萌える命
ある山の下
石段を降りると
ひんやりと
しっとりと
気持ちよさより
気味悪さに
小さく
怯んだ
見上げれば
山の胸板
あまりに
逞しく
容赦なく
吸い上げる勢い
と
突き落とす勢い
が
同時にあった
緑もえて
赤い雫のような花が
点々と咲いていた
河は飛沫あげ
押し流す
滝の底へ
鎮まることなく
橋を渡る
橋の下は
照りついた緑色
と
闇にそっくりな
藍色が
棲んでいた
考えも思いも
止まって
言葉も消えて
怯えた口から
情けない音が
漏れる
萌える命は
あるがまま
成すがまま
生まれ
己が力でのびていく
望みも願いも
嘆きもかなしみも
ない
畏れの中で
生きている
私も
萌える命なのだ
と
一瞬
ときめいた