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第7話 ダイアスポア壊滅!

 龍の姿をしたリーンウィックが、グランゾルに絡まりつく。ミシミシという音が聞こえ、グランゾルの装甲が砕け始めた。

『ダイ!』

 アルフォーニから、レイチェルの悲痛な声が聞こえてくる。聖獣モードとなって空を翔るアルフォーニだったが、その攻撃力はバトルモードの半分であった。かといって、地上からの攻撃では、捕らえられているグランゾルをも巻き込むことになる。レイチェルは、どうすることもできず、グランゾルたちの回りを翔るしかなかった。

「このっ!」

 グランゾルのコックピットでは、ダイが光の球体を激しく動かしている。

「グランゾル、なんとか脱出できないの!」

 ダイは、傍らに浮んでいるぬいぐるみ姿のグランゾルを見つめた。

「グランゾル…?」

 その光景に、ダイは唖然としてしまう。グランゾルの身体が、いまにも消えそうなほど揺らいでいたからだ。

「グラン…」

 その瞬間、辺りの空間に亀裂が走り、激しい爆発が起こった。

「うわぁあああーーー!」

 突然、グランゾルに力が無くなり、重力に引き寄せられるように落下を始める。ダイは、何とか体勢を立て直そうと必死だった。

 無残な姿となったグランゾルは、為す術も無く地面へと衝突する。装甲が砕かれ、翼ももがれている。もはや、誰の目で見ても、戦闘不能の状態であった。


『ダイ…。どうやら、別れの時がきたようだ…』

 苦しそうなグランゾルの声が聞こえてくる。すると、ダイの身体は淡い光に包まれた。

 気づけば、ダイはグランゾルの外へと出ていた。振り返ってみると、色を無くし、いまにも消えそうなグランゾルが横たわっている。

「グランゾル!」

 ダイは、グランゾルに駆け寄り、大きな声で叫ぶ。グランゾルの身体は、末端から霧のような粒子となりはじめていた。

「嫌だ…。グランゾル、死なないで!」

 ダイの瞳から、大粒の涙が溢れ出る。だが、消えようとしているグランゾルを、ダイはどうすることもできなかった。

『泣くな…。おまえは、わたしが選んだ…勇者なのだぞ…』

 呆れた口調で、グランゾルが呟く。その言葉は、とても優しく感じられるものだった。

『おまえは…、これから一人で旅を…続けなければならない…。元の世界に…戻る手助けができず…、わたしも…無念…』

 そんな言葉が終らないうちに、グランゾルの装甲から爆発が起こる。その爆風に、ダイは後方へ吹き飛ばされてしまった。

「グラン!」

 慌てて身体を起こしたダイが見たものは、光の粒子となって消えていくグランゾルの姿だった。

「そんな…、グランゾル!」

 ダイの叫びが届くことはなく、グランゾルは完全に消滅する。

「グランゾルーーー!」

 ダイは、その場に崩れ落ち、大きな声で泣きはじめた。

『おまえが、わたしのマスターか…』

 どこからかグランゾルの声が聞こえてくる。ダイが顔を上げると、牙龍剣を発見したときの光景が目の前で展開していた。

