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グリーンベッドジャンパーズ  作者: 裏側の飛鳥
第一章 緑の大地へ
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12話 マルゼ丘陵遺跡攻略-5-

さすがに疲れたので寝ました。

(…………っ!?息が、苦しい……!?服が首を絞めつけてる…?)

 闇の中で胸元をかきむしるが、何も変わらない。

 空気が薄い?

 違う、動けないような、縛り付けられているような、うまく呼吸ができない。

(誰か……!)

 首元を右手で抑え、左手を空に伸ばす。何もつかむことのできない左手が闇の中をさまよった。

(し、死ぬ……っ!)

 右手も離し周囲に何かないか両手を振りまわすが、なにも当たらない。

(ぐっ……うあ……)

 そうして意識を失った―――


「……」

 目の前に顔があった。

「……♪」

 俺と目が合ってその顔が嬉しそうに笑う。

「ふれっどー!」

「あら、起きたかしら?」

 俺にのしかかっていたそれが俺の腹の上でぴょんぴょんと跳ねはじめた。

「ごほっぐおっげほっちょっおほぇあっやめぁっ!!」

 状況が飲み込めないがこのままだと死んでしまうと本能が働き、腹の上の子供を横に転がして剥がしながら自分も転がる。

「なはー♪ふれっどー!」

 まだ視界の定まらないままうつ伏せになり何が起きているのか急いで頭を回転させる。

「ぜぇ…ぜぇ…」

「ふれーっどぉぅ♪」

「のぉぉおぁぁぁああ!!!」

 今度は背中の上に飛び乗られた。下敷きになった俺は完全に潰れたような気さえした。

「朝から二人とも元気ね」

 呆れたようなシルヴィアの声が聞こえてくる。

「し、しぬ…たすけて…」

「もう。遊んでないで起きて。朝ごはん食べるわよ」

 ひどい。

「『コノコ』」

「このこ!」

 シルヴィアがそういうと、背中で暴れていた子供の動きが止まった。下敷きになりながら背中の様子を見ると、子供がシルヴィアの方を向いている。

「ほら、こっちにおいで」

「しーるびあー」

 そういって手招きすると、俺の背中から飛び降りてシルヴィアの方へ走って行った。

「おふっ…このこ?」

 やっと解放された俺はのそりと床から自分を引きはがした。シルヴィアの方を見ると、子供は寝るときに被っていた布の真ん中に穴をあけて頭からかぶっていて、腰のあたりをローブで(しぼ)っていた。

「昨日からなんとなくそうじゃないかなって思ってたんだけど、多分自分の名前を『コノコ』って覚えちゃったみたいなのよ」

「このこ!」

 両手を上げてアピールする。

「…うわぁ、まじかぁ…」

「まじか?まじかー?」

 新しい言葉に目を輝かせながら反応する。まずい、余計な言葉を使えない。

「…ってあれ、なんかいい匂いがする」

 二人の方を改めて見ると、シルヴィアは鞄に腰かけて焚火の魔法に組み立てフライパンをかけて何かを焼いていた。スパイスの香りがする。ベーコンかな?

「昨日疲れちゃってちゃんと晩ごはん食べないで寝たでしょ。朝ごはんぐらいはちゃんと食べないと」

 そう言われるのが早いか、腹の虫が鳴った。

「!」

 鳴った俺の腹に反応して興味津津な眼差しを向けるコノコ。

「本当なら目玉焼きとか添えたいところだけど、ないから今日はこんなので」

 フォークでひっくり返すのが一瞬見えた。パンとベーコンと、輪切りの何かをまとめて焼いているらしい。コノコはせわしなくシルヴィアの周りから覗きこんだり、俺の顔をみたりしながら楽しそうに動き回っている。

