名草戸畔(なくさとべ)と丹敷戸畔(にしきとべ)
「須王くん、私と一緒に逃げて」
戸部のその突然の言葉に俺は戸惑った。
「い、一体どういうことなんだよ?
意味がわからんぞ」
そこへ横から戸部へと声がかけられた。
「やれやれ、情にほだされたか。
少し刷り込みがつよ過ぎたようだな」
そこにいたのは戸部にそっくりな女だった。
「どういうことだ?!
それにお前は一体」
その女はフット嘲るように笑って俺に言った。
「私の名は名草戸畔。
かつて、お前たちにより滅ぼされたものだ」
俺は首を傾げた。
「ナクサトベなんてやつスサノオが戦ったやつの中にいたか?」
女は怒ったように言い返してきた。
「私達が戦った相手は紀元前の神武されているからな、貴様の子孫だ
歴史書を改ざんしたのはまた別の者たちだろうが」
俺はこの二人が血族だろうということはまあ確信していたが念の為に聞いてみた。
「で戸部があんたの名前を語っていたのは?」
女はニヤッと笑っていってきた
「貴様らの大好きなだまし討を今度はこちらから仕掛けてやったのさ。
まあ、人間であるという刷り込みを強くしすぎたのが失敗だったようだが」
一方戸部の顔は蒼白だった。
「姉様……」
「ニシキ、もうお芝居は終わりだ。
十分最後の日を楽しんだだろう、殺せ」
しかし戸部は首を振った
「姉様、彼は私達を殺した須佐之男ではありません。
ただの人間です」
女は鼻白んだように言った。
「だが、須佐之男の生まれ変わりだ。
そして我々の仲間を倒したものでもあり
我々の障害になるものでもあろう」
「な、なら、彼を他の人間から引き離すだけでいいはずです」
「ふん、下らぬな、そいつは我らの敵だ、なのになぜ生かしておく必要がある」
「かれは、たしかに単純ですが悪い人ではありません」
女は落胆したように言った。
「失望したぞ、ならば、思い出せ。
我らの受けた辱めを!」
「や……やめて……ああーーーーーー!」
戸部は頭を抑えて地面に倒れ伏し苦しんでいる。
「てめぇ!やめやがれ!」
俺は女に殴りかかろうとしたが、あっさりとかわされてしまった。
そして戸部は起き上がってつぶやくように言った。
「スサノヲは敵……スサノオは敵……敵は……殺す!
来なさい、ニシキトベ!」
彼女の声に反応するように海から下半身は馬、上半身は剣を持った女性の姿をした巨大なメカが浮き上がってきて、トベのそばに降り立ち、彼女を手で持ち上げると、その中へ取り込んだ。
「戸部!くそっ……やっぱり姫乃や朧姉さんが正しかったのか?!」
いつの間にか女は俺から離れた場所へ移動していた。
「さあ、殺しなさい、スサノオを!」