『このような子供がマスターとは…』

 ぬいぐるみ姿のグランゾルが現れ、落胆したようにため息をつく。

『ダイ! あの竜を倒さないと大変なことになるぞ!』

 今度は、グランゾルの操縦空間から巨大竜と対峙している光景が映し出された。どうやら、グランゾルとの思い出が次々と映し出されているようだ。

『クラッシュ・アンド・リバース!』

 グランゾルが牙龍剣を突き立てると、巨大竜は元の生物へと姿を変えた…。

『ねぇ、グランゾル…』

 映像の中のダイが、ぬいぐるみ姿のグランゾルに問いかける。

『どうしてグランゾルを呼び出す鍵なのに、“牙龍剣”って名前なの?』

 ダイは、牙龍剣を構えて刀身を眺める。宝石のように美しい刀身を持つ大剣は、なぜか四聖獣の鳳凰ではなく龍の名が付いていた。

『牙龍剣は、もともとわたしではなく、龍を呼び出すための鍵だったそうだ…』

 それが、なぜ超鳳神を呼び出すための鍵になったのかは、グランゾルにもわからないという。

『超獣神を呼び出すための鍵は、我らの魂とも呼べるものだ。その牙龍剣がある限り、わたしは何度でも甦るだろう』

 その言葉を思い出したとき、ダイは、背負っていた牙龍剣を抜刀した。

「よし…」

 ダイが構えた牙龍剣は、これまでと変わりなく、美しいままであった。

「グランゾルーーー!」

 ダイは、大きく叫びながら、牙龍剣を天に向けて突き上げる。その瞬間、刀身に細かなヒビが走り、牙龍剣は粉々に砕け散ってしまった。

「そ、そんな…」

 ダイは、砕けた牙龍剣を見て呆然と立ち尽くす。魂とも呼べる牙龍剣が砕けたということは、グランゾルは本当に死んでしまったというのだろうか…。ダイは、残された牙龍剣の柄を抱きしめるように、泣き崩れてしまった。


「ダイ!」

 レイチェルは、ダイたちの様子を見て、悲痛な叫びを上げる。

『レイチェル! 戦いに集中してください!』

 アルフォーニは、地面の方ばかり見ているレイチェルを窘める。

『どうやらリーンウィックには、搭乗者がいないようです。倒すならいましかありません!』

 パイロットが搭乗していない超獣神は、その力も半減することになる。アルフォーニは、このチャンスを逃さなかった。崖に降り立ち、バトルモードとなったアルフォーニは、炎の弓を構えた。

『第三の矢刃…、紅蓮爆砕波!』

 アルフォーニが叫ぶと、矢の先に真っ赤な球体が現れる。その矢刃を、アルフォーニは一気に放った。

 超速で放たれた紅蓮爆砕波は、すさまじい勢いでリーンウィックに迫る。そして、リーンウィックと重なった瞬間、空を覆いつくすような大爆発を起こした。

 大気が焦げ、聳える木々をもなぎ倒す。アルフォーニは、己の勝利を確信した。だが、爆風が収まったとき、そこには信じられない光景があった。

 リーンウィックを護るように、一体の機獣が立ちはだかっている。その機獣は、白い虎の形をしており、超獣神に雰囲気が似ていた。しかし、超獣神のように生体的ではなく、どこか機械的であった。

