オロチ襲来
4月淡路島ミハシラ機関研究所医務室
「ん…あれ…どこだここ」
俺が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。
無機質で生活感のない真っ白い部屋。
「鉄矢ちゃん大丈夫?」
姫乃の声が聞こえ、そして体を起こそうとすると左腕に痛みが走った。
そちらに目をやると点滴の針が左腕に刺さっていた。
それになんだか頭もズキズキ痛む
「いたた、俺なんで点滴なんかうけてるんだっけ?」
俺の声に反応したのか姫乃が心配そうに言った
「鉄矢ちゃん、何があったか覚えてないの?」
実際目が覚めたばかりのせいもあって、どうも記憶がハッキリしないだが……。
俺の様子を見てとったのか姫乃が状況を説明してくれた。
「ここはお父さんたちの研究所の医務室。
で、私たちはシミュレーターでロボットに乗る訓練してて、
その時鉄矢ちゃんが意識を失っちゃったんだよ」
「あ、ああ、そうだったっけ、思い出したぜ。」
確かスサノオと父さんたちが呼んでいる形態のロボットで
荒脛巾と呼ばれている空飛ぶ土偶と戦うシミュレーションをしていたはずなんだが。
なんで俺は意識を失ったのかがよくわからん。
そんなことを話していたら、ドアが開いて美貴姉さんが部屋に入ってきた。
「鉄矢くん、体の具合はどう?」
俺はズキズキする頭に手を当てて答えた。
「なんかすごい頭が痛いんだけど」
美貴姉さんはやっぱりといったようにうなずいて答えた。
「それは脳の処理能力に対しての過負荷と
脳のエネルギー源である糖分を急激に消費した結果よ。
ある意味本当の戦闘中でなくてよかったわ
点滴でブドウ糖の補給をしたから心配はないと思うけど……」
俺は苦笑いして答えた。
「相変わらず言ってるよくわからないんだけど?」
美貴姉さんは俺の言葉に少し考えたあと
「そうね、じゃあもう少し簡単に説明しましょうか。
サンキシンの操縦は基本脳波感応制御なのでパイロットも
思考に応じて機体は行動します。
極端なことを言えばレバーを操作する必要はないのだけど、
レバーを押したりスイッチを押したりすると
操縦者がイメージをしやすくなるから
モーションインターフェイスをサブシステムとして組み込んであるわ。
で、人間の筋肉はブドウ糖よりも脂肪を通常使う
エネルギーとして多く用いているのだけど
脳と赤血球は基本的にブドウ糖しかエネルギー源にできません
そしてサンキシンのメインパイロットは情報処理や情報伝達で脳を酷使します」
「つまり頭を使いすぎてぶっ倒れたっていうことか?」
それはそれでなんか情けないはなしだ
「そういうことなの、サンキシンがなぜ合体型の
ロボットなのかという理由の一つはそれなのよ。」
つまり、サンキシンを使って何かを創りだすというのは脳にひどく負担がかかるし一人だけではそれなりの時間の戦闘に使えないということらしい。
「もちろん、ある程度は慣れることでなんとかなる部分もあるのだけどね
魔術であれ超能力であれ代償は無ではないってことなの」
「うん、どっちかというとすごい不便な能力にしか思えないけどな」
「でも仕方ないわ、あいつらに対抗できるのは日本ではサンキシンだけだもの」
そう言って顔を曇らせる美貴姉さん
「ああ、そうだな、次のやつがいつ来るかわからないし、寝てる場合じゃないか」
俺のその言葉に美貴姉さんはくびをふった。
「今日はもう帰ったゆっくり休んだほうがいいわ。
無理して体を壊したら元も子もないしね」
ちょうど点滴の液もなくなったようだしタイミング的には良かったのだろう。
「あ、それから……」
美貴姉さんが胸元から名刺大のプラスチックのカードをだして俺と姫乃に手渡した。
「ここの研究所のIDカードよ。
前回は私と一緒だったから入れたけど、普通の人間はサンキシンの研究領域に
