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あえて言おう。私は金と緑茶が大好きだ

「俺、君のことが好きだっ」


 空は快晴、学校の屋上で二人っきりというシュチエーションに持ち込んで、小手下こてした ゆたかは大声で告白した。

 彼はサッカー部に所属し、一年ながら早くもレギュラー入りした期待の新人。

 もしかすれば数年後にはプロのサッカー選手になっているかもしれない。

 背は小柄だが顔は良いし性格もなかなか。

 女子にはモテモテで童顔な上にリーダー気質。なかなかの好青年であった。


「一目見たときから、その……」


「あー……」


 彼の告白の続きを遮り、告白対象の女の子は気だるげな声を出す。

 こちらは小手下君とは対照的で、眠たげな瞳に寝癖のように右側に跳ねた髪の毛。

 愛らしい顔をしてはいるし、華奢で小柄。

 どこから見ても美少女だろう。うん。どっから見ても美少女だ。美少女だよね?


 実際周りからそんな噂をちらほら耳にしているので自画自賛ではないはずだ。

 現に告白されてるしねぇ。彼女にしたいくらいには可愛いはずだ。

 小手下君の告白対象は、そう、私だった。

 手にはパックのお茶を持ち。突き出たストローから絶えずずずずとお茶をちびちび啜っている。

 ずちゅっと最後の一吸いを終えて、私はストローから口を放す。


「そのさ、告白してくるのはいいんだけどね。私のこと知ってるなら、あだ名も知ってるよね?」


「え? あ、ああ。その噂は知ってる。俺はそれを踏まえても……」


「はい、ストップ。ちょっと分かってないようだから聞くね。今現在、かき集められるだけかき集めて、いくらここに持って来れる?」


 この言葉を言うと、大抵の男子は目を点にして何言ってんの? って顔になる。

 実際その通りだ。小手下君も目を丸くして驚いている。

 いやいや、なんで何度も言ってるのにそんな顔になるのかイミフです。


「別に金出せって言ってるわけじゃないよ。あなたが今現在でどれだけ稼げるか。ソレが知りたいだけ。親からの小遣いじゃなく、自分の力だけでいくら集められるか。コレが重要」


 そう、将来サッカー選手などといった夢物語などに興味はない。

 親の脛かじってる奴など問題外。

 例え金持ちでもそんな奴とは絶対付き合わない。

 お金を稼げる能力があるか、それだけ(・・)が重要だ。


「この、金貸し小影ちゃんの彼氏になるんなら、最低でも月一千万は稼いでいただきたいですな。それが最低条件。というわけでごめんなさい。あ、これついでに捨てといて」


 ずちゅっとパックの中身を全て吸い終え彼に手渡す。

 話は終わったので屋上を後にすることにした。

 小手下君はなぜか放心してしまっていたけど、私の知ったこっちゃないね。




「ねぇねぇ、最近また学校の七不思議増えたみたいだよ。ほら、あの石がどうのって噂の【融解の間】、あそこの近くの廊下を夜に通ると黒い靄が迫ってくるんだって~」


「マジかッ! これで50不思議到達じゃん」


「ええ~すでに七つ分も七不思議あるからもういらないよ~」


「つかこの前叫びながら走るニンジンの霊で50不思議達成してなかったっけ?」


 などという会話が繰り返される日常。その中で一人だけ、浮いた少女がいた。


「ぽえ~~~~」


 世の中の幸運を全て一人に集めました。

 みたいな幸せそうな表情で、一人の少女が椅子に座っていた。

 むしろ一センチくらい本当に浮いてるかもしれない。


 両手に抱えたマイ湯呑。

 【こかげちゃん】とたどたどしい平仮名の彫り物が入った特注の特上品だ。

 時価六百万円相当。有名な職人さんに造ってもらった愛用品だったりする。


 中に入っているのは何の変哲もない緑茶。

 いろいろ試したけど、この渋みのある緑茶が一番おいしかった。

 この一杯のためだけに生命がある。

 なんて思いながら私は手の掌を湯呑の底に添えて、もう片方でしっかり持って、ズズゥ……


「ぽえ~~~~」


 周りすら巻き込む超絶的な幸せ空間。

 ほ~ら、皆が私を見て頬を緩ませている。皆幸せそう。

 皆が幸せになれるならそれ以上の事は無いでしょう。ほら、皆、緑茶で幸せになろうよ。


 私、こと聖小影は十六歳。早生まれのために高校二年生である。

 三月三日生まれ。つまり耳の日ですな。

 本当なら二月下旬出産予定だったものの、母親が自分と同じ誕生月はどうなんだろう? とかいう理由で三月まで陣痛我慢して、私は三月に生まれた。


 なんでか知んないけど出産に三日かかったってさ。

 だもんだから私は泣くばかりか息もしてなくて……看護婦さんがトイレが詰まった時に大活躍する道具を持ってきて頭に向って一ポッコン。

 即座に泣きましたよ。


 そうして今の私がいる。

 ……いやぁ、幸せだなぁ……今聞いても涙が溢れてくるよ。

 趣味は縁側で日向ぼっこしながら緑茶を一杯。


 もう、一日だって過ごせるね。っていうより気がついたら一日が過ぎてることが多い。

 職業は金貸し。……じゃあなくて、学生。今も授業のために学校に来てる。

 今の時間は丁度朝のホームルームが始まる前。先程屋上から戻ってきたばっかりだ。

 ここからだと中庭にある緑色の巨人像が良く見えるからいいよね。

 あの恐可愛い顔が女性陣に結構人気があったりするんだよ。私も結構好き。アレを肴に緑茶が何杯でも飲めますな。

 ……はて? そういえばアレ、いつからある像だっけ? ……まぁどうでもいいか。

登場人物


 ひじり 小影こかげ

  現在16歳、彼氏いない歴イコール年齢の少女。

  基本金かお茶にしか興味がないので、金貸しの回収を行う以外は緑茶をすすってぽけっとしている。

  特技に瞬間記憶を持ち、金貸し業の関係で覚えた指弾とデビルスマイルを得意とする。

  座右の銘はお前の物は俺のモノ。貸したら返せ命を掛けて。

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