完全不明犯罪
挑戦状です。是非トリックを暴いてください。
その事件は某製作所の社長室で起こった。社長が何者かによって絞殺されていたのだ。現場には指紋が残されておらず、髪の毛も落ちていなかった。また、通常なら秘書が来客を取り次ぐのだか、休日で社長は残業していたため、誰が来客したのかが分からない。社内には事務関係の建物以外には監視カメラが取り付けてある。つまり、裏を返せば事務関係の建物には一切監視カメラが付いていなかった。これは、社長が「社員の工作を疑って監視カメラを付けるのは、社員のモチベーションを下げることにつながる」と言っていたからなのだが、それが完全に裏目に出てしまった。死亡推定時刻は午後八時~九時。監視カメラが取り付けられていない裏門の存在を知っており、なおかつアリバイがない人物が容疑者と考えられた。
容疑者は被害者の元同僚で、今は違う製作所に独立している社長T。被害者の会社に唯一秘書として勤めている秘書Y。一週間前に被害者にリストラされた営業部長のRだ。しかし、この三人の誰が犯人なのか、決定的な証拠は出ていない――。
「なるほど…。しかし、誰が犯人なんでしょうね。」
「それを聞きたいから、キミを呼んだのだがね。」
紳士と若者が話し合っている。ここは警察署の会議室で、防音構造となっている。
「それで、この事件の謎を解けと?もはや一般人の私に?」
「そうだ。」
「ふ~ん。」
生意気な奴め。Oは内心で毒づいた。
「まあ、仕方ないな。まずは凶器から教えてもらおう。」
「…不明だ。」
「ン?」
「…だから、分からないんだよ!」
叫ぶO。
「凶器は恐らく長いナイロン製のひもだ。絞めた跡が滑らかだったからな。縄目が付いていなかった。しかし、不自然なんだよ。」
「なんでだ?」
「縄で絞めるとき、普通はぐるっと巻き付けるか、少なくとも縄が半周した状態で首を絞めるだろう?しかし、被害者の首の跡から推測すると、棒で押さえつけるようにして絞めたようなんだ。つまり、縄を両端から引っ張りながら首に押し付けている。メンドクサイし、非合理的な方法だ。」
「なるほど。」
「しかも、殺傷能力がかなり低い方法だ。さらに、容疑者の三人とも事件後すぐに身体検査したのに、凶器らしきものが見つからなかった。周囲も探したが、凶器に該当する縄は一つも見つからない。」
「ほお…。」
OはKが考え込んでいる間に、写真を胸ポケットから取り出した。社長室の写真だ。
机には給湯器があり、お茶も沸かしてある。事件が起きる直前、犯人と被害者は何か語り合っていたのだろうか。
「写真を見せてくれ。」
Tに言われたので、その写真を含む数枚をKに渡した。
その写真をしばらく見つめた後、今度は
「社長室にある工作機械、何か不自然な点は無かったのか?」
と聞いてきたので、容疑者の一人:秘書Yが社長室の工業機械の試作品が壊れていたので、部品を製造している容疑者の一人:社長Tに修理を頼んだという。
すると、急にKが立ち上がって聞いてきた。
「社長Tは工業機械の試作品が壊れる前に、その会社に訪れていたのか?」
「ああ。」
すると、今度は急に現場に直行し、その工作機械を調べ始めた。やがて、その機械の中で唯一使われているバネの部品を取り外し、証拠品として押収した。使われている針金は太く、とてもすぐに手で伸ばせるような代物ではない。
それを眺めて、紳士の風貌だが実は引退した刑事のKは薄く笑った。