鳳凰編 第3話 大悪党は、周りから見ると正義の味方
人里離れた山奥に建つ古びた洋館…。十数年来、人の気配すら感じられなかったが、一ヶ月ほど前から、ある者たちが冒険の拠点として利用していた。その者たちとは、元の聖界へ戻るために必要な“時空族の遺産”を探し求め、巨大竜を倒しながら旅を続けるパイロープたちである。
「なんだって? もう一回言ってみな…」
怒りを堪えるような口調で、パイロープが問いかける。
「勝手にレイチェルを連れ出したあげく、何者かに転移させられて、連れ去られたって言うのかい…。えぇーっ!」
パイロープは、説明するカナリーの胸倉を掴み上げる。視線を逸らして項垂れるカナリー…。そんな態度のイラついたのか、パイロープは、怒りに任せてカナリーを壁まで突き飛ばした。
「パ、パイロープさま! 仮にも彼女は魔王“ルシフォン”さまの妹君…。乱暴なことはちょっと…」
慌ててパイロープを止めに入るグロッシュラー。そんなグロッシュラーを、パイロープはギロリと睨み付けた。その恐ろしい形相は、まるで鬼のようである。
「やかましいっ! そんなの関係無い…。レイチェルがさらわれたって事実は変わらないんだよ!」
これ以上抗議したら本気で噛み付かれてしまうかもしれない。グロッシュラーは、脅えながらパイロープから距離を取った。
「パイさんの言う通り…。返す言葉もあらへんわ〜」
よろよろと立ち上がったカナリーは、苦笑しながら頭を掻く。そんな気落ちした様子に、パイロープは何も言えなくなってしまった。カナリーとて、好きでレイチェルを連れ去られたわけではないからだ。
「まぁ〜、高位魔族のあんたが付いていて助けられなかったんだ。あたしたちがその場にいたところで、どうにもならなかったんだろうけど…ね」
済んでしまったことをとやかく言っても何の解決にもならない。少しだけ落ち着いたパイロープは、これから先のことを考えることにした。なんとしても、レイチェルを助け出さなければならないのだ。
「ブルースは、相変わらず行方しれず…。グランゾルが目覚めていれば、アルフォーニの位置ぐらい感じ取ってくれるんだろうけどね〜」
数ヶ月前、ダイが元の聖界へ戻ったと同時に、グランゾルはパイロープたちの前から姿を消した。アルフォーニによると、超獣神はマスターがいないかぎり目覚めることは無いという。
八方塞がりの状態に、パイロープは頭を抱えてしまう。
「そうだよ! あんたの機獣神で時空を渡り、へっぽこと連絡を取って、グランゾルに目覚めてもらうことはできないかい?」
素晴らしいひらめきに、パイロープは拍手を打つ。時空族の遺産でもある機獣神は、単体で時空間の流れの中を移動することができるからだ。しかし、そんな考えを、カナリーは即座に否定する。
「機獣神は基本一人乗りやし、時空転移には結構な量のエネルギー使うんや〜。たとえあっちの聖界へ行けたとしても、それでコーネルピンは動かんようになってまう。時空石でもない限り、もう一回こっちへ来るためのエネルギー貯めるのに三ヶ月ぐらいかかるんやで〜…」
グランゾルを目覚めさせるだけに三ヶ月もかけてはいられない。その間、レイチェルがどんな目にあうかわからないからだ。
もちろん、レイチェルが連れ去られたことだけ伝え、ダイだけが青龍の機獣神アウイナイトで鳳凰界にやって来れば問題はない。その場合、カナリーがレイチェルの安否を知る手立ては失われてしまう。さらに、アウイナイトのエネルギーも失われてしまうため、再び時空石を探し出さない限り最低三ヶ月間、ダイは元の聖界へは戻れなくなる恐れがあった。
この方法は、ある意味、最終手段である。カナリーたちがレイチェルを見つけ出せれば、わざわざダイを鳳凰界に呼ぶ必要もない。だが、レイチェルが見つからなかった場合は…。そのときこそ、形振りかまっていられないだろう。
「ちっ、役立たずだねぇ〜。まぁいいよ、あたしらはこれからレイチェルを捜しに出かける…。おまえたち、アレックスの準備をしな!」
その号令を聞いたグロッシュラーとツァボライトは、慌てて部屋から飛び出す。トラピッチェ・エメラルドから譲り受けた恐竜型メカ“アレックス”…。動かすためには、何かと準備が必要だ。
「ちょ、ちょっと待ちぃ〜なパイさん!」
そんなパイロープにカナリーが詰め寄る。
「レイチェルの居場所もわからんのに、いったいどこ行くつもりなんや?」
それを聞いたパイロープは、豊満な胸を突き出すようにして微笑んだ。
「そんなの決まってるじゃないかい。まずは、レイチェルが消えたっていう研究施設を調べる。そして、レイチェルを見つけて連れて帰ってくる!」
何を当たり前のことを聞くんだい? パイロープは、そう言いたげな表情でカナリーを見つめた。カナリーの開いた口がふさがらなかったのは言うまでもない。
