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鼠退治隊

続きです、よろしくお願いいたします。

「それで、皆はどうするの?」


 エスケから『(ムゥズ)型退治』を持ちかけられたその日。学校が終わり、放課後。僕たちは『イタクラ邸』の二階テラスで食前のティータイムを楽しんでいた。


 テラスの中央に置いてある八人掛けの大きなテーブル。そこには僕、フィー、エスケ、ニムちゃん、シーヴァ君、トゥちゃん、プゥちゃんの七人が腰かけている。


 そして、僕の後ろにはノムスさんとバラちゃん。フィーの後ろにはオルディ。エスケの後ろにはスェバさん。ニムちゃんの後ろにはプエッラ姐さん。主従合わせて総勢十二名がいま、このテラスに勢ぞろいしている。


 そこで僕はいつものメンバーに、『鼠型退治』に参加するかどうか聞いてみた。


 当然ながら、「鼠いや。ムゥズ(鼠型)いや」と耳をパタパタと、開いたり閉じたりしているフィーは今回不参加。


「わ、私は……その、姫様の護衛がありますので……。ええ。それさえなければ、喜々として参加させていただきましたものを……」


 オルディはそう言って、不参加を表明した。取り敢えず、目を合わさないことには、ツッコまないでおこう。


「あ。ウチも下水は好かんけんな~。今回はお留守番しちょこうと思うに~」


 ニムちゃんは「うぇ~」っと舌を出しながら、手をパタパタと動かして不参加を宣言。やっぱり女性陣は『鼠型』と『下水道』。このふたつは近寄りたくないものってことらしい。いやまあ……できれば男性である僕も、近寄りたくはないけど……。


 そんなわけで、フィー、オルディ、ニムちゃんが不参加だから、当然、他の女性陣も不参加だと……。そう思ってたんだけど……。


「はい! パパさま、ママさま、エプゥト行ってみたい!」


 小さい子どもに特有の好奇心、恐るべし――と言うことなんだろうか? プゥちゃんが目をキラキラさせながら、そう言ってきた。


「プ、プゥちゃん?」


 予想だにしないプゥちゃんの宣言に、フィーが目をしきりにパチパチと瞬かせながら、ひざ元のプゥちゃんを見ている。最近、フィーはプゥちゃんをひざに乗せることが、プゥちゃんはフィーのひざに乗ることが、互いのブームと言うか、お気に入りであるらしい。


 まあそれはともかくとして、フィーのひざの上でプゥちゃんは――


「ママさま、ムゥズってクルクル回るんだよねっ?」


 ――ニコニコと、笑顔でそう言って、フィーの顔を見上げている。その手にはなにやら古ぼけた本が握られている……。


 どうやらプゥちゃんの持っている本は、アルティに古くからある童話の絵本なんだとか。プゥちゃんがもっと小さい頃からのお気に入りらしく、その絵本には『鼠型』が、車輪でひたすら空回りする――と言う場面が書かれているらしい。


 どうやらプゥちゃんは、それを実際に見てみたいらしいんだけど……。


「プ、プゥちゃん? それはおとぎ話ですわよ?」


 フィーがそう言うと、プゥちゃんは口をパカンッと開いて、目を潤ませながら僕たちの顔を見くらべる。


「ふぁう……。そ、そうなの……ですか……?」


 プゥちゃんに見つめられて、エスケもオルディも目を逸らしている。あれ……? どういうことだろうか? こっちのネズミは回らないのかな……?


