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小猫と親鳥  作者: かすみづき
LONG 手紙から始まる話
9/59

181-210

181『なんて身勝手な願い』

「それは当方のせいか? どちらかというと娘御の」

「また娘御って!」

「しかしだな、仲間の番の名を呼ぶなどと破廉恥な事、当方ご免被りたいのだが」

「誰の名前がハレンチ……つがい?」

「そこもとはセイランの番だろう?」

「……んなっ!?」

「ユン、だからマオにその手の話題はやめてあげてってば」




182『本物と偽物』

「そこもとは番を甘やかしすぎではないか?」

「だから違っ」

「困るのはセイラン、そこもとだぞ」

「ランが困るってどういう事?」

「何だ、知らんのか。鳳凰種を伴侶にと望む者は存外多いのだ。装飾品と勘違いしている輩が大半だがな」

「何よそれ。ランはアクセサリーじゃないわ」

「分かっていれば良い」




183『あなたと一緒にいたいんだもん』

「ユンちゃん、ランと同種なの?」

「そうだとして、そこもとはどうする?」

「……三回唱えたら、叶うかしら」

「当方、流れ星ではないのだが」

「流れ星よりレアじゃない」

「そこもとの隣の男に唱えれば良かろうて」

「ダメよ。流れ星はすれ違ったら嬉しいけど、ランとすれ違っちゃったら嬉しくないもの」




184『目を閉じて、三秒』

「ほう、それはまた」

「あ、でも別にユンちゃんならすれ違ってもいいとかじゃなくてね。鳳凰種が二人も揃ってるのってレアだなって思ったっていうか」

「当方、特に気にしておらんから、そう無理に言い繕わずとも構わんが」

「そう? じゃあユンちゃん、ちょっとそこでじっとしてて。願い事唱えるから」




185『そう、全てが終わる前に』

「流れ星は流れるから流れ星なのであって、ただそこで瞬くだけなら数多の星々と何ら変わらんと思うのだが」

「じゃあ、鳥族は飛ばなければ鳥族じゃないのかしら」

いや、生涯地に足を着けていようと、例え翼がなかろうと、鳥族は鳥族だな」

「ユンもマオも、思いっきり話がズレてきてるんだけど」




186『友情の一歩先』

「む、そうだな。娘御の性別の話だったな」

「違うわよ! ユンちゃんがあたしを娘御と呼ぶのをやめさせるって話でしょ」

「どっちもハズレ。正解は、昨日の銃声と香水についてです。で、銃声はお前で良いんだね?」

「ランがお前って呼ぶなんて……そんな仲なの!?」

「マオ待って、何言ってるの待って」




187『唯一の、嫌い。』

「ふむ。つまり当方は、セイランを娘御と取り合いでもすれば良いのだろうか」

「ランは渡さないわ!」

「当方も黙ってやられるつもりは無いが?」

「そうか、ユンはそんなに死にたいか」

「すまん冗談だ落ち着け」

「ユンちゃんが端的になった!?」

「マオももう、お菓子いらないんだね?」

「ごめんなさい」




188『出来るなら苦労はしない』

「当方は命が危ぶまれたというのに、そこな娘御は菓子の有無だけとは。また露骨な贔屓に出たなセイランよ」

「別に贔屓じゃないよ。マオにはそれが一番効くってだけで」

「別にその贔屓が悪いと言うつもりは無いからして、誤魔化さずとも良いのだが」

「いや、ホント。このコ、若干戦闘狂の気があるから」




189『僕は一生、恋をしない。』

「マオ。もしも僕が、命が大事ならやめなさいって言ってたらどうしてた?」

「ランがちょっとでも本気出してくれるチャンスだもの。頑張るわ!」

「……ね?」

「うむ。思えば暇潰しに返り討つ対象を欲する娘御だったな。そこもとが言いたい事は伝わった」

「いや、言いたい事はもっと別にあるんだけどね」




190『捨てられないガラクタ』

「言いたい事?」

「ほう、何だ」

「マオはともかく、お前は絶対分かってるだろ」

「またランがお前って言った!」

「マオ?」「だって、珍しいんだもの。仲良いのね」

「仲が良いというか」

