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禿の少女と目的地

続きです、よろしくお願いいたします。

「ん……」


 あれ……? 何時の間に寝ちゃったんだろう? ――確か……、僕は、エスケと……?


「――っつぅ……?」


 ――可笑しいな……、何かを思い出そうとすると、何だかお腹が痛くなって来る……?


 それにしても……、ここはどこなんだろう? ――『(エクゥス・トラク)(トォスク・ビィクル)』の中でも無いし……、『宿(カァストラ)結界紋(オビジェ)』を描いたキャンプ地でも無いし……。


「もしかして……、寝てる間に、『スクト』に着いちゃった? ――にしても、フィーも、エスケも、皆いないし……?」


 何より……、寝る前(って言っても、寝た覚えはないけど……)は確か、森とか林とか、平野が広がっていた気がするんだけど……、今、僕の目の前に広がっているのは、火山っぽいオレンジ色の山と、真っ赤に染まった川……。


「――何だろう……? 不吉な風景……だね……」


 仕方ないや……、ちょっとその辺を歩いて、皆を探すかなぁ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それにしても……、殺風景と言うか、殺伐とした風景と言うか。


「人っ子一人いないっぽい……よ……ね? ――ね?」


 ――思わず誰も居ないのに、二回確認してしまった……。何だろう、あそこに見えるのは……、僕の見間違いじゃなければ……。


「――畳?」


 ちょっと遠くの方に、八畳位、畳が敷き詰められてて……、何だかそこに、懐かしいモノが見える……。


「えっと……、畳に、ちゃぶ台……いや、掘りごたつに、テレビに……人? ――ひとっ!」


 ――おぉっ! やっと人が居たっ!


 と言う事で、僕はその人の所へと駆けていくっ! ――一応、良い人かどうか分から無いし……、ちょっと、忍び足で……。


「………………アレは……?」


 ――どうやら、畳の上に居る人は、見た感じバラちゃんと同い年位か、少し下かな? って位の小さな女の子だった……。


「……こんな所に、女の子?」


 流石にちょっと怖いかな……って事でちょっと、距離を取って観察してみる事にする。


「あれはな~? 危ないよぇ……」


 何かを呟いている少女は、まず全体的にお禿(かむろ)さんって言うか、何か七五三みたいな雰囲気で……。


 それで、おかっぱ頭の両サイドに鳥の形をした鈴を付けてて、前髪を角の様に一本に括っておでこの上にピンと立てている感じ……かな?


 ――で、着ている物は、真紅と純白が波打っている模様の、ミニ浴衣ならぬミニ十二単って感じの着物で、パッと見、和風なんだけど……。――ただ、その子の髪と瞳の色が、まるで燃え盛る炎の様で……、「あぁ、やっぱりこの世界(ヘラルドライト)の住人なんだな……」って事が分かって、ちょっとだけ……、ガッカリしている僕が居る……。


「あ~……、倒れてしまいんしたか~……」


 その子は、口にせんべいを咥えながら、衣が重なって重そうな袖をブンブンと振り回してビッタンビッタンと掘りごたつの天板を叩き、足をプラプラ揺らしながら、楽しそうにキャッキャッとはしゃいでテレビを見ている。


「ん~……、親御さんは居ないのかな……?」


 まあ、思いっ切り外に畳を敷いて生活する親御さんもどうかと思うけど……、良く見ると、あの子、足袋は掘りごたつの傍に脱ぎ散らかしてるし、おせんべいの袋は、幾つも散らばってるし……。


「あ、あ~あ~……、あんなはしゃぐから……」


 少女はテレビが面白いらしく、頻繁に足をパタパタして、腕をパタパタして、その度に着物がずれていってる……。――注意してあげたいけど、お節介だよねぇ……。


「ふふ……、元気いっぱいだね……」


 何となく、微笑ましい気持ちになって来た僕は、そう呟くと、思い切って、女の子に近付いてみる事にした。――髪の色からして、僕と同郷は無いにしても……、着物だし、親が同郷とか、近い感じかも!


「あちゃ~、エスケちゃんも泡を吹いてしまいんしたか~……」


 ――ん?


 少女の真後ろ……の岩まで来て、そこから様子を伺っていた僕は、「エスケ」の名前が出て来て、思わず動きを止めてしまった。――そして、少女が見ているテレビ画面に目を向けると……。


「――エスケっ?」


 白黒画面の向こうでは、エスケが口元を押さえて、何だか泡を吹いている様子が映っていた。


 ――そして、それより更に驚きなのが……。


「――あれ……、僕っ?」


 何度も鏡を見て、ため息をついたから間違え様が無い……。――あの目付きの悪さ……、硬そうな髪に、三白眼……、どう見ても僕だ……。


「ね、ねぇ……、アレ……何?」


 気が付けば、僕は思わず少女のすぐ傍に来て、あのテレビ番組は何なのかと尋ねていた……。


「ふゃ? キリちゃねるでありんす~……………………?」


 少女は、振り返って僕にそう答えると、何だかよく分から無い番組名を呟き、画面に視線を戻し、暫く首を傾げて、テレビ画面を見ていたけど……。


「――ふゃっ?」


 ――驚きのあまりか、少女は僕を二度見して、ポカンとしていた。


 少女は暫くの間、無言で僕を見つめていたけど……、やがてパクパクと、鯉みたいに口を動かすと、急に立ち上がった。


 そして――。


「ふゃ……ふゃ……? ふぇ? こ、こな事で死にかけたんでありんすかっ? え、嘘……、本当に……? 冗談では無かったんでありんすか?」


「え? 死に掛け……? え、君は……一体何を?」


 僕が「何言ってるの?」と、言おうとしたその時だった。


「――んもぉっ! んもぉっ! こな事で、こっち来ないでっ! ――もう少うし、格好いいとこで来~て~っ!」


「え? 何……? 何なのっ?」


 少女は、僕の背中をグイグイポカポカと、僕を何処かに押しやろうとして来る……。――え、何? 本当に何なの?


