表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/72

割り振り

続きです、よろしくお願いいたします。

「タケル、床もぴっかぴかだよ!」


「バラちゃ~ん? 転ぶで~?」


 屋敷の扉が開いて、なかに入れるようになりました。そこを、われ先にと、バラちゃんが駆け出し、ニムちゃんがほほ笑ましそうに、その後につづいている。


「しかし、私も長いことこの国にいますが……。これほどの屋敷は……」


 ノムスさんは家令として、何か思う所があるのかな? 屋敷の床や、壁を眺めては、しきりに「うん」と、納得顔でうなずいている。


 とりあえず、皆屋敷の中が気になるみたい。せっかくだし、ちょっと探検してみようか? と言うことになった。


「こんな楽しいことになるのなら、オルディも連れて来たかったですわ?」


「まあ、また連れてくればいいよ。どうせなら、いまのうちに、何か仕込んでみる? ドッキリとかさ?」


 僕たちは、三組に分かれて。それぞれが、一階と地下室、二階とテラス、そして庭と分かれて探索している。


 で、いま僕はフィーとニムちゃん。そのふたりと一緒に、二階を探索中です。


「どっきり……ですか? よくは分かりませんが、楽しいことならば、ぜひ!」


「んふふ~……。なんだか、楽しそうやんな~。いつやる~ん?」


 そんな感じで、和気あいあいとした探検なんだけど……。


 どうやら、二階は寝室や、客室ばかりらしい。あんまり、変わったものはなさそうだね……。


「それでも……。このお屋敷、ところどころに『紋章術』が使われていますわ? たとえば、このお部屋の照明なども……。このように!」


 僕がちょっとだけ、そんな愚痴とも言えないぼやきをこぼす。するとフィーは、くすくすと笑いながら、近くの部屋を開けて、その入り口付近を探る。


 そして、そこにあった長方形のパズルを、スライドさせると――


「あ~、屋敷を大きくしたごたる、仕掛けやんな~?」


 ――シャカッと言う音がして、部屋の照明がついていく。なるほどね、スライドさせて『紋章』を完成させると、自動的に『紋章力』を吸い取って、照明がつく仕組みか……。


「へぇ……、面白いね?」


「ですわねぇ……。正直なところ、これほどの仕掛けを、全部屋……となりますと……」


「タケル君……、運が良いんやな~?」


 なるほどなるほど……。つまりは、僕が持っていたお金だけじゃ、とても支払い切れないだろうってことかな?


 ちなみに、部屋の調度品には――


「あら……? これは『清浄(プゥルス)結界紋(オビジェ)』……? ウールビィス(王都)でも、まだまだ出回りはじめたばかりですのに……?」


 ――フィーが驚いているみたいに、さり気なく便利な『紋章』が刻まれてあったり……。


 ついでに、テラスには――


「あっ、なんでか、気持ちのいい風が入っち来る、っち思うちょったら~。 扉を開けたら、『風紋(ヴィントス)』が発動する様になっちょるや~ん?」


 ――ニムちゃんがよろこんでいるみたいに、さわやかなティータイムを演出する、小粋な演出が仕組まれたりしてた……。


「はぁ~……、ほぁ~……。タケル君、ウチ、ここ本宅にしてもええ~?」


「わたくしも王城より……」


「いや、僕は良いけど。ふたりとも、家族をちゃんと説得しなよ?」


 そんな感じで……。僕たちは、部屋の調度品や、テラスの心地よさを体験して、一階のリビングへと戻る。


 ――一階に戻ってみると……。


「いや、タケル! ここは良いなっ!」


「おどろきがいっぱいです!」


 先に戻っていたエスケと、その同行者であるエプゥトちゃん、トゥヴィスさんが、僕たちを迎えてくれた。うん……、エスケとエプゥトちゃんの、興奮っぷりがすごい……。


「ふふふ……。エス……坊ちゃま、それにエプゥト? 少しは落ち着いてください」


 すると、トゥヴィスさんも……。笑いながら、そんなふたりを注意しているけれど――


「ふぁ、で、でも。お姉ちゃんも、さっきまで、坊ちゃまといっしょになって、キャアキャアって、言ってたでしょ?」


 ――やっぱり、そうだったらしい……。


 そして、興奮中のエスケたちの話によると。


 まず……。調度品なんかには、二階と同じように『清浄結界紋』が使用されている。


 そして部屋の照明とかと同じ仕組みで、水回りに『水紋(アクア)』が。火の回りに『火紋(イグニス)』が。それぞれ使用されているってことらしい。


 こうなると……。他にも何かないかなって、期待しちゃうよね……。うん、庭を見に行ったノムスさんたちに、期待してみよう。


「タケル、タッケル!」


「こらこら、バラ嬢。レディはもっと、つつしみを持ってですね……?」


 と思っていたら、さっそく。庭を探索していたノムスさんと、バラちゃんが戻って来た。


「あ、ふたりともお疲れさま。なにか、面白いものはありましたか?」


 尋ねてみると、バラちゃんがおもむろに。――僕の鼻先に、小さな樹木の……枝を付きつけてきた。


「――って、これ……桜?」


 どうしてこんな物が?


