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閉じた土地

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――夜会が終わり、エスケ宅に宿泊し、一日たって、あっという間に昼下がり……。


「さ、何だかんだで、もう昼だ、急ぐぞ?」


 エスケは今、とても興奮していて、さっきから、僕の腕を、強く、引っ張ってくる。


 でも、ちょっとだけ、待って欲しい。


 今現在、僕はまだ、寝間着なんだよね……。


 ――と言う事で……。


「バ、バラちゃん、ノムスさん!」


 もちろん、分かってくれますよね? きっと、こういう時の為の、『専属』……ですよね?


 僕の望みは、どうにか通じた……らしい……。


「タケル、分かったよ!」


「――っ! おぉっ……、まさか、バラ嬢……」


 僕の熱い視線を受け取ったバラちゃんが、不敵に笑い、なんだか、ノムスさんが、感激している。


 うん、なんだろうね、この小芝居……。


「おじさんから、せっせと習った、『メイ道』奥義、『必殺! 身だしなみ』だよ!」


 バラちゃんは、そう言うと、いきなり『水紋(アクア)(フゥネンム)』を、発動させる……。


 そして、頭上でヒュンヒュンと、まるでカウボーイみたいに、回し始めて――


「くらえ、タケル!」


 ――その『水紋縄』を、まるで敵に向ける様に、投げ付けて来た!


 ねぇ、バラちゃん……? 『必殺』って、つまり『必ず殺す』って書くんだよ? もしかしてバラちゃん、いまだに、僕を狙ってたりする?


 そんな僕の疑問は、全く、考慮されず……。


 僕の体は、『水紋縄』に絡め取られ、そのまま――


「ねぇっ、これ、僕を飛ばす必要って、絶対にないよね?」


 ――空中に、放り投げられて、あっという間に、寝間着を、脱がされてしまった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「うぅ……、絶対に、見られた」


 バラちゃんは、まるで、自分は英雄だ、と言わんばかりに、僕の寝間着を、高く掲げている。


 そして、そのまま『水紋縄』を器用に操って、洗顔やらの身支度を、手伝ってくれている。


「だ、大丈夫ですわ、タケル様! 下着は、その……、あまり、見えませんでしたわ?」


「男の子っち、あげんパンツ履くんやな~? ものすご楽そうで、うらやましいわ~」


 ああ、やっぱり、見られていたんだね? 鞆音ちゃん、僕、もうお嫁に行けない!


 あまりのショックで、項垂れる僕……。すると、バラちゃんが、そんな僕に近付き――


「? タケル、男の子は、そのままだと、お嫁さんに、なれないんだよ?」


 ――そのまましゃがみ込んで、さも不思議そうな表情を浮かべて、僕に耳打ちをして来た。


「うん……、僕に、そのつもりは、全然、ないから……」


 そう答えて、僕は、顔をのぞき込んで来るバラちゃんの頭を、なんとなくなでる。


「むふぅ!」


 こうして、ドヤ顔のバラちゃんの、活躍によって、僕の身だしなみも、どうにか無事に整い――


「今度こそ、出るぞ!」


「はいよ~」


 ――僕たちは、ようやく、最寄りの不動産屋に、向かう事になった。


 そして、ゾロゾロと屋敷内を移動して、ようやく玄関口に到着すると――


「あ、エス……、あっと、坊ちゃま!」


「坊ちゃま!」


 ――そこでは、大小二人、ラヴェンダー色のメイドさんが、僕たちを出迎えてくれた。


 先ず、大きいラヴェンダーメイドは、トゥヴィスさん。


 次に、小さいラヴェンダーメイドは、エプゥトちゃん。


 二人は姉妹で、まもなく、僕の娘になる予定の人たちだ……。


 そんな二人に気が付くと、エスケは、まるで別人みたいに、笑顔になって、口を開く。


「やあ、すまないな、この寝坊助が、全く起きようとしなくてな?」


「いやいや、僕は、なかなか早く起きたと思うよ?」


 ただ単に、その後のやり取りが、実に長かっただけだよ?