無断で立ち入ることはできないからね。
あとは、パイロットとしての報酬が多少入ってるけど無駄遣いはしないでね」
「いや、無駄遣いはしないけど、いくらぐらい入ってるんだこれ」
俺のその質問に美貴姉さんはニッコリと無言で答えた。
本当に大したことないかビックルするぐらいに大金が入っているかのどっちかなんだろう
姫乃は律儀にあまたを下げてるけどな
「ありがとうございます。
それじゃあ鉄矢ちゃん家に帰ろう、ところでお腹は空いてる?」
「点滴だけじゃ腹はふくれないしな、腹はペコペコだよ」
「じゃあ、スーパーでなにか買って帰ろうか」
「ああ、そうしてくれると助かる」
「今日は何しようか?」
「んーたまにはシチューとかどうかな」
「うん、じゃあ、今日はシチューだね」
そんなことを言いながら俺たちは家に帰ったのだった。
・・・
4月淡路島ミハシラ機関研究所解析室
ここは研究所の解析室。
ここへ持ち込まれたのは先日の戦闘で撃破された荒脛巾の残骸の一部。
複数台のワークステーションマシンが設置されているそこでは、
残骸の成分などのデータの分析と解析が行われていた。
「それで、賢治さん、解析の結果として何か分かったのですか?」
天照院美貴が須王賢治、鉄矢の父親に聞いていた。
天照院はこの研究所の大口のスポンサーでもある。
「ええ、この鉱物を構成しているもので高度な柔軟性や
伸縮性をを持つ部分はケイ素と燐、
硬い部分の多くはゲルマニウムとヒ素で出来ています。
そして構成している元素の違いはありますが、
その構成レコードにおける信号の形態は99.89%我々人間と
ホモ・サピエンスと同一ですね。」
「つまり……」
「人間とネアンデルタール人の遺伝子の同一部分が99.8%
チンパンジーが99%、マウスが97%、イヌが94%ですが…
少なくとも荒脛巾はネアンデルタール人よりも遺伝子的には人間に近い
珪素生物であると考えられますね」
「これが……人間?」
「外見的に似たように見えなくても遺伝子的にほぼ同じ生物というのは犬を見れば
理解できると思いますが?」
「そう言われればそうですけど…」
「1万2千年前にも同じであったかはわかりません。
人間がその時間の間に退化しそして進化しなおしたように
彼らも地下世界で独自に進化したものと考えられますね。
そして進化の度合いだけで言えば彼らの技術というのは
鉱物と生命を融合させたもので我々よりも数段先に進んでいるでしょうね」
「勝てるのですか、我々は」
「勝てなければ滅びます。
彼らが地上の覇権を握り、私たちは皆殺しといったところでしょうね」
美貴がギリッと歯をきしらせていった
「そんなことはさせません」
その時研究所内に非常サイレンが響き渡った。
「行きましょう、司令」
「うむ、総員に非常招集を。」
4月淡路島ミハシラ機関研究所戦闘司令室
西日本へ向かって飛来する巨大な飛行物体がレーダーに映る。
『総員第一種戦闘配置!東日本方面より敵性体飛行物体が接近中です。
総員は所定の位置についてください。』
オペレーターの一人が叫ぶ
「敵性飛行物体はこちらに真っ直ぐ進路を取っています、」
「ふむ、予想より早かったな、各パイロットはどうなってる?」
「全員先程到着しました、現在サンキシンは起動準備中です」
「なんとか間に合いそうだな」
航空自衛隊の防空戦力が壊滅している今、時間を稼ぐことすら難しい。
故にパイロットの安全確保と、本部への移動を確実に行う必要がある。
学校をやめさせて研究所に完全に詰めさせればそんな心配はないが……
研究所格納庫
俺と姫乃は学校に迎えに来た車にのって研究所へきていた。
車を降りてIDカードを見せて施設内に入ると格納庫へまっすぐ向かった。
そして俺達が到着した時には他の二人は先にきていた。
「揃ったわね。いくわよみんな。」
