対暴走(2)
続きです、よろしくお願いいたします。
――何だろう……、あれ。
「「「「ヒャッヒヒャッヒ!」」」」
「「「「ンヴェェェ」」」」
「「「「「「ピギィィィ」」」」」」
僕たちの目の前には、さっき撃退した第一陣と同様に、『羊型』の『ルピテス』の背中に乗った、『猿型』の『ルピテス』が迫って来ているんだけど……。
「――何か、あいつら、木刀の代わりに『兎型』の『ルピテス』を握り締めてる気がするんだけど……?」
「ん? 本当だな……。しょせんは『猿』と言う事なのか?」
取り敢えず、エスケに聞いてみるけど、エスケでも『猿型』の意図が読めないらしい……。――いや、この場合、『猿型』を指揮する『風紋羊』の意図かな……?
「「「「「「ピギィィィ」」」」」」
握り締められている『兎型』を見てみると、目にかなりの涙をためて悲壮感を漂わせてるし……、特攻か何かかな?
「「「「――『スクト兵団』! 突撃ぃぃぃ!」」」」
と、いつもみたいに考え込んでいたら、『スクト兵団』や、『火紋隊』の人たちが槍とか、剣とか持って、突撃し始めた……。――あれ? さっきは、かわされてたのに……。もしかして、学習能力が僕並みとか……?
「――アレは……陽動……」
あ、今の聞こえてたみたいだ。――リウさんが、ちょっと、ムッとした顔で僕に教えてくれた。
「「「――ヒャッヒッ!」」」
「おぉっ、そっか、縄だけじゃなくて、槍とかで引っ掛けるって手もあるんだ……」
『スクト兵団』の人たちは、三列に並んで、『ルピテス』目掛けて、突っ込む役、転ばす役、止めを刺す役って感じで、役割分担をして、戦っているみたいだった。
「――イタクラ殿と、バラのおかげ……」
「あ、ありがとうございます」
「タケルっ、甘いよ!」
リウさんはそう言うと、僕とバラちゃんにあめ玉をくれた。――何だか、こっちの世界に来てから、やたらとあめ玉をもらう気がする……。
「――あ」
「ん? どうふぃふぁふぉ?」
もらったあめ玉を、舌で転がしていると、突然、フィーが何かに気付いたみたいに声を上げた。何だろうかと、振り返って聞いてみると、フィーは、僕の質問に、言葉では答えずに、とある一点を指差していた……。
「「「ヒャッヒヒッヒ」」」
――フィーが指差す先では、『猿型』達が、むやみやたらに突っ込んで来る事を止めたのか、『スクト兵団』や、『火紋隊』から距離を取ってにらみ合っているっぽい……と、思ったんだけど。
「――何あれ……、『兎型』を……投げてるの?」
『猿型』達は、距離を取ると『スクト兵団』に向けて、手に持っていた『兎型』達をポイポイとぶん投げている。
どうして、そんな事を? と、思っていたら……。
「――な、こいつら……、足をかじりやがった!」
「どけっ、どけよぉ……」
「「「ヒャヒ!」」」
「あ、あああああああっ、来るなぁ!」
――こちら側の陽動作戦をまねしたのか、それとも最初からそのつもりだったのか……、どっちかは分からないけど、『猿型』達は、『兎型』達を地面にばらまいて、『スクト兵団』や、『火紋隊』を襲わせて、『兎型』に気を取られているすきに、自分たちが襲い掛かるって言う二段構えで来ているみたい……。
「――むぅ……、何と言う事じゃ……」
ファルメル様は、眉間にシワを寄せて、いら立ちからか、支えのつえをギリギリと握り締めている。
――何とか出来ないかな……。さっきみたいに、縄を使った戦法だと……。
「それだと……、『兎型』が小さすぎて意味がないし……、もう、『猿型』共も警戒して、そう容易くは近付いて来ないだろうな……」
「そう……だよね……」
エスケの答えに、僕はぐうの音も出ない……。
「いっそん事、温存とか言わんで、全員で突撃すんかえ~?」
さて、どうしようと頭を抱えていると、ニムちゃんがおでこに、水でぬらしたタオルを当てながら、そう提案して来た。――皆さんの回復、お疲れさまです……。
「――それは……」
オルディは黙って首を横に振ると、ニムちゃんに横になっている様に促す。
――やっぱり、まだ『頭』である『風紋羊』が出て来ていない以上、戦力はギリギリまで温存した方が良いんだろうか……?
