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どっち?

続きです、よろしくお願いいたします。

 ――一体全体、何なんだろうか、この……緊張感。


 下手したら、『風紋(ヴィントス)(オヴェス)』を前にした時よりも、「行ってはいけない」感がする。


 これは……、どうやって対処したら……。いや、それよりも、第一声を、何て声を掛けるべきなんだろうか……?


 ――僕は、お手本を見せて……と言うか、どうにかしてくれないかな、と言う、切実な願いを込めて、僕の隣に座っているフィーを見る。


 すると、フィーは、僕と目が合うなり、にこやかにほほ笑んで――


「うふふ……?」


 ――と、そのまま、僕の視線から目を逸らしてしまった……。


 はっはっは……、かわいくしても、逃がさないよ?


「ねぇ、フィー?」


「何ですの? タケル様?」


 フィーは、僕から視線を逸らしたまま、僕の呼びかけに反応する。


「――こっちの世界……、『ヘラルドライト』だと、結婚適齢期って……、何歳位なのさ?」


「えっと、そう……ですわね……、国ごとに異なるのですが、大きい国、俗に言う『三大国家』の内、『ヴィース』では、つわものが弱者に対して、『欲しい』と言えば、年齢は関係ないそうですわ? 後は、『レグラ』ですと、十七歳……、『アルティ』ですと、十五歳……ですわ?」


「じゃあさ、どう、思う?」


 適齢期は、十五歳……、それは、分かったけど。


「うふふ? き、貴族ですと、適齢期前に、婚約を結ぶことは、ままある事ですわ……? マッタク、ナニモ、モンダイハ、ゴザイマセン」


 そう言うフィーの顔からは、ダラダラと冷や汗が流れていて、その目は、「何メートル、進むつもり?」って言う位に、泳いでいる。


 ――あ、これ、やっぱりアウトなんだ?


 でも、まあ、約束しちゃったしね……? ――一応、この子……エプゥトちゃんに聞いておこうかな? 歳の差カップルなんて、地球でもよく見かけたし。お互い、愛し合って、気持ちが通じ合っていれば良いよね?


「えっと、エプゥトちゃん……だっけ?」


「ふぁ、はいっ、エピュチョ………………エプゥトです!」


 カチコチに固まってしまった様で、エプゥトちゃんは、まるでロボットみたいに、動きが硬い。


 その顔は、真っ赤に染まっていて、何だか、こっちまで緊張しちゃうよ。


「ふふ……、すまんな、タケル。――この子は、物心付いた頃には、もう、親が居なかったものでな? 初めて出会う『父親』に、『父親』になろうと言うお前に、緊張しているみたいだ……」


 ああ、そうか……、元の家族は賛成なのかどうかって、ちょっと疑問だったけど……、そうか……。


「ふぁぁっ! もう、坊ちゃま、そゆ事、言っちゃダメなんですよ!」


 ふむ、こう見る分には、恋人って言うよりは、兄妹に見えるけど、思い込みは、ダメだよね?


「――エプゥトちゃん? エスケの事が、好きなんだよね?」


 僕の思い切った質問に、フィーと、ノムスさんの、息を飲む音が聞こえて来る。――あ、やっぱり、ノムスさんも、気にはなっていたんですね?


 すると、エスケと、エプゥトちゃん、そして、バラちゃんは、「何言っているの?」と言う、不思議そうな表情を浮かべていたけど、やがて、その重い沈黙を破って、エプゥトちゃんが、にこやかに口を開いた――


「はいっ、エプゥト、大きくなったら、坊ちゃまのおよめさんになるんです!」


 ――まあ、何と言う、うれしそうな表情だろう……。


 これが従妹とか、親戚とかの集まりだったら、微笑ましく見ていられるんだけどなぁ……。


 ふと、周りを見て見ると、フィーも、ノムスさんも、微笑ましそうな表情を浮かべている。――けれど、口の端が、ヒクヒクと小刻みに震えているのを、僕は見逃していないよ……?


 かくいう僕も、心臓がバックバックしていたりする。


 そんな、一触即発の、非常に緊迫した空気の中、それを打ち破るハスキーボイスが、テラスに面した廊下から、響いて来た。


「エ、エスケ様……っと、坊ちゃま、お待たせして、申し訳ございません!」


「ん? トゥヴィスか? いや、気にするな、そんなに時間はたっていないし、こうしてほら、エプゥトが、皆のお相手をしてくれている」


「お姉ちゃんっ、おそいよ~! エプゥト、お姉ちゃんのかわりに、せいっぱい、おしごとしてたんだよ?」


「ごめんね? メイド長とお話ししてて……」


 ――そして、僕たちの眼前に新しく現れたメイドさんは、エスケにペコペコと頭を下げると、しゃがみ込んで、エプゥトちゃんの頭をなで回した。


 そのメイドさんの髪は、僕に、陸上の選手を思い起こさせる様なショートカット。――その顔には、まん丸の眼鏡が掛けられていて、クリッとした目が、レンズ越しに見えている。


 そして、身長はフィーと同じ位、体形も、フィーと同じ様な、スレンダーで、平面的な印象。――フィーが、物凄い『仲間意識』を抱き始めているのが、よく分かる。


「タケル様……?」


「いえっ、何でもございません!」


 はて、もしかして、口に出てた……?


