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live  作者: 皐月 悠
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出会いと指輪『6』

優香はケースの蓋を閉めて、布団を敷いてもぐりこむ。


ペアの指輪を作ったのは、その指輪をあげようと考えていたからだった。

それが、シルバーの高価な指輪ではなくてビーズの指輪にしてしまったところが、自分でも私らしいと感じている。そんな高価な物をプレゼントしたら、迷惑かもしれないと頭の中をよぎったのもある。

私はいくら高価なものでも、自分にとって何も感じ取る事のできないモノなんて、欲しいとも思えない。冷たい印象しかいだけないモノなら、不器用でも心を感じ取る事のできるモノが何倍も価値があって、受け取った時に嬉しく感じる。

だから、あの時、美空が詞を書いていると聞いて、それが欲しくなった。

音楽に疎い私でも、すごい早さで曲が消耗品のように聞かれていくのを、ラジオやテレビから流れてくるのを聞いて恐ろしいと感じた。曲は発表した歌手が歌う歌い方だけが、正解じゃないと感じていた。

本当は、歌う人が10人いたら、10通りの歌があると素人の私は思う。

表現される個性はとても味わい深くて魅力的だ。

歌は、歌手だけの、一人だけのものじゃない。その曲を好きだと感じた人の曲でもあるように思える。たった一人だけのという所有物にするのは、できないからこそ欲しいと感じたのだろうと思う。

他のどんな高価な贈り物もきっと色あせて見えた。

その詞を書いた本人と同じように、手の届くところに置くのは難しい。難しいと自覚しているのに、気持ちが強まっていくのをとめることができずに、今に至っている。り物でも、きっと色あせて見えていたと思う。

「一番の自信作ができたら交換しよう」と言い出したのは、美空の方からだった。

本人は特に何も気にせずに、創作者同士だから作品の交換を言ったのだと思う。

結局のところ、それもできずじまいになってしまっている。

「……何か温かい飲み物でも飲もう」

夜、眠りにつく前にこの話題が頭に浮かぶと、どうしてもしばらく眠れない。そんな時は諦めて、温かい飲み物でも飲みながら、時計を見ずに眠くなるのをまった方がいい。

自分の部屋から台所に行き、ハーブティーのティーパックをコップに入れてのポットからお湯をいれる。

じんわり伝わる温かさを手で感じながら、飲むと癒される気がした。



美空はその頃、ノートパソコンを開いたまま固まっていた。

「……どうしよう」

画面上には音楽ファイルが曲名の五十音順に並んでいる。

「一番の自信作ができたら交換しよう」という優香との約束は忘れてはいなかった。

実際、完成度は別にして、彼女の事を想う気持ちで何曲でも描けた。

最初の頃は、ワンフレーズだけいきなり頭の中に浮かんで、作曲できないから諦めようと思うのに、続きが気になって仕方がなくなって、気が付いたら初心者用のネット記事で作曲関連を読みながら、フリーソフトをイジっている自分がいた。

それからは、詞を書きながら、間奏や繰り返し部分という大まかな部分の骨組みを、詞を書きながら考えて、自然な言葉の音の高低と作りたい和音の雰囲気で考えてみたりした。

どうして聞こえてくるときは、お風呂とか洗濯とか水回りの家事をこなしている時になって、すぐに記録できない時なのか。そして、昼間はなんとなく集中する事ができなくて、夜の時間にはかどるのだろう。

全部が全部ラブソングだし、曲作りにこだわれる技術力はないので、シンプルな作りの曲になったと思う。

夜の時間に書くラブソングの詞……これ、本人に見せたらひかれる事決定だよね。

本人に直接言えないなと思う、ある意味情熱的な言葉の塊なんて、本人にだけは見せたくない。

とりあえず、詞を書きためているWordのファイルを開いて、どれが見せられるのだろうかと視線をはしらせて判定していたところで、さっきの「どうしよう」にもどる。

もう過去の自分が、優香の作品が欲しいからと交換条件を出した事を、今になって取り消したい気持ちでいっぱいになる。

「うー…」

美空はその中でも綺麗に作曲する事ができたと思う曲を選び、スマートフォンの中に入っている選んだファイルをメールに添付して保存した。


三人ともそれぞれの理由で寝付くことができずに、眠りにつく頃には日付が変わっていた。

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