「ねぇ、フィー? こっちの世界って、ネズミを飼ったりしないの?」


「――えっ?」


 フィーの声に合わせて、皆が一斉に僕の顔を見る。


 どうやらこっちの世界では、『ネズミ』――『ムゥズ・ルピテス』は害獣以外のなにものでもないらしい。『(エクゥス)型』や『(オヴェス)型』と違って利用価値がないせいか、そもそも『飼う』と言う選択肢がないみたい。


 だからこそ、その童話だけの話と思っていたらしい。たぶん童話として残っている以上。誰かが実際に試した……と思うんだけど――


「パ、パパさま、ムゥズ、回るのっ?」


 ――こんなに目を輝かしたプゥちゃんに、いまさら「たぶんね」なんて言えるはずもなくて……。


「あ、うんっ! 僕がしっかりと一匹捕まえてくるから、プゥちゃんは期待して待っててよ!」


「はいっ! エプゥト、待ってます!」


 結果として、僕は皆からあきれまじりに見つめられながら、自分の――父としての首を絞め付けてしまった……。こっち(ヘラルドライト)の『鼠型』が、あっち(地球)の『ネズミ』と大違いだったらどうしよう?


「……?」


「では、プゥちゃんは、わたくしたちと一緒にお留守番してましょうね~?」


「はいっ!」


 僕がなんだか頭をひねっていると、プゥちゃんがお留守番することにホッとしたらしく。フィーがプゥちゃんをギュッと抱きしめながら、ふたりではしゃいでいた。


 まあともかく。これで問題はひとつ片付いたわけで……。


「えっと……。他の皆はどうするの?」


 やっとこさ、他のメンバーの出欠を取ることが出来る。


「あ~……。どうすっかな、俺もここ最近、事務仕事で座りっぱなしだったからな……。うしっ、どうせ坊ちゃんも行くんだ。俺も行くぜ?」


 スェバさんはどうやら、僕たちが『スクト』に行っている間、いろいろとストレスがたまっていたらしい。ストレス発散がてらに暴れるつもりだ、これ……。


「あ……。あたしは申し訳ないんですが……。その、全く戦闘が出来ないので……」


「うふふ……? なら、トゥちゃんも一緒にお留守番しましょう?」


「お姉ちゃん、がーるずとーくだって……でございますよ?」


 まあ……これは当然。トゥちゃんは、お留守番。フィーやオルディ、ニムちゃんやプゥちゃんと一緒に、どこに遊びに行こうかと話し始めている。


 さて、こうなると――


「あはは……。じゃあ、俺はこっちに付き合うよ」


 ――男性は『鼠退治』と言う流れができ始めちゃった……。ごめんよ、シーヴァ君……。


 さて、後はノムスさんとバラちゃん、それとプエッラ姐さんか……。


 僕がノムスさんの顔をチラリとのぞき込むと、ノムスさんはニコリとほほ笑んで、バラちゃんに声を掛ける。


「さて、バラ嬢? あなたはどちらにいたしますか?」


 聞かれたバラちゃんは間髪入れずに――


「ムゥズ!」


 ――そう答えた。うん、正確には『(ムゥズ)型退治』なんだけど。バラちゃんは、先ほどの僕の発言と、そのあとにプゥちゃんに見せてもらった絵本に、すっかりと染められていた。その瞳は先ほどのプゥちゃん同様にキラキラとしていて、あまつさえ――


「プゥちゃん、待っててなんだよ!」


「はい! バラちゃん、一緒に飼育日記つけようね!」


 ――プゥちゃんと一緒に、『鼠型』を立派に育て上げると言う夢まで見始めている。


 いよいよ、僕の逃げ道がふさがれていく……。これ……『鼠型』が飼えたモンじゃなかったら、どうなるんだろう……?


「ふむ……。では私は、お嬢さま方のお世話に回りましょう」


「うん! タケルは私が守ったげるから、安心するんだよ、おじさん!」


 ノムスさんはそう言うと、さり気なくフィー(不参加)側へと移動する。ちょっとだけ、ホッとしているように見えるのは気のせいかな?


 さて。興奮しているバラちゃんはいつも通りだから良いとして、最後のひとりはどうするんだろう?


