1話 今日から冒険者
こちらはいわゆるハイファンタジーものの連載になります。
「おやっさん!今日で17だ!もう文句はないだろ!」
蹴破る勢いでドアを開き、カウンターの向こうのガタイのいい男に向かって言い放つ。
まずい、この日を待ちわび過ぎていたせいか、心臓が喉から飛び出しそうだ。
テーブルで依頼書を吟味していた数人がぎょっとして振り返る。
「ふん。歳だけ食いやがって、まだガキの真っ最中だろうがよ」
「へへん、そんなこと言ったって国の決まりなんだから問題ないだろ!さっさと手続きしようぜ!」
づかづかとカウンターに向かって歩き、両手を腰に当てて胸を張ると、おやっさんがため息を吐いた。
「ったく、持ってきてやるから茶でも飲んで一旦落ち着け。焦るこたねぇだろう」
「今日はいいよそんなの」
そんなの、と言われたのが気に食わなかったのか、おやっさんが眉間にしわを寄せた。渋々、といった面持ちで肩をすくめ、カウンターの中から数枚の書類を出し、ひらひらと顔の横で振って見せる。
「まぁ、どうせ今日すぐに来るだろうと思って書類はできてるんだがよ。ほれ、ここにお前の名前書いて王宮に提出するだけだ。認可が下りれば晴れて冒険者の仲間入り、まぁ、犯罪者でもない限りここで落ちはしないがな」
カウンターの上に放り投げられた書類に、待ってました、と言わんばかりに飛びついた。
「間違えんなよ。全部書き直しになるんだからな」
「自分の名前間違えるわけないだろ!」
そんなやりとりをしながら、震える手でサインして書類をおやっさんに返す。
「ったく。もうちょっときれいに書けよ。自分の名前だろうが」
「読めればいいじゃん」
「はぁー」
おやっさんが書類を両手で持ち直し、佇まいを正した。
俺もそれに倣い、背筋を伸ばして姿勢を正す。
「『フレッド・グレンゼル。貴君を当冒険者ギルド【グッドラック】に冒険者として登録することをここに証し、ギルドへの依頼を受けることを認める。』」
「はい!」
「『ただし、依頼を受ける際はギルド規定により設けられたランク以下に指定されたものに限る。ランク昇格試験もしくは審査については別項にて記す。』」
「はい!」
「『貴君の冒険家としての活動に幸運を祈る。以上』」
まばらに拍手が起こった。
「ありがとうございます!」
書類を読み上げ、おやっさんが姿勢を崩し、カウンターに肘をついた。
「いいか?わかってるとは思うがどの遺跡も王宮管轄だ。王宮から認可が下りてバッヂをもらうまでは、いくらフリークエストっつっても勝手に入れねえぞ。役所仕事はおせえから2・3日かかるはずだ。それまではうちの小さいクエスト受けるか、おとなしく家で準備して待ってろ。あと、ほれ」
おやっさんが【グッドラック】と書かれた布を投げてよこす。
「失くすなとは言わねえ。何が起こるかわかんねえからな。だが、クエスト受けて依頼者に会う時と、それに関係する場所に出入りする時、遺跡に入るときは必ずこれを腕に着けてろ。どこのギルドのもんかわかるからな。義務だぞ?」
「了解」
半分にやけながらおやっさんの説明に返した。
「ま、詳しいことは追々教えてやっから。今日の説明はこれで終わりだ。あーこれだけは先に言っとこう」
もうひとつ、と人差し指を立てる。
「遺跡探査は最低ランクがついてないとそもそも入れんからな。バッヂもらったらうちの縄張りの遺跡で試験するぞ」
「っ!はい!」
「茶は飲むか?」
「今日はいいや」
「そうかい、んじゃ今日は帰っていいぞ」
そういって、手をひらひらさせて外に促した。
受け取ったグッドラックの腕章を眺めながら、意気揚々と出口に向かう。
背中でおやっさんがなにか呟いていたように感じたが、それには気も止めず外に出て、空を見上げた。
空を覆う大樹の葉からちらちらと覗く太陽の光を受けて、言いえぬ高揚感に浮足立つ。
「やっと出発点だ。絶対にたどり着いて見せる」
そして見つけるんだ。
自分の意思を確かめるように腕章を強く握りしめ、ぶんぶんと振りまわしながら家路についた。
帰り道、近所のおばちゃんたちにお祝いで野菜をいっぱいもらった。