鳳凰編 第6話 決着! コーネルピン vs. アルフォーニ炎駒
麒麟は鬣や鱗の色の違いによって呼称が変わることがある。それらの中で紅い色をしている麒麟が炎駒と呼ばれていた。
おそらく、アルフォーニの呼び名もそれに倣っているのだろう。しかし、単に呼び名が変わっただけではなさそうだ。アルフォーニ炎駒の戦闘力は、グランゾルとアルフォーニが融合合体した“グランフォーニ”に匹敵していた。
『第二の矢刃……、牙焔波!』
アルフォーニ炎駒の構えた弓から回転する炎球を纏った矢が放たれる。一撃必中の牙焔波は、周囲の大気を焦がしながらコーネルピンに襲いかかった。
『あまいわーーー!』
瞬時に聖獣モードへ変形したコーネルピンは、素早い動きで牙焔波を避ける。炎の矢は凄まじい勢いで地面を貫き、地中で大爆発を起こす。数日後、その場所からは、ラピス・ラズリの溶けたような青色の地下水が湧き出すことになるという。
「ちょっ! いい加減に――」
巨大ロボット同士の戦いに、パイロープたちは壊れたアレックスの陰に隠れる。下手に飛び出せば戦闘の余波に巻き込まれ、命を落すことは確実であろう。
「あははっ。カナリーさん、楽しそうだね〜♪」
この戦闘は止められないと判断したのか……。ダイは、どこからか取り出した畳の上へ正座して、アルフォーニ炎駒の動きをジッと観察する。レイチェルを助けるためには、アルフォーニ炎駒との戦いは避けられないと考えたようだ。
「って、のんきにお茶なんか啜っている場合じゃないよ! なんとか戦いを止めさせないと、レイチェルがやられちまう!」
戦闘力が高まっているとはいえ、アルフォーニ炎駒は弓矢による長距離攻撃が基本である。一方のコーネルピンは、素早い動きで相手を翻弄し、徐々にではあるがアルフォーニ炎駒との距離を詰めている。近距離戦闘となった場合、アルフォーニ炎駒に勝ち目は無いだろう。
「あの小娘……。レイチェルにケガでもさせようものなら、タダじゃおかないからね」
パイロープは、奥歯を噛み締めて、コーネルピンを憎々しく睨みつける。まったく焦っていないグロッシュラーやツァボライトの態度も、パイロープを少しだけイラつかせていた。
「まぁまぁ、ドロンジョさま落ち着いて〜」
「そうですよ、ドロ……パイロープさま〜。戦いでは、冷静になることも大切です〜」
そういって、グロッシュラーは何の前触れもなく、懐から二枚のハガキを取り出した。
どこからか楽しげな音楽が流れてくる。いつものこと(おやくそく)ではあるが、パイロープはしくしくと涙を流して項垂れた。
「というわけで〜、今週のお便りコーナー♪ ゲストはもちろん、破壊と再生を司るへっぽこ勇者“ダイ”くんです。ダイくん、本日はよろしくお願いしますね〜(ドンドン、ぱふぱふ〜♪)」
「はい。がんばります!」
ダイは、当番組の主人公であったが、視聴者の皆様と関わりあう機会が少ないため、若干緊張気味のようである。
「まず一枚目は、“ほちきす”さんからのお便り。『ドロンジョ様大好きです。他の作品も読んでみたいと思いました。』 とのこと。いやはや、ドロンジョさま、大人気ですよ〜♪」
微笑みながら報告するグロッシュラー。その瞬間、ドロ……パイロープの拳骨がグロッシュラーの後頭部に炸裂した。しかし、顔を真っ赤にしていることから察すると、ただ照れているだけのようである。
「いたたたっ……。え〜二枚目のお便りは、“カサケン”さんからですね〜。『ストーリーが全体的にわかりやすくてよいです。ダイが強いだけでなく、欠点があるとこも親しみが持てて好きです。』 とのこと。元気の出てくるようなお便り、まことにありがとうございました〜♪」
本物のお便り(小説評価/感想)を紹介できて、グロッシュラーは終始にこにこ顔である。だが、欠点があると指摘されたダイは、なにやら複雑そうな表情をしていた。
「え〜っと……。ボクの欠点って――いったい何だろう?」
