スクト王との会談
続きです、よろしくお願いいたします。
――さて、『アルティ』の王城がある首都『ウールビィス』を出発してから、三日……。
僕達は漸くマロアさん達の故郷、『スクト』の首都『ルゥラル』へと到着していた。
「――何と言うか…………そうっ、牧歌的な国ですね!」
――見渡す限り、畑、畑、牧場、畑……。
僕達の目の前には、国の首都って言うイメージとは程遠い……とまでは言わないけど、うん、牧歌的! ――牧歌的な風景が広まっていた……。
「――タケル様……? 素直に『田舎』と言って頂いても良いのですよ?」
「………………」
――僕達の乗る『馬車』と並走する、『貴賓』用の『馬車』から、マロアさんがジトッて感じの目で、僕を見つめ……いや、睨んでいる……。正直……、『田舎』とは思ってないんだよね……。パッと浮かんできたのは、『市国』ならぬ、『村国』って感じだったし……。
「――フッ……、言い得て妙だな……」
「アヴェ様……、そこ笑うとこじゃねぇッスよ……?」
「えっ! も、もしかして……聞こえてました……?」
――胸の中だけで思ってた筈なのに……? もしかして、やっぱり『読心』の『紋章』があるんじゃ……。
「――タケル……、前から言おうと思っていたんだが……」
「ん? 何、エスケ? 今、ちょっと『紋章術』の恐ろしさを再認識してるんだ……」
僕がどうやったら、『読心』の『紋章』に対抗できるかを考えていると、馬に乗ったエスケが、『馬車』の窓に顔を近づけて来ていた。
エスケは、何か、言い辛そうにモゴモゴしていたけど、やがて、意を決した様に口を開いて……。
「お前……、考え事に熱中し出すと……、その……、考えている事を呟き出すんだが……?」
僕に向かって、そう告げた……。
「――え? 嘘?」
流石に僕……、そこまで間抜けじゃないよ? ――だって、鞆音ちゃんとか、ずっと何も言わなかったし……。
――嘘だよね? って期待を込めて、フィーの顔を見る……。
「タケル様……、何だか、可愛らしかったもので……つい……」
フィーは「申し訳ございません……」と言うと、顔を真っ赤にして、プルプルと震え始めた………………あれ? ――何時だか忘れたけど……、鞆音ちゃんも似た様な事をよくしてた様な気がする……。
「も、もしかして、僕、考えてる事バレバレなのっ?」
衝撃の事実に、僕は『馬車』の窓から乗り出して、エスケに尋ねてみる。すると、エスケは、「しまった」って感じの顔になった……。
「――っ! や、やはり気が付いて無かったのか……?」
そして、そんなエスケに連鎖する様に、ニムちゃんがクスクスと笑いながら、いつもの様に手を動かしながら……。
「あ~、エスケ君、駄目やんか~? ウチと、フィーちゃんと、オルディちゃんの楽しみが減ったや~ん?」
――そう言った……って、え? 楽しみだったの?
「ふふふ……?」
思わずオルディを見ると、サッと目を逸らされた……って事は……?
「ちゃんと、視線は隠さんといけんよ~? 男ん子~?」
「ぎゃあああああっ!」
――気付かれてた……。
「ま、まあ……、イタクラ君……、気持ちは俺も分かるからさ?」
シーヴァ君の優しさが痛い。――って事は、フィーの唇とか、柔らかそうだなぁって……思ってたのも……? もしかして……?
「………………ふふ……」
――あああ……、恥ずか死ぬ……。って事は、『地球』に居た時の、鞆音ちゃんのあの顔って、もしかして…………?
「あぁぁぁぁ……」
だ、駄目だ……、これからは気を付けなきゃ……。
「あらあら……、ヒウ……、もし、もう少し上手くやれてれば、あたくしの作戦……、成功していた気がするわ?」
「――姫……、自重して下され……」
「バラちゃん任せにしてても良かったかもですねぇ……」
――そんな感じで、僕に深い傷を負わせつつ、『スクト訪問団』は、『ルゥラル』の中を進んで行き、やがて、柵で囲まれたお屋敷みたいな所に辿り着いた。――はぁ……。
「さて、王城は此処から先ですわよね?」
『馬車』が、柵の数メートル手前まで来ると、フィーは並走する『馬車』のマロアさんに向かって、声を掛ける。
「ええ……、その通りです。あの柵を越えればそこから先が『スクト王城』の敷地となります」
マロアさんからの答えに、フィーはコクリと頷くと、『馬車』から降りて、右にオルディ、左に僕を伴って、門番に近付いていく。
「――少し、宜しいですか?」
「ん? 何だ、君達は?」
――門番さんは、『駐在さん』って感じの、何だか穏やかな雰囲気を纏った人だった。良かった……、怖そうな人じゃなくて……。
「――姫様……、どうぞ……」
「ありがとう、オルディ……。――失礼致しました……、わたくしは、こう言う者でございますわ? ――『印章・起動』」
フィーは、オルディから『印章』を受け取ると、それを『起動』して『アルティ王家』に連なる者を示す紋章を宙に浮かび上がらせた。
「――っ! こ、これは失礼致しました!」
「――スクト王……、『ファルメル陛下』にお会いしたいのですけれども……?」
「は、はいっ! 直ちにっ!」
門番さんは、そう言って敬礼すると、ピュゥッて感じで王城の中に飛び込んで行ってしまった……。
「――あ、マロア様達をお連れしております、とお伝えするのを忘れてしまいましたわ……?」
「あ、まあ……、良いんじゃない?」
――『馬車』から出れば分かる事だし……。
「これは……ひいさまっ!」
あ、案の定だ。
