表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

バカ大学生創一シリーズ

バカ大学生創一シリーズ①~タバコと創一~

作者: 砂臥 環

砂臥 環と申します。

宜しくお願いします。


 7月も半ばを過ぎたある暑い日のことである。

 大学は長い夏休みに入っていた。


 山田創一(やまだそういち)(21)、大学3年生。


 彼は大学のレポートと論文を『一人で集中したいから!』と、親のアパートの空き室を借りて進めていた。

 まぁ大体は漫画を読んだり、ゲームをしたりしながらダラダラすごしたりしているのだが。


 散らかった部屋……

 身体は重く……頭が働かない……

 彼は今重い病に蝕まれている。


 そう、『5月病』という名の病に……


「7月なのに5月病とはよく言ったもんだぜ……」

 シニカルにそう笑うと、万年床になっている布団からズルズルと這い出した。


 空き室を借りているとはいってもこの部屋は、親の好意で電気と水道は通してある。ガスは通っていないが充分だ。

 ただし、家具らしい家具はない。

 布団と折り畳み式の文机、ゴミ箱、それにペットボトルが何本か入る温冷蔵庫があるくらいだ。ちなみに全部、創一が持ち込んだものである。


 カーテンは閉めたままになっているので、部屋は薄暗い。

 ちょっとだけ開けてみると夏の強い日差しが攻撃的に入ってきた。

「うっ……!」

 即座に閉める。

「UV……なんて恐ろしい(エネミー)……!今の弱った俺では灰になってしまう……!!」

 勿論彼はヴァンパイアでもマイクラに出てくるゾンビでもない。……言ってみただけだ。

「しかし、恐ろしい程の日差しであることには間違いはない。こんな日は外に出るべきではない。うん、絶対。」

 創一は自分でもさっきのバカ発言に心の中でつっこんだのか、言い訳がましく独り言を続ける。


 そして彼は悩んだ。

「しかしながら『光陰矢の如し』とか『時は金なり』とか『少年老いやすく学成り難し』とか言うからな……フフ、学のあるところをさらしてしまったようだ……」

 話の途中だが、これは独り言である。彼はいつも一人だとこんな感じなのだ。

 独り言はまだ続いている。

「肝要なのは、如何にして部屋から一歩も出ず、有意義に過ごすか……だ!」

 その答は『真面目にレポートをやる』に他ならないのだが、彼の勉強的な『やる気スイッチ』は完全にOFFになっている。ONにする気も全くない。


「一服でもして何か考えるか……」

 そう呟くとタバコの箱を取り出した。

 彼は普段タバコは吸わないが、仲の一番良い財前真実(ざいぜんまこと)が喫煙者なため、灰皿は置いてある。タバコも自販機で銘柄を間違えた真実がくれたものだ。

 では何故こんな事を言い出したかと言うと……単なるかっこつけである。

「ふう……」

 そして彼は満足する。タバコにではない。『タバコをすってる俺』にである。

「……(俺って)ハードボイルドぉ……」

 そう呟いてあることに気付いた。そして部屋を見回す。


 薄暗い6畳程の畳部屋には布団に文机……ぐちゃぐちゃと散乱する失敗したレポート……

「これって……昔の文豪っぽくてハードボイルドじゃね……?」


『…よし!もっとそれっぽくしよう!』


 やることは決まった。


 まず布団をもう少しアカデミックにぐちゃっとさせる。

「太宰や三島の如く、生きていくことの苦悩や憤りを表現しよう。」

 彼が苦悩やら憤りやらと、もっともかけ離れた人間であることだけは間違いない。

 次にレポート用紙を沢山ぐちゃぐちゃにし、ゴミ箱に向かって適当に投げる。ゴミ箱に入らないものもあるが、そこが格好良い。制作に悩んだ後っぽくて。

 更に硝子戸越しにある小さいキッチンの、備え付けの棚に少しだけ置いてあるグラスの中から、一番ウィスキーグラスっぽい物を選んだ。勿論ウィスキーなんかないので、冷蔵庫にあったペットボトルの麦茶を少しそそぐ。(色が似ているのでそれっぽくなる)


「……うん、良い感じだ!……しかし……なんか足りんな……」

 創一は辺りを見回した。

 目についたのは……先程のタバコ。

 ハッとして創一は言う。

「………………『紫煙』!」


「『くぐもる紫煙』!!……コレだ!」


『くぐもる紫煙』……なんか言葉だけで既に格好いい!創一はそうおもった。


 創一はタバコを吸い、煙を吐き、カッコ良く潰す。(ここも重要)

 そしてそれを繰り返す。

 5本も続けて吸うと、普段吸い慣れてない創一は流石にクラクラしてきた。しかし頑張る。もっと他の事を頑張ればいいだろうが、などというツッコミは彼には通用しない。馬鹿だから。

「フッ……コレが産みの苦しみというやつか……」

 創一は、遠い目をして呟いた。うん、絶対違う。

 そして一箱空けた。『どうだ!空けてやったぜ!!』とばかりにドヤ顔で部屋を見渡した。……イイ感じでくぐもっている。というか、こもっている。


「アメェ~イズィ~ング!!」

 部屋をぐるりと見回して、創一は満足気に頷いた。

「素晴らしい出来だ……!」

 そんな時である。


「創一~!」

 インターフォンも鳴らさず、不躾に扉が開いた。入ってきたのは雨宮茜(あまみやあかね)、創一の幼馴染みである。

「っ?!てめ……茜!勝手に入ってくんじゃ……」

 そう言ってる間も茜はズカズカと入ってくる。

「おばさんに頼まれたんだもん、サボってないか様子見てきてって……」

 そして6畳に続く硝子戸を開けた。

「なにコレ……臭ッ!!」

「あっ……ちょ……まっ!」

 茜は創一の制止など一切聞かず、カーテンに手をかけた。

「アンタね~、冷房付けているとはいえ、換気ぐらいしなさいよ!」

 そして……


「のおぉぉおぉおぉぉ!!!」


 創一の叫びも虚しく、無情にも窓は開け放たれた。

「俺の……ハードボイルドがぁぁ……!」

 創一は崩れ、その場で『orz』の格好になった。そんな彼を一瞥し、茜は冷たく言い放った。

「……馬鹿なの?」

 無論、馬鹿なのだが。


 創一は夏の日差しを受けながら言った。

「フッ……所詮女に男のロマンはわからないのさ……」


 結局、今日創一のした努力は一瞬で夏空に消え去ったのであった。







閲覧ありがとうございました。

シリーズと付いてるように、不定期で創一の馬鹿な日常を書いていくつもりです。

もし気に入ったらまた閲覧お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 五月病どころか中二病も拗らせてないか( ´∀` ) この馬鹿さ加減が……なんともクセになりますねぇ( ´∀` )
[良い点] 創一のこじらせっぷりが良いですね~。 「ドイツ語って格好よくね?」と、中二病全開で第二外国語にドイツ語を取った夕立も似たようなものなのですが。 シリーズということは、彼のお馬鹿エピソード…
[良い点] 我が家の息子の未来を見るようで、素通りできませんでした。面白かったです。 [一言] 勢いで創一くんシリーズ全部読みました。どれも面白いですが、やっぱり一作目が出色の出来。さらに勢いで『宇野…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