第1話 へっぽこ勇者登場♪
2004/03/28〜2005/04/02 連載作品
ノリと勢いで書き上げた作品なので、あまり期待はしないでください(笑)
同一作者小説紹介
★Crystal Legend シリーズ★ 「Crystal Legend 7_2 〜トルマリンの胎動〜」、「Crystal Legend 7_3 〜はじまりの時代〜」、「Crystal Legend 7_4 〜もしかして怪談?〜」
★超獣神グランゾル シリーズ★ 「超獣神グランゾル」、「鳳凰編」
★なんちゃらプラネット シリーズ★ 「なんちゃらプラネット」
★美咲ちゃん シリーズ★ 「〜もしかして怪談?〜」
★4コマ劇場 シリーズ★ 「桜のひみつ」、「ラズベリル☆ショート劇場」
日の出直前の静かな早朝…。突如、村の警鐘が鳴り響いた。
しばらくすると、民家から武器を手にした男たちが飛び出してくる。集まった男たちは、覚悟を決めたように頷き、村の外側にある家畜小屋に向かって走りはじめた。
次々と怒りの言葉を口にする男たち。その中には、“竜”という単語が混ざっていた。
小屋の方から、家畜の悲鳴と大きな奇声が聞こえてくる。その光景を見た男たちの顔色は、一瞬で凍りついた。民家の屋根ほどもある巨大な四足の獣が、小屋の壁を砕いて家畜を襲っていたのだ。
獣は、男たちの気配に気づき、低い唸り声を上げる。口には、獲物である家畜が咥えられていた。
一人の男が、槍を獣に投げつける。だが、槍は獣の硬い皮膚に弾かれてしまう。
それを合図に、男たちが攻撃を始める。しかし、獣は素早い動きで飛び退き、森の中へと姿を消してしまった。
残されたのは、砕かれた小屋と、生き残った数匹の家畜だけ…。男たちは、呆然と立ち尽くすしかなかった。
ここ数十年、世界各地に奇妙な獣が現われるようになった。それらは、現存する生物とは異なり、強靭な肉体を持つ魔物である。まるで、別世界から現われたかのような魔物を、人々は竜と呼ぶようになった。
竜に襲われた村では、村長の家でこれからの対策が練られていた。
現われた竜は、これまで以上に巨大で恐ろしいものである。とても、村人だけで太刀打ちできるはずもなく、話し合いはいつまで経ってもまとまらなかった。
そんな様子を、一人の少年が物陰から覗いていた。
年の頃は十歳ぐらいだろうか、少年は大人たちの言い合っているのをジッと見つめている。しばらくすると、少年は抜け出すように外へと向かった。少年は、軒下に潜り込み、短い鉄の板を引っ張り出す。それは、ただの板ではなく、両端が刃のように研がれている手作りの剣であった。少年は、剣を袋と一緒に背負い、村を出て森へと入っていった。
湖にやって来た少年は、近くに聳える樹の根元に袋を置く。手作りの剣を構え、それを振り回しはじめた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
十数分ほど動くと、少年は肩で息をしながらしゃがみ込んでしまう。剣の練習なのだろうが、無茶苦茶に振り回しているだけでは上達するはずもない。
少年は、竜を倒すために剣を覚えようとしていた。それは、無謀なことであり、幼さ故の単純な考えである。それに、日が昇ったとはいえ、いつ竜が現われるとも限らない。少年の行動は、かなり軽率なものと思われた。
「よっと…」
休憩を終えた少年は、ゆっくりと立ち上がる。すると、近くに繁る草叢が激しく揺れはじめた。
「り、竜!」
少年は、その方向に剣を構えた。
震える身体を押さえ込みながら、少年は草叢を凝視する。草叢はひときわ大きく揺れ、少年の前に、何かが飛び出してきた。
「わぁああーーー!」
驚いた少年は、後方へ尻餅をついてしまう。その弾みに、手にした剣をほおり投げてしまった。慌てて剣を拾おうとする少年だったが、ふと、飛び出してきた何かに視線を向ける。
「…えっ?」
少年は、間抜けな声を上げてしまった。地面にうずくまっていたのは、少年よりも小さな男の子であったからだ。