「いやいや、どうだったかな?」


 僕とエスケが、互いの主張を通そうと、しばらくにらみ合っていると……。


「あ、それで……その、なんとお呼びしたら……?」


 大きいメイド――トゥヴィスさんが、少しおびえた様な表情で、僕に声を掛けて来た。


 ああ、やっぱり、ほとんど初対面だと、怖いかな?


 そんな風に、僕とトゥヴィスさんの間で、非常に気まずい空気が流れていると――


「ふむ、どう呼ぶ……か」


「あら? 縁組はまだでしたの?」


 ――エスケと、フィーが、なるほどと言った感じで、何かを考え始めた……。


 そして、しばらくの間、二人が考え込んでいると。


 バラちゃんの口に、せっせとあめ玉を放り込んで、遊んでいたニムちゃんが、口を開く。


「んもぉ、そげなん、後からにしち、まずは家やろ~う? 取り敢えず、慣れるために、お父さんとかでええやな~い?」


「む、それも……そうだな」


 こうして、正式な養子縁組は、後からにして、先ずは、土地と家の購入に向かう事に。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 玄関から、一歩、外に出ると、そこには、なんと――


「ぶぅな?」


 ――いつのまに、アックス邸に来たのか、あの『(エクゥス)』がいた。


 どうやら、例の『アルクス卿』が、お祝いにと、わざわざ送ってくれたらしい……。


「結局、一度も、お礼ができなかったな……」


「アルクス卿か……、確か娘さんが、『紋章学校』に在籍されているはずだ」


 僕が、思わず、そうつぶやくと、エスケが、そんな事を教えてくれた。


 そうか、つまり娘さんを通して、お礼するって言う手も、あるのか……。


「そっか、そっか、なるほどね」


「…………まさか……、それを狙って……?」


 僕が、なんとなく、納得して、うなずいていると、背後で、何やらフィーが、怖い顔している……。一体、どうしたのさ……。


「あら? いえ、全く問題ありませんわ? ささ、もう参りましょう?」


「ぶなっ♪」


 こうして、僕たちは、せっかくだからと、『(エクゥス・トラク)(トォスク・ビィクル)』に乗り込み、不動産屋へと向かう。


「わぁわぁ、バラちゃん、ブナちゃん、とっても早いねっ!」


「うん、ちょっと、見直したんだよ!」


 ――『アルティ王都:ウールビィス』。


 僕たちが乗っている『馬車』は、整備された車道を、実に快適な速度で進んでいる。


 その窓から見える風景に、すっかり意気投合した、バラちゃんと、エプゥトちゃんが、はしゃいでいる。


 そして――


「それでは、わたくしの事は、『ママ』でも、『母様』でも、お好きな様に、読んでくださいな?」


「へっ? で、でも、姫様……」


「おぉ? ほいたら、ウチん事は、ニムちゃんち、呼んじょくれ~ん?」


 ――フィーや、ニムちゃんと、トゥヴィスさんも、なんとか、打ち解けているみたい。


 本来なら、さらに、ニムちゃんの専属メイドが、加わるはず、だったらしいんだけど……。


「あん子な~? ウチを、放っちょったっち、元気んなったお母さんに、叱られちょるらしいに~……」


 説教が長引いていて、結局、合流できるのは、学校に戻ってからになりそうなんだって。


 そこで、なんとなく思ったんだけど……。


「えっとさ、どうせ学校に戻るなら、卒業してから、家を買った方が、良くない?」


 卒業まで、しばらくの間、王都に帰る事なんて、数える程だろうし……。


 すると、エスケは、少しだけ、意外そうな表情を、浮かべて――


「確かにそう、なんだがな……」


 ――と、つぶやくと、僕に向かって、巻物みたいな紙を、投げて寄越した。


「えっと……、これは……、行事予定……?」


 見れば、僕たちの卒業まで、かなりの数、『貴族』としての、行事が詰まっている。


 どうやら、この予定から鑑みると――


「いつも、王城や、ボキュの屋敷では……、お前、疲れが取れんだろ?」


 ――と、わざわざ、気遣ってくれたらしい……。


「エ、エスケ……」


 人の快眠を邪魔しやがって、なんて恩知らずな事を考えて……ごめんよ!