 驚いたことに、リーンウィックと虎型の機獣は、エネルギー球体に囲まれて無傷である。

『ふぅ〜…。どうやら、まにあったみたいやな〜』

 機獣から、妙な言葉遣いをした女性の声が聞こえてくる。

『ブルース、大丈夫か〜…って。なんや、ブルース乗ってへんのか〜?』

 リーンウィックから何も反応が無いことに、女性はそう結論付ける。

『まぁええわ〜…。格の違いってやつを、思い知らしたる』

 虎型の機獣は、地面に降り立ち、アルフォーニと向かい合う。

『コーネルピン…、バトルモード・チェンジ…』

 すると、虎型の機獣が変形を始め、巨大ロボットの姿となった。

『ま、まさか…、超獣神!』

 アルフォーニが驚愕の声を上げる。

 それもそのはず。アルフォーニが知る超獣神とは、鳳凰・麒麟・亀・龍の四霊を象徴する存在である。あのような虎型の超獣神がいるなど、アルフォーニも知らないことだった。

「くっくっく…、超獣神やない…」

 機獣のコックピットでは、一人の少女が笑いを堪えている。

「そう…、機獣神…。白虎の機獣神、コーネルピンやぁーーー!」

 宣言するように叫んだ少女とは、時空盗賊団ダイアスポアの一員カナリーであった。

『白虎の…機獣神!』

 アルフォーニは、目前の巨大ロボットに恐怖を覚えた。超獣神最強とされるリーンウィックを遥かに超える力が、白虎の機獣神から感じられたのだ。

『このコーネルピンはやな〜、超獣神の一世代前に創られた機体や〜♪』

 カナリーは、機獣神の説明を始める。

『でもな〜、べつに旧型ってわけやない…。あんまり強力過ぎて、封印されてしまった機体なんやで〜』

 カナリーは、人を小バカにしたような口調で呟く。

『ま〜、けったいなぬいぐるみ機能は付いてへんけどな〜♪』

 どうやらコーネルピンは、自らの意思で喋ったりすることはなく、グランゾルたちのようにファンシー機能が一切装備されていないようであった。


「ほぉ〜、白虎が出てきたか…」

 頭からフードを被った謎の人物は、バトルモードとなったコーネルピンを見て嬉しそうに微笑む。

「早くしないと、アルフォーニもやられてしまうな…」

 そう言うと、謎の人物は、呆然としているダイに近づいた。

「おい、いつまで泣いているつもりだ?」

 謎の人物は、ダイにそっと問いかける。ダイが振り向くと、謎の人物はフードを捲り、その顔をあらわにさせた。

 謎の人物は、とても美しい顔立ちでダイを見つめる。ミントベリルとは、また違った感じの美人である。ダイは、美人なお姉さんに見つめられ、おもわずどぎまぎしてしまった。

「お姉さん…、誰?」

 ダイが問いかけると、お姉さんの顔が急に不機嫌となる。お姉さんは、足を天高く上げ、踵をダイの頭上に叩きつけた。

「痛っーーー!」

 その衝撃に、ダイは涙を流して頭を抱える。

「お姉さんじゃねぇ…。お兄さんだ!」

 美人なお兄さんは、ダイの勘違いを訂正する。呆然とするダイを他所に、美人なお兄さんは、大きく咳払いをして自己紹介を始めた。

「わたしの名は…、“トラピッチェ”…。トラピッチェ・クリスタルだ…」

 トラピッチェは、にやりと微笑む。

 その名は、パイロープたちを陰から操っている、“トラピッチェさま”と同じものであった。



「トラピッチェ…、クリスタル?」

 ダイは、トラピッチェを見て唖然としてしまう。本人はお兄さんだと言っているが、どう見てもお姉さんにしか思えないからだ。

「そんなことより、牙龍剣を貸せ…」

 トラピッチェは、ダイから牙龍剣の柄を奪い取る。慌てて取り返そうとするダイの頭を靴底で押さえながら、トラピッチェは牙龍剣の状態をチェックしはじめた。

「うむ…。青龍コアは無事みたいだな…」

 トラピッチェは、意味不明な言葉を呟く。そして、何も無い空間から、一振りの大剣を取り出した。鍔が鳥のような形をしており、どこか牙龍剣に似た美しい剣である。

「鳳翼剣…。超鳳神グランゾルを呼び出すための、本来の鍵だ…」

 トラピッチェは、鳳翼剣の柄をダイに向ける。

「グランゾルの…。おねぇ…お兄さんっていったい…」

 ダイは、両手で鳳翼剣を握り締める。

「わぁあっ!」

 トラピッチェが手を放した瞬間、鳳翼剣は信じられない重さとなってしまった。

「こ、これって…」

 ダイは、驚きの声を上げる。鳳翼剣がグランゾルを呼び出すための鍵なら、どうしてダイが持てないのだろうか…。

「やはりな…。おまえは、グランゾルの中に封印されていた、青龍の機獣神アウイナイトに選ばれていたようだ」

 トラピッチェは、牙龍剣を一瞬で再生させてみせる。驚くダイの目の前に、トラピッチェは牙龍剣の柄を突き出した。

「アウイナイトを選べ…。そうすれば、おまえが最強になるだろう…」

 トラピッチェは、ダイをにらみ付けるように呟く。カナリーが言うように、機獣神と超獣神では、基本スペックが桁違いなのだ。

 しかし、ダイは牙龍剣に目もくれず、地面にめり込んだ鳳翼剣を持ち上げようとしていた。

「ボクのパートナーは、グランゾルだ!」

 ダイは、涙目で大きく叫ぶ。必死になって持ち上げようとするのだが、鳳翼剣はピクリとも動かなかった。


「よせ…。おまえはグランゾルに選ばれていない…」

 トラピッチェは、意地になっているダイに声をかける。

「おまえも知っているはずだ…。超獣神を呼び出すための鍵は、選ばれた者にしか持つことができない…」

 トラピッチェは、不意にアルフォーニとコーネルピンへ視線を向ける。

「このままではアルフォーニがやられてしまう。おまえがアウイナイトで戦わなければ、アルフォーニもグランゾルと同じように消滅してしまうのだぞ!」

 話を聞こうとしないダイを、トラピッチェが怒鳴りつける。すると、ダイは、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら振り返った。

