061-073
061『上手な甘やかし方』
「マオ?」
「食べないわよ」
「どうしても?」
「どうしても」
「……分かった。じゃあ、これは処分するね」
「えっ」
「だってマオ食べないんでしょ?」
「ランが食べれば良いじゃない。もしくは誰かにあげるとか」
「マオの為に作ったから、他の人にあげたくない」
「ああもう、降参! それ貰うわ」
「うん」
062『色気のない誘い文句』
「ラーン!」
「何? ごきげんだね、マオ」
「達成したの!」
「何を……ああ、なるほど。良かったね」
「うん! そんな訳でラン!」
「ん?」
「何か作って! 甘ぁいヤツ!」
「良いの? また増えるよ?」
「大丈夫よ。次からは食べたらその分動くから。だから後で一緒に依頼見に行こ?」
「ん、分かった」
063『先着順』
「えぇえー!?」
「どうしたの、マオ?」
「この依頼、もう枠が埋まっちゃったんだって」
「どれ……新作武器のテスター募集?」
「面白そうでしょ?」
「んー、でもまあ、これは仕方ないよ。通常の依頼と違って難易度も設定されないし、むしろ相手を選ばない事に意味がある依頼だからね」
「あーあ、残念」
064『こっち見てよ』
「あーびっくりしたぁ」
「急に降って来たね」
「もうずぶ濡れだわ」
「あれ、もう止んでる。通り雨だったみたいだね」
「そ、そう」
「あ、ほらマオ。すごく綺麗に虹が出てるよ」
「う、うん」
「マオ、どうかしたの? そっぽ向いちゃって」
「ランが服脱いでるからでしょ!?」
「上だけだよ?」
「充分よ!」
065『頬に爪を立てる』
「よお、ラン」
「ディアン」
「どうしたよ、その顔。色男ぶりが上がったな」
「マオにつねられた」
「嬢ちゃんに? お前何やったんだよ」
「雨に降られて濡れた服脱いだら、怒られた」
「そりゃあ怒るわ」
「上だけだよ?」
「当たり前だ。全裸になったらただの変態だ」
「ならないよ」
「まあ、照れ隠しだろ」
066『手繰り寄せた糸の先』
「あぁもう!」
「また逃げられた?」
「そうよ!」
「しっかり食いつくまで待たないと」
「分かってるけど、糸が動くとつい反射的に、こう」
「マオらしくはあるけどね」
「どう云う意味よ、ラン。もう良いわ! 釣竿なんか使うから面倒なのよ! 目で見て手で獲った方が早いじゃない!」
「また野性的だね」
067『そう、全てが終わる前に』
「で、ホントに素手で獲ったのか?」
「まあ、釣果は上げたよ」
「あん?」
「ディアン、ガラ悪い。投げナイフ持ってるだろ、マオって」
「ああ、それで仕留めたのか」
「そう。目視で見つけて、小石投げて魚の逃走経路コントロールして浅瀬まで来させた上で、一投」
「なんだその手際」
「しかもこの間三秒」
068『新婚ごっこ』
「はじめまして、つっつつつ」
「妻のマオです。すみません、妻は恥ずかしがり屋でして」
「ね、ねえラン(小声)」
「ん?」
「この設定、何とかならないの?(小声)」
「これが一番穏便な手段なんだよ(小声)」
「だって、あたしがランのつっつつ(小声)」
「嫌?」
「い、嫌とは言ってないわっ(小声)」
069『ずるい人』
「おい、ラン」
「ディアン、何?」
「何、じゃねえよ。お前の連れがウチの支部で暴れてんだよ。どうにかしろ」
「マオは訳もなくそんな事しないよ。相手が何かやったんじゃない?」
「あーまあ、そうだが」
「何したの、そいつ」
「新人がやっとこさ採ってきた薬草をぶんどったらしくてな」
「自業自得だね」
070『結婚しちゃおっか』
「よお、新妻さん」
「やめてよおっさん。て云うかどこで聞いたのよ」
「俺の仕事は何だっけ?」
「そっか、ギルドの支部長だったわね。未だにちょっと理解できなくて」
「ひどいな、おい」
「だっておっさんなんだもん」
「意味がわからん。で、依頼で演じた役を本当にする気は?」
「おっさんには関係ない」
071『善意の裏返し』
「ちょっと聞いてよラン!」
「おかえりマオ。どうしたの?」
「そこの通りで雨宿りしてたら、泥水かけようとしてきた奴がいたのよ。腹立つったら」
「あー。もしかするとひょっとしたら、良かれと思ったのかもよ? はいタオル」
「ありがと。一体どこが良い事なのよ!」
「服、濡れたせいで透けてるよ?」
072『捨てられないガラクタ』
「マオがいつも持ってるその鈴って、鳴らないよね」
「そりゃそうよ。鳴らないように中に詰め物してるもの。仕事中にリンリン鳴ったら危ないし」
「あ、やっぱりわざとなんだ」
「何よ、他の荷物みたいに置いていけって?」
「まさか」
「良いの?」
「失くしたくないものなら普通だよ」
「ガラクタだけどね」
073『一緒にいた影響』
「僕ができる事は、皆ができる訳じゃないんだよね」
「何だそれ、嫌味か」
「いや、ただの事実。ディアンだって知ってたんだろ?」
「知ってたけどよ。それ他の奴に言うなよ、マジでただの嫌味だから」
「そう取られるって事を、マオ以外誰も教えてくれなかったけど」
「え、お前自覚無かったの?」
「うん」