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第6話 融合合体 グランフォーニ!

 時空盗賊団ダイアスポアは、無限にあるとされる聖界を廻り、時空族が残した秘宝を探している。

 遥か古に滅んだと言われる種族…時空族は、時間や空間を自由に操ることが出来たという。カナリーたちが乗っている船も、時空族が残した秘宝の一つで、彼女たちには理解出来ない力で動いていた。ダイアスポアのボス“ジェバイト”は、そんな奇跡の力を独占し、さらに強大な力を手に入れようと企んでいた。

「あの山に、竜の巣があるのだな…」

 ジェバイトは、モニターに映った岩山を見つめる。切り立った岩山で、地上から登るのは困難に思えた。

「どの世界の竜族も、同じような場所に巣を造る…」

 ジェバイトは、ニヤリと微笑んだ。これまで廻った聖界でも、竜の住みかは、人が立ち入れないところにあることが多かった。

「あれ〜っ、へんやな〜〜〜…」

 カナリーは、パネルを操作しながら呟く。

「おかしら〜。時空力の反応、どっかに消えてしまいました〜…」

 時空転移してくる前に察知した反応は、跡形も無く消えていた。

「あたいらに気づいて、お宝隠したんかな〜…」

 カナリーが小首を傾げていると、ジェバイトが立ち上がる。

「竜機兵に調査させろ!」

 ジェバイトは、吐き捨てるように指示を出した。

 カナリーは、ジェバイトの苛立ちを感じて、慌てて竜機兵を出撃させる。だが、そこは竜族の住みか…。どんな危険が待ち受けているかもわからなかった。

 次々と竜機兵が飛び出して行く。その中には、龍の形をした機体もあった。

「あいつ、また勝手なことを!」

 カナリーは、リーンウィックの姿を見つけて舌打ちをする。マイクを手に呼び戻そうとすると、それを制するようにジェバイトが笑いはじめた。

「かまわん、ほおっておけ…」

 さきほどとは打って変わって、機嫌が良くなるジェバイト。

「どのみち、ヤツは我々に逆らうことはできん…」

 ジェバイトは、ニヤリとした笑みを浮べ、リーンウィックを凝視した。


 空賊船が空の彼方へ消えてから数時間したころ、ダイたちはいまだ戦いのあった場所にいた。

「なぁ…」

 サニディンは、声を押し殺して呟く。

「オレたちは、早く奴らの後を追いかけなければならないんだよな…」

 サニディンの身体は、小刻みに震えている。ダイが頷くと、サニディンは怒りに任せて大きく叫んだ。

「じゃあ、こんな所で遊んでないで、さっさと出発しなきゃいけないだろ〜がっ!」

 その叫びに、木陰で寝転んでいるモルファや水遊びをしていたレイチェルは、驚いたようにサニディンを見つめた。

「はぁ〜…」

 そんなサニディンを他所に、ダイは大きなため息をつく。

「今日と明日は、お休みにするって言ったじゃないか〜…」

 その言葉に、サニディンは絶句する。

「詳しくは、『超獣神グランゾル』第四話をご覧ください♪」

 追い討ちをかけるように、ダイはにっこりと微笑んだ。

「ふっざけるなーーー!」

 サニディンは、頭を抱えながら怒鳴り声を上げた。

「まぁ〜…。奴らを追いかけても、対抗できないんじゃ〜しょうがないだろうね〜」

 パイロープは、ぬいぐるみ状態のアルフォーニを抱っこしながら呟く。

「それより、奴らを出し抜く作戦を考えないといけないね〜…」

 パイロープたちは、へっぽこ勇者隊に、おもいっきり馴染んでいた。

「グランゾルに超進化光線をあてて、巨大竜にしてしまうのはどうでしょう〜?」

 グロッシュラーの提案は、一瞬で却下される。

「そういえば〜、ツァボライトさんって…喋れるの?」

 ダイは、まったく喋ろうとしないツァボライトに問いかける。今の状況ではまったく関係ない質問なのだが、ツァボライトはゆっくりと頷いた。

