そのに
2分33秒3。
かつてのダービーレコードは2004年と2005年に記録されている。
勝者はそれぞれ前述のキングカメハメハとディープインパクト。
いずれも日本競馬史上最強馬の一頭だ。
勝負事に「たられば」は禁物だが、もしこの二頭が戦ったら、という想像は絶えない。
一年先輩のキングカメハメハはこのダービーを勝利した秋に故障して引退している。
タイムもさることながら、両馬ともにその内容は破格のものだった。
キングカメハメハは先行不利のハイラップを悠々と前目で追走し、息を切らす他馬を尻目に直線に向いて早々に抜け出して、圧勝。
2着は後にディープインパクトに土をつけたハーツクライだった。
一方、ディープインパクトは後方待機から最終コーナーで大外を回る横綱競馬で2着に5馬身もの差をつけてみせた。
どちらが強かったかなんて、ファンにも競馬関係者にも想像がつかない。
だが、もう一つの戦いは勝敗どうか。
優駿(優れた馬のこと)たちの使命は競争だけではない。
その傑出した能力を後世の競走馬に伝えるまでが、彼らの生涯だ。
ディープインパクトとキングカメハメハは2010年からの6年に渡り種牡馬の賞金王レース、リーディングサイアーの頂点を席巻している。
近年は特にディープインパクトがその座を不動のものにしている。
しかし、キングカメハメハがロードカナロア(日本史上最強の短距離馬の一頭)デュラメンテ(2015年二冠馬)という後継候補、つまり牡馬の超一流クラスを輩出している一方、ディープインパクトにはキズナ(2013年ダービー馬)はいるものの、国内のGIレースを複数勝利した牡馬がまだ出せていない。
牝馬ではジェンティルドンナ(GI競争7勝、歴代最多タイ記録ホルダー)を筆頭にずらりと名馬を揃えるだけに、現状は不思議ですらある。
フィリーサイアー(牝馬ばかりが走る種牡馬)という、名種牡馬にとってありがたくないレッテルすら貼られつつあった。
それがついに今年、マカヒキを始め、今までの不運を取り戻すように、牡馬の超一流クラスを思わせる才能が続々と登場している。
例えば、マカヒキらとは別路線で無敗で三冠レースに名乗りを上げた鹿毛の雄大な馬体。
かつてディープインパクトを育てた名伯楽・池江泰郎元調教師が見出した才能は額に菱形の流星、その個性に由来する名前をサトノダイヤモンドという。
3戦3勝。
まるで産まれる前から競馬を知っていたような走りは、長らく日本競馬の目標だった皇帝・シンボリルドルフをすら思わせた。
天才という言葉が彼にはよく似合う。
キングカメハメハの仔たち、リオンディーズ・エアスピネル。
ディープインパクトの仔たち、マカヒキ・サトノダイヤモンド。
三冠レースの第一戦・皐月賞の勝者は彼らの中から選ばれるのは、衆目の一致するところだった。
彼らの戦いはかつて最強と謳われたキングカメハメハとディープインパクトの代理戦争とも言える。
競馬においてどちらが強かったか、それを知ることは永遠にできない。
しかし、どちらの血が強いかはこの後の歴史が証明してくれる。
その答えの一片が、このダービーで明らかになる。