「って、なにアホなこと言ってるんや〜! レイチェルは何者かに空間転移させられたんやで〜。研究所行ったかて、手掛かり残ってるはず…」
「はいはい、まったくやかましい小娘だね〜」
パイロープは、手で両耳を塞ぎ、騒ぎ立てるカナリーの言葉を聞かないようにする。
「手掛かりが残ってないかどうかは、あたしがこの目で確かめる…。レイチェルが見つかるのを待つだけだなんて、あたしゃごめんだね〜」
強い正義感に、行動力や決断力。いろんな意味で男振りのよい女である。冷静に判断すれば無意味な行為ではあるが、自らの信じる道を突き進み運命を切り開くのもまた重要なこと…。もしパイロープに、カナリーほどの力が備わっておれば、人々から“勇者”と呼ばれていたかもしれない。ただし、その考えなしの行動により早死にして、伝説の中だけの存在になることは間違いないだろう。
『パイロープさま〜。アレックスの準備が完了いたしました〜』
屋外からグロッシュラーの声が聞こえてくる。どうやら二人とも、すでにアレックスへ乗り込んでいるようである。
「よしっ、あんたはここで留守番でもしときなって。あたしたちが必ず、レイチェルを連れ帰ってくるからさ〜♪」
手をひらひらとさせながら、パイロープは部屋を出て行く。これ以上何を言っても、パイロープを止めることはできないだろう。カナリーは、諦めにも似た深いため息を吐いた。
「まぁ、好きにさせとこか〜。この聖界の巨大竜はあらかた退治されとるわけやし、それほど危険も無いやろうさかい…」
そのとき、カナリーの腰の辺りから奇妙な電子音が聞こえてくる。それは、機獣神コーネルピンのマスターの証、時空族の遺産でもある短剣から聞こえてくる通信の知らせるメロディであった。
「な、なんや?」
驚いたカナリーは、短剣を鞘から抜いて目の前に掲げる。着メロは、鍔に付いている宝石から聞こえてくるようであった。
短剣に通信機能が付いていたとは驚きである。カナリーは、着メロと共に点滅する宝石に、そっと触れてみることにした。すると、宝石から光が放たれ、何もない空間に小さなモニターが現れた。
『カナリーさん、やほ〜♪』
「なっ! おまえさんは!」
カナリーは、通信してきた相手を見て驚く…。それは、同じ機獣神のマスターでもあるへっぽこ勇者“山中大輔”であったからだ。
大きな車輪の付いた恐竜型メカが悪路を爆走していた。パイロープたち三人組が乗り込んでいるアレックスである。
ちなみに、我らがアレックスの高速移動形態は、大きく分けて三パターンあった。このような悪路に強い“ラリーモード”、曲がり角の多い街中を走る“サーキットモード”、ひたすら真っ直ぐ突き進む“エアロモード”だ。しかも、エアロブーストモードの最高速は音速を軽く超え、エンジン臨界点までカウントスタート…。さらには、スパイラルブーストで二段加速が実現する凄い仕様でもあった。
個人的な意見としては、PS3版をナ○コあたりがリッ○レーサー風に開発してくれれば、素晴らしい作品になると考えている。だが、そのことと“超獣神グランゾル”とは、まったく関係がなかった。
「う〜ん…、いま意味不明なナレーションが流れなかったかい?」
「いや〜、制作スタッフも疲れているんじゃないですかね〜♪」
グロッシュラーは、あははっと軽く受け流す。この作品の意味不明さは、いまに始まったことではないからだ。
「ん、見えてきたよ〜。あの洞窟の奥に、研究施設があるわけだね〜…」
パイロープは、ニヤリと微笑みを浮かべる。崩れた崖の一部にぽっかりと穴が開いており、そこから中へ入れそうだ。
「よし、おまえたち。さっそく、レイチェルを捜しにいくよ!」
己に気合いを入れて、パイロープは、手のひらに拳を打ち付ける。
「いやはや、真に残念ですが…。ここからは“鳳凰編 第1話”に続きます…」
水をさされる形となり、パイロープは、ジト目でグロッシュラーを睨み付ける。
「さらに、第1話を読み終えたら、“鳳凰編 第4話”へとお進みください」
「って、なにわけのわかんないことを言ってるんだい、おまえは〜〜〜!」
両手でグロッシュラーの首を掴み、パイロープは、前後左右に振り回した。
「げほげほっ。ちなみに、この第3話までにへっぽこ勇者ダイの人間界での様子も入る予定だったみたいですが、時間(ページ数)の関係から全ボツになったようです〜」
設定資料集を読みながら、グロッシュラーは軽やかに説明する。
「いや〜、お話しを三十分(OP、ED、CM除いて約20分?)に纏めるのって、なかなか難しいもんですね〜♪」
理解不能な解説に、パイロープは項垂れてしまう。もはや、何を言っても無駄であろう…。
ちょうどそのとき、アレックスは何者かの攻撃を受けることになる。グロッシュラーの解説通り、ここから第1話に続くことになりそうだ。