「…って、おまえら真面目に考える気があるのかーーー!」

 サニディンは、額に血管を浮べながら叫ぶ。

「時空石ってのが無ければ、おまえらは元の世界に帰れないんじゃなかったのか!」

 目的の違うサニディンが心配することではないが、このままではドラゴンの財宝も全て持っていかれてしまう気がするのだ。

「あ〜、それなら大丈夫♪」

 ミントベリルは、にっこりと微笑む。

「あの人たちは、時空族の秘宝を、どうやっても手に入れることができない…」

 ダイたちがきょとんとしていると、ミントベリルは懐からある物を取り出した。

「だって、わたしが持ち歩いてるんですもの〜♪」

 ミントベリルは、淡く光を放つ宝珠をダイたちに見せた。

 ダイたちは、呆然と時空族の秘宝を見つめる。

「な〜んだ。なら安心だね♪」

 ダイが呟くと、パイロープは豪快にずっこけた。

「って、なにを落ち着いてるんだい! あたしたちの探してる時空石が目の前にあるんだよ!」

 パイロープが宝珠を奪い取ろうとするのを、ミントベリルは苦笑しながら避けた。

「この腐れ竜族…、さっさと時空石を渡しな…」

 パイロープは、ミントベリルを睨み付ける。精霊界の聖獣である光竜と魔族は、基本的に仲が悪かった。

「まちなさい。これは、わたしがこの世界に来るために、ラルドさまからいただいた秘宝…。すでに、時空転移を起こせるほどの時空力は残っていません…」

 ミントベリルは、諭すように呟く。

「でも、この世界には、他にも時空族の秘宝が眠っているはず。あの空賊さんたちなら、それを見つけることもできるでしょうね〜…」

 ミントベリルは、意味ありげな笑みを浮べた。

「なるほど〜。時空石探しは、空賊さんたちに任せておけばいいわけだね♪」

 ダイが視線を向けると、パイロープも頷く。

「ああ…。奴らが時空石を見つけたら、問答無用で奪い取る!」

 パイロープとダイは、がっちりと握手した。

「それには、空賊さんたちに勝つ方法…。超獣神のパワーアップが必要ですね♪」

 ミントベリルは、そんな提案をする。

「ロボットアニメには、主人公機のパワーアップは欠かせませんから♪」

 途端に、ダイがずっこけた。その意味は、ダイにしかわからないものであった。

「でも、パワーアップって言っても〜。ねぇ、グランゾル…」

 ダイは、苦笑しながらグランゾルに問いかける。

「武器とかを揃えても、あの超龍神には勝てる気がしないよ〜」

 多少の装備を整えたところで、リーンウィックには通用しないと思われた。

『そうですね…。リーンウィックは、わたしたち超獣神の中で最強を誇ります…』

 アルフォーニは、グランゾルをチラリと見る。

『仮にグランゾルの力を1とするなら…、わたしの力が2、リーンウィックは5…。二人がかりでも、力負けしてしまいます…』

 もちろん、単純な数値だけなのだが、それでもその差は圧倒的なものであった。

「グランゾルのパワーアップなんかしなくても、竜族のあんたが戦えば話は早いんじゃないのかい?」

 パイロープは、うんざりとした表情で呟く。

 今でも手強い相手に、これ以上パワーアップでもされたら、パイロープたちはグランゾルに一生勝てなくなってしまうかもしれない。リーンウィックを追っ払ったのはミントベリルである。ミントベリルが本気を出せば、数分で決着が付くはずなのだ。

「う〜ん…。わたしは元々この世界の住人じゃないから、あまり大きなことはできないのよ。魔界から大魔王とかが攻めてきたら、話は別だけど…」

 ミントベリルは、苦笑気味に呟く。

 神に匹敵する力を持つミントベリルが戦えば、聖界のバランスを著しく崩してしまう。それに、ミントベリルにしてみれば、今回の一件も、人間同士の小競り合い程度の出来事であった。超獣神同士の戦いや時空盗賊団ダイアスポアの存在は、確かに想定したものではない。それでも、ミントベリルが戦うほどではなかった。

