殲滅と戦慄
続きです、よろしくお願いいたします。
「だ、誰かっ! コンソラミーニ卿を呼んで来いっ!」
「――こ、国際問題…………? 冗談じゃ無いっ!」
――ん……? 何か、『馬車』の外が騒がしい気がする……けど……、何かあったのかな……? って、あれぇ? 何か、身体が動かない……、金縛り……? それとも……、これ、夢かな……?
「ん……、タケル……、寝ると良いよ……」
「そう……ですわぁ……、明日も朝……、早いんですのよ……?」
んん……? そう……だよねぇ……。
「そう? んじゃ……」
遠慮なく……………………。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふぁ~~~……」
――ん? 何か……、腕が痛い……。
「やっぱり、張り切って描き過ぎたかな?」
朝、目が醒めてみると、両手がジンジン痺れてる……。やっぱり、慣れない『結界紋』描き……、それも、地面をガリガリやってたせいかな? 痺れっぷりが凄い……。
「んっ…………、あぁ……」
僕は自分にあてがわれた、『馬車』内備え付けである、座席から引き出す方式のベッドを片付けると、背伸びをして『馬車』内の様子を伺う。
「ありゃ? 皆はもう、外かな?」
フィーやニムちゃん、バラちゃんとか……、同車両の皆のベッドも片付いているし、皆はとっくに起きて、朝食でも取っているのかな……? 僕も早く合流しないとね……。
「あれ? まだ暗い……?」
『馬車』から降りてみると、まだ日が昇り始めた位の時間らしくって、少し朝靄が濃かった。
「寒っ! ――と、取り敢えず……、顔を洗おう……『アクア・アージェント』……、『アクア・オーア』……」
僕は『馬車』の先頭……『馬』の元まで来ると、『水球』を出して、その中に手と顔を突っ込み、そのまま、ジャブジャブと顔を洗う。
「あ、タケルっ! 私も使いたいんだよ!」
「っぷぁ……、あ、バラちゃん? 良いよぉ? 水変えようか?」
「んんっ! 大丈夫だよ!」
――そう言うと、バラちゃんは頭から『水球』に飛び込み、先程の僕同様にジャブジャブと顔を洗う……って言うか、飲んでない?
「っぷぁ! スッキリだよ!」
どうやら、バラちゃん、朝食を食べる前に手と顔を洗って来なさいとニムちゃんに言われて、飛び出したモノの、自分の『水縄』ではやり辛い事に気が付き、『術化』使いの人を探していたらしい……。
――と言う事で……。
「お礼に、朝ごはんの所に連れてってあげる!」
「――お、ありがと!」
何とか、僕も皆と同じ食卓に着く事が出来た――。
「さて……、珍しくタケルも早起きした事だ……、早速、例の『ルピテス』を確認するぞ?」
――朝食後、エスケは同席した……出来た僕を、満足そうに眺めると、『導結界紋』を取りだして、例の『ルピテス』群の増え具合を確認し始めた。
「――増えて……ますね」
「これは……、やっぱり複数個の『召喚紋』があるって考えた方が良いみたいだね……?」
何故か、首に『調理禁止』の札を、お揃いで付けているオルディと、シーヴァ君は、『導結界紋』の赤い三角を指差して「やっぱり」と口を揃えている。
そして、そうこうしている間にも――。
「あ~……、またいみよんや~ん? すかんたらしいわ~……」
「本当ですわね……、増えるペースからすると、非常に活動的な『召喚紋』が複数個ある……が、正解みたいですわね?」
ニムちゃんと、フィーは、シーヴァ君達の見解に付け加える様に、増え続ける赤三角を、顔を顰めて見つめていた……。――ああ、僕、こう言う……小っちゃい丸とか、三角とか、ひしめき合って増えるのって……すっごい苦手なんだよね……。
「――はぁ……、ここはやはり、昨日と同様に役割分担するしかないか……」
――と言う事で、僕らは再び部隊を分けて対処する事に……。
まず……、『戦闘部隊』は、昨日と同様に『兎型ルピテス』を殲滅していく。――これは、エスケと、『火紋隊』、そして、僕が……僕が担当する事になった。
「………………」
「う……、分かってるよ……、冷静に……だよね?」
エスケがジトッと見てる……。――大丈夫、落ち着け僕……。
まあ、それはともかくとして、次に、『護衛部隊』。
「バラちゃん……、頑張りましょうねっ?」
「うんっ! 私、ひいさまのお世話したげるんだよ!」