――って事で、僕達は比較的、大歓迎のムードの中、『スクト』王城の中に招き入れられた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――ここでお待ち下さい。直ぐに陛下が参りますので!」
「あ、どうも……、お疲れ様です……」
――門番さんは、僕達を会議室みたいな、大きい長机と、沢山の椅子が置かれて、扉が何個かある部屋に案内してくれると、もう一回敬礼して、何処かに行ってしまった……。
それから、少しの間、会議室の中で待っていると――。
「はい……、ごめんなさいよぉ……?」
――白髪のお爺さんが、曲がった腰を杖で支えながら、ヨロヨロと会議室に入って来た。
「おぁっ? だ、大丈夫ですか?」
「おや? ありがとうねぇ? 坊や……」
お爺さんは、フッサフッサ白髪の中、唯一不毛地帯になっている天辺を、ペチペチと叩くと、手を添えた僕に微笑んでくれて、そのまま奥の椅子に向かって歩き始めた。
良く見てみれば、お爺さん、怪我しているのか、左目に眼帯を掛けている……。
「――あ、椅子、引いても良いですか?」
「おぉ? 今時、珍しい……、度々ありがとうねぇ?」
「いえ、お役に立てて、僕も嬉しいです……」
――ふぅ……、お節介じゃなくて良かった……。
「……って? あれ、何してるんですか?」
やりたい放題やって満足した僕は、ルンルン気分でフィーの元にって言うか、僕達が入って来た側の入口に戻ったんだけど……。
「「「……」」」
――何故だか、マロアさん、ヒウさん、ダーラさんが片膝を付いて恭しい感じになってた……。
「――あっ!」
――訂正……、そこにバラちゃんも加わって、四人が……、お爺さんに向けて跪いていた……。って事は、もしかして?
「――お久し振りでございます……、ファルメル陛下……」
「おぉ、おぉ、フィリア姫殿下……、お美しくなられましたなぁ……、まるで若き頃のドミナ妃殿下の様じゃ……」
――あぁっ! やっぱり……、『スクト』の王様?
「え、えっと……、先程は大変失礼致しましたっ!」
思わず僕は、頭を下げる。
「ほ? なになに、若者の心よりの親切……、このファルメル……、久々に心地良い気分ですじゃ……、お気になさらず……えぇっと?」
「――あ、な、名乗りもせずに申し訳ありませんっ! ――タケル・イタクラ。えっと――」
「わたくしの婚約者……でございますわ?」
「ほぉ、ほぉほぉ……、フィリア姫殿下のっ?」
お爺さん……ファルメル様は、目を細めて僕とフィーを見ると、満足そうに何度も頷いていた。――それから、その視線を、さっきからずっと跪いている四人へと向ける……。
「――して? お前さんらは……何をしでかしたんじゃ?」
「「「「――っ!」」」」
マロアさん達の動きが一瞬、ビクゥってなって、その後、マロアさんが顔を上げて、口を開き始める……。
「――ち、父上……、実は……」
――ん? 今……、父上って言わなかった?
「――言ったぞ?」
あ、僕、また口に出てた?
「――はぁ……、姫様は説明していなかったのか……、まあ良い。――彼方の方が『スクト』を治める『ファルメル=スクト=インチンスゥマ』陛下だ、そして、『マロア=インチンスゥマ』は、陛下の実の娘だ……」
うっそ……、マジで?
「ホンマで~? 王じーちゃん、マロちゃんが産まれるまで、七十歳位まで頑張ったんっち~」
「――血を引く者が居ないと、国が……と言うか、国を守る『定紋』が途絶えるからね……、何処の国も、血を繋ぐ事、強力な『定紋』を迎える事に必死なんだよ……」
エスケの説明を引き継ぐ様に、ニムちゃんとシーヴァ君が教えてくれる。――『定紋』を継承させるとか、概要は聞いてたけど……、まさか、ここまでだなんて……。
「ほっほっ……、『香紋の絶倫王』とは、儂の事じゃ♪ ――この曲がった腰も、数多の戦場を駆け抜けた誇りじゃて……」
――ファルメル様は、そう言うと、誇らしげに微笑んだんだけど……、腰が曲がった理由が凄い……。
――そして、暫くの間、マロアさん達と、時たまフィーによる、経緯の説明が終わると……。
「こ……の……ヴァッカモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!」
「あ痛っ!」
「――ふぐぅ!」
「ヒギィっ!」
「――アゥ…………ぅ?」
ファルメル様は、顔を真っ赤にしながら、マロアさん、ヒウさん、ダーラさんの頭に拳骨を落としていった……。――何故か、バラちゃんは見逃されたらしくって、頭を押さえて「?」と不思議そうにしている……。
「――全く……。国を憂う気持ちは尊いものじゃが……、他国の……しかも、姫殿下の婚約者に手を出そうなど……。――フィリア姫殿下……、誠に申し訳ないのぅ?」
「ヒッ! い、いえ……、タケル様の貞操もご無事の様ですし……、わたくしとしては、これで正式に謝罪して頂きましたので……」
フィーは、拳骨が怖かったのか、ビクッとしていたけど、「もう水に流して、元の様に仲良く致しましょう?」と、何とか今回の目的の一つを達成する事が出来たみたいだった。
「――そう言うてくれると、儂としても寿命が延びる思いじゃ……」
「ふふ……、ファルメル陛下には、まだまだお小遣いを貰いたりませんもの♪」
「おぉ、おぉ……、フィリア姫殿下は怖いのぅ……」
「それで……、ファルメル陛下……実は、もう一つ、お話ししたい事が――」
――そんな、親戚同士みたいな会話をした後、フィーは、今回の訪問の……、真の目的を切り出し始めた……。