「ほぉ……?」


 あ、しまった……、どうやら声に、出ていたらしい……。


「ま、まあ、そう言う事なら、ぜひとも買うよ!」


「全く……」


 こうして、僕の購入意欲が、どうにか固まり、僕たちを乗せた『馬車』は、ある店の前で、停まった……。


「いぃらっしゃぁいまっせぇ!」


 どうやら、ここが不動産屋らしい。


 なんて言うか、魔法でも売ってますって言う方が、しっくりとくる。――店員さんも、ローブを着ていて、かなり怪しいし……。


「王城に近く、広めの土地を探している」


 エスケは、いきなり本題に入った。ちょっとは、コミュニケーションを、取ろうよ……。


「はいはい、少々お待ちくださいね?」


 店員さんは、ぶっきらぼうな客には、慣れているみたいで、全く動じない。


「『起動(スルスゥマ)』……」


 小さな声でつぶやくと、たちまち空中に、王都の図面みたいな映像を、浮かび上がらせた。


 僕が、思わず「へぇ」とつぶやいていると――


「『(コンドゥクティブ)結界紋(オビジェ)』の応用ですわ……?」


 ――フィーが、こっそりと、そう教えてくれた。


 静かに見守る僕たちの前では、エスケと、店員さんが、一生懸命に話し合っている。


 そして、いよいよ、エスケのお眼鏡にかなう物件が、見つかったらしく――


「タケル、ちょっと来い!」


 ――と言う事で、ようやく、僕の出番です。


 エスケから見せてもらったのは、たぶんエスケの屋敷と、同程度の敷地面積の土地。


 王城と、エスケの屋敷の、中間地点くらいで、ここからも、あまり遠くはないみたい。


 って事で――


「思ってたより、ずいぶんと広いな……」


「まあ、あの『街導(マキショルゥベ)結界紋(オビジェ)』は、かなり旧式ですので……」


 ――現地に来てみたんだけど、想像していたより、かなり広い。坪数で言うと、もしかしたら、数千坪とか? 東京ドームだと、半分とか、それより少し、小さいくらい?


 何だか、周囲一帯、壁で囲まれているし、なんとなく、高そう……。さすがに、お金、足りないんじゃ……?


「さすがに、予算が……」


 エスケも、同じ様な事を考えていたらしくって、かなり引いている。


「ああ、いえいえ、もちろん、ご予算内でございますよ」


「どう言う事ですの?」


 店員さんの言葉に、フィーが、とても信じられないと言いたげに、食って掛かる。


 そして、店員さんは、少しずつ、苦笑交じりに――


「そもそも、この土地は、この外壁から、全然、中に入れないんですよ……」


 ――と、ほんとうに申し訳なさそうに、頭を下げた。


 どうやら、昔からある物件で、外壁と中をつなぐ門に、特殊な『結界紋(オビジェ)』が、施されているらしい。


 代々からの言い付けで、広い土地を求める客には、先ず、紹介する習わしらしいんだけど……。


 この『結界紋』が、なかなか開かないらしい。


 おまけに、どんなに強力な『紋章術』でも、破壊できず、年々、値が下がっていくとか。


「もう、ね? 今年中に、売れなきゃ、かなりの赤字なんですよ……」


 さて、こんな事を聞かされて、そもそも、誰が買うと言うのだろう……?


「よし、買った!」


 そうだよねぇ……………………。


「――えっ?」


 エスケさん、今、何て言いました……?

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