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 鳳凰編 第8話 偉い人は言いました。○○キャッチャーは貯金箱であると

 山奥の洋館へ戻ってきたパイロープたちは、自分たちの置かれた状況に頭を抱えていた。

「アレックスとコーネルピンがやられちまって、頼りはへっぽこの乗るグランゾルだけかい……」

 パイロープが項垂れるのも無理はない。レイチェルをさらった謎の敵と戦うには、圧倒的に戦力が不足しているからだ。

「でも、グランゾルだけじゃ、あの巨大竜にも勝てないよ。こっちへ来るのにエネルギー使っちゃったから、アウイナイトも戦えないし……」

 いつの間に合流したのだろう。ぬいぐるみ形態のアウイナイトがダイの周りを楽しそうに飛び回っている。しかし、そのぬいぐるみはメインコアが具現化しただけの存在で、機獣神本体は、エネルギー回復のため最低三ヶ月は別次元で休眠が必要だという。

『まったく、この聖界(鳳凰界)の超獣神はひ弱だよねぇ〜。たしか、超獣神の中で最後に創られて、基本戦闘力が一番低いんだよね〜』

『うぐっ……』

 アウイナイトの言葉に、グランゾルは言葉を詰まらせる。紛れもない事実であるため、言い返したくとも出来ないようだ。

 同じ超獣神でも強さには差があった。単純に数値化するなら、超鳳神グランゾルが1、超麟神アルフォーニが2、超龍神リーンウィックが5、超亀神カークンが9と――創造された時期が早いほど強い戦闘力を持っている。

 そして、機獣神は、超獣神の二倍以上強いとされている。そのため、最低でも戦闘数値は18以上となる。そんな機獣神白虎のコーネルピンに勝利したわけだから、フォームチェンジを操るアルフォーニはそれ以上の強さということになり、戦闘数値が1のグランゾルでは話にもならないわけだ。

「う〜ん、こうなるとコーネルピンがやられたことが悔やまれるね〜。コーネルピンが無事なら、グランゾルとの融合合体も可能だったかもしれな〜って、あっ……」

 おもわず口を塞ぐパイロープ。ばつが悪そうに、そっとカナリーの様子を窺った。

 その視線に気づいたのか、カナリーは困ったように苦笑する。

「いやぁ〜、あっさり負けてもぉて……ほんま申し訳ないな〜」

 あははっと笑うカナリーだったが、その明るさが逆にパイロープたちを困らせる。パイロープは、なんとか話題を変えようと、必死に考えを巡らせた。


「そ、そうだよ。グロッシュラー、アレックスに替わるマシンは見つかったかい?」

 パイロープは、ラルド屋総本舗時空店のカタログを凝視しているグロッシュラーに問いかける。

「いや〜、ちょっとした兵器ならたくさんあるんですが〜、アレックスほどの性能を持ったマシンなどそう簡単に存在しませんよ〜。それに、売っていたとしても先立つ物が――ですね〜……」

 グランゾルにやられることの多いアレックスだが、あれでもトラピッチェ・エメラルドから譲り受けた時空族の遺産である。たとえ同じような性能のマシンがあったとしても、それこそ目玉が飛び出るような値段になるだろう。

 ちなみに、ラルド屋総本舗とは、アレックスが故障したときの修理や装備兵器を購入しているお店である。また、パイロープたちは気づいていないようだが、店名にラルドと付いている以上、謎の時空族トラピッチェ・エメラルドが関係しているものと思われる。

「やれやれ、またあのインチキ商売を始めないといけないのかい……」

 アレックスを修理する資金を稼ぐため、仕方なく行っていたインチキ商売。自称大悪党にもかかわらず、パイロープはかなり毛嫌いしていた。

「で〜、なにか元手もかからず、大儲けできる商売はあるのかい?」

 路上販売のような場合、どんな商品を揃えるのではなく、売りになる特徴が重要となる。たとえば、まな板どころか台座まで切れてしまう包丁や、ひたすら長い高枝切りバサミなど――

 切れ味が鋭いといっても台座を切るわけではないし、高枝切りバサミも長すぎると持ち上げるだけでも困難となる。そんな商品も、言葉巧みに誘導すれば高額で売ることもできる。客も納得して買うわけだから、厳密にいうとインチキではない。包丁はちゃんと台座も切れるし、高枝切りバサミは十メートルも伸びるからだ。

 もちろん、使い物にならないわけだから、買った者にとっては“騙された”と感じてしまうのも無理はないのだが――

「じゃあ、こんなのはどうかな〜?」

 突然、どこからか大きな金たらいを取り出すダイ。謎の粉を、金たらいの三分の二ほど入れる。

「え〜、これはボクの国に伝わる魔法の粉です。この魔法の粉に、水を三分の一ほど入れて液体にします。ツァボライトさん――お願い♪」

「うがっ!」

 事前に打ち合わせでもしていたのだろうか。ダイの合図で、ツァボライトが金たらいへ水をゆっくりと入れていく。すると魔法の粉が溶けて、やや粘りのある液体となった。

「この魔法の粉を溶かした水には不思議な効果があって〜、このように強い力で握るとお団子になっちゃいます♪」

 ダイが液体を手にすくい素早く左右に転がすと、なんと団子状の固形になってしまった。

「おぉ〜!」

 その変化に、パイロープたちは目を丸くする。

「でも、動かしていないとお団子は……水に戻っちゃいます」

 動かす手を止めると固形から液体へと変わり、ダイの手から金たらいへと流れ落ちる。

「さらに、今度はこの水の中に入っちゃうね」

 そういうと、素足となったダイは、金たらいの中へ入ってしまう。パイロープたちが意味もわからずに呆然としていると、ダイは素早い動作で足踏みを始めた。

「な、なんだってーーーーー!」

 驚きの現象に、パイロープは叫び声を上げる。なんと、足踏みをしたダイが水の上に浮かんでしまったからだ。

 そんなパイロープたちの驚いた様子に、ダイは満足気な笑みを浮かべる。

「さてさて、この不思議な魔法の粉……。希少なため市場出ることはほとんどありませんが〜、今回に限って特別にどど〜んと大量放出! 一袋(3kg入り)100万のところ、記念特価5万!!」