「な…、なんだ〜…」
少年は、全身の力が抜けてしゃがみ込んでしまう。今更ながら、竜に襲われたときのことを想像して、ゾッとするのだった。
「うううっ…」
小さな男の子は、呻き声を上げながら身体を痙攣させる。
「おい…、大丈夫か?」
少年は、恐る恐る男の子に近づいた。
男の子は、この辺りでは見かけないような軽装をしている。そして、驚くべきは背負っている剣の大きさであった。少年の背丈より大きな剣を、六歳ほどの男の子が背負っている。少年が作ったような粗末なものではなく、立派な装飾が施された大剣であった。
“か、関わらないほうがいいな…”
この男の子が普通でないことは、目に見えて明らかである。少年は、そっと立ち去ろうとした。その瞬間、男の子に足首をギュッと握られる。とても子供とは思えない力に、少年は涙目で男の子を見下ろした。
「は…」
痙攣しながら顔を上げる男の子は、いまにも死にそうな顔色をしていた。少年が覗き込むと、男の子のお腹から激しい音が鳴り響く。
「腹減った〜〜〜…」
力尽きたのか、男の子はぐったりと地面にうつ伏せてしまった。
お昼に用意していた食料が、次々と男の子のお腹へと収まってゆく。蒸した芋や干し肉、家畜の乳など、数分後にはキレイさっぱり無くなってしまった。
「ちょっとは遠慮しろよな〜…」
少年は、呆れたように呟く。このところの竜騒ぎで、食料不足はかなり深刻な問題なのだ。
「ふぅ〜…、生き返った〜♪」
男の子は、満足そうにお腹を摩る。そして、少年に見られていることに気づき、不意に呟いた。
「で〜…、あんた誰?」
すると、少年の拳骨が頭に炸裂した。
「てめ〜から名乗れ…」
少年は、この礼儀知らずな男の子に腹を立てる。御馳走してもらった相手に、“あんた誰?”はないだろう。
男の子は、涙目で頭を押さえる。
「ボクは、山中大輔…」
ムッとした表情で、自己紹介をした。
「ヤマナカダイスケ…、変わった名前だな…。オレは、モルファってんだ♪」
モルファと名乗った少年は、大輔の姓と名を続けて口にする。
「あ〜…」
大輔は、名前の説明しようとするが、面倒だったため妥協した。
「じゃあ、ダイって呼んでくれたらいいや…」
フルネームで呼ばれるより、簡単だしすぐに覚えてもらえることだろう。
「それじゃあ…。ダイは、なんでこんな場所で倒れてたんだ?」
ダイを完全に信用していないモルファは、剣の柄に手を置きながら問いかける。
「それに、その剣って…おまえのなのか?」
モルファの視線は、美しい大剣に釘付けであった。
このような大剣を、小さなダイが扱えるとは思えない。モルファは、ダイが家族の剣を持ち出して、自分と同じように竜を倒すための修業をしているのだと考えていた。
「う〜ん…、じつは故郷に帰る方法を探してて〜…」
ダイは、立ち上がって大剣を軽やかに抜いて見せた。
「そんでもって、この牙龍剣は間違いなくボクのだよ♪」
ダイは、大剣の柄をモルファに差し出した。
「さ、触っていいのか?」
ダイが頷くのを見て、モルファは嬉しそうに柄を握りしめる。
「うぉ、わわわっ!」
ダイが手を離すと、牙龍剣は信じられない重さになる。モルファは、おもわず手を離し、牙龍剣を落としてしまった。
「おまえ…、すっげ〜力持ち…?」
重さで地面にめり込んだ牙龍剣を見て、モルファは大汗をかいた。
「この牙龍剣は、ボク専用の武器だから、他の人には使えないだけさ〜♪」
ダイは、軽々と牙龍剣を拾い上げる。鞘に収めて、にっこりと微笑んだ。
「おまえ…、いったい…」
モルファは、ダイから自分たちには無い何かを感じていた。そのとき、今朝と同じような警鐘が鳴り響く。モルファは、慌てて村の方角を見つめた。
「また、竜が襲ってきた?」
モルファは、手作りの剣を手に走り出す。いま村に戻れば死ぬかもしれない。だが、村が襲われているのを、黙って見ているわけにはいかなかった。
「ん?」