「でも……、このままでは、『スクト兵団』の方々も、『火紋隊』の方々も……、『風紋羊』が出て来るまでもちそうにありませんわ?」
――フィーは、ニムちゃんや僕と同意見みたいで、傷付いていく皆と、立ちふさがる『ルピテス』達の事を、悔しそうに眺めている……。
「――ならば、まずはボキュだけでも」
「いえ、アックス卿の攻撃力は、最後まで取っておくべきです。――ここは、私が……」
――そうこうしている内に、せっかく『インネ』畑から引き離しかけていた『ルピテス』達が、また少し近付いて来ている。
やっぱり迷っている時じゃないよね、ここは僕が……。
「――なら……、俺に任せてみませんか?」
――と思って、僕が立ち上がろうとするより早く、シーヴァ君が、スッと立ち上がった。
「リンニューマ卿……、何か策があるのか?」
「うん、誰か……そうだね、『風紋』が得意な人に協力はしてもらいたいけど……」
エスケの問い掛けに、シーヴァ君はコクリとうなずいて、それから誰か協力者を探し始めた。――なら……、僕が行こうかな?
「――なら、それがしが……」
――と思ったら、シーヴァ君の呼びかけに、今度は、ヒウさんが手を上げて答える。
「――ふむ、ヒウ……、頼むぞ?」
「あ、じゃあ、自分も何か手伝うッスよ?」
リウさんとダーラさんがそう言うと、ヒウさんとシーヴァ君はそろってうなずき、手招きをする。
――さて、こうなると、僕たちはどうしようか?
「休め……、今、タケルが、そして、ボキュが出来るのは状況をこまめに確認しつつ、力を蓄える事だ……、歯がゆくとも、休め!」
「あ……、また声に出てた……、うん……、じゃあ、遠慮なく」
さてさて……、じゃあ、休みつつ、『ルピテス』達の様子でも……。
「――ん?」
気のせいかな……、今、『兎型』がポコッと地面から出て来た様な?
「うーん?」
「――タケル君、どげんかしたんかぇ~?」
「ニムちゃん……、いや、実は――」
――と、ニムちゃんに話し掛け様とした所で……。
「はいはい、ちょっと、ごめんね?」
「――通るぞ……」
準備を終えたらしいシーヴァ君と、ヒウさんが僕たちの前を通り過ぎて行った……。そして、そのすぐ後を追う様に――。
「はぁ……、はぁ……、重い……」
ダーラさんが、大きな麻袋を持って駆けていった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――さぁ……、『兎』共……、餌の時間だっ!」
「――『ヴィントス・アージェント』……、『ヴィントス・トゥルボー』!」
「はぁ……、はぁ……」
――『スクト王城』の門……じゃなくて、柵前にダーラさんが麻袋を置くと、ヒウさんがその麻袋目掛けて『風紋』をぶちかました。
すると、麻袋が破けて、中から大量の黒い粒が出て来たんだけど……、あれ、何だろう?
「あれ……、『ビィドック』の種……だよ?」
「――『ビィドック』? 何それ?」
「確か……、『インネ』畑に生えて来る雑草だったか?」
バラちゃんが、僕の後ろでつぶやくと、エスケがそんな風に尋ねる。――って言うか、エスケ、結構、いろいろ知っているよね……。
――まあ、そんな事はともかくとして、エスケの質問には……。
「その通りです……、強い毒性を持っているので、『インネ』を育てる際には注意して駆除するのですが……」
マロアさんが答えてくれたんだけど……、そんな物をどうするんだろう?