「う~ん……。二、ニム嬢? あっしも、少し……参加してみてよござんすかねぇ……?」


 ありゃ? てっきり姐さんも不参加で、フィーたちを愛でるものだと思っていたけど、プエッラ姐さんはそわそわと落ち着きなく。ニムちゃんに「家令の仕事を休んで参加したい」とお願いしている。――どうでもいいけど、姐さんっていつ仕事しているんだろうか?


「んぁ~? あ~、そうやんな(そうでしたね)~。そう言えば、エイラちゃんもこん絵本、好いちょったっけ~?」


「――二、ニム嬢っ!」


 ――成程。


 プエッラ姐さんは、この乙女な思考をもう少し普段から出していればなぁ……。きっとモテモテだろうに……。


 それはともかく、こうして、報酬金と一部ロマンを追い求めるメンバーが、『鼠型退治』に参加することに決まった。


 その後、僕とエスケは、参加メンバーも決まったことだしと、早速ティチ先生に休日ではあるが、『鼠型退治』を行う予定だと言うことを報告しに向かった。


「ん? 欠席する訳でもなし。行き先も分かっている。学校側としては別に構わんぞ? ただ、もし休日明けまで戻ってこなかったら………………。当然、分かるよな?」


「はい!」


 ティチ先生が職員室の自席に座りながら、報告しに来た僕とエスケをギロリと見上げる。おかしい……。ティチ先生のなかで、僕とエスケが問題児あつかいされている気がする……。


「ふ……。ボキュが付いていてそのようなこと……あり得ませんよ」


 同じようなことを考えたのか、エスケも冷や汗を流しながらティチ先生に告げる。でも……エスケ。なんかそのひと言は、フラグをわざわざ立てているような気がするから止めて欲しかった……。


「…………まあ、自覚がないのは不安だが……。『鼠型』くらいなら大丈夫だろう。いちおう、寮監さんにも伝えておけよ? 下水に入るなら、討伐後の風呂とか、いろいろと準備する必要があるだろうしな」


 こうして無事に学校側への根回しも終了し、それからすぐの休日――


「ふむ。準備は整ったか?」


 ――エスケが先頭に立って、僕たちの顔を見渡す。


「うん。バッチリ……とまではいかないけど、『風紋(ヴィントス)(オヴェス)』と戦えるくらいには準備万端だよ!」


「ふふ……。十分だ」


 まあ、こうは言ってみたけど……。


 実はセチェ爺経由で『アルクス卿』からいただいた『白い腕輪』が、いまでは白と言うよりも、灰色に近くなってしまっている。たぶん使用回数の限界が近いんだろうな……。


 そう言う意味ではちょっとだけ、不安ではあるけれど、今回はスェバさんがいるおかげか、少しだけ気楽ではあるんだよね。


「イタクラ君、アックス卿。今回は下水ってことだから、『ヒカリゴケ』の準備をしてみたよ」


「ふむ……。さすがシーヴァ殿」


 シーヴァ君は明かりが少ないだろうと予測して、湿気の多い下水でも使えそうな植物を用意してきたらしい。さすが……ってことで、エスケとシーヴァ君はハイタッチしている。


「まあ、こんだけ人数いりゃあ十分でしょう、坊ちゃん」


「む。そうだな、スェバもいることだし……」


 やはりスェバさんがいることは、エスケにとっても心強いんだろう。いつもより落ち着いて見える。


 それぞれが準備万端で来ているおかげか、僕たちの間に広がる安心感。これはいままでで、一番楽な戦闘が期待できるのかもしれないと、僕がひそかに興奮していると……。


「やははっ。すいやせんね、ちぃとばかし、遅れちまいやしたか……?」


「ふははっ! ひれ伏すんだよ!」


 今回の紅二点。プエッラ姐さんと、バラちゃんが、僕たちより少しだけ遅れてやってきた――ビキニ姿で……。『下水=水場=バカンス=悩殺!』ってことらしい。


「ふむ。着替えて来い」


 うん。ちょっとだけ、先行きが不安になってきた。

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