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兄弟? いえ偽兄弟です

「…………んあ?」


 お酒は飲んだことないけど、先生の言っていた二日酔いとはこんなことを言うのだろうか?

 頭の中がぐちゃぐちゃにシェイクされて、動くたびに揺れているような感じ……

 なんだこれ? 私なんか変なモノ飲まされたっけ?


「き、きっつ……」


 身体も、右に左によろけながら洗面所に向かう。


「うへ~」


 顔を洗ってようやく落ち着く。頭痛は幾分和らいだ。


「きもつわるぅ~」


 洗面台に突っ伏しかけて、何とか気力で立ち上がる。


「緑茶~りょ~く~ちゃぁ~」


 自分でも何を言っているのか理解できないまま、何かを求めてゾンビのように歩きだす私。

 リビングにやってくると、台所で母さんが何か作っていた。

 食台には物凄く豪勢な食事が並べられていて見覚えのあるようなないような男女が一心不乱にパクついていた。

 でも、私はンなことに構っていられない。


「緑茶~ぁ」


 亡者のように急須に群がり、家用の愛用湯呑に緑茶を注ぐ。

 少量のお茶っ葉と共に注ぎ込まれる緑色。ほのかに立ち上る湯煙。

 湯呑を手にとって底に反対の手を添える。ゆっくりとした動作で口元に持っていき……

 ずずぅ……


「ほえ~~~~」


 至福に包まれる一時。違いが分かる人の……


「はれ?」


 幸福に浸りかけて、ようやく思い至る。

 目の前の食台で椅子に腰掛け大量の食事を平らげている二人組み。

 羽は生えてないけど、どう見ても……


「何でいるのッ、鳥人間軍団ッ!?」


 その言葉でようやく食事を中断する二人組み。


『お~、小影ちゃんおは~』


『おはようございます小影さん』


「お母さん、変な二人組みが家で食事に群がってるんだけど……」


 ことんと湯呑を置いて私が訪ねると、柔和な顔で母さんが振り返る。


「群がってるって、もう、小影ったらお兄ちゃんとお姉ちゃんをゴキブリみたいに~」


 や~ね~と笑ってみせる母さん。

 ……え? ゴキブリ……じゃなかった、お兄ちゃんとお姉ちゃん?

 思わず二人を見る。これが……私の生き別れの兄妹?


『兄のファニキエルです』


『一番上のお姉さまハニエルちゃんなのよ』


 私は一人っ子。兄も姉も居るはずない。どうなった? 頭打って死んだのだろうか私は?