「うるさい、うるさい、うるさーーーい!」

 ダイは、トラピッチェをにらみ付ける。

「グランゾルは、ボクを自分が選んだ勇者だって言ってくれた…。もしそれが間違いだったとしても、ボクのパートナーはグランゾルだーーー!」

 ダイが力一杯踏ん張ると、鳳翼剣は一センチほど持ち上がった。

「はぁ〜…。相変わらず強情なヤツだな…」

 トラピッチェは、呆れたようにため息をつく。右手を突き出すと、鳳翼剣は回転しながらトラピッチェの手に収まった。

「ま〜、なんだ…。これはおまえの覚悟を見るために試してみたことなんだが…」

 トラピッチェが鳳翼剣の鍔に手を添えると、突然、刀身の一部がパカッと外れた。外れた刀身は、もの凄い衝撃で地面に落下する。

「ほらよ♪」

 トラピッチェは、手にした鳳翼剣を、ダイに投げてよこした。

「わっととっ!」

 ダイは、慌てて鳳翼剣を受け止める。かなりの重さを覚悟していたのだが、受け止めた鳳翼剣は、まるで羽根のような軽さだった。

「これって…」

 ダイは、驚いた表情でトラピッチェを見つめる。トラピッチェは、地面にめり込んでいる刀身の一部を持ち上げた。

「くっくっくっ…。二百キロの重しだ…」

 トラピッチェは、呆然としているダイを見て、笑いを堪えている。

「まぁ〜、普通の人間には持てんよな〜♪」

 あっけらかんと、鳳翼剣の仕掛けを暴露した。

「なっ!」

 ダイの顔色が、怒りによって真っ赤となる。

「ふふっ…、なんの躊躇いもなくアウイナイトを選んでいたとしたら…。いや、グランゾルのマスターならそんなことはないだろうが…」

 トラピッチェは、ニヤリと微笑む。

「グランゾルを棄ててアウイナイトを選んでいたら、おまえは一生元の世界に戻れなかっただろうな…」

 急に真面目な顔となったトラピッチェは、ダイにゆっくりと近づく。

「ダイよ…、鳳翼剣を貸せ…」

 その迫力に、ダイは素直に鳳翼剣を渡してしまう。トラピッチェは、鳳翼剣と牙龍剣の刀身を重ねるように、柄を両手で握り締める。その瞬間、二本の剣から眩い光が放たれた。

 剣は丸い球体に包まれて空中に浮ぶ。トラピッチェは、その中に手を入れ、一本の大剣を取り出した。

「その剣は!」

 ダイは、驚きの声を上げる。それは、鳳翼剣と牙龍剣の特徴をあわせ持った、とても美しい大剣であったからだ。

「牙龍鳳翼剣。さぁダイよ…、グランゾルの名を呼べ」

 トラピッチェは、再びダイに剣を差し出した。

「牙龍鳳翼剣…?」

 受け取ったダイは、大剣の柄をギュッと握る。

「来て…、グランゾル…」

 ダイは、祈るように呟く。すると、ポムっという音が聞こえ、ぬいぐるみ姿のグランゾルが現れた。

「グラン♪」

 ダイは、現れたグランゾルを抱きしめる。

「グラン、グランゾル♪」

 ダイは、両手でグランゾルを持ち上げ、ぐるぐると回転した。

『おまえが、わたしのマスターか…』

 グランゾルは、はしゃぐダイに向かってそんなことを呟く。それを聞いたダイは、回転を止めてピシッと固まった。

『このような子供がマスターとは…』

 グランゾルは、落胆したようにため息をついた。

「グランゾル、どうしたの!」

 ダイは、グランゾルの様子がおかしいことに気づく。

「ま、まさか、記憶が無くなっちゃったの!」

 牙龍剣が砕けてしまったことで、これまで一緒に冒険してきたことも忘れてしまったのだろうか。

『………』

 辺りになんとも言えない空気が流れる。

『冗談だ…』

 グランゾルの呟きに、ダイは豪快にずっこけた。

「グ、グランゾル?」