「――地面から抜いて数日たつと、丸まって種になるのです……。それと、小動物が好む匂いを放つので、『兎型』にも有効だと思いますが……、種では毒餌にもなりません」
――マロアさんはそう言うと、黙ってしまった。
どうやら、『ビィドック』とは、『インネ』に毒が感染るわ、家畜が間違って食べて死んでしまうわで、使い道がないみたいで、王城の倉庫の隅で腐るのを待っているだけの草らしい……。
そんな感じで僕たちが、マロアさんの解説を聞いている内に、ヒウさんが『風紋』で巻き上げた『ビィドック』の種は、そのまま『風紋』に乗って、『スクト兵団』、『火紋隊』と、『ルピテス』達が戦っている地面に零れ落ちていく……。
「さて……、届きます様にっ! ――『コンスタント・アージェント』!」
そんな混戦模様を眺めながら、シーヴァ君はニヤリと笑みを浮かべて、『定紋』の『術化宣誓』を行った。
「『リンニューマ・オーア』!」
――ポコポコと、シーヴァ君の周りに木で出来た球体が現れる……。そして、その『木玉』は、フワフワと、先程、『ビィドック』の種が零れた辺りまで進んで行く。
「さぁ……、起きろ起きろ起きろ! 『リンニューマ・アウグミントゥム・ビィドック』!」
シーヴァ君が詠唱を続けると、『木玉』がパチンパチンッと弾けて、地面に落ちていく――。
すると、地面からニョキニョキと、黒い雑草が生えて来て……。
「「「ピギィ?」」」
――地面をはう『兎型』達は、その草を見るなり、眼前の『スクト兵団』や、『火紋隊』を無視して、その草に飛び付き、もしゃもしゃと食べ始めて、しばらくすると泡を吹いて転がってしまった……。
「あれ……何?」
「――他家の『定紋』は良く知らんが……、多分、お前の『装填』の様なモノだろう……」
あんぐりと口を開ける僕が問い掛けると、エスケも驚きに目を見開いて、投げやりに答えてくれた……。そして、こうしている間にも、次々と『ビィドック』が新しく生えて来ている……。
「――もしかして……、エスケの『斧』にもそう言うの……ある?」
「ある……が、出来る限りは見せたくない」
――ああ、やっぱり、秘伝なんだ? って事は、僕があっちこっちで、『装填』とか使ってるのって、マズイのかな?
「うふふ……」
あ、マズいんだね? フィーの目が「お分かりいただければよろしいのですわ?」って、言いたげです……。
「――ふぅ……、さすがに距離が離れてるとキツイね……」
「――だが……見事……」
シーヴァ君は、青ざめた顔で、ヒウさんに支えられながら、僕たちの所に戻って来た。そして――。
「――まぁ……、育てるだけの詠唱だけど……、飢饉以外で役に立つ……とはねぇ……」
「お疲れさまでした、リンニューマ卿……、後は私たちにお任せください……」
誇らしげにつぶやいたシーヴァ君は、オルディの言葉を聞くと、そのまま意識を失ってしまった……。
「ニムちゃんに続いて、シーヴァ君まで……」
――温存するはずだった戦力がここまで減ったと嘆くべきなのか、それとも、ここまで温存できたと喜ぶべきなのかは、分からないけど……。二人の犠牲は――。
「ウチ、死んじょらんけんな~? 雰囲気だけで、変な事言わんで~?」
「あ、ごめんね?」
ともかく、『兎型』が地面に投げられるなり『ビィドック』に食い付くおかげで、『兎型』はほぼ全てが無力化されているっぽい……。シーヴァ君、いい仕事するなぁ……。
そして、シーヴァ君の活躍によって、『スクト兵団』と『火紋隊』の形勢が、徐々に有利になり始めると――。
「ンヴェッロヴェェェェェェェェェェェェェェッ!」
――ついにやつが……、『風紋羊』が、その姿を現した……。
ちょっと、ツールを使って校正してみました。少しでも読みやすくなればいいのですが……。