「ちっ…。役立たずだね〜…」

 パイロープは、憎々しく舌打ちをする。

「グランゾルのパワーアップはそっちでやってくれないかい。こっちはこっちで、アレックスの改造に入るよ」

 パイロープは、グロッシュラーとツァボライトを引きずるように去っていった。

「ドロンジョさま、機嫌が悪いのかな〜…」

 ダイは、立ち去るパイロープをジッと見つめた。

「さてと…。グランゾル、なにかいい方法はないかな〜」

 超獣神のパワーアップなど、どんなに考えてもいいアイデアが浮ぶはずもない。なにしろ、超獣神の存在自体が、ダイたちの想像を遥かに超えているからだ。

『うむ…』

 グランゾルは、かわいい姿で考え込む。

『我ら超獣神は、ただの機械ではない…。命を持つ生命体…なのだ』

 グランゾルの説明によると、超獣神のパワーアップとは、鍛練や経験を積むことによる成長であるという。

「じゃあ、劇的なパワーアップは…無理なの?」

 ダイの問いかけに、グランゾルは頷いた。

「…って、なんかないの? ほら〜、サポートメカと合体したり、超獣神の二体合体とか〜〜〜」

 その言葉に、グランゾルとアルフォーニはお互いの顔を見合わせる。

『…あ!』

 二体の超獣神は、同時に間抜けな声を上げるのだった。



「融合合体〜?」

 その聞きなれない言葉に、ダイは小首を傾げた。

『ああ…。超獣神は、わたしが鳳凰、アルフォーニが麒麟といったように、四聖獣の化身とされている…。そして、他の聖獣の力を取り込むことによって、数十倍のパワーアップが可能な…はずだ』

