出会いと指輪『3』
一日の授業は終わり、大学から自宅に帰宅する頃になってメールを確認する。
一件メールが受信されていて、メールを開くと「今度お茶でもしましょう」と書かれていた。校門まで向かう道を歩きながら、なんて返そうかしばらく考えていたが、直接帰りに寄った方が早いかもしれないと思いなおして、上着のポケットの中にスマートフォンをしまいこむ。隣を歩く美空も何か確認するとスマートフォンをポケットの中にしまった。
「……もう今日は暇?」
「今日は、午前中で終わりだけど…帰りにちょっとよる予定」
「ふーん、私も一緒に行っていい?」
「いいけど…部活は?」
「んー…今日はまだ行かなくても平気。文化祭前はさすがに無理だけど」
「そっか」
一人で行くよりも、二人の方が変に緊張する事もなくていいかもしれない。そう思いなおして、最寄り駅近くの露店に向かった。
「早いね、もう帰り?」
露店につくと、彼女は驚いた表情を浮かべている。
「今日は、午前中だけの授業なので」
「ふーん、大学ってそういう感じだったっけ?昔で思い出せない」
「昔って、そんなに昔じゃなさそうなのに…」
「えーっと…何歳ぐらい見えているの?」
「同年代くらい」
「……たぶん、それよりもずっと上。この人、10歳は年上」
「美空は、知り合いなの?」
「知り合いと言えば、知り合いかな?」
「知り合いっていう言葉の響きが冷たい」
「じゃあ、ただの先輩」
「ただのじゃない先輩っているの?」
「「……」」
なんだろう。
二人そろって反応が純粋だといえば、聞こえがいいけど、もう少しうまくかわす事はできないものなのだろうか。
2人そろって何か言おうとして何も言えていないのを見ながら、微妙なひっかかりなら、気にしないで、そのままスルーしとけばよかったと後悔する。
美空と一緒にいるとあまり気にしなくていいと思えるほど、気を許せているから、つい思ったままの言葉が口から出てきてしまった。他人なら、まだ少しは考えて言っているのに。
「ごめん、少し気になって」
「んー…なんだろうね、すぐに言葉が出てこないけど、えーと、今は友達だよね」
「そうだね」
「……」
私は、思っていたよりも、敏感に察してしまう部類に入るのかもしれないと感じた。
「今日のノルマは達成したから、そこでお茶しませんか?」
視線の先には、大手のチェーン展開している喫茶店がある。手ごろな値段で軽食と一緒に楽しめるようになっている喫茶店だった。
「今は友達」という言葉からこみあげてくる嫌な苦いものを体の奥におしこめて、気持ちをきりかえて笑顔を浮かべる。
「…はい、夕方までならあいています」
「よかった♪さっきメールで言おうか迷ったけど、いくらなんでも怖がられるかもしれないと思って書けなくて」
「そんな事ないですよ」
露店の片付けを手伝いながら、自分の感情を冷静に見つめなおしていた。
自分の感情を分析するようになっていったのは、何時の頃だったのだろうか。
私が女性を好きだと自分で自覚した時、ただそこにその事実が転がっているのを淡々と認めていた。認めていたというのも違う。それ以上、この感情には向き合わないように気を付けて鈍感なふりをして、逃げて何も行動しなかった。
鈍感なふりをしていても、一目ぼれをしてしまうと思っているよりも積極的に行動するという事を、私は、自分にもそういう面があるのだという事を初めて知った。
「じゃ、行こう」
美空の様子を見ながら、まだ好きなのだろうなと感じながらも、口に出して言わないのだから、美空が悪いと意地の悪い自分が囁いた。