美貴姉さんの声にみな頷くとそれぞれの機体に飛び乗った。
「陽光号、でれるわよ」
「月光号、発進準備完了」
「海皇号、行けるぜ!」
父さんが腕を振り上げて指示をくだした。
『三貴神発進!』
『了解、三貴神、射出シークエンス開始。
重力カタパルトコンデションオールグリーン。
進路確保。三貴神、射出します。』
カタパルトに載せられた俺達の機体は研究所の外の空へ俺たちの乗る戦闘機は射出された。
オートパイロットでしばらく飛ぶと遠くに巨大な空飛ぶ船が見えてきた。
そして船から人型の機体が射出され、その間に船はゆっくり後退していった。
「あの船を先に落とすか?」
俺は他の二人に聞いた。
『いえ、先に地上に降りた人型に対処しましょう。』
『了解』
「了解、で、誰でいくんだ?」
敵との相対距離は2000、スサノオは接近戦主体だからこの距離では戦いづらい。
無論稲妻を飛ばせば対処できないことはないが……
それは阿修羅のように4対8本の腕をもった太古の戦士だった。
その姿は巨大な埴輪を思い浮かばせる。
全長は50mくらい、腕を組みこちらの様子を眺めているようだった。
『あっちはスサノオと同じ近接戦闘タイプみたいね、
ここは私のアマテラスで距離をとって戦いましょう』
美貴姉さんが自信ありげにそういってきた。
確かに無駄に接近するよりここは任せるのが正解かもしれない。
『了解』
「了解」
『いくわよ!神核!合神!現れいでよアマテラス!』
その言葉とともに陽光号・月光号・海皇号が不思議な光りに包まれると変形し陽光号が上半身・月光号が胴体・海皇号が脚となって巨大な女性的なフォルムのロボットへ変形した。
『喰らいなさい、陽光弓!』
ぎりりと極限まで引き絞られた夕日色に光り輝く弓から矢がオロチ向けて放たれそれは狙い違わず敵へ向かっていった……が。
”ズバッ”
敵の剣が高速で振り払われると矢を切り払って叩き落とした。
『なかなかやるわね……ならば!』
アマテラスの背に1000本の矢を、両脇に500本ずつの矢を模したミサイルが現れ……
『これでも喰らいなさい一斉発射』
次々に矢が飛び出すとそれは敵に向け飛んでゆき爆発していった
『これで倒れない敵なんか…』
美貴姉さんがそう言おうとした途端黒煙を切り裂き、飛来する矢をそらして敵がこちらに飛び込んできて剣を叩きつけてきた、そしてそれが直撃してアマテラスは吹き飛んだ。
『うわぁ』
『なにっ』
「ぐわあっ」
「きゃああっ」
そして地面に激突する。
謎のイナーシャルキャンセラーがなければたたきつけられて衝撃で偉いことになっていただろう。
機体を起こして地上で敵と対峙すると
『ふん、つまらん、さっと出てこいスサノオ』
そう敵がこちらへ言ってきた。
「どうするんだ?美貴姉さん、朧姉さん」
『どうやらあいつに遠距離攻撃は効きづらいみたいね』
『ここは鉄矢、君の出番だ』
俺はその言葉にうなずいた
「よし、いくぜ!」
『分神!』
「いっくぜぇ!神核!合神!現れいでよスサノオ!」
海皇号・陽光号・月光号が不思議な光りに包まれると変形し海皇号が上半身・陽光号が胴体・月光号が脚となって巨大な男性的なフォルムのロボットへ変形した。
「来い!十束の剣!」
俺が剣を握るイメージを浮かべるとスサノオの拳10個分の刀身を持つ剣が現れた。
『来たな、スサノオ、俺はオロチ、1万2千年前に貴様に倒された
ヤマタノオロチよ!俺がこの時をどれほど待ったことか』
「ふん、どうせすぐにおさらばすることになるぜ!」
『そうはいかん、ここでお前を倒してお前を俺の嫁にする!』
「はぁ?!意味がわからん!」
『1万2千年前のあの日お前に俺は心奪われた、
そしてこの時が来るのをひたすら待っていたのだ』
「まてまてまて、俺は男だ!」
『問題ない、創造神は女性であって表向き女性的な姿をしているか