 グランゾルは、なぜかはっきりしない口調となる。ダイが不思議そうにしていると、代わりにアルフォーニがその理由を答えた。

『わたしたち超獣神が同じ聖界に揃うことなんて、普通は考えられない…。つまり、融合合体という言葉は知っていても、これまで試したことがないのです…』

 アルフォーニは、グランゾルに視線を向ける。

『それに…。どんな理由があるにしても、他の超獣神と融合だなんてお断りですね…』

 アルフォーニは、素っ気無く呟いた。

『それはお互いさまだ! わたしとて、キサマの力を借りてパワーアップする気など、まったく無い!』

 グランゾルは、そっぽを向くようにアルフォーニから視線を逸らせる。そんな態度に、ダイは大きなため息をついた。

「あう〜…」

 そこに、遊んでいたはずのレイチェルがやって来た。レイチェルは、アルフォーニをそっと抱き上げる。

「アルフォーニ、わがまま言っちゃだめだよ…」

 レイチェルは、ぬいぐるみ姿のアルフォーニに頬擦りをする。

「あの空賊さんたちをこのままにしておいたら、この世界は大変なことになっちゃう…」

 時空盗賊団ダイアスポアは、超獣神二体がかりでも敵わなかった。しかも、数時間前の戦いから考えると、目的のためなら手段を選ばない相手のようである。

「お願い…、グランゾルに協力してあげて…」

 レイチェルの脳裏には、優しい両親の姿や孤児院のみんなの笑顔が浮んでいた。ダイアスポアを何とかしなければ、みんなが戦いに巻き込まれてしまうかもしれないのだ。

「ボクからもお願いするよ…。それに、世界は違っていても、平和を護るのが超獣神なんでしょ!」

 ダイは、アルフォーニに訴えるように叫ぶ。すると、どういうわけか、グランゾルが大粒の涙を流し始めた。

『ダイ…。ようやく勇者としての使命に目覚めてくれたのだな…』

 グランゾルは、涙を浮かべながら頷きを繰り返す。

『わたしも、くだらないことに、こだわり過ぎていたようだ…』

 そう言って、グランゾルは、アルフォーニに頭を下げる。

『わたしだけの力では、ヤツらを止めることはできない。アルフォーニ…、わたしに力を貸してくれないか?』

 グランゾルにも、この聖界の超獣神だという誇りがある。それが頭を下げて頼み込んでいるのだから、アルフォーニもさぞ驚いたことだろう。

『あ…、なにも協力しないと言ったわけでは…』

 アルフォーニは、困ったような表情を浮かべる。もちろん、グランゾルが頭を下げなくても、マスターであるレイチェルのお願いを断われるはずもなかった。

「じゃあ、さっそく融合合体といきましょうか〜♪」

 ミントベリルは、嬉しそうに号令をかける。ダイも、仕方なく重い腰を上げた。

「あ〜ぁ…、これで休憩終りか〜…」

 ダイは、遠い目で空を見上げる。

「ま〜、仕方ないよね…。“面倒”だけど…」

 面倒の部分を強調しながら、ダイは大きなため息を吐いた。

『グランゾル…。あなた…、騙されたのでは?』

 アルフォーニがそんなことを呟く。

『あぁ〜…、ダイよ〜…』

 しくしくと涙を流すグランゾル。ダイからは、さきほどまでの勇者らしさが、まったく感じられなかった。


 巨大ロボットとなったグランゾルとアルフォーニには、それぞれダイとレイチェルが乗り込んでいた。

「レイチェル、いくよ!」

 グランゾルの中にいるダイが、手にした球体を突き出す。

「あう!」

 アルフォーニのコックピットでは、レイチェルが同じように球体を前に押し出した。

『融合合体!』

 グランゾルからダイの叫び声が聞こえる。その瞬間、二体の超獣神が光に包まれる。お互い駆け寄るように走り出し、グランゾルとアルフォーニは、重なるように…正面衝突した。

『ぬぉおおおーーー!』

 アルフォーニに正面から激突したグランゾルは、顔面を押えたまま倒れ込み、そのまま七転八倒する。一方のアルフォーニは、ぶつかった痛みはあるものの、ジタバタするほどではなかった。

「え〜っと…、アルフォーニ…さん?」

 そんな様子を見ていたミントベリルは、苦笑しながら問いかける。

「もしかして…、融合合体の方法…知らない?」

 アルフォーニは、当然のように頷いた。

『ならば!』

 ダイは、グランゾルを起こして、大きく叫ぶ。

『グランゾル、聖獣モード・チェンジ!』

 グランゾルの姿は鳳凰となり、大空へと舞い上がる。

『融合合体!』

 叫びながら急降下して、アルフォーニの肩に着地した。

 アルフォーニの背中から翼が生えたように見えなくもないが、どこか不恰好でかなり無理がある。さらに、アルフォーニには、聖獣形態となったグランゾルの全体重がかかっていた。

『って、重いです!』

 アルフォーニは、背中にしがみ付いているグランゾルを振り落とした。

『それなら!』

 再び、グランゾルからダイの声が聞こえてくる。

『レイチェル、アルフォーニを聖獣モードに!』

 ダイの指示に、レイチェルは “あう!”っと可愛く答えた。途端に、アルフォーニが麒麟の姿へと変形する。

『グランゾル、バトルモード・チェンジ! で〜、融合合体!』

 そう言って、人型となったグランゾルは、アルフォーニの背中に跨った。

 聖獣モードになったとはいえ、大きさが極端に変わるわけではない。麒麟の姿をしたアルフォーニは、グランゾルの体重を支えることができずに潰れてしまった。

『あぅ〜…』

 アルフォーニから、レイチェルの哀しそうな声が聞こえてくる。

「なんか…、違うんじゃないか…?」

 モルファは、呆れた口調で呟く。その隣では、サニディンが目頭を押えて項垂れていた。

 すると、グランゾルとアルフォーニが光に包まれ、ゆっくりと縮小していく。光からは、ダイとレイチェルが飛び出し、軽やかに地面へ着地した。

「やっぱり…無理」

 ダイが真顔で呟く。それを聞いたサニディンは、豪快にずっこけた。

「無理じゃねぇーーーーー!」

 サニディンは、叫びながら頭を抱える。その怒りは、そのうち頭の血管が切れるのではないかと思うほどであった。


「まぁまぁ〜♪ 直ぐに結論を出さなくて…も…」

 サニディンを落ち着かせようとするミントベリルだったが、突然、ハッとした表情で黙り込んでしまう。ダイたちが不思議そうにしていると、ミントベリルは、信じられないことを呟いた。