 ダイは、ヨロヨロと立ち上がる。感動的な別れをしてから数分も経っていないため、グランゾルも照れているのかもしれない。

「こらこら…。じゃれるのもいいが、急がないとアルフォーニがやられてしまうぞ…」

 トラピッチェは、二人のやり取りを見て呆れ顔で苦笑する。

 トラピッチェの存在に気づいたグランゾルは、かなり驚いた様子である。しかし、何事もなかったかのように、ダイに向かい合った。

『ダイ…、我が名を呼べ…』

 グランゾルが呟くと、ダイは頷いて牙龍鳳翼剣を構えた。

「グランゾルーーー!」

 ダイは、牙龍鳳翼剣を真上に突き上げ、大きな声で叫ぶ。ダイの身体からは電撃が発生し、牙龍鳳翼剣を伝って上空へと放たれた。

 晴れ渡っていた空に暗雲が立ち込め、稲光と雷鳴が同時に起こる。空には大きな魔方陣が浮かび上がり、猛禽類のような形をした巨大な金属物体が、ゆっくりと姿を現した。

 金属物体は、凄まじいスピードで降下を始める。地表すれすれで滑空する金属物体に、ダイとぬいぐるみ姿のグランゾルが飛び乗った。

 ダイたちは、淡い光に包まれて、金属物体の中に吸い込まれていく。真っ暗な特殊空間を通過し、ダイは唯一光っている地に降り立つ。

 そこには二つの光の球体が浮んでおり、ダイが手を添えると、辺りはパッと明るくなった。ダイは、翼を広げた鳥の紋様が描かれているプレートの上に乗っている。それを中心に、外の映像が全方向に映し出された。

 意識を集中させると、浮遊感と共に風が吹き込んでくる。金属物体…つまり、聖獣モードのグランゾルは、翼を大きく広げて、大空へと舞い上がった。

「グランゾル…」

 ダイが呟くと、操縦空間にぬいぐるみ姿のグランゾルが現れる。

「さっきのトラピッチェって人、グランゾルの知り合い?」

 ダイの問いかけに、グランゾルは困ったような唸り声を上げる。

『あの御方、クリスさまは…、わたしたちのマスター…』

 意味がわからずにダイが小首を傾げていると、グランゾルはとんでもない言葉を呟いた。

『クリスさまは、我ら超獣神の創造主…』

 驚くダイを他所に、グランゾルはさらに衝撃の事実を伝えた。

『クリスさまは、時間や空間を自由に操ることのできる、時空族と呼ばれる存在だ…』

 途端に、ダイは、あんぐりと大口を開ける。

「って…。あの人に頼めば、元の世界に戻ることもできたんじゃないの!」

 ダイが叫ぶと、グランゾルはハッとした顔で大汗をかく。

『まぁ、なんだ…。いまは、アルフォーニを助ける方が先決だ!』

 グランゾルは、開き直ったように大きく叫ぶ。ダイは、呆れたようにため息をついた。

「グランゾル…。なんか、性格変わった?」

 ダイは、ジト目でグランゾルをにらみ付ける。グランゾルは、ダイに視線を合わせず、そっぽを向いてしまうのだった。



「アルフォーニ!」

 レイチェルは、手にした球体を真下へ押し込む。

「あうっ!」

 アルフォーニの身体がガクンと沈むのと同時に、頭上をコーネルピンの爪が通過した。

「いけぇーーー!」

 レイチェルの叫びに反応して、アルフォーニの腕に炎が発生する。レイチェルが光の球体を突き上げると、コーネルピンめがけて炎の渦が立ち昇った。

『ちっ!』

 コーネルピンは、素早い動作で後方へと回避する。

『ふっふ〜ん、なかなか戦い慣れてるやん♪ パイロットは、かなりの腕前やろうな〜』

 カナリーは、得意げにアルフォーニの戦力分析をする。だが、レイチェルがアルフォーニのマスターになったのは、わずか数日前のことだったりした。とはいえ、機獣神と超獣神では、戦闘力が桁違いである。上手く戦っているようではあるが、すでにアルフォーニの装甲はボロボロであった。

