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撤収と悪臭

続きです、よろしくお願いいたします。

『ちゅっ!』


 ――結論から言ってしまえば……。あっさりと『ゴカデ』の『召喚紋(コジェ)』は見つかった。


「やはり……。見たことないな……」


 ちゃとらが指差す『召喚紋(コジェ)』を見て。エスケは眉間にしわを寄せてつぶやいた。


『チュフ……』


「やはぁ……。なんか、あっしの知っている『召喚紋(コジェ)』よりも……。線が……黒くて、太くて、いびつな感じでやすねぇ……」


 不機嫌そうなクロをムニュンと抱きかかえながら、プエッラ姐さんは「うへぇ」と、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。


 正直、プエッラ姐さんの気持ちはよく分かる。


「これ……。消すのって言うか、手を突っ込むの……勇気要るよね」


 汚水の下でモヤっと輝く『紋章』。汚水のせいなのか、それとも元からそう言うモノなのかは知らない。知ったこっちゃないけれど、『ゴカデ』の『召喚紋(コジェ)』は黒く輝いて見える……。


「取り敢えず、俺が記章しようか?」


 シーヴァ君の提案に、エスケが「ふむ」とつぶやいたあと。


「いや……。タケル、練習だと思ってやってみるといい。念のために、ボキュたちも記章しておこう」


 そう言って、僕に手帳を投げて寄越した。


 その後。とくに問題もなく――記章は数回やり直しさせられたけど――。僕たちは、下水道をあとにすることにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 僕たちが、ひとまず『ムゥズ(鼠型)』たちに別れを告げようと洞窟どうくつに戻ると……。


『ヂュ……』


『チュ……チュウ!』


 なんだか、ボスが灰色の『ムゥズ』の肩に手を置いて、なにかを告げている場面に出くわした。


 ちなみに、ボスは松葉づえ代わりの木の枝で体を支えている。そのせいか分からないけれど、なぜだか二匹の姿は終戦直後って感じに見える。


 そんな光景をぼうっと見守っていると、僕の隣に誰かが立った。


「王位……継承……なんだよ……?」


 ――バラちゃんだった。


「えっ……? あ、そ、そうなんだ?」


 なぜか涙目の――まるで保護者の如き様子のバラちゃんによれば、雰囲気としてはボスが引退して、次のボスに「頑張れよ……?」と言っている場面っぽい――とのことだった。


『ヂュ……』


 ボスはクルリと生き残りの『ムゥズ』達に背を向けて、手を上げる。たぶん流れ的にはこのまま群れを去ってひっそりと――って感じなんだろうけど……。


『ヂュ……ヂュ……ヂュ……………………ヂュ?』


 ――トットット……。


 本来なら。下水道の外から入ってくる光で、杖をつくボスの姿が影になり、良い絵になったんだろうけど……。


 残念ながら、ボスの足は一歩たりとも前に進んでいない。なぜならば――


「むふぅ……。タケル、タケル! 捕まえた!」


「――うん……。さすがだねぇ……」


 ――その体は、バラちゃんに持ち上げられていたから……。


 バラちゃんはボスの隣にしゃがみ込み、ひょいとボスの体を持ち上げたまま、うれしそうに……。顔の向きだけを変えて、僕を見上げている。


 ボスは恥ずかしさからか……。それともまだ気が付いていないのか……。バラちゃんに持ち上げられたまま、いまだに歩いているような動きをしている。


 はしゃぐバラちゃんの頭をなでていると、少し離れた所で、同じようにクロが生き残った『ムゥズ』たちと、なにかを話し合っているみたいだった。


『――チュフ』


『チュ……チュチュッ!』


 クロはなにかを白色の『ムゥズ』に手渡している。


 そして『じゃあな』といった感じで、ボスと同じように『ムゥズ』の群れに背を向けた――所でプエッラ姐さんにとっ捕まった。


「ふゃっはぁ……。あっしの所に来るっすよ?」


『チュファッ!』


 クロは『なにをするッ!』って感じで、プエッラ姐さんをにらみ付けてジタバタとしているが、それがまたプエッラ姐さんのツボにハマったらしく……。


「うぇへへへへ――」


『チュー!』


 ギュッとされて、ガクッとなってしまった……。


 そしてボスの交代劇と、クロの悲劇が終わったあと。


「ふむ。それでは帰るか?」


「そうだね……。俺も早く帰って、図書館に行きたいし……」


「ふゃはぁ……。お洋服とか作らないと……」


『………………』


「むふぅ……」


『ヂュゥゥゥゥ――』


「――はは……」


 なんだか、それぞれ満足のいく収穫があったみたいだけど、温度差が激しいな……。


 そして――


「うん。まあ良いけどさ……。うれしいけどさ……。君はこれで良いの? ――ちゃとら」


『ちゅ?』


 ――僕の背中には、それが自然であるかのごとく。ちゃとらが引っ付いていた。どうやらこのまま僕たちに付いてくるつもりらしい。


 うん。プゥちゃんと約束したし、それは良いんだけど……。群れは良いんだろうか?


