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呼ばれた日

続きです、よろしくお願いいたします。

「あ~。やっと戻れるね」


「そうですわね。さすがに、そろそろ授業の遅れが心配ですわ?」


 フォンフォンと、足元から空気を切る音がしてくる。窓から見えるて来るのは、試験、編入、マロアさんたちの件、そして今。都合四回目くらいの、街道の景色。


「まあ大丈夫だ。約束通り、きっちりと留年なしで卒業させてやる」


「そげんこつやったら、ウチも、協力するけんな~? いつでん言っちな~?」


 エスケとニムちゃんが、『紋章学校』のテキストを、ちらつかせている。もしかして、持って来てたの? 真面目だなぁ……。


「そう言えばタケル殿。ノムスさんは、どうしたのですか?」


「ああ、見ての通り。僕の『家族』とか、『家』が出来たからね……。ちょっと残って、手続きとかをしっかりやってくれるみたいなんだ」


 そう。いま、ノムスさんはウールビィス(王都)に残ってくれている。んでもって、その間に僕のお世話をする人がいない……はずだったんだけど。


「ふふんっ! その間、私が『超専属』なんだよ!」


「ははっ、頼もしいじゃないか。イタクラ君」


 どうやらいろいろと『お勉強』する。という前提で、バラちゃんは『家令代理』の座に付いてしまった。実際には、メイド長とかのサポート役らしいんだけど……。取り敢えず、ソレっぽい役職で満足らしい……。


 まあ……。前置きが長くなっちゃったけど……。僕たちはいま、ようやく学校への……。そして、貴族寮への帰路に立っている。


 さっきオルディが言ったみたいに、ノムスさんとスェバさん。このふたりは僕の『家族』関連で、頑張って動いてくれている。そう言えば忘れかけていたけど……。スェバさんって、エスケの家令なんだよね……。


「仕方ないことだ。ボキュだって、たまにアイツの事を用心棒だと、感じているしな……」


「あはは……」


 ともかく……だ。エスケのメイドからふたり減り。僕の『家族』が、ふたり増える。つまりは、そういうことな訳で――


「それで……。プゥちゃんは、どうして先ほどからだんまりですの?」


「ふぁぅ……。うと……。は、はいです!」


「フィー。目が……、目がもう、親バカだよ……」


 ――『(エクゥス・トラク)(トォスク・ビィクル)』には、いま九人が乗っている。そして、僕とフィーは相変わらず隣どうしの……はずだったんだけど。


 いま、僕とフィーの間には、ちょこんと小さな子が座っている。


 そう……。僕の新しい家族――『エプゥト=イタクラ』。ラヴェンダー色の瞳と髪が特徴的な、『イタクラ家』の次女だ。


 プゥちゃん――フィーの決定による愛称――は、僕とフィーに挟まれて、緊張に体を固くしてはいる。けれど、その口もとはフニャッと緩んでいて、少なくとも嫌がってはいないってことが分かる。