モルファは、ダイが追いかけてきていることに気づく。ダイは、モルファに負けないスピードで走っていた。
モルファの視線に気づいたダイは、苦笑気味に呟く。
「一飯の恩は、ちゃんと返さないと♪」
どうやら、ダイは竜と戦うつもりのようだ。
予想通り、村では今朝と同じ竜が暴れていた。ダイとモルファは、巨大な竜に躊躇うことなく、村へと突入するのだった。
竜を取り囲むように、大人たちが武器を構えている。武器といっても農具がほとんどで、竜にダメージを与えられるかさえ疑問であった。
そこに、モルファとダイが現れた。
「おとうさん!」
モルファは、中心となって戦っている人物に近づく。唸り声を上げる竜に、モルファは手作りの剣を構えた。
「この〜っ!」
竜に突っ込もうとすると、父親に襟を掴まれる。
「さがっていろ!」
父親は、怒鳴り声を上げて、モルファを後方へと投げ飛ばした。モルファが突入したとしても、やられるだけであろう。現に、村人は次々と鋭い爪で弾き飛ばされていた。
立ち上がったモルファは、あらためて竜を直視する。その巨大な姿に、震えが止まらなくなってしまった。
“絶対に敵わない…”
そんな意識だけが、モルファの身体を支配していた。
「って…、ダイ!」
モルファは、己の目を疑う。ダイが、なんの躊躇いもなく、竜の前に歩いていったからだ。
「おっきい猫だな〜…」
ダイは、巨大な竜を見上げる。そして、背負っていた牙龍剣を抜刀した。
「動物いじめは嫌いなんだけど…、しかたないよなっ!」
ダイは、牙龍剣を構えて、真っ正面から竜に突入した。
村人たちは、突然現われたダイに驚く。だが、自信に満ちた態度と、手にした牙龍剣を見て、ダイが只者ではないと感じていた。
ダイと竜の距離が縮まる。ダイは、牙龍剣を振り上げ、大きくジャンプした。
高まる期待に、村人たちは息を呑む。その瞬間、想像を超えた出来事が起こった。
空中を浮遊するダイに、巨大な猫パンチがヒットする。ダイは、顔から地面に激突し、バウンドしながら弾き飛んだ。
信じられない展開に、モルファは絶句する。まさか、ダイがやられてしまうとは思ってもいなかったのだ。
すると、ダイがゆっくりと立ち上がる。
「今日は、これぐらいにしておいてやるか…」
ダイは、涙目で痛さを我慢しながら、そんなことを呟いた。
「なんだそりゃーーー!」
モルファが絶叫する。その叫びに、竜が反応してしまった。
「うわぁああっ!」
俊敏な動きで、竜が突っ込んでくる。その勢いに、モルファは尻餅をついてしまった。
モルファを庇うように、父親が竜の前に立ち塞がる。それは、息子を護るための、死を覚悟した行動であった。
奇声を上げて、竜が飛びかかってくる。しかし、竜の振り上げた爪は、寸前のところで停止した。
その光景に、モルファは唖然とする。竜は、攻撃を止めただけではなく、どこか脅えたように後退りしはじめたからだ。モルファが何事かと振り返ってみると、そこには恐竜の形をした巨大な金属物体が目を光らせていた。
『見つけたよ。実験体ナンバー6♪』
恐竜ロボから、女性の声が聞こえてくる。すると、恐竜ロボの口が大きく開き、中から奇妙なコスチュームを着た三人の人影が現われた。
針金のようにとんがった髭を生やしている痩せ男、ゴリラのように強靭な筋肉に覆われた厳つい男…。二人の男を両隣に控えさせ、長身で美しいプロポーションをした女性が、胸を突き出すような体勢で立っていた。
「あ、ドロンジョさまだ〜♪」
ダイは、女性を指差して笑い出す。それを聞いた女性は、豪快にずっこけた。
「妙な名前で呼ぶんじゃないよ!」
女性は、怒声を上げて睨み付ける。その相手がダイだと気づき、さらに不機嫌な顔となった。
「またあたしたちの邪魔をする気かい…。へっぽこ勇者ダイ!」
拳を握りしめ、身体をプルプルと震わせる。どうやら、ダイとは顔見知りのようだ。
「邪魔って…。ボクは元の世界に帰る方法を探してるだけで、べつに邪魔をしてるつもりはないんだけど…」