「う〜ん…。どうやら、マシュー山の結界が破られちゃったみたいね〜…」

 何かを感じ取ったのか、ミントベリルは、困ったような顔で苦笑した。

「マシュー山の! ド、ドラゴンの財宝は!」

 マシュー山の財宝が目的だったサニディンは、慌てた様子で問いかける。ミントベリルは、ジト目でサニディンを睨み付けた。

「うちには、財宝なんてありません…」

 ミントベリルは、大きなため息をつく。たしかに、財宝を貯め込む竜族も多いのだが、ミントベリルにはそれほどの収集癖は無いようだ。

「財宝が…ない…?」

 それを聞いたサニディンは、両手両膝を地面について、この世が終ってしまったかのように落ち込む。財宝目的でレイチェルを誘拐しようとしたり、超獣神を操るダイたちに近づいたりしたが、その全てが無駄だったようである。それに、ここまで関わってしまった以上、はいそうですかと言って、逃げ出すわけにもいかなかった。

「でも、勝手にお家へ入られて、大丈夫なの?」

 ダイは、心配そうな表情で呟く。下手をすれば、竜機兵に家が破壊されてしまうのではないだろうか。

「え〜っと、盗られる可能性があるのといえば〜…。わたしが産んだ卵ぐらいかしら?」

 ミントベリルは、とぼけたように呟いた。

「ミントさんが産んだ…、ドラゴンの卵ーーー!」

 サニディンが驚くのも無理はない。

 ドラゴンは、二千年に一度、たった一つの卵を産む。その卵は、約七百年かけて孵るとされ、持ち主に幸運をもたらすことでも有名であった。稀少なドラゴンの卵は、高額で取引きされており、最低でも国が丸ごと買えるほどの値段になるという。ドラゴンの卵は、財宝の価値が霞んで見えるほどのお宝であった。

「それって、ミントさんの赤ちゃんが大変だってことだよね!」

 ダイは、慌てた様子で問いかける。レイチェルも、心配そうにミントベリルを見つめた。

「いや…。盗られたとしても、そのうち孵るでしょうし…」

 ミントベリルは、ダイたちの反応に困ってしまう。ドラゴンは、孵化に七百年を必要とするため、産まれたばかりでも高い戦闘力を持っている。持ち主を気に入れば、そのまま守護獣になってもいいし、気に入らなければ、倒してでも逃げ出せばいい。

 それは、産まれてくる子供の問題であり、親がとやかく言うことではない。そもそも、卵が親元にいつまでもあることの方が珍しいのだ。

 種族による考え方の違いなのだが、それをダイたちが納得できるはずはない。

「よしっ! ミントさんの赤ちゃんを助けに行こう♪」

 ダイが右手を突き上げると、レイチェルも元気良く“あう♪”っと答えた。

「そ、そうだな! ドラゴンの…、いや、ミントさんの卵を奴らに取られてたまるかーーー!」

 サニディンは、にやけた顔で叫ぶ。どうやら、目的が財宝からドラゴンの卵に変わったようである。

「って! 融合合体もできないのに、わざわざ殺されに行くつもりなの!」

 ミントベリルは、少しだけ怒った口調となる。数時間前死にかけたばかりだというのに、ダイたちはいったい何を考えているのだろうか…。

 しかし、ミントベリルがどんなに説得しようとも、ダイの決意は変わらない。ミントベリルは、諦めたように、大きなため息をついた。



 パイロープたちが戻ってきたとき、ダイたちの姿はどこにも見当たらなかった。不思議に思いながら辺りを見回すと、木の幹に何かが貼ってあるのに気づいた。パイロープが近づいてみると、それは、ダイからのメッセージが書かれた紙であった。そこには、大きな文字で“先に、マシュー山へ行っています♪”と書かれていた。

