番外編 バレンタインラプソティ
2017年2月14日淡路島
”ジリリリリリリリリリリ……”
遠くで目覚まし時計が鳴っている音がする。
だがもう少し、そうあと5分でいいから寝ていたい。
こういう寒い季節はオフトゥンの魔力やばい。
「鉄也、いいい加減起きーな、遅刻するで。」
これは……母さんの声か、どうやらのんびり眠ってるわけにはいないらしい。
「わかったよ母さん、今起きるから。」
寝ぼけ眼で俺はベッドの上で体を起こし、声の主に目を向けると、そこに立っていたのはやっぱり母さんだった。
「おはようや、鉄也」
ニコニコと微笑んだ母さんがいた。
「あ、母さん、ごめん……今起きるよ。」
母さんが戻ってきたあと、荒脛巾の軍は出なくなったことで俺は普通の学生生活に戻った。
「ほな早よ着替えて降りてきいや、朝ごはんできとるで。」
そういって母さんは俺の部屋から出て行った。
おれはあくびを一つするとベットから降りて冬服のブレザーに着替え下に降りていった。
今日はバレンタインデーでなおかつ平日だ。
どうせ姫乃と伊奈さんくらいしかもらえる当はないからちと憂鬱だぜ。
土日とか祝日ならモテるやつがチョコレートを貰ってる光景を見なくてすむんだけどな。
さて、俺は洗面所で歯を磨き顔を洗ってダイニングに向かう。
キッチンでは母さんが料理をしているし、父さんはテーブルの席につきながらいつものように新聞を読んでいるふりをしている、いつもの光景ってやつだな。
だけど、珍しく今日は姫乃も戸部もいないな、一体どうしたんだ?。
「ほい、おまたせや」
母さんが焼きあがった目玉焼きとウインナーを載せた皿をテーブルに運んでのせた。
トースターからトーストされた食パンが飛び出し、サニーレタスとプチトマトと輪切り胡瓜のサウザンドレッシングがかかった野菜サラダとオレンジジュースがすでにおいてあった。
俺は椅子を引いてテーブルに座ると父さんと母さんと、目を合わせて両手を合わせる。
「頂きます。」
「頂きます。」
「頂きます。」
目玉焼きに醤油をちょろっとかけて、フォークですくい、それを口に入れる。
ソースとかケチャップじゃなく日本人なら目玉焼きには醤油だよな。
「ああ、おふくろの味ってやつだなぁ、安心と言うかなんいか満たされるよな」
美味いとかまずいじゃなくて慣れしたんだ味というのは本当に安心するよな。
「あたりまえや、ちゃっちゃとたべや」
ああ、本当に家族揃って食事を食べられる言うのは本当にいいことだよな。
朝食を食べ終わると母さんは食器を軽く洗って食器洗浄機に皿などをセットして、洗浄機の蓋を閉めると洗浄機をスタートさせた。
「ほら、そろそろ学校に行きや。
遅刻するで。」
「おっと、じゃあいくか。」
「あ、鉄也、これ受け取っとき」
母さんがくれたのは買ったまま包装もしてない板チョコと弁当だった。
「母の愛っちゅうやつや」
俺は素直に其れを受け取った。
ぶっちゃけ甘いものは好きだ。
「ん、ありがとな、母さん」
まあ、父さんにはちゃんとしたやつを送るのかもしれないが、手抜き感半端ないぞ。
余り物かな?これ、いやもらえるだけありがたいけどな。
俺は家を出ると学校に向かった、コンビニでもスーパーでもとにかくチョコレートを売り出そうとしてる感がすごいよな、やっぱバレンタインって製菓会社の陰謀なんじゃねーか?。
そして俺が学校へ向かっていると真っ赤なフェラーリFFがもすのごい速度で俺の方へ走ってきた。
「ぬおおう?!」
車はドリフトしながら急ブレーキをかけて俺たちの前に止まる。
ドアを開けて中から出てきたのはもちろん俺の知っている人だった。
「やっほー鉄也くん。
ハッピーバレンタインだね」
ニコニコしながら車のドアを開けて出てくる美貴姉さん。
もうちょっと普通に車は走らせてもらえませんかね。
「いや、美貴姉さん。
その前に公道は速度を守って走ろうぜ」
美貴姉線は嫌ねえという感じでケラケラ笑った。
「あっはは、大丈夫よ、だってここ私道だもの」
そういやこの区画は研究所の私道だったか。
「というわけで、私からのプレゼントよ、受け取ってね」
美貴姉さんがくれたのはロゴの入った紙袋に入ったなんかファンシーな感じのラッピングがされた小さな箱だった。
なんか、イケメンのSPが羨ましそうに見てるが、気にしないことにしておく。
「おおう、ありがとな」
まさか美貴姉さんからもらえるとは思わなかったぜ。
ま、従兄弟だから恵んでくれたんだろうけどな。
「じゃねー」
美貴姉さんは嵐のようにやってきて嵐のように去っていった。
これから大学なんだろうか、まあ忙しそうでは在るよな。
ありがたくは在るんだが交通安全は守って欲しいものだ。
まあ、その後は何事もなく、学校に到着して教室に入った。
クラスメイトの男子に適当に挨拶をしながら入っていく。
「よお、おはよう」
「や、おはようさん」
なんか視線が俺の持ってる紙袋に向けられてるな。
「くそ、リア充爆発しろ」
これまた偉い誤解だ。
「おいおい、リア充ってわけじゃないぜ。
母チョコと従姉妹チョコだぜ?これ」
「従姉妹って?」
「美貴姉さんだよ、大学に行ってる」
「くー、綺麗なお姉さんからチョコを貰うなんて
うらやまけしからん」
だから義理チョコだっての、従姉妹じゃ結婚できない……わけでもないか、一応。
そんな馬鹿話をしていたら姫乃や戸部が教室に入ってきた。
「おはよう鉄也ちゃん」
「おはよう須王くん」
「よ、ふたりともおはよう、遅刻じゃなくてよかったな」
二人に視線が俺が机においた紙袋に向けられてる、なんでだ?食いたいのか?いくら二人とは言えやらんぞ。
「ねえ、鉄也ちゃん、其れって?」
「ああ、美貴姉さんがくれたんだ。
なんか、高くてうまそうだよな。
GODIVAとか書いてるし有名なメーカーなのか?」
姫乃が呆れたように言った。
「有名も何も超有名なメーカーだよ、鉄也ちゃん。
いまどきめったに手にはいらないんだからね其れ」
何故か姫乃が怒っていらっしゃる、なぜだ?