「はい、此処に立ってくんなましっ!」


「ね、ねぇ……、き……み……?」


 ふと、少女に抗議しようと、背中をふり返ると……、何時の間にか僕は、深い穴の中に落ちていたみたいで、身体がドンドン下に向かって行ってる。


「――わっちはキリ……、紅蓮の翼を持つ女、キリでありんすぇ? ――覚えていなくても構いんせんが、いつか見せ場で呼んでくんなましぇ~? クヨウにも負けんせんよ~?」


 少女は、穴の外から……、僕を見下ろして、ブカブカの袖を振り回して、パタパタと手を振っていた……。


「あ、エスケちゃんも、頑張って見つけて、ちゃんと送り届けんす。――でありんすから、安心してくんなましね~?」


 そして、僕は――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――がはっ!」


「た、タケル様っ! ――気が付かれましたか?」


 あれ? ここは……? ――僕、どうしたんだっけ……?


「はぁ……、ご無事で何よりですわ? ――覚えていらっしゃいませんか?」


 ――ん~……? 確か……、僕はエスケと早食い競争をしてた気が……。


「えっと……、早食い競争……うぅ! ――は、吐き気が……?」


 あれ? 何だっけ……? 思い出そうとすると、吐き気がする? 僕は……、エスケと何をしてたんだっけ?


「――タケル様……、もしかして、覚えていらっしゃいませんの? ――ふぅ……」


 フィーは、僕の額の汗を拭うと、そのまま、何故かホッとしたかの様に、自分の額まで拭っている……。あれ? また……、吐き気が?


「あ……れ?」


「だ、大丈夫ですわっ! お辛い事なら……、無理に思い出す必要は有りませんもの……、そのまま、楽になさって下さいな?」


 ――可笑しいな……、フィーの言葉は、優しいのに、その目は「忘れて~」と言いたげに、僕をアツく強く見つめている……。


「あ~、タケル君、目ぇ覚ましたんや~? ウチ等、皆心配しちょったに~!」


 ――何だかよく分から無い緊迫した空気が漂い始めていると、『馬車』の中に、ニムちゃんが顔を覗かせて来た。


「あ、ニムちゃん……」


「入るけんな~? ――んで、ちぃっと失礼するけんな~?」


 ニムちゃんは、『馬車』に乗り込むと、僕のお腹を押さえて、「ふんふ~ん」と、何だか触診みたいな事を始めたんだけど……。


「ね、ねぇ……、フィー、何で目が泳いでるの?」


「ひ、ひぇっ! そ、そんな事はっ!」


「んっふっふ~……、教えちゃろっか?」


「――だ、駄目ですわっ!」


 ――何だかよく分から無いけど、フィーとニムちゃんがじゃれ出したので、僕はちょっと、外の風でも当たりに行こうかな?


「ちょっと、風に当たって来るね?」


「は~い、無理せんごとな~?」


「――タケル様っ、お忘れをっ! お忘れを~っ!」


 そして、僕はじゃれ合う二人をそのままに、『馬車』の外に出る――。


「――おぉ……、タケル……、君も無事……だったか……」


「? エスケ?」


 ――すると、真っ青な顔をしたエスケが、気まずそうな表情を浮かべるシーヴァ君と、オルディに『水球』を出して貰っていた……。どうやら、水を飲んでいるだけに見えるけど……。


「ど、どうしたの?」


 と、僕が思わず駆け寄って、その背中を擦りながら尋ねると、エスケは一瞬だけ、驚いた様な表情を浮かべ、続けて優しげな瞳を浮かべる……。


「――そうか……、余りに……、余りにも辛かったしな……? 忘れている方が良い……、あんな……、地獄は……」


「え? へ?」


「アレが……、『死者の山』か……、門番が幼子であったのは意外だったが……、あのまま帰れなかったらと思うと……」


 ――エスケは何だか青い顔のまま、ブルブルと震えはじめたけど……、正直、僕には何の話やら、サッパリと分から……。


「うぅっ? き、気持ちが……?」


「――馬鹿っ! 思い出すんじゃ無いっ!」


 可笑しい……、何かを思い出そうとすると、吐き気がするのもそうだけど……、何でエスケは、こんな戦友を見る目で僕を見て来るんだろう? ――共闘したのって、そんなに無いよね? ま、まあ、親友だとは思ってるけど……。


 ――エスケは、そのまま僕の背中を擦りながら、今度は優しげな声で、囁いて来る……。


「もう……、もう二度と……、ボキュとお前の間で……、くだらない争いは……、止めような?」


「え? う、うん……、僕としてもそれは大賛成だけど……?」


 ――何故か僕に『戦友(とも)よ』って感じに接しだしたエスケと、何だか負い目があるかの様に至れり尽くせりな、フィー、オルディ、シーヴァ君……、そして、何だかやたらと料理したがるバラちゃんと、それを阻止しつつ、悪だくみが成功した様に微笑むニムちゃん……。


 何だか、よく分から無い内に、恐ろしい事が起きてた気がするけど、そんな感じで僕達『訪問団』は、その後、特にトラブルに見舞われる事無く……。


「――あそこに見えるのが……、『スクト』だ」


 ――『ルピテス』の群れと戦ってから、およそ一日半……。無事、『スクト』へと到着した。

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