「ちっ…、あのバカ!」

 パイロープは、怒ったように舌打ちをする。戦いの準備も出来ていないのにマシュー山へ向かうなど、死にに行くようなものである。

「おまえたち、マシュー山に向けて出発するよ!」

 パイロープは、慌ててグロッシュラーたちに指示を出した。そのセリフに、グロッシュラーは難色を示す。

「パイロープさま、お待ちください…。まだ、アレックスのパワーアップも終っていないのですよ〜」

 グロッシュラーは、苦笑気味に呟いた。いま、考えなしにマシュー山へ向かえば、それこそダイたちと同じなのだ。

「えぇい、さっさとおし!」

 そんなグロッシュラーを、パイロープが怒鳴りつける。

「へっぽこには借りがあるんだ。このまま死なれでもしたら、寝覚めが悪いんだよ!」

 言葉とは裏腹に、ダイたちをかなり心配しているようである。本人は悪女を気取っているようなのだが、パイロープは、根っからの良い人であった。

「はぁ〜…。しかたありませんね〜…」

 グロッシュラーは、諦めたようにため息をつく。

「では、今週のお便りコーナー♪」

 そう言って、グロッシュラーは、一枚のハガキを取り出す。その瞬間、パイロープが豪快にずっこけた。

「またかい、またなのかい!」

 パイロープが涙目で叫ぶ。

「はい〜。今週の出番は、これで最後ですから♪」

 グロッシュラーは、意味不明な返事をする。パイロープは、もうどうでもいいや…といった顔をして項垂れた。

「それではあらためて…。緑柱石にお住まいの、野乃原真菜ちゃん七歳からのお便り〜。 『グランゾルとアルフォーニは、どっちがお兄さん(お姉さん)ですか?』 との質問です〜♪」

 すると、グロッシュラーは、考え込むように唸り声を上げる。

「う〜ん、この質問は、監督のクリスタルさんに聞いてあります…。クリスタルさんのお答えでは、“よくわかりません♪”とのことでした〜♪」

 途端に、どこかで爆発が起こり、パイロープとツァボライトが“シュビビン、シュビビン”と画面内(?)を飛びまくった。

「なんだい、その適当な答えはーーー!」

 パイロープは、グロッシュラーの胸倉を掴んで、前後に揺する。もちろん、グロッシュラーが質問に答えたわけではない。

「いやはや、監督さんの説明では、超獣神が四体いるって設定も、この番組が始まってから出来たそうですから、細かいところまで決まってないのではないでしょうかね〜…」

 グロッシュラーは、困ったように呟く。

「そもそも、我々が登場する予定すらなかったわけですし…」

 それを聞いたパイロープは、複雑そうな表情で項垂れてしまうのだった。


 時空盗賊団ダイアスポアの空賊船では、マシュー山へ向かおうとしているグランゾルたちの姿を捉えていた。

「あの超獣神〜、ブルースにやられたんじゃなかったのかーーー!」

 僅か数時間で復活していたグランゾルを見て、カナリーが大声を上げる。竜機兵たちと戦っているグランゾルの装甲は、まるで新品のようにピカピカだった。

「ちっ、竜機兵だけじゃ歯が立ちやしない…。よしっ、あたいのコーネルピンを用意しなぁ!」

 カナリーは、部下たちに命令をする。そのとき、マシュー山の山頂付近で大きな爆発が起こった。

「ふふっ、遅かったやんか…。ブルース…」

 すると、立ち昇る煙の中からは、龍の形をしたマシンが現れた。

『ダイ、リーンウィックだ!』

 ぬいぐるみ姿のグランゾルは、ダイに注意を促す。まともに戦えば、グランゾルたちに勝ち目はない。

「超龍神だね…」

 ダイは、息を呑みながらリーンウィックを見つめる。リーンウィックは、身体をくねらせながら、こちらに向かってきていた。

「グランゾル! 聖獣モード・チェンジ!」

 ダイは、手にした光の球体を、おもいっきり突き出した。

 グランゾルが大きくジャンプすると、その姿は伝説上の瑞鳥鳳凰となる。聖獣となったグランゾルは、猛スピードでリーンウィックへ突っ込んだ。

 空中で交差する二体の超獣神…。しばらくすると、グランゾルの翼の付け根に爆発が起こった。グランゾルは、ヨロヨロと漂いながら、なんとか体勢を立て直す。

 リーンウィックが口を大きく開くと、信じられないほどのエネルギーが練られる。細長い身体をそり返し、グランゾルめがけてレーザーを照射した。眩い閃光の後、地上に広範囲の爆炎が発生する。リーンウィックが放ったレーザーによって、地表が一瞬にして蒸発してしまったのだ。