「娘かぁ……。なんだか感慨深いねぇ……」


「むっ、むすめ……!」


 僕のつぶやきに、プゥちゃんがビクッと反応している。そして最初はピクピク。徐々にパタパタと。頭頂部付近から垂れている、ラヴェンダー色の尻尾を振り始める。


 それを見たエスケは、プゥちゃんに向けて先ず、ほほ笑み――


「ふむ。仲良くなれそうで安心したぞ? 良かったな、エプゥト?」


「ふぁぴゅ! はい、坊ちゃま!」


 ――それから、もうひとりのラヴェンダー少女にもほほ笑む。


「それと……ヴィスも」


「本当に……。いまでも夢じゃないかと、思っちゃいます……」


 そう。僕のもうひとりの娘。『イタクラ家』の長女――『トゥヴィス=イタクラ』だ。


「大丈夫だ。全て……現実だ」


 エスケはそんなヴィス――これもフィーの命名――の手を、ギュッと握っていた。


 そんなむずがゆい雰囲気の中……。


「むぅ……。ふん!」


 バラちゃんだけは、眉間にしわを寄せていた。そして、頬っぺたを膨らませたまま、僕とニムちゃんの間に割り込んで座る。


「あん。バラちゃん、ウチん膝でもええんよ~?」


「むッ……。あとで!」


 バラちゃんは、「よやくだよ」と告げると、ニムちゃんからあめ玉をもらう。そして、ふくれっ面のまま、僕のひざの上に座る。そして、プゥちゃんを見ると――


「今日は私の!」


 ――と、腕を組んで僕のひざをバシンバシンとたたく。


「……って、痛いから! 地味に痛いからそれ!」


 バラちゃんの手をつかみながら懇願する。そしてふと、プゥちゃんを見ると。


「………………」


 なんだか、指をくわえて、うらやましそうにしていた。うん……。このふたり、髪型といい。年齢といい。かなり通じるものがあるみたいだ。


 バラちゃんによる領有権の主張は、プゥちゃんにとって、クリティカルヒットしたらしい。


 と観察していると――


「ふふ……。プゥちゃん? ここ……どうぞ?」


「ふぁぅ?」


 ――フィーが自分のひざを、ポンポンとたたいていた。そしてそのままプゥちゃんに、おいでおいでと、手招きする。


「え、えと。ひ、ひめさま? いいの……よろしいの?」


 キョロキョロと。プゥちゃんは、首を上下に動かして、フィーのひざと顔を見比べる。すると、フィーはクスリとほほ笑み、プゥちゃんの頭をそっとなでて告げる。


「プゥちゃんは、わたくしが『母』になるのは、おいやですか?」


 フィーの問い掛けに、プゥちゃんはプルプルプルプルと、首を振って否定する。


「なら……ね? 『姫様』だなんて、ちょっとさびしいですわ?」


「――っ!」


 その言葉が効いたのか? それは分からない。でも、プゥちゃんは、フィーの顔とひざを再び見比べると、少し恥ずかしそうに……。おずおずと、そのひざを椅子にした。


 そして、フィーの腕を、自分の胴に巻き付けると、フィーを見上げて――


「マ、ママさま……。やわこい……です」


 ――うにゃうにゃと、照れながらそうつぶやいた。


「――っ! タ、タケル様! わ、わたくし……。絶対に、娘たちを幸せにしてみせますわ! もし……。もしも、悪い虫が寄って来ようものならば……この『鉄のかぎ爪』で!」


「はいはい、ちょっと落ち着こう? ね、フィー。プゥちゃんと、バラちゃんがビックリしてるよ?」


 普通……、こう言う状況の場合って、僕の方がメロメロになるべきなんじゃ? そう思いながら、フィーの固くなった手のひらを柔らかくしていく。うん……。目の前に興奮した人がいると。かえって、冷静になれるよね……。


 それからしばらくの間。フォンフォンと、『馬車』が風を切る音だけが、車内に流れていく……。


「すぅすぅ……」


「ふぁぅ……。ママさま……。パパさま……」


 気が付けば、僕のひざ上のバラちゃん。そして、フィーのひざ上のプゥちゃんが、気持ち良さそうに、眠っっている。


「ふふ……。タケル様……? 人の縁とは不思議ですわね……」


 フィーは、そんなふたりを見て髪をなでると、そんな事をつぶやき始めた……。


「伝説……いえ、アルティ王家の口伝では……。初代のアルティ王も、養女だったそうです」


「へぇ……。そうなの?」


「えぇ。なんでもアルティ建国の祖とされる方が、王とするために養女を取ったのだそうですわ?」


 あれ? それだと、その『祖』の人が初代の王様なんじゃ?


「いえ……、その方は建国の基盤だけを用意すると、そのまま行方不明になられたそうです」


「なんだろ。面倒なことが嫌いだったのかな?」


「そうかもしれません。しかし、そんな王家の血を引くわたくしが、まさか養女を取ることになるとは……」


 ああ……そっか。それで、人の縁は不思議ですねってことか………………。


「って、フィー? 僕とフィーは、まだ婚約者なんだからさ。プゥも、ヴィスも、フィーの養女って訳じゃっぷ?」


 雰囲気に飲まれてしまうところだった。……と思って、抗議しようとしたんだけど――


「ふふふ……? ご冗談が過ぎますわ、タケル様? わたくしはもう、この子たちを『娘』として見てますもの。いまさら見方は変えられませんわ?」


「わ、分かった! 分かったから解いて!」


 ――僕の顔をつかみながら、にこやかにすごんできた……。おおっ? いままで、おしとやかなお姫様だったのに! やはり、『母は強し』ってやつなのかな……?


「わたくしは、タケル様も。プゥちゃんも。ヴィスちゃんも。出会った皆様とのご縁を、大切にしていきたいのです……。 ねぇ、タケル様……? きっと……、そう、この世界はきっと。そうやっていろんなご縁が、パズルみたいにつながって出来ているんだと……。わたくしは、そう思うのです――」


 そんなフィーの、ささやく様な。歌うような声を聞きながら……。僕はウトウトと、その意識を沈めていった……。

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