フィーとバラちゃんが手を握り合って、キャッキャッとはしゃいでいる……。
――この部隊に関しては、昨日同様に『スクト』の人達を護衛……。そして、場合によっては……、この場合、殲滅に掛かる時間によっては、ご飯の用意もしなきゃいけないらしい。
最初は、昨日と同様にオルディとシーヴァ君が立候補しようとしたんだけど、『火紋隊』の人に物凄い勢いで泣き付かれて、更にニムちゃんにそっと促されて、こうなっちゃった……。
そして、最後に『記章部隊』。
「ウチの指示に従うんよ~?」
「うん、俺も出来る限り頑張るよ……」
「私……、『記章』と、『発生点分析』は余り得意ではないのですが……」
この部隊は、僕達『戦闘部隊』が戦って、『ルピテス』の数を減らしている間と、その間にも増えていく『ルピテス』の発生する間に、『結界紋』の位置を分析して、『戦闘部隊』にその位置を教えてくれるらしい。
――と言う事で……。
「各部隊、行動開始だっ!」
エスケの指示の元、僕達は動き始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「「「「「ピギッ!」」」」
――『宿結界紋』のキャンプ地から暫く進むと、目の前にはウジャウジャと、黄土色の『ラビ・ルピテス』がひしめき合っていた。
「――明るい所で見ると……また……、不気味な……。――『火紋隊』構えぇっ!」
エスケはまだ少し離れた場所から、『ラビ・ルピテス』達を睨み付けると、右手をサッと上げて、『火紋隊』の人達に号令を掛ける。
「やっぱり、あん兎、えぇらしくないわ~……、好かんたらし~……」
「――ふむ……、コンソラミーニ卿には、後ほど『馬』との触れ合いをお勧め致しましょう……」
「え? 今……、オルディさん……『馬』って……? 『馬』の間違い……?」
――そして、そんな僕達の後ろでは、『記章部隊』がそんな会話をしているのが、思いっ切り聞こえて来る……。あぁ……、エスケのこめかみ……ピクピクしてるなぁ……。
何て思ってたら……。
「――『火紋隊』、『術化宣誓』用意!」
「「「「「――『イグニス・アージェント』!」」」」」
「よぉく狙えぇっ! ――撃てぇ!」
「「「『イグニス・セーブル』!」」」
「「『イグニス・オーア』」」
エスケの号令で、大量の『火檻』と、『火球』が、『ラビ』目がけて飛んで行く――。
「「「「「ピギッ?」」」」」
――『ラビ』達は、遠くから飛んで来る『火紋』に気が付いたのか、何か叫びながらモゾモゾと動き始める。
「――タケル……、ボキュの後ろからついて来いっ! 援護は任せたぞ!」
「う、うんっ!」
そして、僕とエスケはそこから、一気に『ラビ』達を目指して駆け出す――。
「――『コンスタント・シールド』!」
エスケの手に斧が――
「――『マウリス・フラーマ・シールド』!」
そして僕の手に矢が現れる――。
「――『コンスタント・フラーマ・アックス』!」
「――『フラーマ・サギッタ』!」
――そして、エスケの斧が真紅に輝き始め、僕の矢もまた同じ様に真紅に輝く。
「――ボキュがまず突っ込むっ!」
エスケは、斧を肩に担ぐと、僕に向かってそう叫ぶ。――でも……。
「援護射撃って言うからには、まず……僕が牽制するよっ! ――『スルスゥマ』!」
僕が詠唱すると、右腕に装着した腕輪が、淡く輝き、形状を変え、白地に金色の蔓が巻き付いた模様の弓になる。
「あの辺……かなっ!」
僕はそのまま、白弓に『炎矢』を番えて『ラビ』の群れに向かって射る。
「「「ピギィィィィ!」」」
――『炎矢』は、轟音と共に『ラビ』達を蹴散らすと、その周囲を燃やし始める。
「――フッ……、良い花道だ……!」
エスケは不敵に笑うと、炎に戸惑う『ラビ』達を斬り付けていく。――そして、斬り付けられた『ラビ』もまた燃え上がって、炎はドンドン広がっていく。
「――よしっ! アックス卿の位置に気を付けてもう一度いくぞっ!」
「「「「「『イグニス・オーア』!」」」」」
『火紋隊』の人達も、エスケに負けじと『火球』を放って『ラビ』達を撃ち抜いていく。
「――っとっ! エスケっ、後ろっ! 『マウリス・インシールド』、『マウリス・イチェ・シールド』からの……『イチェ・サギッタ』!」
――僕も負けていられないよねっ! って言うか、燃えすぎて、炎でエスケが後ろの『ラビ』に気が付いてないし!
