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続きです、よろしくお願いいたします。

「エスケ、これって、本当に?」


「ああ、まず間違いないだろうな。伝説にある、『小さな屋敷』だろう」


 その屋敷は、先ほどまで、僕の手のひらに乗るほど小さかった。でも、いまのこれは……。


「ほぇ~……、こげんふうに、大きくなるんやな~? たぶん、『巨大紋(インジェンス)』を利用しちょんのやろうけど、大したもんやな~……」


「そうですわね。正直、わたくしもまさか、ここまで大きくなるとは、思いもよりませんでしたわ……?」


 フィーとニムちゃんは、そろって、目を丸くしている。そう、彼女たちが驚いているように、いまの屋敷は、広い土地の七割くらい(目分量だけど……)の、大きな屋敷になっている。


 まあ、こうして驚くのも無理はないよね。僕もせいぜい、日本の一軒家くらいだったらなぁ……程度だったから、正直なところ……。


「どうしよう?」


 そんな気持ちしか、浮かんでこないや……。


「タケル様、先ずは、中の状態を確認してはいかがですか? 先程の話が本当であるならば、この屋敷は、もう何年もずっと、手つかずの状態なのでしょう?」


「ノムスさん……うん、そうだね」


 さて……と、気持ちを切り替えて、とっとと屋敷の確認だ。やっぱり家具とか、買い替えなのかな? まあ、建築費が浮いただけでも、十分にありがたいんだけどね……。


 そう考えながら、屋敷を見上げてみる。屋敷はいまだに、起動した『紋章』の光に照らされていて、とても奇麗だ。そんなことを考えていると、そんな僕のわきをすり抜けて、小さな影が二つ、屋敷の玄関に飛び込んでいく。


「ねぇ、はやくはやく!」


「お姉ちゃん!」


 バラちゃんとエプゥトちゃんは、玄関ドアにドーンッとぶつかっていく。そして、きらきらとした瞳で、僕たちを手招きしている。


 そんな二人のあとを、トゥヴィスさんが申し訳なさそうに、追い掛ける。


「もう、エプゥトも。それにバラちゃんも。あんまり走り回ると、けがしちゃいますよ?」


 トゥヴィスさんは、エプゥトちゃんたちのことを、困り顔で叱っている。けれどその目は、チラチラと屋敷に向けられていて、興味しんしんだっていう事がまる分かりだ。


「ふふ……、タケル様? わたくしたちの娘も、どうやら待ちきれないようですわ?」


「お、えっと、うん……そうだね」


 どうやら、フィーの中では既に、彼女たちの『わが子認定』が終了しているらしい。その瞳は、いつのまにか、親バカのソレになっている……。はやいよ……。


「さぁ、タケル……。ボキュも、こう見えて、うずうずしているんだ」


「そうやんな~? ウチも、どげなんが中にあるか、早く見たいに~」


 こうして、皆に急かされて、玄関のドアノブをつかむ。すると、なんだかドアノブから、一気に『紋章力』を、吸い上げられる感じがして……。


「あ……やば……」


 心の準備が、全然できていなかったせいかな? それとも、一気に吸い上げられたせいかな? 僕の視界が、『紋章術』を使いすぎた時みたいに、赤い砂嵐に染まっていく……。


「タケル様! これをっ!」


「あぅ……、ノム……スさん……」


 ふらつく僕を、ノムスさんが支えてくれた。そして、懐から取り出したあめ玉を、僕の口に押し込んでくれる。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あ~……、まだガンガンする」


「すまない……。少々、ボキュたち……。いや、ボキュがはしゃぎすぎだったな? 土地の『結界紋(オビジェ)』に、屋敷の『巨大紋(インジェンス)』。さらにもう一つ、二つ、『術』が施されていると、予想して然るべきだった……」


 どうやら僕が倒れかけたのは、いきなり吸い上げられて、びっくりしたかららしい。べつに、『紋章力』を使い果たした、ってわけじゃないから、すぐに立ち上がることができた。


 エスケに「気にしないで」と告げて、改めて玄関を見る。


「これって、なんの紋章?」


 なんだか、玄関ドアの前に、丸い枠線みたいな『紋章』が、浮かび上がっている。ぱっと見だと、ただの『円』にしか見えない。だけど、さっきからの事を考えると、なんらかの『術』……だろうなぁ。


「ん~? どこかで見たような?」


「あ、ノムスさんもですの? わたくしも、どこかで……」


「ふむ、奇遇ですな……。実は、ボキュもなんですよ」


「え、坊ちゃまが見覚えがある? なら、あたしも見たことがある……?」


 やっぱり、この『円』は、なんらかの『術』みたいだね。三人も心あたりがあるって……んん?