 僕の疑問には、ちゃとらも気が付いたらしい。


『ちゅ。ちゅちゅちゅ……! ちゅーちゅっ!』


 身ぶり手ぶりで、僕やちゃとら、そして群れを指差す。


 ――で。その様子から察するところ。ちゃとらは、僕たちのもとから『ひまわりの種』を、定期的に群れに供給する係となったらしい。たぶん、『召喚紋(コジェ)』に案内した報酬……?


「まぁ……。いいだろう」


「――だね……」


 ――こうしていろいろとあったけれど。当初の目的である『(ムゥズ)型退治』はできなかったけれどようやく。


 僕たちは『ヴァニィラ(学都)下水道』から外へと帰還したんだ……。


「――あれ……? 坊ちゃん? 坊主……?」


 ――スェバさんを忘れて……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「まっっっっっったくよぉっ!」


「ごめんなさい……」


「む……。スマン……」


 下水の入り口前。そこで僕たちは土下座している。


 ――当然のことだけれどあの後。スェバさんを忘れてしまっていたことに気が付いた僕たちは、下水の入り口で出くわしたスェバさんに怒られていた。


 気が付いたきっかけは、バラちゃんの「ねぇ。おじさんは?」のひと言。


 どうやら必死になって『召喚紋(コジェ)』を探しまわって。どうにも見つからなくて、エスケの指示を仰ごうと洞窟どうくつに戻ってみれば、エスケはおろか、僕やシーヴァ君たちもいない。


 そこで僕たちもまた、必死に『召喚紋(コジェ)』を探しているんだろうと思ったスェバさんは、ひと息つこうと、その場に座り込んだらしい。


 すると、事情を察したらしい? 一匹の『ムゥズ』が、スェバさんの背中をポンポンと優しくたたきながら、身ぶり手ぶりで僕たちが既に帰ったことを伝えたんだとか……。


「まさか……。『ルピテス』に同情されて、慰められるとはな……」


 僕たちに置き去りにされたと知ったスェバさんを、『ムゥズ』たちは背中や肩を、さらに優しくたたいて慰めてくれたらしい。


「おじさんっ! 私が気付いたんだよ!」


「――おぅ……。嬢ちゃん、ありがとうなぁ……」


 バラちゃんはスェバさんに、両手のひらを突き出してあめ玉を要求していた。そのあと、虚ろな目をしたスェバさんに、僕は声を掛けることができなかった。


 ――うん。帰ったらなにかおわびを考えなきゃだよなぁ……。


 そして僕たちは、改めて帰路につく。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はい。ストーップ! そこまでです!」


 寮の敷地内に入ると、即座に寮監さんにそう言われてしまった。


 黒を基調とした丈の短いワンピースに、白いエプロン。ちょっとしたメイド服姿の寮監さん――六十三歳 独身――は、ほうきを逆さに持ってどこかの仏像みたいに、手のひらを僕たちに向けている。


「――イタクラ君? 私、言いましたよね? 自覚をお持ちなさいと」


「はぇ?」


 寮監さんは、ほうきをクルクルと回転させると、その穂先をこちらに向けてひと言――


「臭いです」


 ――そう言って、近所の公衆浴場のチケットを投げつけてきた。


 どうやら僕たちは、かなりきつい状態にあるらしかった。――まあ、下水に数時間。さらには『召喚紋(コジェ)』を消すために汚水に手を突っ込んだりしてるし、当たり前と言えばそう……かな?