欠点とは、自分ではなかなか気づきにくく、他人から指摘され初めて理解できるようなもの。グロッシュラーから見れば、ダイなどまだまだ子どもで欠点だらけであった。
「やっぱり、”勇者らしくない”ってところが欠点なんじゃないかい?」
その内容に興味を覚えたのか、珍しくパイロープが会話に参加してくる。
「何度も言うようだけど、ボクは勇者になったつもりなんか無いよ〜」
グランゾルの望みとは裏腹に、ダイは元の世界へ戻るため成り行きで戦ってきただけである。ダイは、自分のことを勇者などと思ったことは一度もない。
「戦闘した後に、壊滅的な不幸を呼び寄せるってことじゃないですかね〜?」
「あぅ〜……」
ずばりな意見に、ダイはレイチェルの口まねをして項垂れてしまう。それを言われると、返す言葉が無いようである。ちなみに、不幸を呼び寄せた後、それに見合う幸福をもたらしたりしているのだが、その事実をダイたちは知らなかった。
「まぁ、ダイくんの欠点は後ほど考えるとして〜。“ほちきす”さん、“カサケン”さん。お便りしていただき、ありがとうございました〜」
グロッシュラーは、ぺこりとお辞儀をする。
「え〜、番組では引き続き皆様からのご意見・ご感想、質問等を大募集しております〜。詳しくは、『超獣神グランゾル』公式サイトをご覧ください〜♪」
すると、画面下部に公式サイトのアドレスが映し出された。
真面目な話をするならば、小説最新話の一番下にある“コメント欄”にご意見・ご感想、質問等を書き込んでくれればOKだ!
「で……。第9話までにお便り(書き込み)が無ければ、いったいどうするつもりなんだい?」
パイロープの懸念は、かなり可能性が高いと思われる。
「いやはや、また元の状態(原作キャラによる質問)に戻るだけで〜」
「………」
おもわず絶句してしまうパイロープ――
なんともいえない空気の流れる中、コーネルピンとアルフォーニ炎駒の戦闘は続いていた。
何百もの矢が強雨のように降り注ぐ。それでもコーネルピンの動きは止まらず、みるみるアルフォーニ炎駒との距離を詰めてきた。
「あぅ〜。あの虎さん、速すぎ!」
超獣神の操縦空間では、仮面を付けたレイチェル――ライムベリルが手にした球体を激しく動かしている。
『さすがは機獣神といったところでしょうか』
ライムベリルの傍らには、小さなぬいぐるみが浮かんでいる。アルフォーニ炎駒のメインコアである。
『レ……、ライム。ここは、一度退くことが得策かと』
「うぅ〜。でもクロムくんが〜」
瀕死となっている巨大竜“クロム”を横目で見るライムベリル。グランゾルに受けた傷は深く、急いで手当てをしないと本当に死んでしまいそうだ。
『ライム! いまのあなたでは……炎駒フォームだけではあの機獣神には勝てませんよ!』
アルフォーニ炎駒の言葉に、ライムベリルは考え込む。だがそれも一瞬のこと。ライムベリルは、迷いを振り切るかのように大きな声で叫んだ。
「それでも――わたしはクロムくんを助ける!」
すると、ライムベリルの決意を感じ取ったのか、彼女の付けている赤いペンダントが青い光を放ちはじめた。
『ま、まさか、この光は!』
驚きの声を上げるアルフォーニ炎駒――
「あ、あぅ!」
予想外の出来事に、ライムベリルはおもわず目を瞑ってしまう。
そんな好機をカナリーが見逃すはずはない。アルフォーニ炎駒との距離を一気に詰め、素早い動作でバトルモードに変形……。ライムベリルが気づいたときには、振り下ろされたコーネルピンの爪が目前に迫っているところだった。
『レイチェル! フォームチェンジ!』
まさに無意識の動作……。ライムベリルは、複雑なコマンドを入力しつつ、手にした球体を思いっきり突き出した。
「フォームチェンジ――“アルフォーニ聳弧”!」
ライムベリルが大きく叫ぶと、アルフォーニの身体は青い炎に包まれる。
そして次にライムベリルが目にした光景は、胸部を鋭い何かで引き裂かれ、激しい爆発を起こしながら地面へ倒れ込んでいくコーネルピンの姿であった。