「腐れ縁とでも言うのかも知れんな。十年経っても切れんのだから」

「そうだね。こう、錆びた鎖で繋がってる感じ?」




191『そのセリフ、そっくりそのまま返す』

「しかしまさかあの可憐な少女が、こう成長するとはな。いやはや、時の流れとは予想外なものだ」

「十年前と何ひとつ容姿が変わってないユンにも言えるけどね、それ」

「はて、そうだったか?」

「ちょっと待って、二人とも。すごく気になる話題が出てるんだけど、あたしはどっちから突っ込めば良いの?」




192『どうでもいいよ、そんなこと』

「どっち、とは?」

「ランが美少女だったって事と、ユンちゃんが全然変わってないって事」

「うむ、確かに十年前のこやつはどう見ても麗しの少女としか言えない風貌でな。まあ、口を開けば辛辣で、稀に信じがたいほど狂暴になる事もあったが」

「それをあっさり取り押さえてた奴には何も言われたくない」




193『そのセリフ、そっくりそのまま返す』

「ユンちゃんそんなに強いの!?」

「いや、単に幼体と成体の差だろう」

「でも僕、未だにユンに勝てる気がしないんだけど」

「それもまた刷り込みの一環だな」

「決着つける?」

「こらマオ、嬉しそうに物騒な事言わないの」

「鳳凰種同士の荒事に臨んで怯むどころか前向きとは。また随分と奇特な娘御だな」




194『僕は一生、恋をしない。』

「僕はもう二度と、ユンと事を構える気はないからね」

「ふむ、そこもとが暴れる程の気疲れをする事はもう無かろうしな」

「ランは何でそんなに荒れてたの?」

「いや、それは」

「男だと告げても信じようとせず、求愛を続ける男が多過ぎたせいだな」

「ラン……」

「マオやめて、慈愛に満ちた目で見ないで」




195『独り占め』

「大丈夫よ」

「マオ?」

「ランが男にモテてても、あたしはちょっと離れて見守っていてあげるから……!」

「面白がってるよね!? それ完全に野次馬宣言だよね!?」

「冗談よ、冗談。男に言い寄られたら、ちゃんと助けてあげるわよ」

「いや、もう言い寄られたりはしてないから」

「あら残念」

「マオ?」




196『どこかで響いた銃声』

「さて。いい加減、脱線しすぎた話を戻そうか」

「そうだな。若かりし頃のセイランの愉快な話を是非そこな娘御にも話してやりたかったが、そこもとの精神の安寧を重視して止しておいてやろうではないか」

「何それ聞きたい!」

「言わないでいてくれるなら、そういう発言もやめておいて欲しかったなあ!」




197『わかったか、あほ』

「ランの面白笑い話、聞きたかったのにー」

「言っとくけど、こいつの笑いのツボはおかしいからね。別に面白くないから」

「む、失敬な。当方の冗句は常に爆笑の坩堝を作り出すぞ」

「あ、なんか一気に期待値が下がった」

「こいつはこういう奴なんだよ」

「ランがこいつって言った……!」

「だから、マオ」




198『覚めたくない夢』

「ランってば、あたしにはお前とかコイツとか絶対言わないじゃない。ずるい」

「よく分からないけど、マオをこいつ呼ばわりする日は来ないと思うよ?」

「ずるい」

「ふむ。娘御よ、妬くのは構わんが、その場合何を犠牲とするのか分かっているか?」

「犠牲?」

「そこもとの名を呼ぶ頻度が減るという事だ」




199『オフレコ』

「そこもとを呼ぶ時にどちらを取るかという話だからな。こればかりはどうしようもなかろうて」

「うーん」

「そこは別に悩むような箇所ではないと思うのだが」

「そうなんだけど。ランがお前とか言うの聞くの、ちょっと楽しいのよね」

「では当人にそう告げてやれ」

「イヤよ。変な奴だと思われるじゃない」




200『制限時間はあと一分』

「ふむ。何故に否と思うか、理解しているか?」

「ううん、してない」

「理解しとらん事を理解しとるのはまあ良いが。理解しとらんなら、少しは考えようとは思わんのか」

「だってよく分かんないもの。あと今のユンちゃんの言い回しもよく分かんない」

「二人共、そろそろ話を切り上げようか。何か来るよ」