 寮監さんは、あらかじめこうなることを予想していたのか――と言うより、考えなしの僕たちが問題あったのか、どうやら近所の公衆浴場と話を付けてくれていたらしい。


 そんな訳で、僕たちはトボトボと……。


「む……。タケルよ……? やはりボキュたちは臭いのか……?」


「ん~……。それだと普段から臭いみたいに聞こえちゃうから……。たぶん、あの汚水が一番マズかったのかなぁ……」


「あ~……。それかもねぇ……」


『ちゅ~……』


 思春期の僕たちにとって。たとえ、それがミニスカメイドのお婆さんだったとしても……。女性位からの「臭い」は、結構なダメージだったりする……。


 エスケ、シーヴァ君、僕の三人は、互いの体を嗅ぎ回って確認する。そこにちゃとらも加わって、なんだかそう言う動物みたいになり始める。


 すると少し前を歩いているスェバさんが、顔だけこちらに振り返って、あきれ顔で口を開く。


「はぁ……。そりゃあ、下水に入ればそうなんだろぉがよぉ……。坊ちゃんにしろ、坊主にしろ、気にし過ぎだっつうの……」


「むぅ……」


 スェバさんの素っ気ない答えに、思わずエスケと声を重ねてうなってしまったけれど……。それでも気になるのは仕方ないことだと思うんですよ、スェバさん……。


「やはは……。スェバのおっちゃんは、それだからもてないんスよ?」


『チュフゥ……』


「おじさん、臭い!」


『ヂュ……』


 僕たちが、やんややんやと浴場に向かっていると、どうやら女子寮でも根回しがされていたらしくて、バラちゃんとプエッラ姐さんが合流してきた。クロとボスがぐったりしているのは、まあご愛きょう?


 ちなみに、バラちゃんに関しては、ノムスさんに無言でチケットを手渡されたらしい。――鼻をつまんだ状態で……。


「嬢ちゃん……。臭いって……。――あぁ……そうか。坊ちゃんたちの気持ちが、いま分かったわ……」


 へこんでしまったスェバさんを慰めるバラちゃんによると。どうやら、この件にはノムスさんも絡んでいるらしくて、このチケットで公衆浴場の一区画を丸ごと貸し切りってことらしい。――お疲れさまの意味もあるのかな……?


「でも……。あれだね? こうして皆で行くなら、いっそのこと、イタクラ君の屋敷でお風呂をいただくってのもしてみたかったね?」


 公衆浴場へ向かう道すがら。シーヴァ君はチケットが汚れないようにと、端っこを摘まみながら、そんなことを言ってくれた。


「そうだねぇ……。――あっ! いまからでも――」


 僕が名案だと思って、進路変更を提案しようとしたら、スササァって感じで滑りこむように。バラちゃんが僕たちの前に立ち塞がる。


「ダメなんだよっ! ノムスのおじさんが「こんかいはげすいだからだめです」って言えって!」


「おぉう……」


 どうやら考え付きそうなことは先回りされているみたいだった……。


「まあ……。仕方あるまい。今回はチケットもいただいたことだし、そちらを優先しよう……」


「そう……だね。うん。イタクラ邸のお風呂は、また今度お願いしようかな?」


「やはは……」


 皆で顔を突き合わせて『イタクラ邸浴場』はまた今度と結論づける。まあ。せっかくの寮監さんと、ノムスさんの厚意だしね……。


「――っと……。着いたぜ?」


 僕たちの少し前を歩いていたスェバさんが立ち止まって、少し顔を上げる。


「ん……と? なんか、書いてある?」


 ご丁寧に『イタクラ卿御一行さま』と書かれた看板に、僕たちは目を奪われる。


「ふむ。どうやら、貴族用の貸し切りスペースは、こっちみたいだな?」


 その看板の案内表示に従って、僕たちは貸し切りスペースへと向かう。


「ふふ……。銭湯なんて久々だなぁ……」


「? イタクラ君、やけにうれしそうだね?」


「――っ! のぞく? タケル、のぞくの? もしそうなら、私がお相手するんだよっ!」


「いやお相手って……。そんなうれしそうに……。バラちゃんはいったいなにと勘違いしてるのさ……」


 シーヴァ君に「広いお風呂は久々だからうれしい」と伝えて、バラちゃんには「のぞかない」と答えておく。


「――そう……」


「――チッ……」


 バラちゃんはなんで残念そうなのか。そしてプエッラ姐さんは、なぜ悔しそうなのか。それに関しては、ノムスさんを交えて話し合う必要があるけれど。


「ふむ。広いお風呂か……。そう言われてみれば、ボキュも数えるほどしか……だな」


 ともかく僕たちは、『下水道』での暗く、ジメッとした感じから解放されたことも相まって。貸し切りだと言う公衆浴場に、かなりはしゃいで、楽しんでいた。


 ――そう……。この時までは……。まさかあんなことになるだなんて……。


「――って、サスペンスだとなるけどねぇ……」


「タケルっ! なにぶつぶつ言っている。早く行くぞ?」


 そんなボケたことを考えていたら、エスケに可哀そうなモノを見る目で優しく引っ張られた。――うん。ひとり言の癖は今年中に直そう。ちょっと恥ずかしいし……。

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