僕は、矢の属性を『炎紋』から『氷紋』に切り替えて、エスケの背後の『ラビ』を射抜く。
エスケはチラリと僕の方を見て、ニヤリと笑うと……。
「――どぉぉりゃああああああああああっ!」
砲丸投げの選手みたいに、斧を持ってグルグルと回り始めた――。
「ッギッ!」
「ピィ!」
「「「ピギィィィィ」」」
――回転する斧……いや、エスケに斬り付けられた『ラビ』が燃え、その傍の『ラビ』が燃え、更にその先の『ラビ』が斬り付けられて……。
「火が……広がっていく……。まるで……、道を作るみたいだ……」
ウネウネと広がっていく赤い火と、焦げ切って黒く染まる地面と『ラビ』達……。
――僕と、『火紋隊』の人達は、エスケが作り出すその光景に、思わず見惚れてしまっていた。そこに……。
「――タケル君~っ! ボォッとしちょらんで、『召喚紋』狙っちくれ~ん?」
「うぇっ? 二、ニムちゃん? って、ちょ、待ってっ! 痛い、耳痛いからっ!」
「はようせんと~、またいみるで~?」
――気が付けば、僕の傍に来ていたニムちゃんが、僕の耳を引っ張って、しきりに数か所を指差す。
「火がようけやけんな~……、タケル君の『矢』で射っちょくれ~ん?」
「わ、分かったから……! えっと……、『スルスゥマ』!」
ニムちゃんから解放された僕は、そのまま、瞼の上に意識を集中させて、『遠視結界紋』を『起動』させる。
「あんな~、かかりにあっこやろ~?」
「ハイハイ…………あ、『記章』は出来たの?」
――確か、『召喚紋』って、記録しなきゃいけないんだよね?
「ん~? やけん、射っちょくれっち言いよんや~ん? ――ウチも、『遠視』は使こうちょんのやけんな~?」
ニムちゃんは、プクッと頬っぺたを膨らませると、瞼の『結界紋』を見せつけながら、僕の背中をバンバン叩いて、「はようしちくりい?」と急かしてくる。
「――んじゃ……、『イチェ・サギッタ』!」
――パリンッと言う音が、遠くで響き、まず一つ……。
「ほら~、次ぃ~♪ しびったれんと、いっちょくれ~!」
「はいは~いっ!」
――そして、パリンッパリンッと……、僕はニムちゃんの指示に従って、次々と『召喚紋』を射抜いていく。
そして、それから三十分程して……。
「――『マウリス・インシールド』……、お疲れ……」
「『コンスタント・インシールド』……、お前もな……タケル……」
僕達は無事、『ラビ・ルピテス』の群れと、『召喚紋』を排除する事に成功した。
――因みに……。
「――一応、言っておくぞ? ボキュが『ラビ』を殲滅する方が早かったぞ?」
「なっ! ど、同時じゃんっ! って言うか、僕が『召喚紋』壊しきる方が絶対早かったってっ!」
――『宿結界紋』のキャンプ地に戻るなり、こんな言い争いが巻き起こり……。
「………………オルディちゃん、シーヴァ君、タケル君と、エスケ君が、早食い競争で決着付けたいんっち~……、何か作っちあげちょくれ~ん?」
「――え? 良いの? 昨日楽しかったからまたやりたかったんだっ!」
「まぁ……、殿方はやはり、沢山食べるんですね? ――宜しければ、姫様もご一緒に如何でしょうか?」
「――あら? 宜しいんですの? うふふ……、タケル様に手料理を……」
「あ、あっ! 私もやるんだよ!」
何だか、ニムちゃん審判、料理担当、僕とエスケ、ニムちゃん以外、ほぼ全員参加と言う、大事になっちゃって、引くに引けない僕とエスケは……。
「「やってやるっ!」」
――と、意気込んで……………………、その後の記憶がぶっ飛んでしまった……。
2015/02/27:タケルの使用紋章が『マウリス』であるべきところを、『コンスタント』としていたものを修正。




