転生者爆発
「世界滅亡・・・?」
彼女の美しい顔に似合わない物騒な言葉が出されたことに驚いた。
「滅亡、とは言ってもあなたにとっての『異世界』のことです。私にとっては『世界』ですが」
「ここからは話が長くなりますが――」
「私たち魔王軍は今相当なピンチに陥っています。というのも近頃私たちの世界に『転生者』が急増したためです。」
「転生者?」
「私たちの世界に突然訪れる、何らかのチート能力を持った人間のことです。彼等には目的があります。それは魔王を討伐することです」
そう語る彼女の眼差しは真剣そのもので、口を挟むのも憚るように緊張した空気が広がっている。
「私たち魔王軍は転生者の対応にここ数年ずっと追われています。そして最近では劣勢になってしまい、このままでは魔王軍は滅んでしまいます」
「転生者の特徴のひとつに『引き篭もり』という点が挙げられます」
確かにそうだ。
「だから私は転生者を倒すために、引き篭もりを知ることにしたのです」
「転生者を倒して、世界の滅亡に拍車をかけます」
「ですから私の目標は二つ。一つは引き篭もりを知ること。もう一つは引き篭もりを撲滅すること。撲滅出来なければ、異世界へのゲートを遮断します」
「引き篭もりを撲滅って・・・。どうやって?」
俺が問うと彼女は手に持っていた広辞苑らしき本を開いた。
すると突然本の上に人の頭ほどの大きさの炎が上がった。
「・・・っ!?」
「私だって魔王の娘です。多少の魔法は心得ています。この世界にいる、チート能力のない引き篭もりなど私の魔法でも十分でしょう」
「倒すって物理的にかよ・・・」
彼女が再び本を閉じると炎も消えた。
俺はたった今、彼女が異世界から来た魔王の娘だということを信じることにした。
こんな人間離れした業を見せられれば、信じる他にない。
「あなたの家に来たのは、あなたが引き篭もりだからです。引き篭もりをリストアップし、その中から無作為に私の研究対象を抽出したところ、あなたの家が見事当選したのです」
「勘弁してくれ・・・」
先程の話の中に一つ引っかかることがあった。
彼女は引き篭もりを物理的に、撲滅すると言った。
・・・俺も殺られるのか?
「ちょいと質問なんだが」
「なんでしょう」
「お前は最終的に俺も殺すのか?」
俺は知らず知らずのうちに生唾を飲み込んでいた。
朝突然降ってきた不幸が命を脅かす可能性があるとは。
「どうでしょうか。まずは引き篭もりであるあなたの生活を研究し、それが他の引き篭もりにも当てはまるのか、再び研究します。そこから普遍的な特徴を見出して・・・。かなり時間がかかりそうなので、『殺すとしても』それはまだまだ先の話ですね」
俺はひとまず胸を撫で下ろす。まだ、この世界に生きることができるようだ。だがそれもいつまで続くのかわからない。明日死ぬのかもしれない。十年後死ぬのかもしれない。余命がわからないのが一番怖い。
何か死なずに済む方法はないのか・・・。
コイツは引き篭もりを殺す。引き篭もりを・・・。
そうか。俺に良案が浮かんだ。
「じゃあ。俺は引き篭もりをやめる」
「へ?」
突然の宣言に彼女が素っ頓狂な声を出す。
「これなら俺を殺す理由にはならないだろう。だって俺は引き篭もりじゃない。唯の優良な高校生なんだから」
「そうですけど・・・。それは色々困ります。この世界に来る時に色々な手続きは済ませてあるんですよ。変更の仕方など聞いてませんし、何処に聞けばいいのかわかりません」
彼女はつい先程までの凛とした表情を崩し、動揺を隠せず俺に懇願している。
「手続きってなんだよ」
「学校であなたと同じクラスになるように、とか。ここの家にはあなたの従姉妹として少しの間住まわせてもらう、とか」
「え!?同じクラス?しかも俺にこんな従姉妹はいねーよ!!」
「だからその辺は記憶の改ざんですよ。ここに来る時神様を名乗る奴が色々とやってくれたようです」
「神様は暇なのか・・・。じゃあ俺が今お前を追い出せば、お前は行く宛がないつてことか」
彼女は無言でコクリと頷いた。グッ・・・少し可愛いと思ってしまった自分が憎い・・・。
「・・・わかったよ。じゃあこのまま家にはいていい。だが俺と家族に危害を加えるのはナシだ。わかったな」
「本当!?ありがとう!!」
今にも泣きそうな顔で感謝の気持ちを伝えられた。何このいい事してやった感。
「でもだ!」
「俺はお前に引き篭もりを撲滅なんかさせねーぞ」
彼女の表情がパッと変わった。一気に警戒心を強めたようだ。
「まず、俺には引き篭もりの知り合いが何人かいる。そいつらを放っておけない。もうひとつ。俺もあわよくば異世界に行きたいと思っている質だ」
「もし引き篭もりと異世界転生の因果関係がわかって、転生するためのゲートのようなものが閉ざされたとしたら。俺は転生できない。それを全力で阻止する」
「・・・なんですかそのしょーもない理由は」
警戒した表情から一気に気が抜けて廃人を見下すような表情になった彼女は、大袈裟にやれやれと両腕を左右に広げて見せた。
「じゃあ全力で阻止してみてくださいよ。私も衣食住をあなたに託している身。これ以上乱暴なことを言える立場ではありません。勿論阻止されたからといって、あなたを殺すことはありません」
「これは今引き篭もりを脱したあなたと、魔王の娘である私との勝負です」
Twitter→@akirakill_26
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