151-180
151『頬に爪を立てる』
「マオは、レディと意気投合したね」
「だって、バカ兄の奇行をバ可愛いって受け入れてくれる相手とか、初めて会ったもの」
「そういえば、ダンジョンでもアレやらかしたって本当?」
「本当よ。深部じゃなくて入口に限りなく近い所だったのが救いだったけど。内部は内部だから、思いっきりつねったわよ」
152『なんだって知ってた』
「そういえばね」
「ん?」
「何だかんだ言ってあたしが兄さんに懐いてるから、あの奇行が治らないんじゃないかって言われたんだけど」
「ガーディ?」
「うん。何の事って訊いたんだけど、教えてもらえなくて。ランも気付いてる筈だって言ってたけど」
「ああ、うん」
「え、分かるの!?」
「多分だけどね」
153『香水』
「シオンといえば」
「何?」
「甘い香りがするって言ってたけど、あれ何か分かった?」
「そういえば、そんな事言ってたわね。訊くの忘れてたわ」
「そっか。シオン達が言わなかったって事は、あれっきりだったって事かな」
「ごめんなさい」
「いや、謝るような事じゃないから。危険はなかったらしいしね」
154『死ぬまでの君を全てください』
「お前の最期に立ち会わせろ」
「マ、マオさん?」
「って、どういう意味だと思う?」
「あぁ、そういう……びっくりした」
「ちなみにうちの父さんの、若かりし頃の科白です」
「熱烈だね」
「あれ、意味分かったの?」
「うん。独占欲強そうな人だね」
「ランにはどういう意味に聞こえた?」
「そのままだよ」
155『不器用な世界』
「横に立つな、後ろを歩け」
「何、それもお父さん?」
「そう。どういう意味だと思う?」
「さっきの科白と合わせると……先陣は任せろ?」
「そして殿は任せた、でもあるわ。母さん、おとなしく後衛に下がった事なんて無かったらしいけど」
「誤解され易そうなお父さんだね」
「そうなのよね」
156『寄るな、色男』
「うちの父さん、やたら男にモテるのよ」
「……へぇ」
「言葉より行動で語るようにしてたら、脳筋に好かれちゃったらしくて。よく『アニキ!』って家に突撃してくる現役さんが居たわ。ちなみに女性陣からは割と恨まれてます」
「え、何で?」
「私達のお姉さまを奪ったオトコ、らしいわ」
「…………へぇ」
157『甘えてよ』
「私達のお姉さまを奪った事は許せないけど、私達じゃあお姉さまは甘えられないみたいだから、あんたはせいぜい私達のお姉さまを甘やかす係を頑張んなさいよねって、一度だけ来た女の人が」
「……へぇ」
「私達の、て枕詞を絶対に外さなかった辺りに渋々感が溢れてるなぁ、と子供心に」
「…………へぇ」
158『長く一緒にいた影響』
「でもちょっと不思議なのよね」
「何が?」
「私達のお姉さま発言しに来た人っていうか、そのタイミング?」
「んー、二人目の子供の物心が着いてからっていうのは、確かにちょっと遅いけど。そう珍しくもないよ。十年くらい連絡してない知り合いとかよく居るし」
「そんなもんかしら」
「そんなもんだよ」
159『どうでもいいよ、そんなこと』
「ランにも居るの?」
「何が?」
「十年くらい連絡してない知り合い」
「居るんじゃない?」
「十年前ってラン十三歳じゃない、成人すらしてないじゃない」
「そうだけど」
「今の話ってギルド員あるあるじゃないの?」
「同郷で僕より先に家を出た奴とか、当時からのギルド員とかじゃない?」
「他人事!?」
160『きっとたぶん』
「ギルド員というより、鳳凰種の性質かも」
「どういう事?」
「どうも、仲間と顔を合わせる必要性を感じないんだよね。元気で生きてれば満足というか。その気になれば連絡は取れるけど」
「そうなの?」
「うん。必要があると認められれば、八割方は集まってくれるよ」
「そうなの!?」
「必要があればね」
