恋煩いと歌『1』
この前のメールの数日後、私は優香をカラオケに誘った。
理由は、気楽だったからだ。人がたくさん居る場所が苦手だったので、居酒屋でも個室みたいになっている方が落ち着く。
カラオケの部屋の中で、美空は、目の前で自分の作品が聴かれているのを直視できないでいた。
どんな反応をするのかドキドキして待っている間、優香の顔を直視する事ができない。横目でチラチラ様子をうかがう。感想を聞くまでの間でさえ、どんな感情を抱くのか気になって見ていたのに、よくなかった時の表情を見たくない気持ちがまさってしまっている。
作った作品自体、そこまで長い曲ではないのだが、待っている時間が長く感じる。手持ちぶさたになってしまい、部屋に来る前に持ってきていた飲み物を飲む。
カラオケ番組のテンションが高い声以外、ほとんど何も物音がしない。
デンモクで曲を探していると、渡したスマートフォンにささっているイヤフォンを外す気配を感じて、視線をあげた。
「……どう、だった?」
「すごいね。コレ、一音一音重ねていくんだよね。私にはできないから、尊敬する。…この曲、送ってもらってもいい?繰り返し聴きたい」
「うん、いいよ。今送る」
スマートフォンを操作してメールで曲を添付して送付する。届いたメールから添付ファイルからデータを登録している嬉しそうな表情を見て、とりあえずはよかったらしいと安心する。
感想を聞く時は何時だって、緊張する。
私の場合は、一人で制作しているから、自分一人の感性で作っていくけれど、相手に届かなければ意味がない。この部分は、こっちの方がいいかもしれないという判断も一人でやっていると、本当にコレでいいのかどうか、自問自答を繰り返しながらの作業をしていると不安に感じる事もある。
「どういう風に描いたの?」
「んー…歌詞は思い浮かんだ言葉と言葉が出てくるまで、画面とにらめっこしている。今回の歌詞は、まず、「嘘」について書きたいと思って、書いた。自分にとっての「嘘」は、広い意味で「本心ではない感情」「本心ではない行動」で…じゃあ、「僕」にとっての「本心」って何だろう?というところから書いた」
私は、ふっと遠い目をして言った。
「曲は、変な話、どこかで何か使えないかなってアンテナはっているから、バスに乗っている間のウィンカーの音、エンジン音のリズムとか、ラジオとかで流れている音を聴いたりして、あとは画面とにらめっこしている。イヤフォンつけて作業しているから、地味な作業です」
「そうなんだ」
「作曲の勉強自体、ネットで少しずつそういうものかと独学で、誰かに教えてもらった事もない。ドラムの勉強をしていたら、バス乗っている時にそんな事考えないだろうし、一般的な作り方じゃないよ」
「勉強はしないの?」
「興味はあるけど……もう少し考える」
「技術は大切だよ」
「ん、分かっている」
自分に何が足りないのかなんて、足りない部分だらけで自己把握ができていない。
全部で10だとするなら、7は足りない部分で、もはや、どこから手をつけていいのか整理するところまでいかないのが現状だ。
よく、「何かわからない事があったら聞いてね」と言われても、「分からない部分が分からない」のと同じだ。分からない部分がわかるというのは、分かっている部分があるから、分かっていない部分を認識する事が初めてできる。
「少し、歌詞の中の君が羨ましい。「僕」に想ってもらえていて」
そう言う優香に、私は苦笑を浮かべる。
「「僕」みたいに弱すぎる人間じゃなくても、優香には想ってくれる人がいるでしょ」
「それは……」
「あ、そうそう。また、納得できる作曲できたら送付してもいい?」
「うん、いいよ」
その続きの言葉をわざと聞かないように、言えばどこか寂しそうな表情を優香は浮かべている。
きっと聞いてしまったら、また、気持ちが揺らぐ予感がした。