フィーの紋章術講座 基礎編
続きです、よろしくお願い致します。
説明回です。すいません。
※2014/11/13:ルビ振り等若干修正。
「それではタケル様、まずはこの世界の根幹――『紋章術』についてお勉強致しましょう!」
あれからフィリアとオルディさんに連れられて、僕は今、フィリアの私室にいる。
とりあえず、この世界――『ヘラルドライト』で生活するには、歴史や学問より、『紋章術』と言うのが必須らしい。
と言う訳で今から基礎知識を勉強する事になった。
「それではまず、『紋章術』とは様々な『紋章』を介して様々な現象を呼び起こす――そうですわね……鍵の様なモノとお考えくださいな?」
「んー、まあ何となく、分かる様な……」
「今はそれで結構ですわ。続けますね? 『紋章』にはその威力や引き起こせる減少などに応じて、ランク分けがされております」
フィリアによると、そのランクとは――。
全ての者が扱う事の出来る――『通紋』。
貴族の跡継ぎ以外に受け継がれる――『替紋』。
貴族・王族の跡継ぎにのみ受け継がれる――『定紋』。
一部の貴族の適性ある女性にのみ受け継がれる――『女紋』。
様々な偶然により突如発生する災害――『世界紋』。
神話にのみその存在が語られる――『神紋』。
「クラス分けとしてはこんな所ですわね」
「えっと、じゃあオルディさんって?」
「はい、一応、とある貴族の次女、ですね」
はあ、成程ね……。あれ? と言う事は……?
「もしかして……ピグエスケさんって、偉い人?」
恐る恐る聞いてみる。
「そう、ですわね……。一応、『アックス家』の跡継ぎですわね」
「大丈夫かな? そんな人に怪我させちゃったけど」
「それは問題無いでしょう。あの方は一応、誇りある方ですから、正当な決闘で負けた以上、無様な真似は致しませんよ」
オルディさんは「それだけは確かです」と言って微笑む。
「ならいいけど……」
「さ、タケル様! それよりも、続きですわ! 次は、生活の基盤となる『通紋』についてです!」
フィリアが言うには、『ペル』には四つの『紋章』があり、それぞれ、『火水風土』を司っているらしい。
「では、実際に使ってみましょうか? 『イグニス・アージェント』」
掛け声とともに、フィリアの目の前に赤い紋章が現れる――。
「フィリア……。その『あーじぇんと』って言うのは?」
確か、事あるごとにオルディさんやピグエスケさんが唱えていた様な?
「あら、そうですわね、説明していませんでしたわね?」
フィリアは照れながら、『アージェント』とは、『紋章術』を『術』として使うための宣誓であると説明してくれた。
そして、『紋章術』は基本的に、『武器化』と『術化』の二つの内どちらかしか使えないらしい。
ピグエスケさんは、どうやら『武器化』しか使えない様で、その場合の宣誓は『アージェント』では無くて、『シールド』であるらしい。
「あれ……? でも、さっきフィリアは『イグニス・アージェント』って言ってたよね……ってうあ!」
突然、僕の眼の前にも赤い紋章が現れた――。
「あ、馬鹿! 発動制御も出来ないのか……。あ、まあ、そうか……。タケル殿、『インアージェント』で術化解除だ」
「え、えっと、『イグニス・インアージェント』! あ、消えた……。ありがとうございます、オルディさん」
「いや、先に注意しておかなかったこちらのミスです。気にしないで下さい」
そして、一段落したところで勉強再会だ……。
「それで……。タケル様は先程、何をお聞きになろうとしていたんですの?」
「あ、そうだった。えっと、オルディさんも、ピグエスケさんも『アージェント』って宣誓する前に『まうりす』とか、『こんすたんと』って言ってたんだけど、今、フィリアって頭に『イグニス』って付けてなかった?」
発動のルールが違うのが気になって質問してみる。フィリアはそんな事を聞かれるとは思っていなかったらしく。オルディさんの顔を見てオロオロしている。
「姫様……。後で勉強のしなおしですよ?」
ため息をつくと、オルディさんが代わりに説明してくれた。
「先程、『コンスタント』はその家の跡継ぎにのみ伝えられるモノと言いましたが、正確に言えば『ペル』より上のクラスで継承されるのは『紋章』そのものではなく、その使用権、となります」
オルディさんは「この辺の話は歴史のお話でもあるので、詳しくはまた今度」と言って、再びフィリアに先生役を渡す。
「つ、つまり、その『使用権』を持つ者が『ペル』より上の『紋章術』を行使するためのキーワードとして宣誓文と繋げるのですわ!」
目を泳がせながら必死で説明するフィリア……。
まあ、何となくで良いか。
「そ、それでは場所を移して、いよいよ『通紋』の実践と参りましょう!」
そして、僕達はフィリアの先導で広い運動場の様な場所に移動した。
「それでは、まず『通紋』の四紋をお教え致します」
フィリアは人差し指を立てて、四紋――つまりは『火水風土』の『紋章』を教えてくれる。
火紋――『イグニス』。
水紋――『アクア』。
風紋――『ヴィントス』。
土紋――『ソルマ』。
「以上の四つですわ。それでは、タケル様……。まずは、原則として『紋章術』の発動は『シールド』か『アージェント』で、宣誓し、その後に『紋章』に形状を持たせるのです」
フィリアは再び、人差し指を立てて基本的な形状について教えてくれた。
球状――『オーア』。
横一閃――『アジュール』。
縦一閃――『ギュールズ』。
右から左への袈裟斬――『パーピュア』。
左から右への袈裟斬――『ヴァート』。
格子状――『セーブル』。
基本的には、これらの形状を組み合わせて、色んな形にするらしい。何て、めんどくさい……。
「本来なら『武器化』についてもご説明できれば良かったんですけど……。生憎、わたくしもオルディも『術化』使いですので……」
「いや、大丈夫だよ。僕だってあの時、『術化』……? したし」
「そうでしたね……。あの時のタケル殿の『紋章』についても調べる必要がありますね」
オルディさんはそう言うと、少し考え込んでいる風だった。僕はフィリアに引っ張られて、やっと『通紋』の実践に移る。
「じゃあ、いきます……。『イグニス・アージェント』!」
ここまでは、さっき出来たからな……。
「ふむ、良いですね。それでは、タケル殿、そのまま、手元から離さず、順番に形状を持たせてみましょうか?」
「あ、オルディ! 先生役は今はわたくしですわ!」
「あら、失礼致しました」
僕は姉妹の様にじゃれ合う二人を見ながら、頭の中でおさらいをする。
良し――。
「じゃあ、球状、横、縦、斜め、斜め、格子でいきますね?」
僕の声で我に返った二人は「どうぞ」と答える。
「ふぅ……。『イグニス・オーア』」
お、ちゃんと火の玉が出来た。何か、ちょっと楽しくなってきた!
「良し! 『イグニス・アジュール』、『イグニス・ギュールズ』、『イグニス・パーピュア』、『イグニス・ヴァート』、『イグニス・セーブル』!」
僕の手元で、グニャグニャと火が形状を変えていく。
僕は、それを見てドンドン楽しくなってきて……。
――失敗を犯した。
「凄い……。面白い! 次は『アクア』だっけ? 『アクア・アージェント』」
「あ、駄目だ! タケル殿!」
赤の紋章の横に、青い紋章が現れる――。そして、そのまま二つの紋章はぶつかり合い、ガラスの様に砕け散った。
そして、僕は――。
「あれ……? 頭が、クラクラする。これって、鼻血……?」
目の前が真っ赤だ……?
「――ッ! タケル様!」