161『夢であえたら』
「集まる連絡ってどうやって取るの? 鳳凰種って、皆好き勝手にふらふらしてるんでしょ?」
「夢枕に立ってみるとか」
「立てるの!?」
「でもそれだと全員にすぐ連絡を取るのは難しいんだよね。そもそも寝てるヒトに一方的に言い逃げするだけだし。やっぱりメジャーなのは連絡網かなあ」
「あるの!?」
162『隣の人』
「ギルドに依頼を出すって手もあるけど、相手の居場所が分からないから、ただの伝言でも達成難易度は高くなるだろうし」
「全員ギルド登録してたら話は早いのにね」
「でも義務化したら、逆にギルドから鳳凰種が消える可能性があるし」
「どうして?」
「強制されると反発したくなるんだ」
「子供みたいね」
163『寄るな、色男』
「もしもギルド登録が義務化されたら、ランもどこか行っちゃうの?」
「うーん、前の僕なら割と迷わずそうしたかも」
「前のラン?」
「そう。今は、マオと依頼こなすの、結構楽しいから。迷う」
「……あ、ありがと」
「でもなあ、絶対なんか面倒な事やらされる気がしてしようがないし」
「もしもの話よ?」
164『神様なんていない』
「義務化するなら、ギルドに鳳凰種を絶対に受け入れてもらう事が前提になるから、ギルドに対して奉仕義務が発生しそうな気がする」
「義務と権利ってやつ?」
「ギルド的にはね。鳳凰種から見れば、ギルドに登録させられた挙句になんかやらされるって事になる」
「良い事なしね」
「もはや強制労働だよね」
165『不意打ちで言うのはやめていただけますか』
「あ」
「ラン?」
「ちょっと待ってて」
「え、どこ行くの?」
「すぐ戻る!」
「……行っちゃった。どうしよ……何か襲って来ないかしら、そしたら返り討ちにしてやるのが良い暇潰しになるんだけど」
「これ、物騒な事を呟くでない」
「だって暇なんだもの」
「では、当方がお相手仕ろう」
「……あなた誰?」
166『好きなのにね』
「当方が誰かなど気にするな。して、要らんか?」
「何を?」
「暇潰しだが」
「それ、今から襲うぞって宣言かしら」
「何故そうなる」
「だって、暇潰しに返り討たれてくれるんでしょ?」
「好戦的な娘御だな。暇を潰すという行為に必ずしも闘争は必要ではなかったと思うのだが」
「不必要って訳でもないわ」
167『負けず嫌い』
「ふむ。どうしてもと言うなら勝負の一戦や二戦、やらかすのもまた一興だが、止めておこう」
「あら、どうして?」
「怒られるからだな」
「誰に?」
「そこもとの連れにだな」
「……あなた、誰?」
「そう警戒するな」
「無理言わないで。返答次第では本気で敵と見做すわよ」
「それは恐いな」
「答えなさい」
168『こりないやつ』
「ちょっと待った!」
「ラン!?」
「うっわ、やっぱりだ。やっぱりこっちに来てた」
「む、もう露見したか」
「お前だって事は最初っから分かってたよ。分かってたのにお前の目的を図り違った、僕のミスだよ全くもう」
「え、えぇっと」
「ああ、マオ。ごめんね、巻き込んで。コイツ一応僕の友人なんだよ」
169『愛せるなら愛してみろ』
「随分とあっさり種明かしをしてしまうのだな。つまらん」
「なんで僕がお前の遊びに付き合うと思ってるんだよ」
「人生に遊び心は必須だろう」
「お前の遊び心のせいでマオに愛想尽かされたらどうしてくれる」
「なんだ、その娘御はそんなに狭量なのか?」
「失礼ねっ」
「ではコイツを愛するか?」
「は?」
170『物仕掛けと色仕掛け』
「愛想を尽かさず愛すのだろう?」
「あ、愛っ!?」
「マオ、落ち着いて」
「だだだって」
「ふむ。まだ落としておらんかったか。これは失礼。なれば当方に構わずさっさと落とせ」
「落とっ!?」
「何、そこもとの容姿と財力を持ってすれば、初心な娘御のひとりやふたり、易かろうて」