 腕立ての状態から立ち上がり、シルヴィアの方へ鞄をとって近づく。そのまま焚火の前に鞄を置いて腰かけた。

「この輪切りのはじゃがいもか」

「そ。手軽に塩とバターで食べられるから」

 俺とシルヴィアのやりとりを目をキラキラさせながらコノコが見ている。

「コノコ、これはパン、これはベーコン、これはじゃがいも」

 指さしながら教えてあげる。

「これわぱん?」

「パン」

「ぱん!」

「そうだ」

 頭をなでる。

「♪」

 喜んだ。

「こっちは?」

 ベーコンを指さす。

「べーこ?」

「ベーコン」

「べーくん?」

「ベーコン」

「べーこん!」

 結構覚えが早い。また頭をなでてやると、気持ち良さそうに喜んでいた。その様子をみながらシルヴィアが微笑んでいる。

「なんだかほんとの親子みたいね」

 フライパンを床において、焼けたパンを半分に割って俺に渡す。それを目で追うコノコ。

「コノコは私と半分こしましょ」

 さらに半分に割ったパンをコノコに渡す。

 渡されたパンを見た後、俺とシルヴィアを交互に見て、またパンに視線を戻した。

 そんなコノコを見ながら俺はパンにかじりつく。香ばしい匂いが口の中に広がる。

「!」

 それを見てピンと来たのか、コノコもパンにかじりついた。

「あ、そうね。そこから教えないといけないのね」

 そう呟いてパンを口にくわえ、フォーク2本でベーコンを半分にちぎる。一枚をフォークに刺してこっちに渡した。

「さんきゅー」

 パンの上に乗せて、そのまま一緒に口に運ぶ。

「じゃがいもも食っていい?」

 同じようにパンとベーコンを一緒に食べているシルヴィアが軽くうなづいた。

「じゃがの?」

「じゃがいも」

「じゃがもー」

「んー…まぁいいか」

 発音に妥協して、フォークに刺した小さいじゃがいもをコノコの口元に差し出す。すると、ぱくっと深々とかぶりついた。

「おおおっと危ないな!」

 慌ててフォークを口から引っこ抜いたが、幸い怪我はしてなさそうだ。おいしそうに頬張っている。

「げほっえほっ…!」

 シルヴィアが咳き込んでいた。

「あああ……心臓に悪いわ……」

 そんなこんながありながら、なんとか朝食を終えたのだった。


「あ、そうだフレッド、あなたの被ってた布使っていいかしら」

 カップに生成された水を飲みながら朝食の片付けをしていると、思い出したようにシルヴィアが言った。

「いいけど、何に使うんだ?」

 石板を指さす。

「あれの拓本を作りたいのよ」

「なるほどね」

 ここにきてずっと気になっているようで、持ち帰って調べたいのだろう。

「黒鉛と軽石(パミス)のどっちでやる?」

 腕を組んで軽く考える。

「たくさんあるなら黒鉛で」

「わかった」

 シルヴィアの鞄にフライパンと金属の輪っかを戻し、自分の鞄から黒鉛の塊が入った包みを取り出す。

 寝ていた布を拾い、軽くはたいて石板の方へ三人とも移動した。

「壁掛けだから固定しにくいな」

 布の両端をシルヴィアと持ち石板に被せるが、固定ができず少し厄介だ。

「ピックは持ってない?」

「今回は持ってきてないなぁ…」

 うーん、と考えていると、不思議そうな顔で見つめるコノコと目が合った。

「…あ、そうだ、コノコ、ここ持ってて」

「このこ!…こここ?」

 手招きしてコノコを呼び寄せ、手を取って石板の上に手を置かせる。

「そのまましててくれ」

 両手を開いてぴっ、と仕草をすると、首をかしげていたがなんとなく理解したようでコノコが動かなくなった。

「さっすがパパね」

 冷やかされつつ、布をピンと引っ張りながら黒鉛を優しく石板の上からこすりつけていく。彫られた部分以外が塗りつぶされ、だんだんと文字が転写されていく。

「おー!?」

 じっとしながら、コノコが不思議そうに作業をみつめていた。

 5分ほどで作業は完了し、文字が消えないよう綺麗に畳んで鞄に戻す。

「助かったぞーコノコ。えらいなー」

 そういって頭をなでてやる。

「えらいー?えらいーな!」

「えらいえらーい」

 シルヴィアも頭をなでにきた。

「えらーい!えらーい!」

 今にもとろけそうな顔をするシルヴィアであった。

 その後、部屋中に散らばった銀色の殻のかけらを拾い集める。何の物質なのかわからないが、もしかするとこれも貴重な素材かもしれない。コノコも真似をして一緒に拾い集めていた。

「結構な重さね」

 なにせめちゃくちゃ大きかった卵の殻である。袋にまとめて持ってみるとずしりときた。

「ただの金属じゃないことを祈るぜ…」

「まぁ…ただの金属だったら食器鍛冶のところにもっていきましょ」

「ただのきんぞくー!」

 縁起でもないことをコノコが高らかに繰り返す。

「さて、忘れないうちにマッピングだ」

 今度は紙を取り出しここまでのルートを描いていく。シルヴィアとコノコが覗きこんだ。

「一度中央側に入ったらそこまで複雑じゃなかったな」

「魔法陣の導線の予想通りだったものね」

 さささっと少し角ばった魔法陣の切れ端のようなマッピングができあがり、それを鞄にしまう。

「ところで、『コノコ』どうするの?」

 そう言われて、コノコを見る。名前を呼ばれて嬉しかったのか、今はシルヴィアの顔を見ている。

「どうするって…ここに置いていけないだろ?」

「まぁ、そうよね。でも、地上に連れて行ってもどうしたらいいのかしら」

 あごに手を当てて考える。昨日出会ったばかりだが、こんなに懐かれると情も移る。それはシルヴィアも同じだろう。

「犬や猫じゃないのよね…というか見た目は人間の子供みたいだけどそれですらないし。最初の火炎魔法のこともあるからなにか事件でも起こしたら大変な騒ぎになっちゃうわ」

 冷静に考えればそうだ。コノコは人間の子供ではない。むしろ、すさまじい力をもつ『何か』だ。刷り込みによるもので俺たちを親だと思っているが、俺たちに害なすものなら容赦なく滅ぼしてしまう能力と本能をもっている。今朝のやりとりを見る限り、人間としての知識や常識は与えれば順応しそうだが、責任が取れるかというと正直恐ろしい。

 難しい顔をしながらコノコを見ていると、だんだんとコノコの表情が寂しそうな顔になっていき――

「う、ううー」

 泣きだしそうになった。

「…はぁん!やっぱりだめ!つれてかえる!どうにかする!なんとかするー!」

 突然シルヴィアがコノコを抱きしめる。頬同士をすりすりとしながら頭をなでていた。我慢して冷静にずっと悩んでいたのかもしれない。

「…まぁなんとかするか」

 連れて帰ることで一応決定ということになった。

 頬をすりつけられるコノコの機嫌とシルヴィアの抱擁が落ち着くまでしばし眺めていた。


脱出準備前の作業で区切りです。子供の相手に苦戦して脱出に入れませんでした()


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