「ほぅ? タケル様は、この枝をご存じなのですか?」


 ノムスさんの反応からすると。やっぱり、桜の木はこっちにないのかな?


「ふっ、ふっ! ピンクの木! 初めて見たんだよ!」


「あ、ちょ、ちょっと? 分かったから! 鼻に入っちゃうから!」


 そんな真面目な思考を続けることは、バラちゃんが許さず。僕はその後、鼻に詰め物をする事になりました。そして――


『ふぁああ………………あっ? オホン、その枝は、わた……屋敷の建造者の、ちゃめっ気です』


「はぁ~……。おちゃめなんやな~?」


 ――天の声に、『仮桜』の出どころを教えてもらったんだけど。……もしかしたら、僕の他にも、こっちに来た人がいるのかもしれない……。もちろん、この屋敷が作られた時より過去に、なんだろうけど。


「ピンクっ! ピンク! エプゥトちゃん、ピンクだよ!」


「ふぁ、甘い匂いがしますね、バラちゃん」


 バラちゃんとエプゥトちゃんは、『仮桜』が気に入ったみたい。ぶんぶんと振り回したり。クンクンと嗅いだりしている。


 ――まあ、ともかく。これで、屋敷内はひと通り回ったかな?


「ふむ、ならば……あとは――」


 ようやく興奮がおさまってきたらしい。エスケが思案顔で、宙を見上げている。


 すると――


「部屋決めやんな~?」


「お部屋だよ!」


 ――ニムちゃんとバラちゃんが、その目を輝かせて。うずうずとしながら、そんな事を言い始めた……。


「え、それって、いま決めちゃって良いの?」


「逆にいま決めんでどげんする~ん? こげなんは、興奮しちょんうちに決めんと~?」


「まあ……それには、わたくしも、賛成ですわ?」


 僕はチラリと、周りを見る。どうやら、この話が出てから。皆、部屋決めに意識が向かっちゃっているみたいだ……。


「オホン……」


 ノムスさんまで……。


「じゃあ。決めちゃおっか?」


「ふむ、ま、まあ……。屋敷の主であるタケルが言うならば……」


 あ、エスケもなんだかんだで、楽しみだったんだね……?


 って事で、部屋決めをしようってなったんだけど。


「あ~……、もう一度、二階とか回らんとな~?」


「なら、わたくしたちで案内いたしましょうか?」


「そうだね。その方が『待つだわ!』……はい?」


 せっかくだし、二階担当だった僕たちで、他の皆を案内しようかと思ったんだけど。


『ふぅ……。やっと暇つぶ――管理人として、役に立つ時が来たようですね?』


「あ、もう話しやすい口調で良いですよ?」


『あら、そう? 助かるわぁ。――あ、アイの事は『管理人さん』でいいかんね?』


 ――なんだろう……? これ、絶対にどこかに、中の人がいる……よね?


『ふぅ……、長い間、引きこもってると、どうにも敬語とか、忘れちまうんだわ……』


 この時。僕はひそかに、後で『中の人探し』をしてみようと思った。


 まあ、それはともかくとして――


『さてっと、そいじゃあ『家導(イェショルゥベ)結界紋(オビジェ)』を展開するだわ?』


 ――管理人さんはそう言うと、僕たちが腰掛けている。リビングテーブルの上に、『(コンドゥクティブ)結界紋(オビジェ)』みたいな、『家の見取り図』を出してくれた。


『えぇっとねぇ。このさく――屋敷は、定期的に『主』の『紋章力』が必要なんだわ。なんで、『主』君は、この部屋だかんね?』


 見取り図の一カ所に、赤い丸が付く。二階の奥か……。


「まあ角部屋だし、いっかな?」


『お、気に入った? 『紋章力』は自動的に吸い上げるから、とくに気にしないでもいいかんね?』


 なるほどね、要するに高級すぎる施設の家賃代わりだ? うんうん。これなら、この降って湧いたみたいな幸運も、トントンで受け入れられるかも……。うん、僕……、ぜんぜんしあわせ慣れしていないね……。


