白の檻
続きです、よろしくお願いいたします。
少しだけ、上品とは言えない感じです。内容自体は息抜き程度、読み飛ばしても問題ございませんので苦手な方は飛ばして下さっても問題ありません。
――牢獄だ。
「ギャッ! ちょ、ちょっとバラっち! もう少し、ゆるく……ん」
「ダメだよ!」
――ここは……。牢獄だ……。
「――んぅ……。そ、そこは……食い込ませちゃ……ダメ……ッス……」
「? 縦は駄目? じゃあ、横?」
――空は広い。満天の星空だ……。空間としては広々と――開けている。
「――よっ! 横……も……。す、擦れ……てるぅっす!」
「? わがままが過ぎるんだよ! もう、両方にするんだよ!」
――僕たちは……。僕たち……。僕、エスケ、シーヴァ君の三人はいま。この乳白色に濁った牢獄に閉じ込められてしまったんだ……。
「――ふゃっ! そ、それ亀――ひっ?」
「あっ! なんだか、げーじゅつてきな捕縛術が完成したんだよ! タケル、タケル! 見て見て!」
――見られない! 見たいけど、見たいけど! 見ちゃいけないから! たぶんそれ、亀の甲のやつだからっ!
「――なあ、タケル……?」
「な、なに……?」
「普通は逆……だよな?」
決して後ろを振り返らず。エスケはそんなことをつぶやく。
「あ……はは……。そうだよねぇ……」
決して後ろから聞こえてくる声に反応せず。シーヴァ君は力なく笑う。
「――早く出ていってください……」
決して聞こえないように。僕はこの生き地獄から解放されることを願う。
「あ……。な、なんだか、あっし。新しい世界に到達できそう……。――あ……」
「うふぇ……。だ、大丈夫? プエッラぁ……」
背後から……。僕たちの背中側から聞こえてくる艶っぽい声に、荒い息遣いに。そしてそこで繰り広げられているであろう光景によって。僕たちはこのにごり湯から出ることを封じられている。
ことの起こりは十分ほど前。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それじゃあ、クロさんたちは、あっしらの方であずかりやす」
「あ、助かります」
「むっふぅ……。スポンジ……だよ……」
貸し切りスペースの、男女の仕切り口。僕たちはそこで男女別に行動することになり、その際、ちゃとら、ボス、クロの『ムゥズ』たちは女性陣に面倒見てもらうことになり、僕は三匹をプエッラ姐さんとバラちゃんに預けた。
どうやらそのもこもこ具合から、なにか期待しているらしいけれども……。まあ、害はないだろうから良いよね?
そんな訳で、僕たちは早速。
「――ふぅ……。たまにはいいかもな……」
「これなら、姫様とかにも声を掛ければよかったね?」
しっかりと体の汚れと悪臭を落として湯船につかる。すると、エスケとシーヴァ君が、少し熱めのお湯に、体をブルリと震わせながらそんなことを言い始めた。
「そうだねぇ……。『下水道』は無理でも、これだけ参加ってのもありだよねぇ……。ふぃぃぃぃぃ」
あぁぁぁ……。心が洗われる……。命の水はポンジュース。心の洗濯は温泉。あぁぁ……。生まれて来て良かったぁ……。
「――まぁ、次の機会もあんだろぉ? それに……シーヴァの坊主は、エクエス目当てだろ? 別に俺らと連れ立ってじゃなくても、ふたりっきりで宿の湯にでもつかって来いよ?」
「――ガッ? い、いえ……。俺たちはその……。まだ……」
「ふむ。誠実なのは良いが……。ああ見えてオルディの競争率は高いらしいぞ? ――特に女子には気を付けろ?」
「ヴァァァァァ……。僕たちに出来ることがあったら言ってねぇぇぇぇぇぇ?」
「あ、ありがとう、ふたりとも……」
こんな感じで、たまには男同士。裸の付き合いも悪くはないよね。
それにしてもそうか……。オルディとシーヴァ君がもうそんなことに……。
「ふぃ~……。坊ちゃん、俺ぁ、ちょいとサウナに行ってくるわ」
「ああ……。ゆっくりして来い」
そしてしばらくは……。僕たちは普段、女性陣がいる場所ではできない話などをしていたんだけれど……。
「あ、あそこの岩場とか、座るのにはちょうどいいかも」
「む……。そうだな……。――向こうはまだ上がっていないだろうか?」
僕が岩場を指さすと、エスケがあごをなでて、そんなことをつぶやいた。するとシーヴァ君は、おそらく男女の仕切り代わりの岸壁を指さして――
「ん~……。出る時は互いに声をかけ合おうって言ってなかったっけ?」
――そう言って「心配ないよ」と言ってくれた。
そんな訳で僕たちは、火照った体を覚まそうと、三人そろって湯船から立ち上がる。
「ふぃ~……。冷水、れいす――って、嬢ちゃ――グァッ!」
すると、サウナルームからスェバさんの叫び声が聞こえてきた……。
「ひはっ! 見逃してくだせぇ!」
「――答えはダメ! なんだよっ」
ドタバタと、騒音が近付いてくる。――なんだか、『紋章術』の光がチラついているんだけど……。
「――タケル。たぶん、お前の担当物件だ」
「えっ? ちょ、ちょっと待って? いつのまに?」
なにが……。いや、誰が騒いでいるのか。秘匿性ゼロの情報と答えに、エスケはこめかみを押さえて、僕に向かってそんなことを言い始めた。
いや、百歩譲っても、僕の担当はバラちゃんだけだよ?