 ――ま、まあ、ともかくとして、メイドさんは、全体的には落ち着いていて、清らかな乙女と言った感じなんだけど……。


 何よりも、僕の、そして、フィーや、ノムスさんの目に映り込んで来て、印象的だったのは、その髪と瞳だった……。


 僕たちをホッとさせる、メイドさんの髪と瞳の色は、エプゥトちゃんとおそろいの、ラヴェンダー色だった。


 そんな感じで、僕たちが希望を胸に抱き始めていると、エスケが大きなせき払いをした。


「んんっ! ――改めて紹介しよう、エプゥトの姉、トゥヴィスだ」


「ご、ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。――あたしは、エプゥトの姉で、エプゥトと同じく、エス……坊ちゃまの専属メイドの、トゥヴィスです……」


「お姉ちゃんは、ことしで、十四なんだよ……ですよ?」


 ――成程ね、十四歳か……、それなら……うん。


 トゥヴィスさんは、そう言うと、ぎこちない手つきで、スカートの裾を摘み上げて、僕たちに向けて、お嬢様っぽいあいさつをする。


 丁寧なあいさつに、思わず、僕も立ち上がろうとすると、そんな僕の前に、一陣の風が――


「私、タケルの専属メイドの、バラだよ!」


 ――はい、バラちゃんです……。どうやら、『専属メイド』って言う事に、わずかながら、対抗心が芽生えてしまったらしい……。今も、勝ち誇った顔で、トゥヴィスさんを見上げている……。


「は、はい……、よろしくお願いいたしますね?」


「んふふ、よろしくしてあげるよ!」


 トゥヴィスさんは、ニコニコ顔で、バラちゃんの頭をなでている。


 そんな二人を、僕たちは微笑ましく見ていたんだけど……。僕は、皆の視線が、そちらに向いている内に、この胸のモヤモヤを、解決する事にした――


「ねぇ……、エスケ?」


「ん? 何だ、タケル」


 ――僕は、言うよ? 言うんだ、僕!


「ど、どっちなの?」


「――タ、タケル様……」


「ふ……、さすが、わが主……、でございます……」


 あれ、そんなに?


 フィーと、ノムスさんは、まさか、僕が、このタイミングで切り出すとは思っていなかったらしくて、大層驚いたって感じの表情を浮かべている。


 一方で、エスケはと言うと、今日、何回目になるか分からない、キョトンとした表情を浮かべていて。


「何を言っているんだ、お前は? 姉妹なんだから、二人とも、養子にしてもらうぞ? まさか、片方だけ、何て思っていたのか?」


「えっ? いや、それは、僕も両方、引き受けるつもりなんだけど、そうじゃなくて……ね?」


 エスケは、なおも、僕が言いたい事が分からないって感じで……。


 じれったくなった僕は――


「そうではなくて、どちらが、アックス卿の恋人なんですのっ?」


 ――と、言おうとしたんだけど、フィーに、全部持っていかれちゃった……。


 再び、緊迫した空気が訪れる……。


 僕、フィー、ノムスさんが、息を飲み、バラちゃんが、空腹を知らせる音を鳴らす……。


 エスケはと言えば、まだまだ、キョトンとした表情のまま――


「姫様……、そんな事は、ボキュたちの表情を見れば、分かるでしょう?」


 ――そう抜かしやがった!


「え、ちょっと、けっきょ――」


 反射的に、僕が立ち上がって、「結局、どっち?」と、尋ねようとすると、テラスに、エプゥトちゃんや、トゥヴィスさんとは別の、老齢のメイドさんがやって来た。


「――坊ちゃま、失礼致します」


「む、タケル、姫様、少々お待ちを……」


 聞こえてくる声からすると、どうやら、王城で、僕の就任を祝う夜会の準備が整ったらしくて、遣いの人がエスケ宅の、玄関に来ているとの事だった。


「それでは、皆、行きましょうか?」


 老メイドさんとの話が終わったエスケは、そう言って、僕たちに移動を促して来た……。


 僕たちとしては、もともと、時間つぶしのつもりで来ていたから、それ自体は、断る理由はない、ないんだけど……。


「う、うん……」


「分かり……ましたわ……?」


「――お世話になりました……」


「お兄さん、エプゥトちゃん、トゥヴィスちゃん、またねっ!」


 バラちゃん以外の面々は、どうにも、このモヤモヤとした感じを、解消できず仕舞いで――


「ああ、また、後で、夜会で会おう!」


 ――そのまま、エスケと、エプゥトちゃん、トゥヴィスさんに見送られてしまった……。


 そして、夜会が開かれる直前まで、モンモンとしていたんだけど……。


「お、坊主に、ノムスさんじゃねぇか、どしたい? 坊ちゃんとこから、来たんか?」


「スェバさん!」


「スェバ!」


 夜会の警備を担当していたらしいスェバさんと遭遇し、恥を忍んで、スェバさんに答えを、聞いてみた。


 すると、スェバさんは、僕と、ノムスさんを、大爆笑しながら指差して――


「はぁ……ヒィ……、ノムスさんまで……。――さすがに、うちの坊ちゃんに、んな趣味ねぇよ……。――多分……。少なくとも、坊ちゃんの愛しい人っつうのは、トゥヴィス嬢の事だよ。――多分……」


 ――と、何とも不安な答えを、いただきました……。

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