『まぁええわ〜。どうせ、いまから死ぬんやからなーーー!』

 すると、コーネルピンが大きく吼えた。コーネルピンの身体から、異様なエネルギーが発生する。コーネルピンは、機獣モードへ変形し、立ち尽くすアルフォーニに突っ込んだ。

 コーネルピンの牙がアルフォーニに迫る。強大なエネルギーを纏った牙は、全てを引き裂くような勢いで、アルフォーニの首筋に迫った。

 アルフォーニとコーネルピンの距離が縮まっていく。アルフォーニの首筋に牙が届こうとしたとき、何者かがコーネルピンに体当たりを食らわした。

『超鳳神グランゾル、ここに見参!』

 一瞬でバトルモードに変形したグランゾルは、アルフォーニを護るようにかっこよくポーズを決めた。

『ダイ♪』

 アルフォーニから、嬉しそうなレイチェルの声が聞こえてくる。

『レイチェル、融合合体だ!』

 このまま戦っても、勝ち目は無い。ダイは、迷わずにそう叫んだ。

 ダイの言葉に、レイチェルは躊躇いをみせる。融合合体の方法がわからない限り、また失敗するだけである。しかし、このときばかりは、なぜか成功するような気がした。

『融合合体!』

 ダイとレイチェルの声が、見事にハモる。その瞬間、グランゾルとアルフォーニが光に包まれた。

 二つの光は、上空へと駆け昇って一つに重なる。眩い光が発生し、それが収まると、中から一体の巨大ロボットが現れた。

「せ、成功…したの?」

 レイチェルは、何も変わらない光景に小首を傾げる。操縦空間からは、アルフォーニの変化がわからないのだ。

「うん…。どうやら成功したみたいだね♪」

 突然、背後からダイの声が聞こえてくる。驚いたレイチェルが振り返ると、そこには、同じようなプレートに乗ったダイが浮んでいた。

「あぅ、あわわっ!」

 レイチェルは、ダイに見られていることであたふたする。融合合体したグランフォーニも、レイチェルに合わせて、無意味な動きをしていた。


『が、合体したやてぇ〜〜〜』

 コーネルピンの体勢を立て直したカナリーは、グランフォーニの姿を見て苦笑する。

『まっずいな〜…。あの超獣神、けっこう強そうやで〜…』

 カナリーも、グランフォーニの強さを感じているようである。

『まぁ〜、ここらが潮時かな〜』

 そう呟くと、突然、コーネルピンの装甲の一部が開く。

『おかしら〜、これでさよならや…』

 激しい爆音と共に、コーネルピンから大量のミサイルが飛び出した。

 その攻撃に、ダイとレイチェルは慌ててシールドを展開する。だが、ミサイルはグランフォーニではなく、上空に浮遊していた空賊船へ次々と着弾した。

『な、何をする!』

 その様子に、傍観を決め込んでいたリーンウィックが慌てる。

『あそこには、マスターの記憶が!』

 バトルモードとなったリーンウィックは、ミサイルを撃ち続けるコーネルピンに体当たりした。

『あはははっ、大丈夫〜。ブルースの記憶持ってるつ〜のは、おかしらの嘘なんや〜♪』

 カナリーの言葉に、リーンウィックは愕然とする。

『だから…、邪魔するんやない…』

 そんな冷たい声が聞こえたかと思うと、コーネルピンはリーンウィックを殴り飛ばした。

 強烈な力で殴られたリーンウィックは、マシュー山の表面に激突する。リーンウィックは、そのまま動かなくなってしまった。

「え〜っと…」

 ダイは、コーネルピンの行動に小首を傾げる。

「仲間割れ…かな?」

 その言葉に、レイチェルは苦笑して、“あぅ〜?”と答えた。

 そうこうしていると、空賊船が大爆発を起こす。炎に包まれた空賊船はゆっくりと落下をはじめ、地面に激突する寸前、時空の歪みを発生させて消えでしまった。

『ちっ、逃げられてもぉた〜♪』

 カナリーは、まったく残念がらず、楽しそうに爆笑する。

『さてと、あたいは、これ以上あんたらと敵対する気はあらへん。ここは一つ、仲直りでもしようやないか〜』

 カナリーは、戦意が無いことを示すように、コーネルピンの両手にある爪を収める。そして、コーネルピンの搭乗口を開き、身軽な動作で地面に降り立った。

「う〜ん…、気持ちえぇ風やな〜♪」

 カナリーは、両手を突き上げるように、大きく伸びをする。

