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 鳳凰編 第4話 へっぽこ(天災)は、忘れたころにやって来る

 上空に現れた巨大な龍の機獣から、六歳ぐらいの少年が飛び下りる。少年は、背負っていた大剣を抜刀し、天高く突き上げて大きな声で叫んだ。

「来い…。グランゾーーール!」

 その瞬間、少年の身体から電撃が発生する。晴れ渡っていた空には暗雲が立ち込め、巨大な魔法陣が浮かび上がり、そこから巨大な金属物体が現れた。

 鳳凰のような形をした金属物体は、落下する少年を頭上に受け止めて、そのまま空中に浮遊する。少年の身体は、溶け込むように金属物体へ吸い込まれていく。すると、無機質だった金属物体は、まるで魂が宿ったかのように動き始めた。

『バトルモード・チェンジ!』

 金属物体から少年の声が聞こえてくる。その叫びを合図に金属物体が変形し、騎士のような姿をした巨大ロボットとなった。

『超鳳神グランゾル…。ここに、見参!』

 かっこよくポーズを決める巨大ロボット…。この四聖界を守護する神の一体、“超鳳神グランゾル”であった。


 グランゾルの操縦空間に、巨大ロボットをデフォルメ化したような小さなぬいぐるみが現れる。このぬいぐるみこそ、超鳳神グランゾルのメインコアである。

『ダイよ。久しぶりだな…』

 可愛い姿には似合わない、じつに渋い声であった。

「グランゾル♪」

 久しぶりの再会に、ダイも瞳に涙を浮かべている。ダイとグランゾルは、僅かな期間ではあったが、共に強大な敵と戦ったパートナーなのだ。

 感極まったダイは、戦闘中であるにも関わらず、グランゾルをギュッと抱きしめる。

「あのね、グランゾル…。グランゾルには、いっぱい話したいことがあって〜」

 会えなかったここ数ヶ月間の想いが溢れ出したのだろう。だが、いまはのんびりと話しをしている場合ではない。

『うむ…。わたしもダイと話したいのは山々なのだが…』

 敵と目される巨大竜は、これまで戦ってきたどんな相手より強いと予想される。おそらく、グランゾルが全力で戦ったとしても勝つことはできないだろう。それほどの敵を前に、油断することは死を意味する。素早く体勢を立て直し、巨大竜に勝つための戦略を練る必要があった。

 たとえ勝てなかったとしても、パイロープたちを助けて、この場から脱出しなければならない。それらを考えるためにも、ダイには落ち着いてもらわないといけなかった。

 しかし、対処すべき問題はもう一つあった。いや、どちらかといえば、その問題こそ、一番に対処しないといけないだろう。下手をすると命に関わる難題…。グランゾルも、そのことに気づいていたようで、大汗を掻きながら遠慮がちに呟いた。

『このような上空でバトルモードとなったら…、墜ちるぞ…』

 その呟きに、慌ててモニターを確認するダイ。はっきりとはわからないが、大気が下から上へと超速で流れているようである。しばらくすると、モニターにキレイなオレンジ色の光が映し出される。大気との摩擦により、グランゾルが炎に包まれているようだ。

 いわゆる自然落下…。バトルモードで飛ぶことのできないグランゾルは、もの凄い空気抵抗を受けて関節箇所をミシミシといわせながら、信じられないスピードで地面へ向けて落下していた。

「ぬ、おあぁーーーーー! せ、聖獣モーーード・チェ…」

 ダイは、操縦のための球体を突き出し、飛行能力のある聖獣モードへと変形させようとする。が…、時はすでに遅かったようで、地上までの距離はほとんど無かった。


「あれは、グランゾル…。へっぽこ(ダイ)なのかい♪」

 上空に現れたグランゾルを見て、パイロープはおもわず弾んだ声を上げてしまう。巨大竜の脅威から助かったことを喜んでいるのではなく、純粋にダイとの再会が嬉しかったようだ。

「くっくっくっ…。あ〜っはっはははぁ〜♪ この腐れ巨大竜、あんたの命も、これまでのようだね〜」

 横転した操縦室で、立ち上がったパイロープは、巨大竜を指差して、無駄にポーズを決める。頭に怪我をして血だらけなのだが、魔族の彼女にとってはたいした傷ではなかった。

「ですがパイロープさま〜…。この巨大竜は、魔界の魔獣に匹敵する強さです。いかにグランゾルといえど、勝つのは難しいと思われるのですが〜」

 いまでこそ仲間のようにしているが、パイロープたち三人組とグランゾルは、幾度となく戦ってきた間柄である。戦績は全敗であり、グランゾルの強さは身にしみて理解していた。だからこそ、グランゾルでは目の前の巨大竜に勝てないと感じ取れるのだ。

「何を言ってるんだい。ヤツはグランゾルの他に、青龍の機獣神のマスターでもあるんだよ! グランゾルと、あのアウイナイトが融合すれば…。玄武の機獣神を倒した“グランナイト”になりさえすれば、どんな巨大竜だって目じゃないんだよ!」

