恋煩いと歌『3』
誰かと訪れるカラオケでの歌は、会話だと思う。
会話のない空間なんて言う人もいるけど、曲の合間、歌のタイトルや歌詞で選曲して歌っていくカラオケは、プロのようにはならなくても意図を考えて選曲してしまう。そんな事を考えながらカラオケをしてしまうのは、お金がもらえなくても作る側に立っている人間だから感じる事のできる事なのか、そんな風にカラオケで歌っている友人がいるから感じられるのかもしれない。
「なんか、あの部屋…ライブ聴いているみたい」
「二人ともうまい」
ちょうど二人とも予約していない合間に、そんな事を言いながら通り過ぎていく制服姿の学生が見えて、照れて気まずい雰囲気が流れる。
「上手いって」
「……嬉しい、かな。美空は歌う方でもいけるんじゃないの?」
「それは、客観的に言うとさ無理だよ」
こういう時、冷静に見つめる冷めた自分が憎いと感じる事もある。求められているスキルには、どうすればたどり着けるのか、極端な話、自分がわがままなくらいの自分の時間がもてる間にゴールまでいけるのか分からない。分からないから、作る事ならまだ歌うより可能性は高いのではないかと思った。
「んー…でも、どれにしても、お金もらうのは大変だけどさ」
時々、冷静な第三者的な視線で、自分の判断があっているのかどうか分からなくなる。
親に相談しようものなら、「どちらにしても食べていけないのなら、お金をもらえなくても趣味で、それこそ老後などの時間のできた時にしたらどう?」という似た内容の言葉しか返ってこない。それでも、と言い募るものなら、不機嫌になり「働きなさい」と言う。
言い返す事もできずにいるのは、言われている事が正論なのは理解しているからだ。
可能性について質問したはずなのに、欲しい回答は得る事ができないのも不満で、そんな些細な事が積み重なってきていて、家に居るのが息苦しい。
こんな時、あの友人なら「んー…どうせ、30代になると、祖父母の介護とか家族のことを考えないといけなくなってくるし、思う存分する事はできなくなる。自分のやりたい事をやりたいようにできる資金がなんとかなるなら若いうちに続けていくといいよ。」なんて苦笑を浮かべる姿が浮かぶ。まだ、数年しか年齢なんて違わないのに、なぜそんな事をいうのか私には理解しにくい。
「そういえば、優香はルカと会っているの?」
「あまり会ってないけど、時々、職場の喫茶店に遊びには行っているよ」
「あの人って、謎、だよね」
「謎?」
「いい意味でも悪い意味でも、大人に見えない。なのに、言っている事は的をえている事が多くて、言葉づかいでも気を付けていないかぎり、人の心を図星すぎて傷つけしすぎてしまうというか……でも、だからこそ、頼りしたくなるような謎な人」
そう言うと、優香はぷっと噴き出して笑っている。
「おかしい?」
「あ、ううん、あれで本人単純な性格だと思っているし、「俺のどこを見て、何が謎なの?」って返してくる姿が思わず浮かんじゃってさ」
「うん、あの人はそう言うよね」
あの人というは、喫茶店で勤務している新山ルカという友人の事だ。
まず、年齢差というものをいい意味で感じさせない親しさを感じさせている。
時々、喫茶店に遊びに行くといつも飄々としていて、無意味な肩の力なんて入っていない接客をしている。あれで、人見知りで、外出する用事がないかぎり人のたくさんいる場所には出かけない引きこもり、多趣味で知識が多い謎な人物だ。
「あの人、夏美さんの路上ライブに遊びに出かけていた頃、「翼をください」とか一緒に歌う場面で歌ったこともあって、夏美さんがカラオケ行った時に表現力のある味のある歌い方だってお世辞じゃなくてうまいと思って褒めても、お世辞だと感じている部分もあるような……自分に自信がないのは、私たちと同じだね」
「……そうだね」
その部分に関しては、共感できる。作品を作る時も自己否定と自己肯定の葛藤がいつもあって、少しの刺激でバランスが崩れてしまうから、そのバランスをとるのに必死になっていて、不安定だ。
「ね、この後、幸来さんを呼んで、カラオケの後に喫茶店行ってみない?」
「うん、いいよ」
LINEの機能を呼び出して、メールを送るとすぐに返信がきた。用事をすませているから、数時間後なら合流する事ができるという内容だったので、カラオケが終わった後に喫茶店に向かう事になった。
お読みいただきありがとうございます。
今月中は、なるべく書けたら更新していく予定でいます。
来月中旬までに、全部書き上げられたらいいな…と思っています。
よろしければ、最後までお読みいただければ幸いです。




