試験当日
続きです、よろしくお願い致します。
※2014/11/13:ルビ振り等若干修正。
「はい、それではまず『通紋』から始めて」
試験本番、僕は校長らしき人を中心とした五人ほどの試験官の前で実技に臨んでいた。
「はい……『イグニス・アージェント』……『イグニス・オーア』」
僕の前に赤い紋章が現れ、続く詠唱で火の玉が生まれる。
――ここからだ!
「『イグニス・アリクアム・オーア』!」
この一か月でセチェ爺から教えて貰った紋章術の高等接続詠唱――『アリクアム』。
通常なら、一回手元から放った『紋章』は、再度宣誓する必要があるんだけど、この『アリクアム』は、直前に宣誓した紋章を続けて使用するための詠唱らしい。
僕はこれを利用して、セチェ爺に披露したみたいに火の玉を七つ出してそれぞれ色を変える。
「ほう……その歳でそこまで出来るとは……」
中央に座る校長先生が感心してくれているみたいだ……。なら、もうちょっとサービスしても良いかな? セチェ爺も「出し惜しみはしなくても良い」って言ってくれてるし。
「『イグニス・インアージェント』」
僕は一度『術化』を解除する。
「うむ、術の扱いと言い、その身から感じる『紋章力』と言い、アルティ王族が推薦するだけの事はありますな……」
校長先生以外の人からの印象も良いみたいだ……。
「早々に『術化』を解除した所を見ると、持続力に難があるようですが、それもおいおい学べばいいでしょう」
あ、何かこれで終わりって誤解されてる? じゃあ、次が本番だって伝えないと……。
「えっと、すいません、次いって良いですか?」
「ほう、まだ何か見せてくれるのかね?」
校長先生の言葉に僕は「はい」と返し、意識を集中させる。
「いきます……『イグニス・シールド』」
――カシャンッ!
校長先生が驚きの余り、椅子から立ち上がって僕の顔を食い入るように見ている。
他の試験官も「まさか……有り得ない!」って叫んでいる。
「えっと、続けても……?」
「――はっ! あ、ああ、済まない……どうぞ」
「はい……『イグニス・サギッタ』!」
僕の手に一本の赤い矢が現れる。試験官の人達も再びざわつき始める。
僕は実技試験用に準備された金属人形に向かって、矢を投げる。
――ジュワァ……。
矢が人形にあたると、当たったところを中心に赤くなり溶かしていく。
――そして、実技が終わり軽い面接になった。
「では、君は『定紋』持ちでもあると?」
「はい……ただ、自分の『定紋』がどういう物なのか分からなくて……ここで研究できないかな、と」
僕の答えに、校長先生が「そうかそうか」と納得した様に頷く。試験官の何人かは研究畑の人らしく「是非、自分に手伝わせてくれ」と言ってきている。
「はい、その時が来たら、よろしくお願い致します」
実際にその時が来るかどうかは分からないけど……。
面接の後、当然の如く、校長先生から「合格だよ」と告げられた。
僕はその足でフィー達が待つ城に戻る。皆、謁見の間で僕の試験結果を待っているとの事で急いで向かう。
「合格おめでとう!」
謁見の間に入ると、フィーを始め、オルディ、ジェネロ様、ドミナ様、セチェ爺が拍手で迎えてくれた。
どうやら『アリクアム』が使える時点で、普通の実技でも合格出来る様で、僕が不合格になる可能性は全く考えていなかったらしい。
立食形式のプチパーティと言った感じでワイワイやってると、フィーが僕の所にやって来た。
「うわぁ、何か照れ臭いね、こう言うの」
「タケル様はいずれ、わたくしの旦那様になるのですから、これ位は当然ですし、慣れて頂きませんと!」
何と言っていいかわからず、何となく「うん、頑張る」と言ってしまった。フィーは少し驚いた顔をすると、いきなりパァッと笑顔になる。
「うふふふふ……。少しはわたくしの事も思って頂けてるのですね?」
「まあ、そりゃあね?」
意識するなって言うのが無理だよね……。実際、良い子だし、何か、犬っぽくて可愛いし……。
パーティもそろそろ終わり、と言う所でセチェ爺が僕の所にやって来た――何だか知らない男性を連れて。
「あ、セチェ爺!」
「おう、タケ坊……よう頑張ったの?」
僕の頭をくしゃくしゃと撫でてくれるセチェ爺。
「うん、ありがとう! セチェ爺のお蔭だよ! それで……その人は?」
「おう、そうじゃった、こやつは儂の倅――次男坊のノムスと言うての? ほれ、ノムス、挨拶せぇ」
紹介されると、オールバックの髪にツリ目、カイゼル髭の男性――ノムスさんは、右手を胸の辺りに添え、頭を下げると僕に綺麗な礼を見せてくれた。
「ご紹介に預かりました、セチェルドス=タンデンが次男、ノムス=タンデンと申します。この度は合格、おめでとうございます。つきましては、入寮以降、私がタケル様の家令として仕えさせて頂きたく……」
僕は傍にいたフィーに「家令ってなに?」と聞く、するとノムスさんがクスリと笑って答えてくれた。
「家令とは、貴族の事務や会計、使用人の監督を行う……まあ、秘書の様な物と考えて下さい」
「えっ! 僕なんかに、そんな貴重な方を……?」
僕がうろたえていると、フィーが「大丈夫ですわ」と言って……。
「わたくしにとっては、オルディがそれにあたります。『貴族寮』に入る以上は必須になりますし、何より王族の推薦で入学なさる方に家令もいないとあっては、アルティ王族がなめられてしまいますわ?」
「それに、儂もタケ坊が心配じゃしの? 爺からのプレゼントと思ってくれれば良い……」
「そう言う事です……タケル様。外堀から埋めてしまう様で申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願い致します……」
ノムスさんはそう言うと再度、僕に向かってお辞儀をする。
「えっと、そう言う事ならよろしくお願いします、ノムスさん! 色々と教えてくれると嬉しいです!」
僕もノムスさんを真似してお辞儀をする。ノムスさんは「余り主人が家令にその様なお辞儀をしてはいけませんよ?」と言って微笑みながら僕に早速教えてくれた。
パーティが終わると、僕は早速入寮の準備に入る。ノムスさんはそれを手伝ってくれながら、僕とお互いの事を話し合う。
「親父があんなに楽しそうにしているのは久々でして……。私としてはタケル様へのお礼も兼ねて、立候補したのですよ」
どうやら、セチェ爺も僕の事を孫の様に思っていてくれたみたいだ。僕は何となく嬉しくなって「じゃあ、またセチェ爺にお礼しなきゃ!」とノムスさんと笑いあった。
――翌日――
「タケ坊……身体に気を付けての? 生水はそのまま飲んじゃいかんぞ? 小遣いやろうか?」
「親父……タケル様が困っているだろう? もう行くぞ?」
「うむ……? そうか、そうじゃのう、それでは元気での?」
「うん、セチェ爺も元気で……。休みには帰ってくるから!」
僕はセチェ爺と握手を交わし、フィー達が待つ馬車に向かう。
「タケル殿……フィーを頼む」
ジェネロ様とドミナ様が揃って僕に頭を下げる。慌てて頭を上げてくれる様にお願いして「どこまで頼りになるか分かりませんけど……出来る事は頑張ります」と伝える。
「うむ、今はそれで良い」
最後にジェネロ様は「ではな? 婿殿」と言って城の中に戻っていった。
「では、タケル様……参りましょう?」
――ああ、緊張するなぁ……。
フィーと一緒に馬車に乗り込み、僕らは『貴族寮』へと向かう。
新しい生活に不安を感じながら……。