「そ、そうか、珍しいのか、其れをあっさりくれるあたりさすが金持ちは違うな」
俺と美貴姉さんは従姉妹だがうちは何の変哲もない、世界レベルのロボット工学の両親でしか無いから別に金持ちなわけじゃない。
其れに引き換え美貴姉さんは財閥令嬢だからな、あれでも。
「いいなあ、俺にも一口くれよ」
クラスメートが羨ましそうに言った。
「悪いが他人に恵むことができるほど、余裕ないわ」
一方姫乃と戸部はなんか小さい声でささやきあってる。
「思わぬライバル出現……だね」
「むむ、私たちにはそれほど予算に余裕がないですが
やられましたね」
とりあえず取られても困るからロッカーにでも入れておくか。
そしていつもどおりの授業が始まって、やがて昼休みになった。
「さあ、飯だめしだ」
「おーい、須王、お前に会いに来てる人がいるぞ」
俺達が弁当箱を取り出して昼飯をくおうとした所で、なんか外から呼び出しがかかった。
「んあ、了解、今行く」
俺を呼び出したのは朧姉さんだった。
「や、鉄也くん、昼休みにすまないね」
「いや、いいけど、何か有ったのかい?」
「いや、アラハバキは今のところはおとなしいよ。
其れより今日はバレンタインだろう。
私からのプレゼントだよ」
朧姉さんがやっぱりロゴが入った紙袋に入ったシックなラッピングの箱を俺に手渡した。
「おお、朧姉さんもくれるんだ、ありがとな」
「なに、ともに戦う仲間だろう、私たちは。
無論、お返しには期待しているよ」
「お返し……ちなみにこれ幾らぐらいするんだ?」
「ふふ、其れは自分で調べるんだね、それじゃ」
朧姉さんはなんか意味ありげに笑って立ち去っていった。
ちなみに書かれてるロゴはMorozoffと書いてあるな。
「鉄也ちゃん其れは?」
「朧姉さんが来てくれたんだけど」
「モロゾフですよね、それ」
戸部が何か意味深な言い方をする。
「もしかしやこれもやっぱ高いのか?」
戸部がちょっと首を傾げた後言った。
「多分2000円位すると思いますよ」
「げ、2000円もするのかよ」
お返しに期待するって言われてるし、こりゃホワイトデーは大変だな。
「畜生、なんで須王ばっかり」
「なんでと言われても知らんぞ」
やがて昼休みが終わり放課後になった。
部活にいくやつ、さっさと帰るやつなど様々だが今日は皆出ていくのが早いな。
「さてと、俺たちも帰るか?」
「あ、ちょっと待って鉄也ちゃん」
「私達からプレゼントが在るの」
「おお、もしかして……」
二人は小さな紙袋を俺に渡してきた。
「はい、バレンタインのプレゼントだよ」
「遠慮しないで受け取ってくださいね」
「お、おう、二人ともありがとうな」
目の前の二人は笑ってるけど目が笑ってないようなきがする。
俺がどっちのプレゼントを先に開けるかじっと見てる気がするんだが……なんでだ?
とりあえず俺は姫乃のプレゼントから開けてみることにした。
「ん、これは?」
小さなチョコのカップケーキと一緒に毛糸で編んだ布が入ってた。
「マフラーだよ、鉄也ちゃん」
「おお、寒いからありがたいぜ、ありがとうな姫乃」
「ちゃんとお返しには期待してるからね」
ニコニコしてる姫乃とクッという表情の戸部。
「戸部は何をくれたんだろうな」
こっちも開けてみると、中にはいっていたのはチョコのマフィンと毛糸で編んだ手袋が入ってた。
「どうでしょうか?」
おずおずと戸部が聞いてくる。
「おお、こっちもありがたいぜ、ありがとうな戸部」
俺は早速手袋をつけてみた。
「うん、ちょうどいい感じだな」
「うん、大きさが合ってよかった」
今度は戸部がニコニコしてて姫乃がクッといういく表情になってるな。
一体何なんだ?
ま、とりあえずありがたく受け取ったが、お返しにどれくらいかかるやら……だな。
バイトしないとダメかもなこれ。
家に帰ったら伊奈さんが来てて暖かいホットチョコを入れてくれた。
そういえば俺が泣いてたときにもこうして暖かい飲み物をそっとだしてくれたな。
「伊奈さん、いつもありがとう。
今までも、これからもよろしくな」
「ええ、こちらこそ」
姫乃がナイスフォローって顔をしてるが、なんだかな。
今年は俺にしては珍しく結構チョコがもらえたけど妙に疲れたぜ。
というわけで番外編でバレンタインのドタバタを描いてみました。




