試験前夜
続きです、よろしくお願い致します。
※2014/11/13:ルビ振り等若干修正。
「え、じゃあ編入試験って実技だけなの?」
「はい、流石に大国の王族の推薦ですから……。合格が確定した試験と思って頂いて構いませんわ?」
ここ最近の日課となりつつあるフィーの部屋でのお茶会で、僕は思わずお茶を零しそうになってしまった。
――因みに愛称呼びは、フィーから強要された。その流れで「姫様が呼び捨てならば私の事も呼び捨てでないとおかしい」と言う事でオルディの事も呼び捨てに。
「でも、良いの? 聞いた話だと入学希望者って結構いるんでしょ? そんな、コネをフルに使った入学なんて……」
非常に後ろめたいんだけど……。
「問題無いでしょう、王族の推薦と言う事はそれだけの『何か』があると言う保証です。それに、推薦は王族だけではありませんよ?」
オルディもそう言って「問題無い」事を強調する。
「……王族だけじゃないって?」
「まずは、神官長――セチェルドス様の推薦、それとピグエスケ=アックス卿ですね」
「えっ!」
思わずお茶を吹きだしてしまった……。何で、あの人が?
何だろう……? 復讐……とか? 不味い不味いマズイ。
「はぁ……そんなに怯えなくても大丈夫ですよ? アックス卿からの伝言です「ボキュから奪い取った花嫁だ……姫様に恥をかかせるなよ」だそうです」
嘘……。正直、僕の中であの人って、オルディさんを倒して、フィリアに結婚を強要しようとしていたっていう印象が強いんだけど……。
「だから言ったでしょう……? あの方は一応、誇りある方ですと……」
どうやら、家からの期待やら領民とかの事を色々考えての事らしい。
今度会ったら、お礼を言わなきゃ……。出来れば、友達になれたら……良いな。
「大丈夫ですわ! アックス卿も『紋章学校』の生徒ですもの!」
僕がピグエスケさんにお礼を言いたいと言ったら、フィーがそう教えてくれた。なら、やっぱり入学しないと。コネでも何でもありがたく使わせて貰おう……。
「さて、それじゃあ僕はセチェ爺の所に行ってくるよ」
「あら、もうそんな時間ですの?」
僕は「ごちそうさま」と一気にお茶を飲み干してフィーの部屋を後にする。
城の中庭に付くとセチェ爺が僕の姿を見て手を上げる。
「おお、タケ坊」
「おはよう、セチェ爺!」
僕は今、セチェ爺から『紋章術』の基本的な使い方を学んでいる。
いくら、推薦があるからとは言っても日常生活でスムーズに『通紋』を使える様になっておかないとマズイだろうと言うセチェ爺の配慮だ。
「それでは、今日も出力調整じゃな。いつも通り、『火紋』の火力を調整して、赤から青まで……じゃな」
「うん、分かった。『イグニス・アージェント』!」
僕の目の前に赤い紋章が浮かび上がる。それを確認して、僕は続けて唱える。
「『イグニス・オーア』!」
紋章がグニャグニャと形を変え、球状の火に変わる。その状態で僕は火の玉に意識を集中させる。
「良いか……? 心音を三十数えたら、出力を少し上げるのじゃぞ? まずは赤から橙、黄、白、水、空、青の順じゃぞ?」
「うん……分かった……」
僕は心の中で心臓の音に意識を傾ける――。
「まずは、橙……」
そして、三十数えたら出力を上げ火の色が変わるのを感じ取る。それを火の色が青色になるまで続ける――。
その後、何度か同じことを繰り返す。
「――良し、それまでじゃ!」
「ふぅ……」
流石に疲れたな……。
「ふむ、出力調整に関してはもう卒業で良いかの……」
「あれ? そうなの? まだ他の四紋でやってないけど?」
「いや、他の紋でもやり方は一緒じゃよ。火紋は火力が色に出る分分かりやすいからの」
「そうなんだ? じゃあ、次は何するの?」
「ふぉふぉ……そうじゃのう……」
こんな感じで、僕は編入試験までの一月をフィーやセチェ爺と一緒に過ごした。
――そして、試験前日。
「うむ、『通紋』の扱いは、基礎に関してはもう完璧じゃの!」
「そう?」
出力、操作の訓練を毎日繰り返して、セチェ爺との訓練以外にも自室でも色々試したお蔭で僕は大分『通紋』の扱いが上手くなった――と思う。
今、僕は火の玉を七つだしてそれぞれ色を変えている。
セチェ爺によれば、これが出来る様になれば推薦無しの編入試験でも実技は合格ラインらしい。これで、多少後ろめたさは消えたかな……?
「さて、本来ならば次は『定紋』について教えるべきなんじゃがのう……」
セチェ爺によれば、僕の『定紋』はどう言うモノなのか、まだよく分かってないから教えようがないらしい。
「一応、タケ坊が望むなら『学校』の方で研究の準備は出来ておるらしいが……判断はタケ坊に任せると伝えておる」
そして、セチェ爺は「まあ、暫くは学校生活を楽しむと良い」と言って明日に備える様に言ってくれた。
セチェ爺と別れた僕は、やる事も無くなったのでフィーの部屋を訪ねてみる。
「フィー、いる?」
「あら? タケル様? 今日はもう訓練は良いんですの?」
「うん、セチェ爺のお墨付き!」
僕はフィーに向けてブイサインを見せて「大丈夫」と伝える。
「まあまあまあ、それならばわたくしの部屋でゆっくりして行って下さいな?」
フィーの部屋に入ると、オルディがフィーの服とかを荷造りしていた。
「あれ? どこか行くの?」
「もう、タケル様ったら、何をおっしゃってるんですの? わたくしもそろそろ学校のお休みが終わるので寮に戻る準備をしているんですのよ?」
え、そうなの? 初耳な気がするんだけど……。これ言ったらフィーに呆れられるかな……?
「姫様……タケル殿に説明するの、お忘れになっていますよ?」
「え……あら? そうでした……わね……」
フィーの目が物凄い泳いでる。
「フィー……」
「いえ、違うんですの! わたくし、言ったつもりだったんですのよ? ただ……その……つもり……で……」
「まあ、良いよ。なら、僕も合格したら寮住まいって事なの?」
「あ、はい! そうなると思いますわ? 恐らく、推薦状の内容を考慮してわたくしとオルディの部屋に近くなると思います」
どうやら、フィーを始めとした『替紋』以上の紋章を持っている人達は『貴族寮』に住むことになるそうだ。
「へぇ……そうなんだ? あれ……? って事は僕も荷造りしないといけないんじゃ……?」
「「…………………………………………あっ!」」
フィーとオルディがしまったって顔してる。成程、完全に忘れていたみたいだね。
――その後、フィーと、オルディと手の空いたメイドさん達に手伝って貰い、僕は荷造りを無事に終える事が出来た。




