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短編小説

大坂夏の陣

作者: 黒田明人

 大坂夏の陣


 

 敵襲……周回中の仲間にその報告が届き、我らは敵の元にはせ参じる……見ればかなりの軍勢のようだが、我らの応援はまだ到着していない。

 本来なればもっと迅速に集まるものが、どうにも停滞しているようでもある。これはいかんな……

 戦いは熾烈を極め、仲間は次々と倒れていくというのに、応援を待ち焦がれているというのにどうして来ないのか。まだかまだか、まだ来ないのか。早く……手遅れになる前に……








(あー、どうにも肩が。最近、仕事がハードだから肩が凝って。まだまだ仕事はあるが、今日はこれぐらいにしておくか……プルルル……はい、もしもし、えっ、はい、すぐに伺います……ブシュー、うわ、カランカラン、キュッ、はぁぁ、参ったな。バルブの破損はいいが、ずぶ濡れだぞ。まあ、夏で良かったな……さあ、帰ろうか……えっくしゅんっ……ふう、早く風呂に入って着替えないと)








 必死の防衛の中、応援は少しずつ来るが、どうして一気に来てくれないのだ。だからこんな劣勢になってしまうのだ。

 普段ならこんな事も無いというのに、どうして今回に限ってこんな事になっている。

 申し上げます、敵の勢力凄まじく、このままでは……いかん、この砦を落とされる訳にはいかんのだ。この後ろには我らが……うわぁぁぁ……撤退だぁ……

 待て、引いてはいかん。下がるなッ、ぐぁぁぁ、はぁはぁはぁはぁ、もう、ここは……それにしても、我らの力及ばずとは情けない。

 くっ、まだ来るか。しかし、もうここはもう……くそぅぅ……もっと応援が来ればまだ何とかなると言うに、おのれ、くちおしや。








(この渋滞、どうなってんだ。こっちはずぶ濡れだって言うのに、早くしてくれよな。ヒーターかけて乾かそうにも、夏だから暑いんだよ。風で乾かしたのはやまやまだけど、渋滞だから窓を開けても蒸し暑いだけなんだよな。しまったなぁ、クーラーの修理、やっとくんだったな……ふうっ、何とか着いたのは良いけど、外に出たら妙に寒いぞ。やっぱりヒーターはやり過ぎたな……うう、えっくしゅんっ、はぁぁ、寒い……早く、風呂に……何だこの葉書、何だと、ガス工事? 嘘だろ)








 軍勢の全容がやっと判明か、仕事が遅いんだよ、全くもう……こちとらこの砦を死守する覚悟すらしないとって段階なのに。

 しかし、本来ならあれぐらいの軍勢、討伐も可能だろうが、どうにも連絡が巧くいってない。

 どうしてあの砦に敵が集中した……いや、それなら周囲からの応援が届くはずが、どうして遅滞したんだ。

 それにここへの応援も中々来ない有様だが、もっと一気に来るはずが、どうしてだか少しずつしか来ない。

 これでは劣勢が続くばかりだぞ……








(やれやれ、銭湯なんて何年ぶりだよ……しかし、妙に肌寒いな。夏だってのに、日が暮れたらこんなに寒く? ……えっくしゅんっ、えっくしゅんっ、まさか、これって……ふう、風呂に入るとやはり違うな。じんわりとして、こりゃいいぜ。さあ、湯冷めしないうちにとっとと帰って寝たら治るだろ。しっかし、肩凝りが治らんな、やれやれ……疲れているのかな、妙に関節も痛いし)








 申し上げます、敵の一団がこの砦を目指し……いかん、ここももう保たんな。

 くそぅ、応援がもっと一度に来れば……うわぁぁぁぁ……くそ、もう来るのかよ、くそぅ、何とかここだけは……死守せよ、死守せよ、死、ぐぁぁぁぁ……

 隊長ッ、くそぅ、ここが破られると、しかしこの圧力は、うわぁぁぁぁ……

 敵襲っっ……全員、戦闘態勢を、ぐぁぁ……隊長っ……オレ、の事は、いい、早く、奥の防衛、を……はい……頼む、ぞ……判りましたっ……オレの死に様を見せてやるっ、来やがれぇぇぇ、おりゃぁぁぁぁ……








(もう、朝か……うっ、頭が痛い。ゲホゲホ……まさか、だが今日は休む訳にはいかないんだ。なんとしても今日は……仕方が無い、少し厚着して行くか。夏なのに参ったな……うう、寒いぞ。くそうぉぉぉ……おい、聞いておるのか、お前……は、申し訳、ありません……何だお前、妙に……いえ、何でも……お前、病気なのか……いえ、そんな、事は……ドサッ……おい、お前っ、誰か、おいっ)








 報告します。一ノ門が破られ、守備隊長以下全員討ち死にッ。

 何だと、応援はどうなっている……それが、確かに向かっているそうですが、どうにも滞って……おのれ、全周警戒を解く訳にはいかんが、それが裏目に出たか。

 しかし、なんとしてもここに、内部に侵攻される訳にはいかん。防衛隊、死力を尽くしてくれ……了解でありますっ。

 敵襲っ……くそ、破られたか、急いでくれ、防衛隊……くそ、強いぞこいつら。このままでは……うわぁぁぁぁぁ……もはやここまでか。








(これはいかん、すぐに処置しなくては……抗生剤の接種だ……はい……熱はどのぐらいだ……39度6分です……いかんな、解熱剤もだ……はい……肺炎寸前か、危ないところだった。恐らく原因は過労からくる免疫低下だろう……あいつはどうなったんですか……お前、あいつ、過労だと医者が言っておったが……えっ……把握しておらんのか……それがですね、あいつがやれると言うもので……)








 どうした、敵が弱まっているようだが……判りません。

 申し上げますッ……どうした、何があった……はっ、どうやら応援のようでありますが、その詳細は不明であります。

 調査しろ……ははっ……申し上げます……何か分かったのか……どうやら敵の苦手なものが降り注いでいるようでありまして……それは何だ……不明であります。

 まあいい、それより押し返せるな……ははっ……ならば行け、総攻撃じゃ……ははっ。

 総攻撃の下知が届きました……よーし、そのまま敵が弱まれば撃退も可能だろう。

 応援も少しずつは来ている事だし、このままの趨勢なれば勝てる。

 もう少しの辛抱じゃ、きついと思うが皆、頑張ってくれ……ははっ……








(ううう、ここは何処だ……視界が揺れる……熱か……ふうっ、身体がだるいな……そう言えば今日の取引はどう……行かないと……身体が……動かん……くそぅ……ダメよ、貴方は肺炎一歩手前だったのよ。今はしっかり養生しないと……ははっ、参ったな……このオレが風邪で倒れるなんてよ……もう若くないって事か……これからは仕事の量も減らさんと……まさか肺炎一歩手前とか、参ったぜ)








 敵は撃退に成功したものの、味方の損害はかなりのものだ。

 だが、天から降り注いだ謎の物質。

 アレのお陰で勝てたと言っても過言ではあるまい。

 アレが一体、どのような者の攻撃であったのかは知らんが、我らの恩人として語り伝えられる事であろう……

 もしかすると我らが神の恩恵……うむ、まさしくの。ありがたい事じゃて。

















(大坂さん、48850円になります……うへぇ、参ったな)

 

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