ダイは、困ったように頭を掻く。
「おだまりっ! いつもいつも、行く先々に現れて…。いったいどういうつもりかい、えぇ〜!」
乗り出して落ちそうな勢いの女性を、痩せ男と厳つい男が慌てて支える。
「まあいい…。今日こそ決着をつけてやる!」
女性が叫ぶと、恐竜ロボの頭上のフタが開き、中からパラボラアンテナが盛り上がってきた。
「見よ! あのお方から授かった、奇跡の力!」
女性の背後には、腕を組みながら高笑いする男性の影が浮かんだ…ように見えた。
恐竜ロボのアンテナから、光線が発射される。逃げようとしていた竜を捕らえ、包み込むように光の球体となった。すると、竜の身体が急激な変化を始める。身体の組織が再構築され、さらに巨大な禍々しい怪物の姿となった。
「いくよ、おまえたち!」
女性は、叫びながら恐竜ロボの中へ入っていく。二人の男は、慌ててその後を追うのだった。
突如、恐竜ロボが変形を始める。ジェットエンジンで空を飛び、巨大竜の頭上に着地した。恐竜ロボからいくつもの触手が伸び、巨大竜の頭に絡み付く。その瞬間、巨大竜は魂が宿ったかのように、大きく吠えた。
まるで、巨大竜が喋るように女性の声が聞こえてくる。
『あははっ♪ これでこの竜は、わたしたちの思い通りに動くよ♪』
女性は、それを証明するように、近くの民家を巨大竜の前足で破壊して見せた。
「あがが…」
モルファは、間の抜けた声を上げる。理解を超えた出来事に、思考がついてこれないようだ。だが、モルファの驚愕は、まだまだ終りそうになかった。
「はぁ〜、やれやれ…。なんで、いつもこうなるかな〜…」
面倒くさそうに、ダイは巨大竜の前に立つ。
「来い…。グランゾルーーー!」
牙龍剣を真上に突き上げ、大きな声で叫ぶ。ダイの身体からは電撃が発生し、牙龍剣を伝って上空へ放たれた。
晴れ渡っていた空に暗雲が立ち込め、稲光と雷鳴がほぼ同時に起こる。空には大きな魔方陣が浮かび上がり、猛禽類のような形をした巨大な金属物体が、ゆっくりと姿を現した。
金属物体は、凄まじいスピードで降下を始める。地表すれすれで滑空し、巨大竜に体当たりを食らわせて村の外へと弾き飛ばす。そのまま上昇し、空中で浮遊した。
「ダ、ダイ!」
モルファは、驚きの声を上げる。いつのまにか、ダイが金属物体の頭上に飛び乗っていたのだ。
そして、ダイの身体は淡い光に包まれ、溶け込むように金属物体へと吸い込まれていった。
真っ暗な特殊空間を通過し、ダイは唯一光っている地に降り立つ。
そこには二つの光の球体が浮んでおり、ダイが手を添えると、辺りはパッと明るくなった。
ダイは、翼を広げた鳥の紋様が描かれているプレートの上に乗っている。それを中心に、外の映像が全方向に映し出された。下を覗き込むと、モルファたちのいる小さな村が見える。近くの森には、木々を押し倒す巨大竜の姿があった。
意識を集中させると、地面に迫るような映像が流れ出す。驚くべきことに、ダイの髪や衣服が風でなびいている。どうやら、外界とは完全に遮断されているわけではなさそうだ。
「バトルモード・チェンジ!」
ダイは、右手の球体をおもいっきり突き出す。すると、猛禽類型の機体が変形を始めた。
急上昇するように起き上がると、胸部が開いて腕が出てくる。鉤爪が収納され、折りたたまれていた脚部が長く伸びる。鳥型の頭部が前に倒れ込むと、そこには騎士のようなロボットの顔が現われた。
『超鳳神、グランゾル…。ここに見参!』
巨大ロボットとなったグランゾルは、翼を広げて地面に降り立ち、かっこよくポーズをとった。
『出てきたね、グランゾル!』
巨大竜から女性の声が聞こえてくる。
『今日こそ、決着をつけてやる…。やぁ〜っておしまい!』
その瞬間、巨大竜は大きく吠えた。
巨大竜に続いて、巨大ロボットの登場…。常識を超えた出来事の数々に、村人たちは逃げることもせず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「グランゾル、今回はネコっぽい竜が相手だよ♪」