「少なくとも、プエッラ姐さんは分担しようよ!」
「――スマン。ボキュにはヴィスが……」
「――あっ、ごめん……。俺、好きな人いるから……」
「えっ? ちょっと、それ言ったら僕だって!」
「「『私套』は別!」」
いやいやいや! どう考えてもおかしいよ?
「ふぅ……。いまのは冗談だ……。現実問題として、プエッラ殿が一番懐いているのはお前だしな……?」
「このままだと、ここ……破壊されちゃうしね……」
こうして押し付け合いの結果。僕は騒音のする方へと、忍び寄って――
「――っ…………………………」
「ふゃ……………………………………」
「――隙アリっ! お縄につくんだよっ!」
――ふよんって……。両耳から伝わる思った以上の感触……。
「……………………っ」
そして弾みでプエッラ姐さんにグッと掴まれる……。
「――ふゃは……? なんか、かた――」
「あれ? タケル、どうしたんだよ?」
僕は叫ぶより早く。叫ばれるより早く。エスケたちが待つ湯船へと飛び込む――
「――ん? どうした、タケ――うぁっぷっ? お前っ、飛び込むな!」
「ちょ、ちょっと。イタクラ君っ?」
――空を舞うしぶきに、エスケとシーヴァ君から抗議の声が上がるけれど、いまはそんなこと言っている場合じゃないっ!
幸か不幸か……。飛び込んだ時の音で、ふたりには背後の絶叫は聞こえなかったらしい……。
――叫ぶくらいなら、こっちに来なきゃいいのに……。
「ひっひっふぅ……。ひっひっふぅ……」
ともかくいまは、雑念を消さないと……。
「どうしたタケル?」
「うしろ、みる、だめ」
「なんで片言……?」
動揺のあまり、思わず片言になっちゃったけど。ここはなにも見ず。なにも聞かず。時間が……。台風が過ぎ去って行くのを待つべきだと思うんだ……。
「――なにかあるの……か……?」
そんな僕の様子に、ふたりがけげんな表情になる。そしてエスケが立ち上がり、後ろを振り向くと……。
「んぁっは……。ちょ、そこは――」
「んもぉ! 暴れると、うまくできないんだよ!」
艶めかしい声と水音が、耳に入ってくる。
「――っ」
恐らくその光景を目にしてしまったエスケは、僕と同じく。なにかが起こる前に。なにかが反応する前に。湯船に沈み込む。
「えっ? えっ?」
そして僕とエスケは、湯船に深くつかり、シーヴァ君をも引っ張り込む。
どうやらエスケは僕ほどには反応し、動揺してはいないらしく。シーヴァ君の耳に、小声で状況を説明してくれたようだ……。
こうして僕たちは、白濁の檻に囚われ、とある事情によって、立つことが……。その身をさらすことができない状況へと追い込まれてしまった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やはぁ……。申し訳ございやせん……」
「ふんぅ!」
――結局。
納得の捕縛術が生まれたらしく。ご満悦になったバラちゃんにお願いして、ふたりとも店員さんが用意してくれたらしい湯あみ着に着替えてもらった。
プエッラ姐さんはいまだに……。湯あみ着の上からバラちゃんに縛られて浴場の床にはいつくばっている。正直、その状態も結構きわどい……。
「やぁ? 出ないんでやすか?」
プエッラ姐さんが顔を起こしてこちらを見る。
「? もう着たよ?」
その上にまたがったバラちゃんがコテンと首をかしげる。
「うん。ふたりが女湯に戻ったら出るよ」
「少し、男だけで込み入った話がしたいのでな?」
「俺たちもすぐ上がるから」
プエッラ姐さんもバラちゃんも、自分の格好を良くも悪くも理解していない。
――だから僕たちは、いまだに立ち上がることができなかった。
そこからさらに十分。
僕たちは言葉を交わすことなく。三人がそろって鎮まった時を見計らって。そそくさと脱衣所へ駆け込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
脱衣所から、さらにロビーみたいな場所へと移動すると、どうやらバラちゃんから解放されたらしいプエッラ姐さんと、バラちゃんが、なにか話し込んでいた。
『ちゅうちゅ~?』
『――ヂュ……』
『チュフゥ……』
その傍らではのぼせてしまったのか、ぐったりとしたボスとクロに向けて、ちゃとらが扇を仰いでやっている。
その微笑ましい光景に。先ほどの生き地獄は夢だったんだろうと、僕たちはプエッラ姐さんたちに近付く。
するとふたりの会話が耳に入ってくる――
「――でやすからね? うちのパパが言ってたんでやすよ。――「男は誰しも『杭』使いだ」って……。あっし、ただただ……。男の……。タケルちゃんの……。どうせなら、皆の『杭』を見たかっただけなんす……」
――この話は聞かなかったことにしよう……。
僕たちはうなずき合い。目と目でそう決め合った。
「ほほぉ……」
「お待たせふたりとも! さ、帰ろう?」
興味しんしんなバラちゃんを、ヒョイとうしろから抱え上げて、教育上よろしくない人から自然に引き剥がす。
「タケル、タケル! タケルは『ク――ググぐ?」
「バラちゃん、ないからね?」
さて。帰ろう――
「えぇ……? でもあっし……。確かに――」
「――帰るぞ、プエッラ殿!」
なにやら見慣れた……。折りたたみ傘大の『土紋杭』を取り出したプエッラ姐さんの首根っこを、エスケが力強くつかむ。
さて。今度こそ本当に帰ろう……。
プエッラにラッキースケベ属性を付けようとした結果………………痴女になりましたorz