男性的な姿をしているかの違いに過ぎん。』
「そういう意味じゃねー」
その時スサノヲ俺のシートの後ろから、瘴気のような、妖気のような、陰気なような何かがゆっくりと揺らめきながら流れてきた。
「黙って聞いていれば勝手なことばかり……。
私の姉を7人食い殺しておいて、よくもそんなことを言えたものですねぇ……。」
やべぇ、姫乃がとっても怒っていらっしゃる、懐かし言い方で言えば激おこぷんぷん丸だ。
一方、戦闘司令室では
『スサノオのパワーが上昇しています!』
『荒神化したか……』
スサノオに黒いオーラがまとわりつき、目が赤く光る。
『遅い!捕らえよ、蛇頭』
奴がそう叫ぶと股間から9本の蛇が触手のように伸びて2本が右腕に2本が左腕に
2本が右足に2本が左足に、そして一本が首に巻き付いた。
「ちいぃ、なんじゃこりゃぁ。」
『ちょっと、セクハラよぉ!』
美貴姉さんそんなこと言ってる場合じゃないぜ
「とはいっても、男形のロボットが男形のロボットに触手攻撃とか
まったくもって誰得だよな……」
そして触手はググッっとスサノヲを上へ持ち上げると、勢いつけてスサノオ地面へ叩きつけた。
「ぐああっ」
『ああっ』
『くぅっ』
この野郎変態だが強い……
「鉄矢ちゃん、このロボットに向けて稲妻を打つことってできそう?」
「自分を雷で打つ?そうかやってみる!」
頭のなかで稲妻が落ちて来てスサノヲが稲妻をまとうイメージをする
「よし、いくぜぇぇぇぇ、雷神化身!。」
空が曇るとゴロゴロという雷鳴が走り、稲妻がスサノオに降りてきた
バチバチと音を立ててスサノオに莫大なエネルギーが流れ込んできた。
「ヌゥアアアアアアアアアアアアアアア!」
そして、全身の力を最大源に振り絞り絡みついていた触手を引きちぎって束縛から逃れる。
『なにぃ?!』
オロチの野郎が驚いてるようだが日本最古の戦闘神を舐めるんじゃないぜ。
『ならば剣で…』
と奴が剣を構えつつ、再度触手を俺の首めがけて伸ばしてきた。
『そうそう食らうか!』
俺は右手と右足を前に出すナンバの構えをとって、全身の力をぬくと前方へ引力に任せて体を落とし身体が落ちきる前に左足ので地面をけり、更に右足もけりぬくことで、低い姿勢のまま一気に距離を詰め……
「はあっ!」
下から上に剣を切り上げる
『ちっ!』
オロチが剣を剣で受け止めたところで
「ぬうりゃ!」
と奴の股間を全力で蹴り上げた。
『ぎあああ!』
バキバキと奴の9つの蛇頭ごと股間をけり砕くとやつから苦悶の声が上がり……
「ぬおりゃぁ!」
と続けて右拳で奴の顔をぶん殴って吹き飛ばした。
「止めだ!」
俺は十束の剣を天に掲げ、勅を唱える
「天叢雲にわが神武の証を天に奉る。我のもとにいでよ!」
雲の切れ間より雷と見まごう白き光とともに赤くまばゆく光り輝く剣が現れた。
俺はそれを手に取り大きく振りかぶる。
「天津国津にかかわらずを神を滅する神鋼剣……
天羽々斬剣!喰らえぇ!」
そして敵めがけて振り下ろすと赤い光が伸び、それはオロチを捕らえ、真っ二つに切り裂き、更に大地もをえぐったのだった。
『ば、ばかなっ……俺が……この俺がぁぁ!』
その叫びとともにオロチは大爆発をおこし、あとにはなにも残らなかった。
「やったぜ……」
俺は大きく息を吐いてパイロットシートに身を埋めた。
「やったね、鉄矢ちゃん」
「ああ、なんとか勝ったな、姫乃のおかげだよ」
姫乃の怒りも溶けたようでよかったよかった。
そんなことを言っていたら美貴姉さんから通信が入った
『じゃあ、分離して帰るわよ』
『了解』
「了解、早く帰ってシャワー浴びたいぜ。」
北海道某所
?「ふん、オロチがやられたようだな…」
?「所詮は脳筋…」
?「だが笑ってばかりも居られまい、次は誰がいく?」
ナクサ「次は私が行きましょう」