「なんだか、僕も見覚えが……?」


 僕、フィー、エスケ、それからノムスさん。四人で一斉に、首を横にたおす。


「ん~……?」


「んっ!」


 それに合わせて、エプゥトちゃんと、バラちゃんも、小首をかしげる。はてさて、なんだっけ、どうしようか? と、困っていたら――


「あ、ウチ、分かったんやよ~!」


 ――ニムちゃんが、手を上げていた。どうやら一足お先に、この『円』の正体に、気がついたらしい。


「あんな~? こん『円』自体は、『紋章術』としちは、成立しちょらんに~。皆に見覚えがあんのは、これが『印章』を押す枠にそっくりやけんや~ん?」


「「「「「あっ」」」」」


 そう言われてみれば、確かに『印章』を押す枠だ。これ。でも、さすがに、この大きさの『印章』って、持っていない気がする。前に『スクト』でフィーが出してたみたいに、せいぜい人の顔くらいまでだよね……。


「ふむ、確かにな……」


 あ、また声が出てた? エスケは、僕のつぶやきに、ゆっくりとうなずいている。


「うーん、それでも、試してみてはいかがですの?」


「そうだねぇ……、他にあてもない事だし。うん、やってみるよ。ノムスさん、僕の『印章』って、いま持ってます?」


 玄関ドアをぺたぺたと触りながら、ノムスさんに聞いてみる。すると――


「もちろん、用意してございます……」


 ――ノムスさんはそう言って、スッと懐に手を伸ばす。そして、そのまま懐から取り出した『印章』を、僕の手に乗せてくれた。


「ありがとうございます。えっと、フィーがやってた感じで良いんだよね?」


「ええ、その『印章』をかざして、詠唱を唱えるだけですわ?」


 って事で、フィーにお礼を言って、僕はハンコ……じゃないや、『印章』の『クヨウトモエ』が刻まれた面を、玄関ドアの『円』に向ける。


「『印章(シィレ)起動(スルスゥマ)』!」


 すると、僕たちの前に、ボール大の『クヨウトモエ』が現れる。僕は、そのまま『印章』を、ハンコを押す要領で、ググッと押し込んでみる。


「タケル、なんにも起きないよ?」


 バラちゃんが言うみたいに、とくに何も起きない。やっぱり、違うのかな? そう思った時だった――


『ブッブー』


 ――なんだか、クイズに不正解だった時みたいな、不快なブザー音が鳴った。


「え、なにこれ?」


「いったい、どこから……?」


 ブザー音は、皆にも聞こえていたみたい。キョロキョロと、周囲を見まわしてみる。すると、音の出どころは分からないものの――


『所有者を示す『証』を、『無紋』に合わせてください』


 ――どうやら、屋敷のガイダンスであるらしい。今度は、機械的とまではいかないけれど、抑揚のない、女性のモノらしき声が流れてきた。


「ふむ……、タケルよ」


「ん、なんだい、エスケ?」


「『定紋(コンスタント)』を発動してみたらどうだ?」


 エスケが言うには、『証』と言うならば、やはり『定紋』だろう。って言うことらしい。


 なので――


「――『コンスタント(定紋)アージェント(術化宣誓)』!」


 ――さっそく、『無紋』に手を突っ込んで、『術化宣誓(アージェント)』してみる。


『あ~、暇だわ………………。『証』を認識致しました。つづけて『眷属』の設定を、行ってください』


 …………んっと。


「ねぇ、いま……さ?」


「タケル、なにも言うな……」


「ずっと人が来んかったんやけん、暇やったんよ~……。見逃しちゃり~?」


『んんッ! 『眷属』の設定を!』


 まあ、良いんだけどね? そもそも『眷属』って、なにさ?


『え? えっと、そうだわね~? 今風に言えば、『家族』?』


 うん、なんか急に、フランクな感じになったけど……。


「家族って言えば、やっぱり、いまここにいる人と……、後は、シーヴァ君と、オルディ?」


 フィーとエスケに確認してみる。すると、二人は「まあ、そんなもんか」と、うなずく。


「あ、後はセチェ爺とか、ジェネロ様とか、ドミナ様もかな?」


『う~ん? 『家族』と『仲間』がごっちゃだわねぇ。まあいっか?』


 ねぇ、人のことは言えないけどさ。つぶやく時は、聞こえないように、気を付けた方が良いと思うよ?


『――『眷属』の設定が完了いたしました。なお、『眷属』に、『精神汚染』の術が掛けられていた場合、『眷属』からの除籍が行われます。その場合は、『精神汚染』の解除後、改めて『眷属』の設定を行ってくだちゃい』


「あ、かんだよ?」


「しぃっ、バラちゃん!」


 大丈夫、長い文章って、読み上げたら、ついつい、かんじゃうよね? うん、気にしないで良いと思うよ?


『……………………最後にぃ、『守護者』を決めたらぁ?』


 だから、頼むからふてくされないで? こう、神秘的な威厳とかさ、伝説的な空気を壊さないで? エスケがなんだか、耳をふさいで現実逃避しちゃってるから……。


「オホンっ……、その『守護者』というのは?」


 気まずい空気の中、ノムスさんががんばって、『声』に質問している。


『えっと……、『守護者』はぁ、家人が留守の時とかぁ、家を守ってくれる……? あれ、アンタ……、もういるんだわ? それならそうと、最初に言ってよ! いらん恥をかいちまっただわ!』


「へ? もういるって、それはいったい、どういう――」


 覚えのない事に、僕が問い詰めようとすると――


『はいはい、これで全部完了だわ。ようこそ、元『輪紋館』、現『イタクラ邸』へ!』


「えっと、ちょっと?」


 ――次の瞬間、まばゆい光とともに玄関が開く。


「ぶぉっ?」


「きゃっ」


 そして、屋敷のなかから、いきおいよく風が吹いてきた。僕たちは思わず目をつぶってしまって、次に目を開けると……。


「タケル、ピッカピカだよ!」


「うそ……、何年も、放置してたんじゃ……」


 そこには、まるで新築みたいな、ピカピカの屋敷が、目の前に広がっていた。

家の話で三話……申し訳ありません。

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