁ、ちゃんと調べねばなんとも言えぬがの」

 そこまで言ってカップの紅茶をひと口すすった。

「ジョカ殿、コノコ殿が人間ではないというのはどういうことだ?」

 ブランジェさんがガリアンヌさん越しに顔を覗き込む。

「この子殿?久しく見ない間にお主の話し方も随分おかしな方向に伸びていっておるようじゃの」

 苦笑いを浮かべるブランジェさん。

「ああ、すまないジョカ殿。この子は『コノコ』という名前なのだ。みな最初は戸惑っていたが、今は定着しているぞ」

 ふむふむ、と説明を受けながらジョカさんがコノコを見る。

「なるほど、そういうことじゃったか。最初に聞いた言葉を本人が名前として覚えてしまったのじゃな。紛らわしいが仕方あるまい、彼女の常識が追い付くまでその名前のまま接するしかなかろう」

 紅茶をまた一口すする。

「人の姿をしておるが、おそらくフレッドを親と思っておる人外の存在じゃの。その額にわずかに見える二本の小さな角もそれを物語っておる。まぁ、だからといって引き離すほどのことではないぞ。お主を親と思うておる以上、頼る以上にお主の力になろうとするじゃろう。存分に可愛がってやるがよい」

 最後の一言に、場の雰囲気が穏やかになったのを感じる。それ以上に、俺とシルヴィアはほっとしていた。

「そういえばジョカ姉、コノコのことも含めて今回のことで聞きたいことが山ほどあるの」

 ふむ?とシルヴィアに視線を移す。

「わらわでわかることなら構わぬが、今日は長旅で疲れておる。じゃが、最前線の探索もしばし休止となったからの、明日以降ならいつでもよいぞ。遺跡の話も聞きたいしの」

「やった!」

 千色のジョカの協力を得られることになり、喜ぶシルヴィア。

「我々もフレッド殿たちが切り開いた遺跡の掃討作戦に参加するつもりなのだ。もしなにか力になれるようであれば、何でも言ってほしいぞ」

 ブランジェさんも拳を作って自分の胸をどんと叩く。

「あ、じゃあ今度稽古つけてもらおうかな…」

 たしかシルヴィアの武術の師匠だったはずだ。なんとなく言った言葉にブランジェさんがにやりと笑う。

「あーあ、フレッド…覚悟しときなさいね…」

 横からシルヴィアが苦笑いを浮かべていう。

「え?」

「楽しみにしているぞ!フレッド殿!」

 ニコニコと笑うブランジェさんに少し照れながらも、なぜだか背中の冷や汗が止まらないのだった。


ほとんどキャラ紹介みたいになってしまいました。


感想、ブクマもr(ry

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