ダイは、ひとりごとのように呟く。すると、近くの空間に、少し大きめのぬいぐるみが出現した。
ただのぬいぐるみではない。それは、三頭身サイズのグランゾルであった。
『ダイよ…。また、あの三人組の仕業なのか?』
ぬいぐるみは、その可愛さに似合わない、渋い声で呟く。
『ヤツらとは、よほど縁があるのかもしれぬな…』
表情まではわからないが、グランゾルはかなり嫌そうであった。
「あははっ…」
ダイは、何も答えず苦笑する。
「さぁ〜て…。ちゃっちゃと片付けて、時空石を探しに行こうか♪」
ダイが意識を集中すると、ぬいぐるみのグランゾルは淡く光り始めた。
『がぎゃぁあああ!』
巨大竜は、牙を剥き出しにして、グランゾルに飛びかかった。
グランゾルは、巨大竜の鋭い爪の攻撃を両手で受け止める。その衝撃は凄まじく、地震のような振動が村を襲った。
我に返った村人たちは、慌てて近くの丘へと避難を始める。戦いの場が少しでもずれれば、村など簡単に踏み潰されてしまうからだ。
「あいつら、いったい何者なんだ…」
モルファは、怪獣と巨人の戦いを、呆然と見つめる。
「聞いたことがある…」
モルファの父親は、思い当たる内容を話し始めた。
「最近、各地にいる巨大竜を倒す謎の勇者が現れた…。そんな噂話だ…」
かなり眉唾な噂であったため、父親も信じてはいなかった。だが、目の前の出来事からすると、噂は本当なのかもしれない。
「…って、あれが勇者なのーーー!」
あまりのことに、モルファは絶叫する。竜を倒すためとはいえ、木々を薙ぎ倒して暴れる巨人が、勇者だとはとても思えなかったのだ。
そうこうしていると、グランゾルは巨大竜の前足を掴み、おもいっきり背負い投げた。投げられた巨大竜は、近くの岩山に激突する。巨大竜は、崩れた岩に埋もれてしまった。
それをめがけて、グランゾルは、額からレーザー光線を発した。
大爆発が起こり、大きめの砂利が降りそそぐ。モルファたちの慣れ親しんだ景色は、一瞬にして変わってしまった。
「まさに、疫病神だな…」
父親は、涙を流しながら呟いた。
下手をすると、辺り一帯が瓦礫と化し、移住をしなければいけないかもしれない。そんなことを考えていると、巨大竜が岩の中から飛び出してきた。
『痛っ〜…。グランゾル、よくもやってくれたね!』
女性の怒ったような声が聞こえてくる。
『こっちも武器だよ! 飛び道具は無いのかい!』
女性は、隣に控えているであろう男性二人組みに怒鳴りつけた。
『こちらの攻撃は、牙と爪のみです〜…』
声の質からして痩せ男の方だろう。問いかけられた男は、そんな答えを返した。
女性の唖然とした姿が、目に浮かぶようである。すると、グランゾルが両手を重ねて、空に突き上げるポーズをとった。
『がりゅ〜ぅけーーーーーん!』
グランゾルから、ダイの叫び声が聞こえる。その瞬間、グランゾルに、大きな雷が落ちた。
雷は、形を成して剣となる。光が収まると、グランゾルはダイと同じ牙龍剣を構えていた。
グランゾルが金色に輝きだす。宙に浮き、高速で巨大竜に向かって滑りはじめる。巨大竜との距離を詰め、重なる寸前、ダイは大きく叫んだ。
『クラッシュアンド…』
振り下ろされた牙龍剣が巨大竜の胸に突き刺さる。
『リバーーース!』
ダイがそう叫ぶと、牙龍剣から淡い光が放たれた。
光は、巨大竜を優しく包み込み、体組織を元の状態へと戻していく。それが収まると、巨大竜の姿は消え、代わりに小さな仔猫が現れた。仔猫は、グランゾルに気づき、慌てて森の中へと逃げ出してしまった。
『さぁ〜て…と…』
ダイは、牙龍剣に絡まっている、触手を伸ばした恐竜ロボに視線を向けた。
『あ〜っ…。許してください、勇者ダイさま〜♪』
女性は、掌を返したように下手となった。
『じつは、あたしたちも騙されていたのです〜』