 そこに、マシュー山の洞窟から飛び出してきた、ミントベリルとブルースがやってきた。ブルースは、ミントベリルから離れ、カナリーをにらみ付けた。

「カナリー…、どういうつもりだ!」

 ブルースは、手にした槍をカナリーに突き付ける。しかし、カナリーはそれに動じることもなく、平然とした表情で答えた。

「なんやブルース…。まさか、ジェバイトの味方する気やあらへんやろな…」

 カナリーは、片手で槍先を押しのけて、ブルースをにらみ付ける。その迫力は、もの凄いものであった。

「はいはい、ケンカしないの!」

 ミントベリルは、二人の間に割って入る。竜族の彼女にはとても敵わないため、カナリーも言うことを聞いて大人しくなった。


「無事に融合合体できたようだね…」

 パイロープは、ホッとしたように息をつく。アレックスのモニターには、崖に降り立つグランフォーニの姿が映っていた。

「結局は、あのへっぽこ勇者に、いいところを持っていかれたね〜」

 投げやりな態度をしているが、パイロープの声は嬉しそうに弾んでいる。ダイたちの無事を、心から喜んでいるようだ。

「まぁ、我々がアレックスで戦いに参加しても、足手纏いになるだけですからね〜♪」

 グロッシュラーが爆笑した瞬間、パイロープの拳骨が後頭部にヒットした。

「痛たたた…。え〜、それでは、今週のお便りを紹介します」

 グロッシュラーがハガキを取り出すと、パイロープは涙を流して項垂れる。

「おやおや、パイロープさま…。やっとこのコーナーに慣れてこられたんですね〜♪」

 グロッシュラーは、ニヤケ顔で微笑みを浮かべる。だが、パイロープに睨みつけられて、慌ててハガキを読みはじめた。

「それでは、ただいま妖精界ラズベリルの冒険の真っ最中、セリアちゃん六歳からのお便り〜。 『機獣神は、超獣神と比べて、どれだけ強いんですか?』 との質問〜♪」

 しかし、ハガキを読んだグロッシュラーは、不思議そうに小首を傾げる。

「機獣神って、何でしょうね〜?」

 その問いかけに、パイロープはずっこける。そう、パイロープたちは、白虎の機獣神コーネルピンの存在を知らなかったのだ。

「その質問には、わたしが答えよう!」

 突然、アレックスのコックピットに、トラピッチェ・クリスタルが現れる。何もない空間から現れたトラピッチェに、パイロープたちは飛び上がるように驚く。トラピッチェは、そんなことに構わず、質問の説明をはじめた。

「機獣神は、超獣神の一世代前に創られた決戦兵器だ! 超獣神と比べれば、少な目に見積もっても五倍以上の戦闘力がある!」

 トラピッチェの説明では、機獣神は戦闘力も高く、ある程度の力を持つ者であれば誰にでも操れてしまうらしい。そのため、危険と判断されてしまい、ついには封印されてしまったようだ。

「わかったかな、セリアちゃん?」

 トラピッチェは、カメラ目線でにっこりと微笑み、何事もなかったかのように消えてしまった。

 アレックスのコックピットでは、いきなり現れたトラピッチェに、パイロープたちが呆然としていた。

「だ、誰だい? あの美人で変なヤツは?」

 パイロープは、驚きのあまり目を丸くする。ちなみに、トラピッチェが瞬間移動してきたことに驚いたわけではない。高位魔族ともなれば、闇の空間を渡ることなど簡単なことだからだ。

「いや〜…。突然現れて、質問の回答をしてくれたわけですから、親切な方ではないですか〜♪」

 グロッシュラーは、お便りコーナーが成功したことに喜んでいた。機獣神を知らないグロッシュラーには、絶対に答えられない質問であった。

「この意味不明さは、あいつに似ているよ…。あの忌々しい“トラピッチェ”のヤツに…」

 パイロープは、声を絞り出すように呟く。

「あいつの人を小バカにした顔を、あたしゃ忘れられないよ…」

 パイロープは、この聖界へ飛ばされたときに出会ったトラピッチェの顔を思い出す。

「トラピッチェ・“エメラルド”…。あいつも、いずれあたしが倒してやる…」

 パイロープは、悔しそうに拳を握りしめる。パイロープが口にしたのは、トラピッチェ・クリスタルではなく、なぜかトラピッチェ・エメラルドという名前であった。

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