 そう叫んだパイロープは、上空に視線を向ける。だが、さきほどまでそこに存在していたはずのアウイナイトは、どこにも見あたらなかった。

「って、あれ…? アウイナイトは、どこにいったんだい?」

 困惑するパイロープ…。次の瞬間、アレックスの操縦室に、ぬいぐるみ形態のアウイナイトが空間転移で現れた。

『ドロンジョさまのアイデアはなかなか良い感じなんだけど、それが絶対に無理なんだよな〜〜〜』

 軽い口調で呟くアウイナイトに、パイロープはギョッとする。アウイナイトが突然現れたことや、ドロンジョさまと呼ばれたことにびっくりしたわけではない。どうやら、アウイナイトの発言した内容に驚愕しているようだ。

「なんだい、いったいどういう訳なんだい!」

 ドロンジョさまと呼ばれた怒りも含め、パイロープはぬいぐるみ形態のアウイナイトを鷲掴みにする。あまりの恐怖にガタガタと震えるアウイナイトは、その信じられない理由を口にした。

『こ、こっちの聖界へ来るときにエネルギー使っちゃったから、回復するまでの間、機獣神化はできないっていうか〜…』

 そこまで聞いて、パイロープはカナリーとのやり取りを思い出す。確かカナリーは、機獣神が聖界を渡れば、エネルギー回復まで三ヶ月はかかると言っていたはずだ。

「じゃあなにかい…。へっぽこ勇者は、あの化物みたいな巨大竜に、ノーマルのグランゾルで戦わなくちゃならないのかい…。そんなの、勝てるはずがないじゃないか!」

 パイロープは、後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受ける。グランナイトになってパワーアップしない限り、巨大竜との力の差は歴然であった。

『あ、それなら大丈夫〜。この勝負、マスターの勝ちですから♪』

 慌てるパイロープを後目に、アウイナイトは上空のグランゾルを見上げる。グランゾルは、奇妙な動きをしながら高速で落下し、大気との摩擦でオレンジ色に燃え上がっていた。

『え〜っと、ここにいると巻き添え喰らいそうだから、ボクは逃げることにするね♪』

 アウイナイトは、スルリとパイロープの手から逃れ、空中に浮遊する。

『ドロンジョさまたちも…、無事に“生き延びて”ね♪』

 そう言い残したアウイナイトは、空間転移でアレックスの操縦室から姿を消した。

「い、生き延びてって…、いったいなんのことだい?」

 巨大竜の意識はすでにグランゾルの方へ向かっており、攻撃を受ける危険性は少ないと思われる。また、身動きの取れないアレックスに被害が及ばないよう、戦いの場所もここから移されるはずだ。だとするならば、いったいどんな危険があるというのだろうか…。

 なにやら違和感を覚えながら、パイロープは近づいてくるグランゾルをジッと見つめた。

「あの〜、パイロープさま…。グランゾル…、墜ちてきていませんかね〜…?」

 グロッシュラーの何気ない一言に、パイロープの顔から血の気が一気に引いた。そう…、上空でバトルモードに変形したグランゾルは、何をするでもなくアレックスに向けて…正確には威嚇する巨大竜めがけて超速で突っ込んできていたのだ。

「なぁあああああああーーーーーーー!」

 悲鳴にならない声が辺りに響き渡る。壊れたアレックスでは、この場から逃げたすことはできない。パイロープたちは、どうすることもできず、ただその瞬間を待つしかなかった。


 ガガガッ、どっぐぉーーーーー〜〜ん!

 凄まじい衝撃と共に、グランゾルが地面に激突する。隕石が落ちたかのように巨大なクレーターが出来上がり、地表を焦がす業火で、一瞬にして木々を消し炭にしてしまった。

 その直撃を逃れた巨大竜だったが、激しい衝撃はと爆風に吹き飛ばされ、瀕死の重傷を負うことになる。もちろん、近くにいたパイロープたちにも被害は及ぶことになる。生命力の高い魔族である三人組に大きな怪我はなかったが、トラピッチェから譲り受けた恐竜型メカアレックスは壊滅的な打撃を受けて再生不能となってしまった…。

 この日、鳳凰界の全土で比較的大きな地震が観測された。また、ある方向の空が真っ赤に染まり、多くの人々が巨大なキノコ雲を目撃したという。

 数ヶ月後、国の調査団が謎の怪現象を調べにやってくる。そこで調査団のメンバーたちは、とても神秘的な光景を目にすることになった。巨大なすり鉢状の窪みに、地下水だろうか透明度の高い水が溜まっている。しかし、驚くべきことはそれだけではなかった。

 その湖は、鮮やかな青色をしていた。まるで、ラピス・ラズリという宝石が溶け出したかのような神秘的な色である。後の世、突然現れたこの湖を、人々は“ブルーホール”と呼ぶようになる。

 そして、鳳凰界の世界自然遺産に登録されることになるのだった。

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