想い人と首飾り『1』
『3』想い人と首飾り
優香は自室でメールを送った後、口元にわずかな嘲笑を浮かべた。
一体、何をしているのだろうと感じるのは、自分は何を期待してあの文面にしてしまったのだろうか。期待したところで、そんな事はないと返信してくるとわずかにでも感じてしまっている自分に呆れてしまう。
すぐに返信がくる事はないだろう。返信をどうするのか考えたまま、明日以降のなんでもない時にふらっと届きそうな気がする。視界の中に入らないところに携帯電話を置きたくて、そのまま上着のポケットの中にしまう。
「……シャワー浴びよ」
着替えを持ち、浴室に向かう。着替えて風呂場の扉を閉め、熱めの温度に設定したシャワーを浴びる。
肌に伝って落ちる熱い感覚が、心地いい。手早く洗ってから浴室から出ると冷えた空気に肌が冷やされてさっぱりした感覚に頭がすっきりと覚めてくる。洗面台にかけた時計に視線を向けながら、体をふいて着替える。
早めに眠りにつくには丁度いい時間になっていた。
「今から覚めても…」
明日からまた仕事が始まる事を考えると早めに寝た方がいい。理屈では分かっているのに、頭と身体は裏腹に「おはよう」と言っているくらいに、寝る気になれない。そうなってしまうのはいつもの事だが、困った事に仕事のある日にも同じようになってしまい、結果、少しの寝不足になってしまう。
リビングに戻ってくると、野菜室を開け、瓶などが置けるスペースに置いてある『眠り薬』のように飲むアルコールをコップに少したらし、お湯で薄めた。シャワーで温まった体が、アルコールでさらにほどよく温まってくるのを感じる。
野菜室にアルコールの瓶を再び置くようになって、数か月になる。それ以前は、一応置かないように気を付けていた。周囲には酔っている気配を感じないと言われるが、実際は、飲むと酔っていない時に比べて、考えた事がそのまま口をついて出てしまう。
それがかえって話やすくていいと言う人もいるけれど、危ないなと理性が言っている。それこそ、少女漫画に出てくるような相手が言っている言葉が、気を付けていないと口から出ていこうとする。だから、そんな心配をしないで済む家で飲んでいる時が一番気楽に飲めてしまう。
「ふぁ」
欠伸が出てきて、眠気が静かに体におりてくる。半分起きていない頭のまま、寝る支度を済ませて、布団を敷いて、のそのそ布団にもぐりこむ。
眠りにつくまでの間、過去の事を思い出していた。
一年前のバレンタインデーの日、キスをしてしまったのはお互いからだった。
受け取ってもらえた事で、それまで緊張していたのが安心して気がぬけてしまっていたから、あの時、柔らかい感触を唇に感じて、気が付けばキスをしていた。
美空の顔が離れるまでの間、何も反応する事ができずにいた。笑いながら、美空は肩に頭をあずけてきたところで、固まっていた思考も再び動き出す事ができた。
「……っていう事は、つまり?」
「私と、付き合ってください」
「……はい」
返事をしながら、意味をもった言葉として聞こえてくるまでに、さらに数秒かかってしまったのを覚えている。自覚した後に、心臓が反応してドキドキしてしながら、そっと背中に手をまわした。思っていたよりも小柄で、すっぽりと腕の中におさまってしまう。
首筋にかかる柔らかい髪の感触がくすぐったく感じていた。
この頃は、「距離を置こう」と言うようになるとは思ってもみなかった。
それから何回かデートをかさねていった。
そんな、あの日の夜、美空が自宅に泊まりに来た。
そういうつもりは、ないつもりでいた。
ただ、長く過ごしたいと思っての提案だった。
そんなつもりが完全になかったのかと言えば、嘘になってしまう。
夕飯を食べ終わって、ふざけていて、ふいに手が手に触れて、包み込むように握る。
美空の顔が近づき、吐息を感じた。
そして、唇を奪われるのと同時に、なけなしにのこった理性も奪われてしまった。