『ちっ!』

 なんとか交わしたグランゾルだったが、力の差は歴然のようである。そのとき、地上から放たれた炎の矢が、リーンウィックにヒットする。

『アルフォーニ!』

 グランゾルが視線を向けると、巨大な弓を構えたアルフォーニが、リーンウィックを睨みつけていた。

『グランゾル! うまくかわしてください!』

 そういうと、アルフォーニの全身が炎に包まれる。空中に幾つもの炎球が浮び上がり、構えた弓には巨大な炎の弓が番えられた。

『第二の矢刃…、牙焔波!』

 アルフォーニが弦を離すと、炎の矢は回転する炎球を纏いながら放たれた。

 牙焔波は、一撃必中の矢刃である。放たれた炎の矢は、大気を焦がしながら、リーンウィックに襲いかかった。だが、リーンウィックは、それを難なくかわす。牙焔波は、空をも貫き、宇宙空間で大爆発を起こした。

「あ、が…」

 遠くから超獣神たちの戦いを眺めていたモルファは、そのあまりにも激しい様子に唖然とするしかなかった。


 ダイたちがリーンウィックと戦っていたころ、マシュー山にある洞窟を一人の少年が奥へと進んでいた。ダイたちと同い年ほどの少年は、目から頬を覆い隠すような仮面を付けている。その少年とは、超龍神リーンウィックのマスター、ブルースピネルであった。

「リーンウィック…、なんとか持ちこたえてくれ…」

 暗闇を駆けながら、ブルースは、そんなことを呟く。

「はっ! 何者!」

 気配に気づいたブルースは、手にした槍を構える。現れたのは、戦いの合間を縫って駆けつけたミントベリルだった。

「あなたが、超龍神リーンウィックのマスターですね♪」

 ミントベリルは、不用意に近づく。その瞬間、ブルースの槍が目前に迫ってきた。

「はいはい、落ち着きなさい!」

 ミントベリルは、迫る刃先を素手で弾き飛ばし、ブルースの頭を鷲掴みにした。

「ちっ、何をする!」

 ブルースは、万力のような締め付けから、逃れようと暴れる。しかし、頭を掴んだミントベリルの手は、まったく外れようとしなかった。すると、ブルースの気配が一変する。それを感じ取ったミントベリルは、咄嗟にブルースから距離を取った。

「精霊力…、それも光とは…」

 ミントベリルは、ブルースから感じられる力に驚きの声を漏らす。その力は、精霊界でも持つ者が皆無とされる光の属性であったからだ。

「なるほど…。その仮面で、本来の力を隠しているわけね…」

 ミントベリルは、ブルースのズレかかった仮面を見つめる。

「それほどの力があるのなら、超獣神に乗らず、生身で戦ったほうが強いでしょうに…」

 その言葉を聞いたブルースは、構えていた槍先を地面に向ける。

「あなたがマシュー山の…」

 ブルースが呟くと、ミントベリルはにっこりと微笑む。ミントベリルが自己紹介をすると、ブルースは慌てて槍を収めた。

「竜族は、人の記憶を読み取る術を持っているという…。教えてくれ、オレはいったい何者なんだ!」

 もの凄い剣幕でつめよるブルースに、ミントベリルはたじろいでしまう。何者だといわれても、それはミントベリルの方が聞きたいことであった。

 そのとき、とてつもない振動と共に、洞窟の奥が崩れはじめる。危険を感じたミントベリルは、ブルースを抱え、浮遊しながら猛スピードで洞窟から飛び出した。

 ブルースを抱えたミントベリルは、空に浮びながらマシュー山を見下ろす。そこには、バトルモードとなったリーンウィックが、山肌へめり込むように倒れていた。

『うぉおおおーーー!』

 突然、辺りにそんな雄叫びが響き渡る。

「な、なんだ、あの超獣神は…」

 それを見たブルースは、愕然とした声を上げた。空中に浮んでいたのは、グランゾルを二回りほど大きくした謎の超獣神であったからだ。

「融合合体が…成功したの?」

 ミントベリルは、驚いたように呟く。

「超獣神グランフォーニってとこかしら…」

 グランゾルとアルフォーニの特徴をあわせ持つその姿は、まさしく最強の超獣神と呼ぶにふさわしいものであった。

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