「安っ!」

「限定品であるため数に限りがございます。この機会を逃したら二度と手に入ることは無いよ〜。ってことで〜、ドロンジョさまも一袋――どう?」

「買った!」

 即決するドロンジョさまことパイロープ。なぜか汗ばんだ手で、この国のお金で5万を握り締めていた。

「じつは、この粉ただの“片栗粉”で〜、一袋の値段は1000ぐらいかな〜♪」

 あははっと笑いながら秘密を暴露するダイ。インチキ商売にかけては、パイロープたちよりもダイのほうが才能あるかもしれない。

「なっ、へっぽこ! あたしたちを騙してたのかい!」

 巧みな話術に引きこまれたパイロープは、たとえ5万を払っても買おうとしていた。怒ったパイロープは、ダイの頭を脇に抱えて、ぐいぐいと締め上げる。

 ちなみにこの魔法の粉。驚きの効果はあるものの、冷静になって考えればただの片栗粉である。料理などに使わなければ、ただのびっくり芸でしか役に立たなかったりした。

「あははっ。ダイ〜、やるもんやな〜♪」

 成り行きを見守っていたカナリーは、お腹を抱えて笑い出す。ある意味、インチキ商売のプロを騙したわけだから、ダイもたいしたものである。

「うん。ボクには“でん○ろう”先生がついてるからね」

 ダイは穴の開いたダンボール箱を取り出し、側面を何度も強く叩く。ダンボールの穴からは、わっか状の煙が次々と飛び出した。

「まぁ〜、商売の方はあんたらに任せとけば大丈夫やろう。あたしはこれから街にでも行って、ちょっと情報集めてくるわ〜」

 手をヒラヒラとさせながら、カナリーは部屋から出て行く。ダイたちは、上手い具合にカナリーを励ますことができず、深いため息を吐くのだった。


「いや〜。あんな気ぃ〜使われたら、こっちが参ってまうわ〜」

 近くの城下街へやってきたカナリーは困ったように苦笑する。なんというか、ダイたちの雰囲気が無駄に明るい。特にパイロープなどは、常にカナリーの様子を窺いながら喋る言葉も選んでいた。カナリーにしてみれば、ある程度ほっておいてくれた方が気も楽だといえるのだが――

「いや、わたしは恵まれている――というべきでしょうね……」

 突然、カナリーは素の喋りに戻る。自分の哀しみに心を痛めてくれる仲間がいる。カナリーは、コーネルピンを失った哀しみではなく、ダイたちの優しさにおもわず涙した。

「あの子は、幸せだったのでしょうか……」

 不意に、カナリーはそんなことを考えてしまう。コーネルピンとの思い出といえば、戦いの記憶しかない。カナリーがマスターで、コーネルピンは幸せだったといえるのだろうか。マスターが不甲斐無いばかりに破壊され――怨んではいないのだろうか。

 だが、今となっては、コーネルピンの考えを知る手立ては無い。もちろん、機獣神は心を持たない兵器であるため、壊れていなくとも気持ちを知ることは出来なかった。

「こうなると、グランゾルたちのぬいぐるみ機能が少しだけ羨ましいですね」

 メインコアをぬいぐるみ化させて、マスターとの意思疎通を可能とさせる。超獣神にしか備わっていないファンシー機能である。

 しかし、牙龍剣の中に封印されていた青龍のアウイナイトは、自己進化プログラムを使いファンシー機能を実現させていた。もしかすると、コーネルピンも自己進化を促せば、ぬいぐるみ化することが可能だったかもしれない。そうすれば、これまで以上にコーネルピンの考えを理解してあげられて――

「なにバカなことを考えているのでしょう……」

 カナリーは、己の無意味な考えに苦笑してしまう。そんなことを考えていても、コーネルピンが存在していない以上、試しようは無いからだ。

 そのとき、カナリーの視界に不思議なモノが映り込む。なにやら派手な色で塗られた大きな機械で、四方には透明なガラスが張られている。中を窺うと、様々な形をしたぬいぐるみが詰まっており、上の方にはそれらを掴むためのアームが付いていた。

 どうやら、お金を入れてぬいぐるみを取る遊具のようである。遊具には“聖獣キャッチャー”と書かれていた。

 聖獣キャッチャーを見たカナリーは、おもわず怪訝な顔をしてしまう。この遊具は、明らかに鳳凰界のものではない。何者かがこの聖界に持ち込んだのか、あるいはこの遊具そのものが時空族の遺産なのか。とにかく――怪しさ大爆発であった。

「あら……。この子、コーネルピンに似ていますわね」

 聖獣の中に、可愛い白い虎のぬいぐるみが埋もれている。聖獣キャッチャーを謳っているのだから、間違いなく白虎のぬいぐるみなのだろう。

 ついさきほどまでコーネルピンのぬいぐるみ化を考えていたからだろうか。カナリーは、無意識のうちにお金を投入口に入れてしまう。楽しげな音楽と共に、人の声によるガイダンスが流れ、クレーンゲームが始まった。

 そんな奇妙な光景に、次々と野次馬が集まってくる。皆、聖獣キャッチャーに興味津々であるようだ。

 後に聖獣キャッチャーは、この街の名物となる。そして、鳳凰界に一つの格言が作られた。

 “聖獣キャッチャーは貯金箱である”と――

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