突然の来訪者
・・・っ!?
ジリリと鳴る目覚まし時計を止める為、体を起こそうとするが体が思い通りに動かないことに気付く。
なんだ・・・?
お腹の方にずっしりとした重みがある。寝ぼけ眼を擦って自らの腹部に目線を移す。
「おはようございます」
銀髪の幼い女性が馬乗りになっている。馬乗りになっている。なっているっているっている・・・は!?
「てめぇ誰だよ!!」
俺は持っている力を振り絞って彼女を振り払った。
彼女は豪快にベッドから転げ落ち、頭をベッドの横にある机にぶつけた。頭を抱え、声にならない声を唇から漏らしている。
誰だコイツ誰だコイツ誰だ誰だ誰だ!?
・・・そうか、アレだよ。夢だ。これは。
目を瞑って思いっ切り頬をつねってみる。痛い痛い。
よーしこれで覚めたろう夢からは。おはよう現実。久し振りだな。
・・・目を開くとそこにはやはり先程の女性が頭を抱えているままだった。未だ俺の目には非現実が映るばかりである。
怖くなった俺は急いで部屋から出た。
「おかあさ〜ん!!部屋に変な奴いるんだけど!!」
引き篭もりの俺が初めて部屋を出た瞬間である。
〇
「今日は母さんいないんだっけか・・・」
家の中には俺以外の姿はなく、俺のSOSだけが虚しく響いていた。
いや、俺以外の姿は・・・ある。確実にある。
テレビをつけると、特に変わった様子もなく番組が放送されているし、外も異常は見当たらない。雲一つない晴天だ。
家の中をパッと見渡しても家具の種類や配置に違和感はない。ここは確実に『我が家』だ。
俺は恐る恐る自分が寝ていた部屋のドアを開けて、中を確認する。
すると女性が未だに頭を抱えてうずくまっている様子が見えた。
目を擦ったり、瞼をつねっても彼女の姿は消えない。
これは・・・現実なのだろうか。
でもこれだけ長い時間痛がっている少女を見ていると流石に心配になってくる。
これが夢であってもそうでなくても。
「おい・・・大丈夫か?」
「大丈夫です。あなたに心配される筋合いないので」
サラッと言いのけた彼女は何もなかったかのようにベッドに腰掛けた。
「てかいきなり押し退けるとか酷いですよ。普段全く話せないような美少女とお近づきになれて感謝してほしいくらいです」
「私お腹が空きました。ここに来るまで結構時間かかったようですし。何か食べる物はありませんか?」
俺が唖然としていると彼女はペラペラペラペラと饒舌ぶりを遺憾無く発揮していた。
「どうしました?引き篭もりのヒッキーさん。自分で食べ物を用意することもできなくなりましたか」
「るっせえな。てめぇ黙ってる側からぺちゃくちゃ喋りやがって。こちとら全然状況が掴めてねーんだよ。まず名を名乗れ。それから何処から来たのか、もだ。」
彼女は大袈裟にコホンと咳払いをしてから口を開いた。
「私の名前はピルマセンス・ハルです。何処から来たのか、という問いに答えるとするならば・・・なんでしょう。『異世界』とでもいうのでしょうか」
〇
改めて彼女の全身を眺めてみた。
黒いオーブのようなものを着ていて、コック帽?のようなものを頭にかぶっている。手に抱えている本は広辞苑のように分厚い。真っ白に透き通った肌、瞳は赤く、金髪のショートカット。筋の通った綺麗な鼻が力強さを感じさせる。若い女性であることは確かだ。俺の同年代って可能性も有り得る。
正直可愛いし、綺麗だ。
俺も17年間生きてきたが、このようなタイプの人間に遭遇したことがない。そもそも遭遇する機会が少ないのだが。
コスプレ、にしては出来すぎているような気もする。そもそもどうやって家に侵入したのか。疑問が多すぎる。
念のため、もう一度頬を つねってみたが現状に変化は訪れない。
「異世界?異世界ってアレか。よく引き篭もりとかニートが出向いてチート能力発揮して魔王倒してるヌルゲーの世界か」
「そうです!そうです!中世ヨーロッパの景観が広がるあの異世界です!理解が早くて助かります!」
「まだ理解してねーわ。まずは幾つか質問をさせてもらう。・・・お前が異世界から来たと仮定しよう。じゃあなんでまたこの世界に来たんだ?俺のベッドの上に来たんだ?目的はなんなんだよ」
「目的はただ一つです」
「それは――世界の滅亡です」
火曜、木曜、日曜の21時に1話ずつ更新
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