女性は、なんとか許しを請おうとする。しかし、それはいつものことであり、ダイは聞く耳を持たなかった。
『ドロンジョさま…』
ダイが呟くと、グランゾルは牙龍剣を振り上げる。
『まったね〜〜〜♪』
グランゾルは、剣をおもいっきり振り下ろし、絡まっていた恐竜ロボを投げ飛ばした。
『わぎゃぎゃぁあーーー!』
恐竜ロボから、女性の悲鳴が聞こえる。
『えぇい、へっぽこ勇者め! 覚えておいで〜〜〜…』
恐竜ロボは、遥か彼方までぶっ飛び、地面に激突して大爆発を起こした。立ち昇る巨大なキノコ雲は、まるでドクロのような形をしている。
『よっしゃぁー! 大勝利ーーー!』
グランゾルは、かっこよくポーズを決めた。
爆発を起こした恐竜ロボは、もはや原形をとどめていなかった。だが、そんな大爆発の中でも、三人組は平然と生きていた。
「あぁああっ…、悔しいねぇ〜〜〜!」
女性は、怒りに任せて、隣に座っていた痩せ男の頭を叩く。
「いまにみておいで、グランゾル!」
女性の着ている衣装は、もはやボロボロであった。
「えぇ〜、ここで今週のお便りを紹介します…」
いきなり、痩せ男が意味不明なことを呟く。そして、懐から一枚のハガキを取り出した。
「光風町にお住まいの、如月翔くん六歳からのお便り…。 『恐竜ロボットの名前を教えてください。』 との質問ですね〜」
痩せ男は、笑顔でお便りを紹介した。
「…この恐竜ロボットは、“アレックス”という名前が付いております。動物を巨大化させたり、それを自在に操ることができるのですよ〜」
痩せ男は、アレックスの特殊能力を説明した。
「………、なにをしているんだい?」
女性は、痩せ男の行動について問いかける。
「なにって…、視聴者からのお便り紹介コーナーです〜」
痩せ男は、当然のように答えた。
「視聴者って、コーナーってなんなのさーーー!」
女性は、わけもわからず、泣き叫んでしまうのだった。
「そ、そんな〜…」
村に戻ったモルファは、その光景に愕然とした。
戦いの影響で、地割れが起こり、ほとんどの家屋が半壊している。また、岩山から飛び散った大きめの砂利が、大量に降り積もっていたのだ。
「まぁ、犠牲者がでなかっただけ、良しとしよう…」
慰めるように、父親はモルファの頭を撫でた。
そこへ、光に包まれたダイが、グランゾルから降りてくる。グランゾルは、みるみる小さくなり、操縦空間にいたぬいぐるみ姿となる。そのまま、ダイの頭上に着地した。
「え〜っと…」
ダイは、大汗をかきながら苦笑する。竜を撃退したとはいえ、いつものように回りへの被害は甚大であった。
「それじゃあ、ボクたちは行くね…」
ダイは、非難の視線から逃れるように、走り去ってしまう。村人たちは、そんなダイに罵声を浴びせかけた。
「よさないか…」
モルファの父親は、村人たちを窘める。
「あの子がいなければ、我々は皆殺しにされていたのかもしれないのだぞ」
たしかに納得できない部分もあるが、みんなはダイに命を救われた。それは、間違いのない事実であった。
諦めにも似たため息が、そこかしこで起こる。
「あれ…、なんだこれ?」
そのとき、モルファは、砂利の中に光り輝く物体を見つけた。白っぽい金属片のようなもので、小さいにも関わらず、ずっしりと重い物体である。
「そ、それは!」
父親は、モルファから金属片を奪い取る。瞳に近づけて、表面をジッと見つめた。
「デアタイトか!」
父親は、驚愕の声を上げた。
「ま、まさか…」
恐る恐る岩山に視線を向けてみると、崩れた箇所から眩い光が溢れ出ていた。それは、岩山に埋もれていた、デアタイトの鉱脈だった。
デアタイトとは、希少金属の一つで、同じ量の金と比べて数十倍の値が付く。まさに、宝の山が現れたわけだ。
村人の態度が一変し、それぞれがダイに感謝の言葉を贈る。中には、ダイの立ち去った方向に、祈りを捧げる者もいた。
破壊と再生を司るへっぽこ勇者ダイ…。破壊の限りを尽くして戦うが、その後、信じられない幸運を呼び込むことでも有名であった。