「お前ちょっと黙れ」
171『君の傍』
「ほう、当方が黙り次第そこな娘御を口説くとな?」
「そんな事は言ってないだろ」
「しかしそこもとは娘御から離れる気が更々無いように見えるのだが」
「なんで離れる必要があるの」
「ほほう?」
「ユン」
「む?」
「いい加減にしないと怒るよ」
「分かった。当方にそこもとを本気で怒らせる気はない故な」
172『50/50』
「ごめんね、マオ。びっくりしたろ? さっきも言ったけど、一応僕の友人で、ユ、ユイ」
「ユィン・チィだ。まだ当方の名が言えぬのか」
「言い難いものはしようがないし、二回に一回は言えてるだろ」
「ユィン・チィ、ね。はじめまして、シャオマオです」
「ほう、やるな娘御」
「もしかして、同郷かしら」
173『そう、全てが終わる前に』
「さて。その通りとも言えるし、はたまた見当違いかも知れぬが」
「言いたくないなら、正直にそう言いなさいよ。まどろっこしいわね」
「む、そうか。失礼した」
「それで、ユィン・チィ。あなた、あたしに何の用?」
「ユィンかユンで構わぬよ」
「それは要件を聞いてから決めるわ」
「もう済んだ」
「は?」
174『お腹いっぱい君をください』
「言葉通りの意味だからして、特に解説するような事項は」
「簡潔に!」
「ずっとソロだった友人が相棒を選んだと聞いたのでな、どんな者か見てみたかった」
「要するに、単なる野次馬?」
「そうとも言うな」
「そうとしか言えないわよ。あと、ひとつ分かったわ」
「ん?」
「まわりくどいのは、性格なのね」
175『ずっとそばにいて』
「当方、目的までの過程は直通が好ましい性質だと自負しているのだが」
「行動はそうでも、言い回しがまわりくどいって言ってるの」
「む、そうか。では機会があれば善処するよう心がけておこう」
「それってつまり今は変える気ないって事よね」
「ふむ、セイランよ。そこもとは良い相棒を得たな」
「うん」
176『見ないふり、見えないふり』
「今の会話のどこに、認めてもらえる要素があったのかしら」
「他人の評価とは、他人の価値観から生まれるものだ。そこもとが気にする事でもない」
「その評価はあたしにくだされてるんだから、気にするなと言っても気になるのが人情ってものだと思うのよね」
「ふむ、その心は?」
「御託は良いから吐け」
177『いつかの夢の続き』
「話は変わるんだけどさ。ユン、昨日もしかしてこの界隈で野営した?」
「本気ですっぱり話変えてきたわね、ラン」
「ふむ、その心は?」
「昨日の夜、銃声が聞こえたんだ。一発だけだけど」
「はて。それが夜半より浅い刻限に聞いたものならば、おそらく当方だろうが」
「じゃあ、昨日から近くに居たの?」
178『一生のお願い』
「どの集落からも遠いこの地に今居るという事は、昨日今日移動を開始した者には不可能だと思うのだが」
「そうだけど。ていうかあなた」
「ユィンかユンで構わぬよ」
「えぇと、じゃあユンちゃん」
「ふむ?」
「何よ、不満?」
「いや、むしろ愉快な心持ちだが。して、何だ娘御」
「その前に、娘御はやめて」
179『笑ってくれる?』
「ほう、そうか。まさか男子とは思わなんだ。許せ」
「誰が許すか!」
「だがしかし、気付かなんだものはどうしようもなかろうて。ヒトは許す事で前に進むのだ。許してもらわねば、過ちを改めての前進など望めはしないと思うのだが」
「……ラン。そこまでぷるっぷるするなら、素直に笑えば?」
180『全部全部、君のせい』
「ごめ……だって、マオが男の子って」
「何だ、やはりそこもとは娘御なのか。何故男子などと」
「言ってない! そうじゃなくて、その呼び方をやめてって言ってるの。あなただってひょろ兄さんとか呼ばれたらイヤでしょ?」
「ひょろに……っ」
「ほら、あなたのせいでランが笑い袋化寸前だわ」