『まぁまぁ、とりあえず食事をするのよ。もう夜なんだから、ほら、小影ちゃんも席ついて、ほらほら~ファニキエルちゃんが全部食べちゃうぞ~』


 と、疑問を口にしようとした私を無理矢理座席に座らせようとする。

 ちなみに、ファニキエルは掻き込むスピードこそ速かったけど、一度に食べるのが物凄く少量なので、私が食べるのより少し早い程度。

 ご飯なんかは几帳面に米一粒づつ丁寧に摘んで掻き込んでいる。

 むしろハニエルの方が食べる量は完全に多かった。


 ムスッとしたまま食事を終えた私はハニエルたちに問いただそうとはしたものの、全く話す気配もなく、後で後で~と言って気かない。

 結局お風呂を上がって自分の部屋に戻って就寝。

 という間際になって、ようやく私の部屋を訪ねてきた。


『ご来訪~なのよ』


 上機嫌でドアを開けてやってきたハニエル。

 続いて遠慮がちにファニキエルがやってくる。

 ベットの上で寝そべって漫画を読みながら夜食のクッキーに噛り付いていた私は、「んあ?」という声と共に二人に視線を向けた。


『んあ? じゃないですよ、小影さん。聞きたかったのではないですか?』


「何が~?」


 どうでもいいとでも言うように視線を漫画に戻し、クッキーをもう一噛み。

 サクサクと音を立てながら食べる。

 正直この二人が何者だろうと私にはどうでも良かった。


 一応、命の恩人に当たるわけだし、どうやって家に入り込んだかは気になるけど、食事してただけだし、放っておいても害はないと思う。

 自称天使だし。既に私の意識の範囲外だ。

 意識されたきゃ金積みな。


『健康に悪いものを食べてますね。全く、人間はどうしてこう、せっかく与えられた肉体を無駄なことで痛めようとするのか……』


「ほえほえ」


 形ばかりの答えを返しつつ意識は漫画に集中する。

 しばらくファニキエルはぶつくさと何かを言っていたのだけれど、ようやく私が聞いていないことに気付いたらしい。


『聞いてますか、小影さんッ』


「ほえッ!? あ、うんうん。クッキーは身体に悪いね」


『何を聞いていたんですか。はぁ……あなたもハニエル様と同じ部類のようですね……』


 ため息を吐くファニキエル。

 どうやら話題はすでに別のことに移っていたらしい。


『そろそろい~い? ファニキエルちゃん』


『ええ、もう、馬の耳に念仏を唱えても仕方ありませんので、ハニエル様にお任せ致します』


『さてさて、小影ちゃん、唐突だけど、あなたをルミナスナイトに指名しちゃいます』


「るみなす……ないと?」


 クッキーを咥えたまま起き上がる。


『うん。天使の使い。聖戦士。またの名をルミナスナイトなのよ』


『地上に使わされた天使は人に協力を仰ぐ時、その人間に神の宝具を分け与えることを許されています。それがルミナスストーン。聖戦士の証です。これを受け取った人間は天使の代わりに天界からの指令を受けることを了承し、あるいは共に仕事をするのです』


 ハニエルの言葉に、ファニキエルが小難しい説明を加えだす。


『要するに~、神様の宝具をくれてやるから代わりに働けってことなのよ』


 にしても、いきなりんなこと言われても、戸惑うね。電波さんとしか思えませんよ。

 羽が生えていることや、変な光を放ってたのを見てないと素直には受け入れられないよ絶対。

 んでも、答えなど決まってる。


「え~、ヤダ~」


 やりたくもないので否定の言葉を投げかけ、再び本読みを再開する。


『何をお言いですか、聖戦士といえば英雄ですよ。世界すら助ける勇者、名誉あることですよッ!』


「名誉なんていらないよ~。正直めんどい」


『め、めんど……』


『あらあら、やっぱり、聖戦士に憧れる時代はとっくに過ぎちゃったみたいねぇ。既に人間の成長が天使とは別方向に向いちゃってるわ』


『単に小影さんが無関心なだけですよハニエル様。今の時代だって、天使の助けをできると知ったら喜んで受け入れる者はいます。やはり小影さんなどに頼むのは止めましょう、もっと良い人間を探すべきです』


『あらぁ、でもでも、ファニキエルちゃん、この小影ちゃん、神聖技が効かないのよ。ほら、さっき記憶消そうとしたけど受け付けなかったでしょ。原理は同じ力である魔力にだって耐性あるのよ。小影ちゃんは絶対入れとくべきなのよ』


 なぜか当の私を除け者にして、勝手に反論しあう二人。


「……分かりました、では作戦Bで行きましょう」


 と、私に振り向く二人。

 作戦Bってなんぞや?

 どうやらまだしばらく帰りそうにないねこいつら。仕方なく本から視線を向けることにする。

登場人物


 ひじり 小影こかげ

  現在16歳、彼氏いない歴イコール年齢の少女。

  基本金かお茶にしか興味がないので、金貸しの回収を行う以外は緑茶をすすってぽけっとしている。

  特技に瞬間記憶を持ち、金貸し業の関係で覚えた指弾とデビルスマイルを得意とする。

  座右の銘はお前の物は俺のモノ。貸したら返せ命を掛けて。


 結城ゆいしろ 杏奈あんな

  現在16歳、彼氏無し。

  小影曰く、紫色に染めたけど、髪が伸びたせいで半分より下だけが紫色になっちゃったとっても可哀想な人らしい。

  不良生徒になりかけていたが、小影に打ちのめされて以降小影のツッコミ役にされる。

  姐御肌らしく悪態付きながらも手伝ったりする様が密かにクラスメイトから人気を集めている。


 ハニエル・ルーマヤーナ

  神の愛と称される大天使の一人。

  全ての愛される要素を内在し、顔は清楚に、身体は妖艶に。でも思考は限りなく幼児に近いある意味残念な存在。

 ただし内包する知恵と頭の回転は凄まじく、先見の明を持つため落ち零れとされる天使から大天使候補の原石を発見するのが上手い。


 ファニキエル・シュイタット

  ハニエルにより見出された落ち零れの天使。

  前回の天使試験で見習いのまま消失の危機を迎えていたが、ハニエルにより見出され付き人のような役割についている。

  未だハニエルが見出した実力は開花しておらず、実力は限りなく弱い。


 牛頭鬼

  黒い靄から発生した悪魔。

  黒い靄で移動し、人間あるいは天使を見付けると出現し、戦闘を行う。

  夜間の校舎内を見回る様に動いている。

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