バカ大学生創一シリーズ①~タバコと創一~
砂臥 環と申します。
宜しくお願いします。
7月も半ばを過ぎたある暑い日のことである。
大学は長い夏休みに入っていた。
山田創一(21)、大学3年生。
彼は大学のレポートと論文を『一人で集中したいから!』と、親のアパートの空き室を借りて進めていた。
まぁ大体は漫画を読んだり、ゲームをしたりしながらダラダラすごしたりしているのだが。
散らかった部屋……
身体は重く……頭が働かない……
彼は今重い病に蝕まれている。
そう、『5月病』という名の病に……
「7月なのに5月病とはよく言ったもんだぜ……」
シニカルにそう笑うと、万年床になっている布団からズルズルと這い出した。
空き室を借りているとはいってもこの部屋は、親の好意で電気と水道は通してある。ガスは通っていないが充分だ。
ただし、家具らしい家具はない。
布団と折り畳み式の文机、ゴミ箱、それにペットボトルが何本か入る温冷蔵庫があるくらいだ。ちなみに全部、創一が持ち込んだものである。
カーテンは閉めたままになっているので、部屋は薄暗い。
ちょっとだけ開けてみると夏の強い日差しが攻撃的に入ってきた。
「うっ……!」
即座に閉める。
「UV……なんて恐ろしい敵……!今の弱った俺では灰になってしまう……!!」
勿論彼はヴァンパイアでもマイクラに出てくるゾンビでもない。……言ってみただけだ。
「しかし、恐ろしい程の日差しであることには間違いはない。こんな日は外に出るべきではない。うん、絶対。」
創一は自分でもさっきのバカ発言に心の中でつっこんだのか、言い訳がましく独り言を続ける。
そして彼は悩んだ。
「しかしながら『光陰矢の如し』とか『時は金なり』とか『少年老いやすく学成り難し』とか言うからな……フフ、学のあるところをさらしてしまったようだ……」
話の途中だが、これは独り言である。彼はいつも一人だとこんな感じなのだ。
独り言はまだ続いている。
「肝要なのは、如何にして部屋から一歩も出ず、有意義に過ごすか……だ!」
その答は『真面目にレポートをやる』に他ならないのだが、彼の勉強的な『やる気スイッチ』は完全にOFFになっている。ONにする気も全くない。
「一服でもして何か考えるか……」
そう呟くとタバコの箱を取り出した。
彼は普段タバコは吸わないが、仲の一番良い財前真実が喫煙者なため、灰皿は置いてある。タバコも自販機で銘柄を間違えた真実がくれたものだ。
では何故こんな事を言い出したかと言うと……単なるかっこつけである。
「ふう……」
そして彼は満足する。タバコにではない。『タバコをすってる俺』にである。
「……(俺って)ハードボイルドぉ……」
そう呟いてあることに気付いた。そして部屋を見回す。
薄暗い6畳程の畳部屋には布団に文机……ぐちゃぐちゃと散乱する失敗したレポート……
「これって……昔の文豪っぽくてハードボイルドじゃね……?」
『…よし!もっとそれっぽくしよう!』
やることは決まった。
まず布団をもう少しアカデミックにぐちゃっとさせる。
「太宰や三島の如く、生きていくことの苦悩や憤りを表現しよう。」
彼が苦悩やら憤りやらと、もっともかけ離れた人間であることだけは間違いない。
次にレポート用紙を沢山ぐちゃぐちゃにし、ゴミ箱に向かって適当に投げる。ゴミ箱に入らないものもあるが、そこが格好良い。制作に悩んだ後っぽくて。
更に硝子戸越しにある小さいキッチンの、備え付けの棚に少しだけ置いてあるグラスの中から、一番ウィスキーグラスっぽい物を選んだ。勿論ウィスキーなんかないので、冷蔵庫にあったペットボトルの麦茶を少しそそぐ。(色が似ているのでそれっぽくなる)
「……うん、良い感じだ!……しかし……なんか足りんな……」
創一は辺りを見回した。
目についたのは……先程のタバコ。
ハッとして創一は言う。
「………………『紫煙』!」
「『くぐもる紫煙』!!……コレだ!」
『くぐもる紫煙』……なんか言葉だけで既に格好いい!創一はそうおもった。
創一はタバコを吸い、煙を吐き、カッコ良く潰す。(ここも重要)
そしてそれを繰り返す。
5本も続けて吸うと、普段吸い慣れてない創一は流石にクラクラしてきた。しかし頑張る。もっと他の事を頑張ればいいだろうが、などというツッコミは彼には通用しない。馬鹿だから。
「フッ……コレが産みの苦しみというやつか……」
創一は、遠い目をして呟いた。うん、絶対違う。
そして一箱空けた。『どうだ!空けてやったぜ!!』とばかりにドヤ顔で部屋を見渡した。……イイ感じでくぐもっている。というか、こもっている。
「アメェ~イズィ~ング!!」
部屋をぐるりと見回して、創一は満足気に頷いた。
「素晴らしい出来だ……!」
そんな時である。
「創一~!」
インターフォンも鳴らさず、不躾に扉が開いた。入ってきたのは雨宮茜、創一の幼馴染みである。
「っ?!てめ……茜!勝手に入ってくんじゃ……」
そう言ってる間も茜はズカズカと入ってくる。
「おばさんに頼まれたんだもん、サボってないか様子見てきてって……」
そして6畳に続く硝子戸を開けた。
「なにコレ……臭ッ!!」
「あっ……ちょ……まっ!」
茜は創一の制止など一切聞かず、カーテンに手をかけた。
「アンタね~、冷房付けているとはいえ、換気ぐらいしなさいよ!」
そして……
「のおぉぉおぉおぉぉ!!!」
創一の叫びも虚しく、無情にも窓は開け放たれた。
「俺の……ハードボイルドがぁぁ……!」
創一は崩れ、その場で『orz』の格好になった。そんな彼を一瞥し、茜は冷たく言い放った。
「……馬鹿なの?」
無論、馬鹿なのだが。
創一は夏の日差しを受けながら言った。
「フッ……所詮女に男のロマンはわからないのさ……」
結局、今日創一のした努力は一瞬で夏空に消え去ったのであった。
閲覧ありがとうございました。
シリーズと付いてるように、不定期で創一の馬鹿な日常を書いていくつもりです。
もし気に入ったらまた閲覧お願いします。