201『指切り』

「何か、とはまた随分と不確かな物言いを選んだものだな」

「何かとしか言いようが無いんだよ。ユンだって気付いてるんだろ」

「うむ」

「それからマオ」

「なに」

「何で拗ねてるの」

「二人が仲良くてずるい。あたしだけ仲間外れでずるい」

「外してないよ」

「ホントに?」

「うん。外すならユンを外すから」




202『善意の裏返し』

「これこれ、そこな両名。しれっと当方を疎外するでない」

「だって、マオが仲間外れにされてる気がするって言うから」

「そこもとはどれだけそこな娘御を甘やかす気か」

「違うわよ。あたしに甘いんじゃなくて、ユンちゃんに厳しいのよ」

「確かに、結果は同じだが」

「そこが仲間意識っぽくてずるいのよ」




203『おいていかないで』

「大体何か来るって何よ何かって。何かとしか言いようが無いとか言われても、さっぱり分かんないこっちは困るのよ。気体なの液体なの固体なの、上空から来るの地上から来るの地下から来るの。それすら分かんないナニカなの?」

「えぇっと、固体じゃないっぽいものが、大気を介して分かる所から来ます」




204『本当、だったり。』

「気体か液体状のモノが、上空か地上から近付いて来てるって事ね?」

「はい、そうです」

「ラン、何で敬語なの」

「いや、何となく」

「見えるかどうかも分からない?」

「うーん、多分、何かしらの異常を感知するという意味では『視える』と思う」

「ランが何か来るって判断したのは、その異常を視たのね」




205『甘えてよ』

「ちょっと違うかな。何かが在る訳じゃなくて、何も無い空間が在る事がおかしいっていうか」

「街があるのに誰も居ない、みたいな感じかしら?」

「そうかも。でもこれ、どっちかというと」

「死なずの森」

「ユンちゃん?」

「そう、あの場所に近い」

「若人達よ、少しは年長者を頼るべきだとは思わんか?」




206『最後の言葉』

「そういえばユンちゃん、ランより年上って言ってたわね。ランより十くらい年上だと思えば良いのかしら。見えないけど」

「ふむ。まあそう思うのならそれで構わんよ」

「何よ、意味深ね?」

「当方にとってそこもとらは孫にも思えてなあ。多少の事なら孫に合わせてやろうと思うのが爺心と言うものだろう」




207『迷子のお知らせ』

「……ラン?」

「……何、マオ」

「鳳凰種って、老けないの?」

「いや、そんな話は聞かないよ?」

「ユンちゃん、何歳に見える?」

「頑張って僕と同い年、かな。マオは?」

「あたしとランの間くらいかしら」

「そこな両名。ひそひそと話したいなら、せめて声を潜める程度の努力はするべきではなかろうか」




208『運命という罠』

「ユンちゃん、あなた何歳なの?」

「さて。この場で最年長であるという自負はあるのだが、精確な齢となると当方にもさっぱり」

「それは誤魔化してるのかしら、それとも本気で覚えてないのかしら」

「多分、本気で覚えて無いんだと思うよ。鳳凰種って変な所でズボラなのが多いから」

「結構困った種族ね」




209『それ以上は許さない』

「さて。そんなこんなで囲まれた訳ですが」

「え?」

「ふむ、目には見えぬか」

「え、え?」

「特に攻撃を仕掛けてくる様子も無いし。何だろうね、これ」

「ちょっと」

「ただ単に大気中を漂流しておるだけ、という可能性もなくはないが」

「ねえ」

「害が無いってのは楽観視しすぎかなぁ」

「揃って無視!?」




210『なんて言ったの?』

「ちょっと二人だけでさくさく話を進めないでよ、ここに当事者がもうひとり居るんだから」

「あ、ご免マオ。ついうっかり」

「は? 状況が差し迫ってるから説明してる時間が惜しいとかじゃなくて、うっかり!?」

「娘御よ、そこまで考慮していて何故そこで逆上できる」

「うっかりとか言われたからよ!」

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