出会いと指輪『1』
私は何時からか、冷めていると言われることが多かった。自覚としてはそんなに冷めているとは思えないけど、周囲の大人たちは「やっぱり、さとり世代だね」なんて言う。
周囲には情報が溢れていて、知りたいことはキーワード入れて検索すれば大手検索サイトが先生のように答えをだしてくれる。デメリットやメリットはすぐに調べることができて、比較する事は簡単で、十代の頃からそれが当たり前になっていた。デメリットを知らなければ、もっと私は積極的に行動をする事ができたのかなと感じる事がある。
私がいつもの通学路で、いつものビーズアクセサリーの露店に足をとめたのは、偶然だった。
「…それ、気になる?」
露店主の女性は、柔らかい笑みを浮かべている。視線の先にあるアクセサリーを手にとり、私に手渡してくれた。
「ありがとうございます」
手に取ってみると、目で見るよりも、感触で細かい飾りが施されているのを実感する。ビーズの指輪でシンプルなデザインなのに、どことなく線が細くて綺麗でデザインの事を何も知らない私でも、思わず見とれてしまうほどだった。
「気にいった?」
嬉しそうに目を細めて笑う店主は、飼い主に尻尾をふる子犬みたいに可愛らしくて、つられて笑みを浮かべる。
「はい」
「そ、じゃあ…あげる」
悪い人には見えないけれど、どういう意図があるんだろうと困惑していると彼女は苦笑を浮かべた。
「そんなに警戒しないでよ。自分の作品は可愛がってくれる人にもらってほしいっていう作家の親心だから」
「そういうもの?」
「そういうものです」
笑みを浮かべた彼女を見て、そういうものなのかとその場で納得してしまう。純粋な瞳をしていて騙すような雰囲気を感じさせないところがそう思わせたのかもしれない。
ゆるふわセミロングの茶髪と同じ色の瞳、柔らかいイメージのカーディガンを羽織っている彼女は綺麗に見え、心臓がドキッと反応する。
「?」
「…なんでもないです」
なぜこの人は、子供のような表情を浮かべていても、わざとらしさを感じさせないのだろう。
神様は不公平だ。
心の動揺を隠すように、彼女から視線をそらす。
「あ、あの!」
「うん」
「LINE、教えてください」
こんなどう見てもナンパに思えるような事をしたのも、動揺していたからだ。
「んー…ごめん、LINEやってないんだ」
そう言って渡されたのは、携帯のメールアドレスだった。
苦笑を浮かべて申し訳なさそうな表情を浮かべているのに、嫌がられてはいないと思って安心している自分がいる。
自分の良いように解釈して、勝手に安心するなんて楽観主義にもほどがあると冷静な自分が囁く。
「ここに書いてあるから」
手渡した名刺の連絡先を指さした。
大学についてから、意味もなく指輪を触る。テグスで作られた指輪は、金属よりも固くはなく、冷たさも感じない。淡いピンクが基調になっているデザインで、普段は選ぶ事もしない色なのにあの時気になってしまった。
「ふーん、珍しいね」
「美空、びっくりするから、後ろから話しかけないでよ」
「あ、ごめんごめん」
「全然気持ちがこもってない」
「それよりさ、それって駅前の露店で売っている指輪だよね」
「なんで分かるの?」
「通学途中で視界に入るから」
「興味あるんだ。興味なかったら、記憶に残らないよね。美空の場合」
「うん」
迷いもなく頷く美空と講義のある教室まで並んで歩き出す。
「美空はさ、会ったばかりの人と自分から連絡先を教えてもらった事ある?」
自分の気持ちに素直な未来は、相談した時にごまかしがなくて信頼できる友人の一人だ。
隣を歩く未来は、即答する。
「ない。人見知りの私がそんなのするわけないじゃん」
「ですよね」
「だけど、掴みたいなら交換する。「チャンスは掴まえろ、自分から動かないと何も変わらない。待っているだけなんてもったいない」って友人が言っていたから」
「……強そうな人だね、その人」
「いや、弱いよ。すぐ逃げようとするから」
「それでもやっぱり、強いよ」
今まで自分の恋愛において、理解したふりをして諦めたふりをしてきた私とは違う。
「後悔だけはしたくないって気持ちだけらしいけど」
「そうなんだ」
どう過ごしてくれば、そんな風に思えるようになるんだろう。
不定期の投稿になります。
気にいってもらえたら、最後まで読んでもらえると嬉しいです。