『あとは、一階のここから、ここまでが使用人部屋だわ。説明はこんくらいかな?』


「そっか、ありがとうね。管理人さん」


『フォファッファッファ! またなんかあったら、呼ぶと良いんだわ……。どうせ、暇だし……』


 ――えっと、うん……。まあ、助かるんだけどね? フランクになればなるほど。エスケの表情が、微妙になっていく。


 さてと、気を取り直して――


「わたくし……は、ここ……が良いです」


「えっと、ああ、僕の隣? うん、良いんじゃない?」


「あ、それやったら~。ウチ、ここがええやあ~? ここやったら、フィーちゃんといつでも遊べるっち、思うに~!」


「えっと……? 僕の対面の部屋か。うん、良いんじゃない?」


 ――かなり、サクサクと。僕たちの部屋割りは決まっていく……はずだった……。


「やっ、私、『専属』だから、タケルと一緒なんだよ!」


「バラ嬢。たとえ『専属』だとて……。いえ、『専属』だからこそ。タケル様の、おひとりのお時間も、考慮しなければならないのです。それが……。一人前の『専属メイド』道……ですよ?」


「ぬぐぐ……。分かったんだ……よ!」


 おお? 何故だか分からないけど。いつのまにか、しっかりとした師弟関係が結ばれている。さすがノムスさん……。


 って事で、バラちゃんと、ノムスさんは、一階の使用人エリアで決まりらしい。どうやら、使用人の部屋には、それぞれ『主』からの呼び出し用『紋章』があるんだって。ノムスさんは、それもあるから、バラちゃんともども一階を選んだみたい。


「ほんとに至れり尽くせりだな……」


「だね。で、エスケはどこにするの?」


「そうだな……。ボキュは、来客用でも良いんだが……」


 そう言いながらも、エスケの目は迷っている。たぶん、遠慮とか、そんな事を考えているんだろうけど……。


「それなら、順当にさ? ニムちゃんの隣とかは?」


「むぅ……。確かに順当だが……。さすがに、女性の隣は……なあ?」


 エスケはチラチラと、トゥヴィスさんを見ている。トゥヴィスさんは、ちょっとはにかんだ感じで、そんなエスケを見つめて――


「なら、ひと部屋か、ふた部屋ほど、間を開けてはいかがですか?」


 ――と、提案して来た。それを聞いたエスケは、パッと花が開いたみたいに……。


「そうかっ! そうだな!」


 そのままいきおいよく、ニムちゃんの、隣の隣を確保した。なるほど……、「その位開ければ、私は気にしませんよ」と言うアピールかな?


「さてと、じゃあシーヴァ君とか、オルディはあとで選んでもらうとして――」


 そこにさらに。セチェ爺や、ジェネロ様とかを入れたとしても、空きはあるし。


「そうですわね……。部屋数は十分ですし。わが娘たちにも、好きなお部屋を選んでいただきましょう?」


 うん。そういう事だよね。


「……えっ? あ、あたしたちも……ですか?」


「えっ? エプゥトも、お部屋選んでいいの?」


 まさか自分たちにも、部屋が割り当てられると思っていなかったのか。ラヴェンダーメイドの姉妹は、キョトンとした表情で、僕たちの顔を見回している。


「えっと、でも……。あたしたちは、まだ……」


 トゥヴィスさんは、うつむいてしまった。うーん? 別に遠慮なんていらないんだけどなぁ……。


「タケル。そういう事は、はっきりと言え」


「あ、また口に出てた? うん、そうだね。じゃあ、どうせだし……。いまここで、養子を取るって言う約束……果たそうか?」


「「――えっ?」」


 僕の提案に、姉妹はそろって、びっくりしている。あ、やっぱりあとでシーヴァ君とか用のドッキリ仕掛けよう。うん。


「タケル……。良いのか?」


 僕が、わりかしどうでも良い事を考えていると。エスケが、ちょっとうれしそうに、確認してきた。


 って言うかね?


「どうせなら、さっさとやっちゃおうよ?」


 正直なところ、『仲間』は増えたけど。『家族』が恋しい。そんな気持ちもあるんだよね。たとえ、それが『養子縁組』でも……。それはやっぱり『家族』と呼んで良いんだろうし……。


 そんな思いを隠して、僕はエスケにうなずく。


「そうかっ! ならば……姫様!」


「はい。それでは、わたくしとアックス卿が、立ち会わせていただきますわ?」


「うん。よろしくね?」


 ――こうして僕は、この世界に来て。初めての『家族』を、作ることになったんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